「週刊少年ジャンプ」で連載され、2020年に堂々の完結となった人気バレーボール漫画『ハイキュー!!』。主人公・日向翔陽の成長を通して描かれる高校バレーの魅力と名台詞の数々で、連載終了後も多くのファンから愛されている本作。この記事ではそんな名作バレーボール漫画の最終45巻までの見どころを紹介します!
「週刊少年ジャンプ」にて2020年まで連載されていたバレーボール漫画『ハイキュー!!』は、アニメが4期まで放送され、舞台化もされた人気作品です。
バレーボール経験者の作者・古舘春一が描く臨場感たっぷりの試合シーンはもちろん、さまざまなコンプレックスを抱える高校生たちが部活を通して成長していく過程からも目が離せません。また、主人公が通う烏野高校の生徒以外にも個性的なキャラクターがたくさん登場します。ライバル校の生徒ひとりひとりにもしっかりと物語があり、胸を打つような名台詞を数多く生み出しています。
主人公の日向翔陽は、身長162.8cmとバレーボール選手としては小柄です。しかし、かつて烏野高校のバレー部で活躍した低身長のエーススパイカー、通称「小さな巨人」に憧れてバレーボールを始めました。
日向は中学に入るとバレーボール部に入部しますが、部員は彼ひとりだけでした。やっとの思いでメンバーを集めて出場した中学最後の大会では、「コート上の王様」と呼ばれる影山飛雄に惨敗。リベンジをするために、宮城県にある烏野高校排球部(バレーボール部)の門を叩くと、そこにはあの影山がいたのです。
しかも、かつて強豪校だった烏野高校は、「飛べないカラス」と揶揄されるほどの弱小バレーボール部になっていました。そんな烏野高校排球部の面々が、さまざまなライバルたちと出会い、時にはぶつかり合いながら成長していく姿を描く本作。凄まじいスピードで成長する彼らの姿は、まさに本作のキャッチコピーである「劇的青春」に相応しいもの。日向と影山の出会いによって大きく羽ばたき始める烏野高校の躍進に注目です。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2012-06-04
主人公・日向翔陽は、「全日本バレーボール高等学校選手権大会」、通称「春高バレー」のテレビ中継で見た烏野高校の「小さな巨人」に魅了され、バレーボールを始めます。背の高さが重要なバレーボールにおいて、「小さな巨人」の身長は170cm。その身体でコート上を飛び回る姿に、身長162.8cmの日向は強い憧れを抱きました。
ですが、日向が通う中学校では男子バレーボール部員が彼以外いませんでした。中学3年生の時になんとか試合に出られる人数を集め、初めての試合に臨むも、相手は優勝候補の北川第一中学。北川第一中学は、「コート上の王様」と呼ばれる天才セッター・影山飛雄が率いるチームでした。その試合は日向たちの惨敗に終わります。
一方影山は、日向の高い運動能力と身体を操るセンスに驚き、同時にそれらを持ち合わせていながら活かしきれずに中学生活を終えた彼に対して苛立ちを覚えます。
日向は高校でのリベンジを誓い、烏野高校排球部の門を叩きますが、何とそこには宿敵・影山の姿が!同じチームにいたのでは彼を倒せないと、日向は落胆します。
入部届を提出しようとするも、二人は部長である澤村大地の前で2人は大喧嘩をし、「お互いにチームメイトと認めるまで練習には参加させない」と入部を拒否されてしまう羽目に。日向と影山は、「練習試合で勝てたら入部させてほしい」と交渉し、同じく一年生の月島、山口を含めたチームとの練習試合が始まります。
そして、その練習試合の中で、日向の運動神経と影山の天才的なトスが組み合わさった技である「変人速攻」が生まれます。日向は影山のトスを100%信頼しており、目をつぶったままスパイクの助走に飛ぶことができました。一方、影山はそんな日向が打てるドンピシャの場所にトスを上げることが可能です。この二人の出会いにより、烏野高校排球部は常人では到達できない超スピードの「変人速攻」という武器を身に付けたのです。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2012-08-03
烏野高校排球部に4人の新入部員が加わったところで、さっそく練習試合が決まりました。相手は県のベスト4の青葉城西高校。しかし、その試合は「影山を正セッターとしてフル出場させること」という条件付きでした。
青葉城西高校は、影山がいた北川第一中学バレーボール部の大半が進む高校です。練習試合にやってきた青葉城西高校のスタメンの中には、中学時代に彼とチームメイトだった金田一勇太郎と国見英がいました。
2人は影山を嫌っていて、「コート上の王様」という揶揄していました。「コート上の王様」とは、「スパイカーを置き去りにする自己中心的なトスを上げる、独裁の王様のようなセッター」という意味を込めて付けられた蔑称だったのです。
影山は中学時代、試合に勝つためにスパイカーの力量を超えたトスを上げ続けました。チームメイトは、そんな彼の自己中心的なセットアップに呆れ、ついに影山のトスを拒否したのです。
「トスを上げた先、そこに誰も居なかった
それはあの日何度目かのコンビミス
でも、最後のアレは”ミス”じゃない
あれは”拒絶”だ
”もうお前にはついて行かない”と
あいつらが俺に言った一球だった」(『ハイキュー!!』第1巻より引用)
中学時代最後の試合でチームメイトに拒絶されたことは、影山のトラウマになっていました。しかし、烏野高校排球部に入り、彼は変わります。
今の影山には、彼のトスを100%信じて飛ぶ日向や、凸凹な変人コンビを支える先輩がいるのです。トスをミスして日向に謝る影山を見て、金田一は目を丸くします。以前の影山なら自分から謝ることなどしなかったからです。
こうして、強くなった影山と彼を支える烏野高校排球部は、見事青葉城西高校に勝利をおさめます。
しかし、本当の意味で烏野が青葉城西に勝ったとはいえませんでした。なぜなら、影山の元先輩であり、青葉城西の正セッターでもある及川徹が、練習試合終盤まで出場できなかったからです。
「俺はこのーークソ可愛い後輩を公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからサ」
(『ハイキュー!!』第2巻より引用)
そう豪語する及川徹。彼が万全の状態で参加した青葉城西高校と公式戦でぶつかったとしたら、烏野高校は勝つことができるのでしょうか……!?
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2012-10-04
日向たち1年生が入部する前、烏野高校はある試合で敗北しています。それは、県内屈指のディフェンスを誇る伊達工業高校との試合でした。この試合で、エースである東峰旭(あずまね あさひ)のスパイクがことごとくブロックされ、彼はエースとしての自信を失ってしまいます。
さらに、「自分がボールを拾えなかったので試合に負けた」と反省する2年生リベロ(守備専門のポジション)の西谷夕に東峰が反発し、2人はぶつかり合ってしまいます。それに加え、運悪く教頭の前で花瓶を割ってしまったことで、西谷は1ヶ月の部活動禁止というペナルティを与えられてしまいます。
東峰はそれ以降バレー部に顔を出さなくなっていました。ブロックにつかまるのが怖くて部活から逃げている彼でしたが、強制的に参加させられたOBとの練習試合でエースとしての自覚が再び芽生えます。そのきっかけとなったのが、西谷のエースに対する言葉でした。
「壁に跳ね返されたボールも俺が繋いでみせるから
だから、『だからもう一回、トスを呼んでくれ!!エース!!!』」(『ハイキュー!!』第3巻より引用)
身長は一番小さいけれど、誰よりも男前な西谷の言葉にグッとくるシーンです。
そして、この試合を通じて、日向が「エース」という存在に嫉妬していることに影山は気付きます。一人でもブロックと戦えるエーススパイカーに対して、日向の役割はあくまでそのトリッキーな速攻を活かした「最強の囮」です。そんな日向に向けて、影山はこう言います。
「お前はエースじゃないけど!
そのスピードとバネと、俺のトスが有れば!どんなブロックとだって勝負できる!
エースが撃ち抜いた1点も お前が躱して決めた1点も
同じ1点だ」
この言葉を受けて、日向は最強の囮としての役割を自覚し、更なる成長を遂げていきます。
東峰と西谷が復帰し、烏野高校排球部のメンバーがいよいよ出揃いました。そんな彼らは、更なる力を付けるため、因縁のライバルである音駒高校との合宿に向かいます。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2013-03-04
音駒高校との合宿を経て変化しはじめた烏野高校排球部は、宮城県インターハイ予選に出場します。1回戦に勝利し、日向が公式戦初勝利の余韻を噛みしめているのも束の間、伊達工業高校との試合が始まりました。伊達工業高校はエース東峰のトラウマになっている対戦相手です。
ですが、日向が囮として相手のブロッカーを翻弄したことでエースのスパイクが綺麗に決まり、東峰のトラウマが消えました。
実は試合前、3年生の菅原孝支は影山と日向にある頼み事をしていたのです。
「伊達工業は強敵だ
3ヶ月前はあの”鉄壁”のブロックにこてんぱんにやられた
でも今は”最強の囮”がいる…
日向の前の道を切り開いたみたいに旭の…エースの前の道も切り開いてくれ……!!」(『ハイキュー!!』第5巻より引用)
菅原は、影山が入部する前は、烏野高校排球部の正セッターでした。唯一3年生でベンチメンバーになるも、セッターとしての才能が影山には及んでいないという自覚があり、「3年生なのにかわいそうと言われてもいい。チームが勝つ方を選んで欲しい。」とコーチに直談判します。
チームの勝利を優先する彼ですが、伊達工業高校に勝利した際は「自分のトスで勝てたら良かったと思うよ」と悔しさを滲ませました。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2013-08-02
インターハイ予選2日目、第3試合の相手は、以前練習試合で勝利している青葉城西高校。中学時代にベストセッター賞を受賞するほどの実力を持つ及川徹が率いる相手に、烏野高校は苦戦します。
「信じてるよお前ら」(『ハイキュー!!』第6巻より引用)
及川のこのひと言で青葉城西高校の雰囲気は変わりました。チーム全員が及川のことを信頼している、それが青葉城西高校の結束力の高さであり、強さでもあります。チームメイトひとりひとりに気を配り、選手にとって最善のトスを上げる及川は、影山とは真逆のタイプでした。
終始余裕がありそうな及川ですが、中学時代には影山にコンプレックスを抱いていたのです。ベストセッター賞を受賞して、県1番のセッターになっても、ライバルの牛島若利が率いる白鳥沢学園には1度も勝てないままでした。そこに追い打ちをかけるように天才セッター、影山が現れました。
及川は焦りでオーバーワークになり、試合でミスを連発します。しかし、影山に恐怖を抱いていた時、幼馴染でチームメイトの岩泉一の言葉が彼の目を覚ましたのです。
「バレーはコートに6人だべや!!相手が天才1年だろうが牛島だろうが
”6人”で強い方が強いんだろうがボゲが!!!」(『ハイキュー!!』第7巻より引用)
独りよがりから抜け出し、さらに強くなった及川。そんな彼の完璧なセットアップを間近で見た影山に焦りが出て、ペースが乱れ始めます。
そんなチームの雰囲気を整えるために、セッターが影山から菅原に交代となります。
コートから下げられたことで焦る影山ですが、チームメイト一人ひとりとコミュニケーションを取る菅原の姿を見て、自分に足りなかったものを自覚します。一方、影山のような飛びぬけた才能はなくても、セッターとして少しでも長くコートにいたいと願い、奮戦する菅原の姿には、胸が熱くなる読者も多いでしょう。
そんな菅原の活躍を目の当たりにし、復活する影山。再び勢いを取り戻した烏野高校は、強豪青葉城西とほぼ互角に渡り合います。
ついに試合は第3セットまでもつれ込みますが、最後は変人速攻が完全にブロックに掴まり、試合終了の笛が鳴ります。目を瞑ったまま打ったスパイクがシャットアウトされ、気付いたときには試合が終わっていたことに愕然とする日向。烏野高校排球部のインターハイ予選はここで幕を閉じてしまいました。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2014-04-04
音駒高校の計らいで東京の梟谷学園グループとの合宿に参加することになった烏野高校。春高常連校の梟谷学園を筆頭に、格上の高校と練習試合をくり返します。
そんななか、優秀な選手のプレーを見てもっと強くなりたいと思った日向は、「変人速攻を打つときに目をつぶるのをやめる」と影山に言います。しかし、「あの速攻に日向の意思は必要ない」と影山は聞く耳を持ちません。これをきっかけに、2人はこれまでにないほど激しくぶつかり合い、口も利かなくなってしまいます。
しかし2人は、距離を置いている間も成長を止めません。日向は烏養コーチの祖父、烏養元監督のもとで「空中での戦い方」を学び、影山は烏養コーチのもとで「スパイカーの最高打点で止まるトス」を学びます。再び一緒に戦うことになった2人は試行錯誤をくり返し、目を開けたまま頂点でボールをコントロールできる新・変人速攻を習得しました。こうして、彼らが活躍する烏野高校は、新たな武器を完成させたのです。
強くなったのは、日向と影山だけではありません。
常に冷静な月島は、部活に全力で打ち込む日向たちを見て、「たかが部活なのにどうしてそんなに真剣になれるのだろう」と思っていました。また、月島の兄はかつて烏野高校排球部に所属していましたが、当時は「小さな巨人」が活躍していた強豪校で、兄は最後までレギュラー入りできなかったという経緯があります。そんな兄の姿を目撃していた月島は、新たな「小さな巨人」になり得る日向に対してもコンプレックスを抱き、バレーボールに全力を注ぐことができずにいました。
しかし、幼馴染の山口は、今の月島にどこかもどかしさを感じていました。山口は烏野高校OBの嶋田に、無回転でボールの軌道が読みにくい「ジャンプフローターサーブ」を教えてもらっていました。彼はインターハイ予選ではピンチサーバーとして出場するも、サーブでミスして悔しい思いをしています。
一方の月島は、強豪校の先輩に自主練習に誘われても断り、自分のポテンシャルに蓋をしてしまっていたため、山口は自身の思いを彼に伝えました。しかし月島は、「どれだけ頑張っても上がいて、決して一番にはなれないバレーボール」に対して、他の人がどんな原動力で動いているのかが分からなかったのです。
「プライド以外に何が要るんだ!!!」(『ハイキュー!!』第10巻より引用)
山口のこのひと言で、月島はようやく動き始めます。さらに、それでも残る疑問を解消するため、強豪校の先輩たちに「バレーはたかが部活なのに、どうしてそんなに必死にやるんですか?」と問いました。その問いに梟谷学園のエース、木兎光太郎はこう答えます。
「ー“その瞬間”が有るか、無いかだ
将来がどうだとか次の試合で勝てるかどうかとか
一先ずどうでもいい
目の前の奴ブッ潰すことと
自分の力が120%発揮された時の快感が全て」
「もしもその瞬間が来たら、それがお前がバレーにハマる瞬間だ」(『ハイキュー!!』第10巻より引用)
さらに、「月島がバレーボールを楽しいと思えないのは、まだ下手だから」とまで言い切ります。もっとうまくなれば、自分のなかで最高に気持ちのよい1本を決められる瞬間が訪れるというのです。「その一瞬のために必死にやる。」そんな木兎の答えが、月島に響いたのでした。
バレーボールを必死にやる理由に納得できた彼はこの合宿で覚醒し、今まで秘めていた能力を活かしはじめます。
さらに、ジャンプサーブを習得した東峰、第二のセッターとしてジャンプしながらのセットアップを身に付けた西谷など、各々が着実に力をつけ始め、烏野高校の実力は新たなステージへと到達します。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2014-12-27
東京での夏休み合宿を終えて、「全日本バレーボール高等学校選手権大会」、通称「春高バレー」の宮城県予選が始まりました。烏野高校は1回戦、2回戦と順調に勝ち進み、見事1次予選を突破します。約1ヶ月後に行われる宮城県代表決定戦では、インターハイ予選のベスト8と春高1次予選を勝ち抜いた8チームの、計16チームで1つの代表枠を争います。
烏野高校は、代表決定戦の1回戦でインターハイ予選ベスト4の条善寺高校に勝利し、準々決勝で和久谷南高校と対戦。この試合でレシーブ時に田中と衝突した主将・澤村が頭を打ち、試合から離れてしまいました。澤村は目立つプレイヤーではありませんが、そのレシーブ力の高さから烏野の守備の要衝といっても過言ではありません。
彼の代わりに投入されたのは、2年の縁下力。彼は烏養元監督が烏野高校を指導していた時に、1度部活から逃げた経験があります。何日も仮病を使い、クーラーの効いた涼しい部屋で過ごす日々は天国でしたが、だんだん逃げたという事実が苦しくなり再び部活に戻りました。
縁下は過去に逃げたことを負い目に感じていましたが、田中は「逃げた人も逃げなかった人の気持ちも両方わかるやつだから次期キャプテンは縁下だ」と言います。その言葉通り、縁下は澤村がいないチームをキャプテンのように支え、烏野高校を勝利へと導きました。
ですが、勝ったにもかかわらず、縁下は元気がありません。
「初めてちゃんと最後まで戦えた気がする
なのに、安心してんじゃねぇよ!!!
青城だろうが伊達工だろうが戦ってやるって思えよバカ!!」(『ハイキュー!!』第14巻より)
試合に戻ってきた澤村を見て、「もう自分は試合に出なくていい」と安心してしまった縁下は自分を責めます。しかし、以前とは違い、自分の弱さを自覚してしっかり前を向いているのです。逃げたことに負い目を感じていた彼は、この試合で逃げずに戦う強さを身につけました。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2015-05-01
準決勝の相手はインターハイ予選で敗北した青葉城西高校。新戦力・京谷賢太郎を加えた青葉城西は、あえて今までの完成されたチームに不協和音を加え、予測不能な攻撃で烏野高校を翻弄します。
流れを掴めないなかで烏野高校に投入されたのは、ピンチサーバーの山口でした。山口は、インターハイ予選の青葉城西戦ではサーブミスをし、和久谷南戦では失敗を恐れ、ジャンプフローターサーブではなく普通のサーブに逃げてしまいました。鵜飼コーチからは叱責され、観客からは「ビビリピンサー」と言われてしまいます。
ピンチサーバーは、長い試合のほんのわずかな時間しか出場することができません。しかも、繋ぐことが大切なバレーにおいて、サーブは唯一本当の意味で個人技であるために、そのプレッシャーは尋常なものではないのです。せっかく出場のチャンスが回ってきたのに、サーブミスをしたり、弱気なサーブに逃げたりする山口の心理に、同情してしまいます。
しかし、それでもピンチサーバーとして活躍するために、山口はこれまでにもサーブだけをひたすら練習してきました。そして、弱気なサーブに逃げてしまった和久谷南戦の後、自らの意志で烏養コーチのもとに行き、逃げたサーブを打ってしまったことを謝罪し、もう1一度チャンスをもらえるよう直談判していたのでした。
再び大事な局面でサーブを託された彼は、ついに、見事ジャンプフローターサーブを連続で成功させます。試合の流れを一気に変えたのです。
結果的に第2セットを青葉城西に奪われ、「半分しかいいサーブが打てなかった」と山口は悔やみますが、先輩である田中はこう言います。
「じゃあ良かった方の半分を盛大に喜べ!!
反省も後悔も放っといたってどうせする!
今はよい方の感覚をガッチリ掴んで忘れねえようにすんだよ!!」(『ハイキュー!!』第16巻より)
この言葉で山口は自分に自信を持つことができたようでした。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2015-08-04
青葉城西戦は、お互い1歩も譲らないまま第3セットを迎えます。青葉城西がマッチポイントを迎えるもすぐに烏野が取り返し、同点に追いつきました。同点となった大事な局面でツーアタックを決めるなど、影山は強気の姿勢を崩しません。
そんな天才セッター影山と対比して描かれるのが、圧倒的な実力を誇りながらも決して天才ではない及川徹です。及川は、3セット終盤のプレッシャーが大きい場面でも、全身全霊のジャンプサーブで烏野を翻弄します。
及川がここまでの力を発揮できるのには、かつて恩師からいわれた言葉がきっかけでした。
「自分より優れた何かを持っている人間は生まれた時点で自分とは違い、
それを覆す事などどんな努力・工夫・仲間をもってしても不可能と嘆くのは、
全ての正しい努力を尽くしてからで遅くない。」
スポーツマンのみならず、多くのアーティストやクリエイターにも刺さる言葉です。
烏野高校は1点をリードした状態で、リベロ以外の全員が攻撃に参加する「シンクロ攻撃」を仕掛けました。東峰が打ったスパイクは、青葉城西の花巻に拾われるも乱れてコートの外に出ます。しかし、及川はボールに追いつき、無理な体制かつコート外から、タイミングの速い完璧なロングセットアップをエース岩泉に届けます。そのときの及川の脳裏には、こんな言葉が浮かんでいました。
「才能は開花させるもの
センスは磨くもの!!!」(『ハイキュー!!』第17巻より)
岩泉が打ったスパイクで試合が終了かと思った瞬間、田中が見事なレシーブでボールを繋ぎます。影山が上げた「打点で止まるトス」を、今度は日向が目を開けたまま打ち抜き、試合終了。烏野高校が勝利し、代表決定戦への進出が決まりました。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2016-05-02
あと1勝で春高進出が決まる決勝戦が始まりました。相手は絶対王者、牛島若利率いる白鳥沢学園高校。あの青葉城西高校が3年間で1度も勝てなかった相手に、烏野高校は立ち向かいます。
怪童・牛島はサウスポーのエースアタッカーで、全国に名を知られる選手です。左利き特有の回転だけでなく、圧倒的なパワーのスパイクを惜しげもなく打ち込んできます。さらに、ミドルブロッカーの天童覚による予測不能なブロックも相まって烏野は苦戦します。決勝戦は5セットマッチで体力勝負になるなかで、この試合のヒーローになったのはあの月島でした。月島は集中力を切らすことなく相手を観察し続け、牛島に気持ちのよいスパイクを1本も打たせないよう、執拗にワンタッチを狙います。
「相手セッターにブロックを欺いてやったという快感も達成感も与えてはならない
執拗に執念深くかつ敏捷に
絶対に…タダでは通さない」(『ハイキュー!!』第18巻より)
相手セッターにストレスを与え続けた結果、ついにセッターのトスが乱れます。トスの乱れは、牛島の無理な姿勢からのスパイクにつながり、その綻びを月島は逃しませんでした。
そして、月島はついに、全国トップレベルのスパイカーである牛島のスパイクをブロックで叩き落します。月島は、かつて合宿で木兎に言われた言葉を回想していました。
「もしもその瞬間が来たら、それがお前がバレーにハマる瞬間だ」
普段はクレバーな月島が拳を握り込み、力強くガッツポーズを見せました。この時が、月島にとっての「バレーにハマる瞬間」になったのです。
そして、互いに2セットを取った状態で迎えた第5セット。常にボールを触っていた影山の体力に限界が訪れ、菅原がスターティングで出場します。さらに、この試合の要となっていた月島が指を負傷し、試合を一時離脱することになってしまいました。
その後、影山が試合に戻りますが、両者による点の取り合いになり、選手全員から息苦しさが伝わってきます。
ついに迎えた白鳥沢学園のマッチポイント。体力の極限のなかでも、牛島はフォームを崩すことなく完璧なスパイクを打ってきます。その姿を見て、烏野の士気が下がりかけます。しかし、烏養コーチの全力の叫びで、烏野高校はまた戦意を取り戻すのです。
「下を向くんじゃねえええええ!!!
バレーは!!!常に上を向くスポーツだ」(『ハイキュー!!』第21巻より)
さらに、月島が試合に戻り、烏野の反撃が始まります。牛島に押しつぶされそうになる1年生を最後に支えたのは3年生でした。澤村が繋いだボールを日向が決めて試合は終了。かつて「飛べないカラス」と言われた烏野高校は、王者白鳥沢学園を倒し、春高への切符を掴んだのです。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
春高に向けて再び動き出す烏野高校の部員たち。そんななか、影山が全日本ユース強化合宿のメンバーに選出され、東京での合宿に参加することになりました。全日本ユースでは、国内の有望な15、16歳の選手が集められ、2年後にはその中から19歳以下の日本代表選手が選ばれます。烏野高校のメンバーはあらためて影山の凄さを実感しました。
さらに、宮城県内の有望な1年生だけを集めておこなう疑似ユース合宿が白鳥沢学園で行われることに。こちらには、白鳥沢戦で活躍した月島が選ばれます。
日向は自分が抜擢されなかったことから、焦りを感じ始めます。そしてなんと、月島が呼ばれた合宿に勝手について行くことに。
とはいえ、身長が低いことから選手として芽が出なかった白鳥沢学園の鷲匠監督は、日向の存在を認めません。代表にも選ばれず、鷲匠監督にも認められない日向は、ひたすらボール拾いをさせられることになります。
しかし、日向はボール拾いを通して、コートの中には情報がたくさんあることに気がつき、選手たちの動きを観察しはじめるのです。この体験を通じて、今まで本能的に動いていた日向が考えて動くようになり、これまで苦手だったレシーブやブロックのコツを掴み始めました。
一方、影山は東京でハイレベルな選手たちとプレーをし、充実した合宿を送ります。「高校バレーNo1セッター」と呼ばれる宮侑(みや あつむ)、現在の「小さな巨人」と呼べる星海光来(ほしうむ こうらい)、牛島と同じく全国3大エースのひとり佐久早聖臣(さくさ きよおみ)など優秀なプレイヤーたちと時間を共にします。
そして、日向、影山、月島が烏野高校に戻ってきてすぐに、伊達工業との練習試合が組まれます。
しかし、影山はユースでハイレベルな選手たちの動きに慣れた影響もあり、自分の思うように動いてくれない先輩に対し、キツイ言葉を吐いてしまいます。
一瞬、自分が「コート上の王様」に戻ってしまったと思い、愕然とする影山。しかし、そんな影山に日向はこう問いかけるのです。
「前から思ってたけど王様って何でダメなの?横暴だからだっけ?自己チューだから??
でもどっちみち影山が何言っても納得しなかったらおれは言う事聞かない!」
そして、チームメイトたちも「言ってることが正しくても言い方がムカツクから嫌」など、遠慮せず思っていることを口々に言いはじめるのです。
影山は、東京合宿で2年生セッターの宮侑に言われたひと一言がずっと気になっていました。
「なかなか刺々しい第一印象やったけど
プレーは大分おりこうさんよな」(『ハイキュー!!』第24巻より)
彼は「コート上の王様」に戻ってチームメイトに拒絶されることを無意識に恐れ、言い合いを避ける「おりこうさん」になってしまっていたのです。
しかし、中学時代とは決定的に違うのは、「自分は間違っているかもしれない」と影山が思えるようになっているということ。そして、烏野には実力の飛びぬけた影山にも遠慮せずものを言える日向がいて、影山のことをちゃんと信頼しているチームメイトもいます。だからこそ、烏野高校排球部のチームメイトたちはきちんと自分を受け止めてくれるのだと彼は気が付きました。
相手の顔色をうかがって我慢するのではなく、時にはケンカをしてでもお互いが納得するまで対話し、そのうえでスパイカーが求めるトスを上げる。一度は王冠を脱ぎ捨てた影山ですが、再び王冠を頂き、今度は独裁者ではなくチームを高みに引っ張る「新・コート上の王様」へと生まれ変わったのでした。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
- 2017-08-04
いよいよ始まった春高。
春高には、烏野がこれまでに何度も合宿を共にしたライバルでもあり、良き友人でもある音駒高校、梟谷高校の面々も勝ち上がってきていました。
そんな春高の初戦の相手は、神奈川代表の椿原学園。
初めての東京体育館は、今までに経験したことのない広さと天井の高さを誇ります。特に、精密なトスワークを要求される影山は、ボールとの距離感を掴むまでに時間がかかってしまいます。
しかし、調整が完了し、見事に決まった日向との変人速攻が会場を魅了します。その後も会場中を嘲笑うかのようなツーアタック、渾身のジャンプサーブ、ファーストタッチをそのままスパイカーにセットアップなど、影山の勢いは止まりません。そこにしつこいブロックで相手にストレスを与える月島、レシーブの技術が確実に上達しつつある日向の活躍が重なり、烏野は連続得点をもぎ取ります。
そんな烏野高校の勢いを止めたのは、椿原学園のピンチサーバー・姫川の天井サーブでした。天井サーブは、アンダーハンドで天井に向かって高く打ち上げるサーブで、威力はないものの、慣れない天井と照明の灯りに邪魔されるため、レシーブが得意な澤村でも取り損ねてしまうほど。
しかし、烏野の守護神・西谷がこの流れを切り、そのまま勢いに乗って烏野のマッチポイント。最後は、相手のブロックアウト狙いの攻撃を菅原が拾い、エースである東峰のスパイクによって試合は終了。烏野高校は初戦勝利を飾ります。
その試合を見ていた烏野高校排球部のOBがいました。後輩たちの活躍ぶりを目の当たりにして、彼はこう語ります。
「チャンスは 準備された心に降り立つ」
無事、春高初戦を突破した烏野高校。他のチームの試合を見ながら東京体育館を巡る途中、日向はある選手と出会います。それが、現在の「小さな巨人」とも呼べる選手、星海光来(ほしうみ こうらい)でした。
星海は身長169㎝と小柄ながら、日向を上回る最高到達点を誇る空中戦の達人です。スパイクだけでなく、ブロック、ジャンプサーブなども完璧にこなし、まさに八面六臂の大活躍を見せつけます。彼は、試合後のインタビューで身長の低さに言及されるものの、こんな風に返すのです。
「小さい事はバレーボールに不利な要因であっても
不能の要因ではない!!」
そんな星海を見た日向は、自分と同等の身長の選手が活躍する様を見て落ち込むかと思いきや、むしろ「春高に来れてよかった」とチームメイトに告げます。日向と星海の今後どのように関わっていくのかにも注目です。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
そして、春高二日目に駒を進めた烏野高校の次なる相手は、「最強の挑戦者」と呼ばれ、IHでは2位の成績を収めた今大会優勝候補・稲荷崎高校。「高校No.1セッター」の呼び声高い宮侑を擁し、魅せるプレーと確かな魅力でファンも多い強豪校です。
そんな稲荷崎高校との試合では、序盤は強豪校ならではの吹奏楽の応援に苦しめられます。稲荷崎の応援団は、ブーイングやだんだん速くなる応援によって、烏野の選手たちのサーブを乱します。しかも、自分たちのサーブでは笛が鳴ってからサーブを打つまでの時間をコントロールするなど試合慣れした様子。そんなコートの中と外を巧みに使い分ける戦略で稲荷崎有利のムードが作られていきますが、駆け付けた田中の兄・冴子率いる和太鼓団の応援によって、烏野もペースを取り戻していきます。
しかし、それでも稲荷崎は強大な相手でした。天才的なセッターである宮侑は、双子でチームメイトでもある宮治(みや おさむ)とぶっつけ本番でありながら「変人速攻」を決めてしまうのです。新しいことを次々と試すその姿勢こそが、稲荷崎が「最強の挑戦者」と呼ばれる所以でした。
さらに、宮侑はサーブの達人でもあります。侑は威力の強いスパイクサーブと無回転で軌道が読みにくいジャンプフローターサーブを使い分ける二刀流で、烏野のリベロである西谷ですら翻弄されてしまいます。
とはいえ、烏野も一方的に負けるわけではありません。常にコート全体を冷静に見ている月島は、宮兄弟の変人速攻もブロック。東峰は、強烈なスパイクサーブでサービスエースを決めるなど、IH2位の強豪校相手に一歩も引かない攻防を繰り広げます。そして、宮治と一進一退の攻防を繰り広げる日向は、これまでとは明らかに異なる「思考の伴った動き」を見せるのでした。
しかし、そんななかでも田中だけは目立った活躍をできずにいました。
やっと自分に上がったトスはブロックでシャットアウトされ、自分を狙ったかと思われた相手のサーブは西谷がレシーブ。ブロックを意識するあまり、ストレートギリギリを狙ったスパイクはアウトになってしまいます。それでもへこたれずにトスを呼ぶ田中ですが、ボールは東峰へ上がります。
田中は回想します。「俺は普通の人間だと思う」と。小さなころは自分のことを天才だと思っていた田中ですが、おそらくこのままいけば身長は180㎝に届かず、運動神経では日向や西谷に敵いません。かといって、それが何かを諦める理由や、言い訳にはならないのです。
しかし、それでも時折やってくる、「自分は平凡なんだ」という、あの感覚。そんな迷いを打ち消すように、田中は自分に語り掛けます。
「ところで 平凡な俺よ
下を向いている暇はあるのか」
そもそも、田中はバレー部のマネージャーである清水に、初対面であるにもかかわらず「結婚してください」と迫ったほどまっすぐすぎる男でした。そんな彼が、再びトスを呼びます。
「できるまでやれば
できる」
田中はこの試合で初めて超インナークロスのスパイクを決め、烏野高校は第1セットを先取するのでした。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
第1セットを先取した烏野高校でしたが、第2セットはかなりの点差を付けられて稲荷崎にリードされてしまいます。その理由は、宮侑がジャンプフローターサーブで烏野のリベロ・西谷を狙っているからでした。
西谷は非常にレベルの高いリベロですが、実はオーバーハンドパスを苦手としていました。西谷が得意とするアンダーハンドパスはボールとの接地面積で狭く、軌道が変わりやすいジャンプフローターサーブには不向きなのです。
普段は抜群の守備力を誇り、誰もがそこに攻撃することを避けたがる西谷ですが、ここに来て初めて標的にされることに。また、守備の要であると同時に、烏野の精神的な支えにもなっている西谷が追い詰められるのは、チームメイトにとっても精神的に苦しいものなのです。
さらに、抜群の体幹を駆使してブロッカーを操る角名倫太郎(すな りんたろう)、全国3大エースに近いパワーを誇る尾白アランの攻撃が重なり、烏野はいよいよ追い詰められていきます。
しかし、冴えわたる影山のサーブや、ブロックやサーブレシーブで着実に積み上げた尾白アランへのストレスにより、次第に稲荷崎優勢のムードを塗り替える烏野。
そんな時、稲荷崎は流れを変えるために尾白アランとキャプテン・北信介を交代します。信介は決して目立つ選手ではありませんが、不安定でミスも多い稲荷崎の空気を引き締める役割を担い、「決して自分はしくじらない」という自信を持っていました。
「喝采は要らん
ちゃんとやんねん」
カンフル剤として投入された信介を軸にして立て直す稲荷崎に、そのまま第2セットを取られた烏野。いつもは元気な西谷も、今回ばかりは静かになってしまいます。しかし、東峰の「俺が決めてやる」という言葉に、チームは少し勢いを取り戻します。
その後、月島が2セットかけて築いてきたブロックが功を奏し、角名の攻撃をブロック一枚ではなく、ブロックとレシーブの連携による「トータルディフェンス」で捉えることに成功。
このタイミングで、鵜飼コーチが仕掛けたのは、山口に次ぐピンチサーバー、二年生の木下の投入です。木下は抜群の集中力でコートを見据え、渾身のジャンプフローターサーブを放ちます。しかし、サーブは呆気なく返球され、木下は1点も取ることなくその出番を終えてしまうのでした……。
これまでに日向や影山といった圧倒的な才能を目の当たりにした木下。「彼らは自分とは違う」と思いつつも、ピンチに駆り出されて活躍した山口や縁下のようにはなれるのではないか、と考えていました。それは幻想だったと気づかされ失望しますが、そんな木下も思わぬところでチームに貢献していたのです。それを証明したのが、烏野の守護神・西谷でした。
第2セットから宮侑のジャンプフローターサーブに苦しめられ続けた西谷は、「怖いと思うことは、もったいない」と語ります。その回想では、木下と何度も繰り返した練習の日々が思い起こされていました。オーバーハンドパスを怖がっていた西谷は、「一歩下がってアンダーでボールを取る」という癖が染みついていたのです。オーバーを習得すれば確実に選択肢が増えるとわかってはいる西谷ですが、それでもオーバーへの苦手意識は消えません。そんな西谷を練習で助けていたのは、ジャンプフローターサーブを打つことができる木下だったのです。
そして、ついに西谷は宮侑のジャンプフローターサーブをオーバーハンドパスで切ることに成功し、烏野が得点します。
西谷はコートの外で呆然とする木下を指差し、力強くガッツポーズを示します。それは、木下の助けがあったからこそ取れた一点だったからです。それに気づいた木下も、同じようにガッツポーズで答えます。単純な得点だけではなく「すべてのプレーがつながっている」という演出はバレーボールならでは。西谷が立て直し、烏野の巻き返しが始まろうとしていました。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
西谷はジャンプフローターサーブを克服したものの、稲荷崎の勢いはまだ止まりません。宮侑は、たとえ稲荷崎のレシーブが乱れたとしても、ボールの下に潜り込んで難しい姿勢からオーバーハンドパスでトスを上げます。
「アンダーは腕2本 オーバーは指10本
よりいっぱいのモンで支えたんねん
セッターやもん」
そんな宮侑を見た稲荷崎のピンチサーバー・理石平介は、1セット目で自分が弱気なサーブを打ってしまったことを悔やみます。これに対して稲荷崎のコーチはこう語ります。
「日本一にもなってへん俺らが
去年を 昨日を守って 明日何になれる?」
その言葉通り、新しいことに挑戦し続ける稲荷崎の宮兄弟は、これまでの変人速攻とは異なり、治がセットアップをして侑がスパイクを打つ「双子速攻マイナステンポ・裏」を繰り出すのです。セッターとスパイカーの立場を逆にしてもハイスピードの速攻をねじ込める稲荷崎の柔軟性。そんな彼らが横断幕として掲げるスローガンは、「思い出なんかいらん」。常に進化し続ける稲荷崎の想定外の攻撃に、烏野はまたもや窮地に陥ります。
しかし、その流れを断ち切ったのは、主人公・日向でした。稲荷崎の変幻自在の攻撃に冷静な月島までもが完全に翻弄され、スパイクを決められると思われたそのとき、日向がついに完璧なレシーブを上げるのです。いつも厳しい影山も、初めて日向に「ナイスレシーブ」と口にします。
それは、日向がボール拾いを通して培った「思考」が結実した瞬間でもあり、「本能」が「直感」へと化けた瞬間でもありました。この1本のレシーブをきっかけに、挫けそうになっていた烏野は再起。反撃の狼煙が上がります。
そのなかで、影山もセッターとしてさらに覚醒していきます。1セット目終盤以降は調子を上げていた田中ですが、これから崩れてしまうのではないかという予感から「おれに上げるトスを減らしてくれ」と影山に依頼していました。しかし、影山は「いいえ、田中さんの攻撃が必要です」と答えます。並外れたプレッシャーを抱える田中に対して、影山はそれでもトスを上げ続けるのです。
「あれは励ましなんかじゃねえ。
この脅迫(しんらい)に応えて見せろ」
田中にそう語らせた影山には、もはやかつての「おりこうさん」の姿はありません。そんなギリギリの攻防は最終セットのデュースとなり、30点台までもつれ込みます。
互いに体力・精神力ともに限界を迎えかけた頃、宮兄弟は初めて「バックアタックの双子速攻」を繰り出します。決定打となるかと思われた一打でしたが、これを烏野の日向・影山がブロックしてシャットアウト。試合は烏野の勝利で終了します。
最後のプレーは、これまでに「変人速攻」を何度も攻略され、「速さが無敵の武器ではない」と理解していた日向と影山だからこそ対応できたブロックでした。
そして、この日の試合は、日向がまた一段と深くバレーボールにハマるきっかけにもなったのです。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
稲荷崎を下した烏野高校は、ついに音駒高校との初の公式戦に臨みます。音駒高校はレシーブ力に長けた鉄壁の守りを誇るチームです。この試合には、特別な思い入れがある人がたくさんいました。
実は、烏野高校のコーチである鵜飼繋心の祖父・一繋と、音駒高校のコーチである猫又監督は、若かりし頃練習試合で何度も戦い、お互いを高め合った好敵手だったのです。しかし、結局一度も公式戦で二人が戦う事はありませんでした。その後、お互いが音駒高校と烏野高校のコーチをしていることを知った二人は、チャンスがあれば練習試合を組むようになりますが、それでも公式戦ではずっとぶつかることができずにいたのです。
そして、因縁があるのはコーチだけではありません。烏野と音駒はこれまでに何度も練習試合を行い、お互いを高め合ってきました。特に烏野は、まだ一度も音駒高校に勝利したことがないのです。
加えて、日向と音駒のセッターである弧爪研磨(こづめ けんま)にも確かな繋がりが生まれていました。研磨はバレーのことを特別好きではありません。日向との練習試合に対する感想も「別に普通かな」と特別楽しいと思ってはいませんでした。そんな日向は、「次は絶対に必死にさせて、別に、以外のことを言わせる」と研磨に誓っていたのです。
そして、いよいよ始まったカラス対ネコの「ゴミ捨て場の決戦」。試合は、息もつかせぬ怒涛のラリーから始まります。烏野はこれまでに培った多彩な攻撃を駆使し、堅牢な守備を誇る音駒相手に一歩も譲らぬ戦いを繰り広げます。
その中には、月島がブロックを学んだ師匠ともいえる黒尾とのやり取りもありました。月島は山口と完璧なサーブ&ブロックを決め、黒尾から「最近のバレーはどうだい」と尋ねられます。
「おかげさまで
極 たまに面白いです」
成長を見せたのは月島と山口だけではありません。烏野は合宿で失敗していたコンビネーションも試合中には見事成功させました。もう以前の不安定で穴だらけの烏野ではないのです。しかし、同時に音駒も以前のままではありませんでした。本来であれば決まっていた場面でもボールを拾われ、烏野はじわじわとペースを乱されていきます。
そして、第1セット終盤。音駒の研磨は「全員が攻撃に参加する」烏野の攻撃への意識を逆手に取り、スパイカーが助走に入る場所にボールを返球。まさかの「お見合い」でボールを落とした烏野は、第1セットを落としてしまいます。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
音駒高校に第1セットを先取されたことで、烏野は一気に窮地に陥ります。そもそも、烏野は多彩な攻撃で一気に序盤のセットを取ることが多いのです。それに対し音駒は、後半になるほど相手の攻撃に慣れて守備を固めていくスロースターター。第1セットを取られたということは、烏野が挽回するチャンスが少なくなったことを意味します。
しかも、研磨は烏野の攻撃の要となっている最強の囮・日向の動きを封じ込める策を打っていたのです……。
日向は低身長ながらに自分のバネを活かし、空中でも戦えるジャンプ力を誇りますが、そのジャンプのためには十分な助走が必要です。音駒は日向が十分な助走距離を確保できないように、日向にボールを取らせたり、他のレシーバーの位置をコントロールしたりすることで、徹底した日向潰しを行っていました。日向にとっては翼ともいえる助走を封じられ、烏野は多彩な攻撃を封じられていきます。
さらに、音駒の守備がいよいよ完成し始め、フロアディフェンスを意識しすぎたあまりスパイクがアウトになるといったミスが起こり始めます。それでも、日向は挫けません。
「研磨が「おれのレシーブ」でおれを閉じ込めるとわかっても
どっちかを選ぶわけにはいかない
レシーブが無きゃスパイクも無い
ボールが落ちたらバレーは始まらない
点を獲るのに近道が無いって事だけは知ってる」
そんな様子を見ていた影山は、如何にして日向の道をこじ開けるか考え、一つの答えを導き出します。それは「オープン攻撃」でした。オープン攻撃は、普段日向が打っている変人速攻とは異なり、高くトスしたボールに対して、スパイカーがじっくり助走をつけて飛ぶ攻撃です。日向はこれまでのジャンプとは違い、床を蹴る音がする「ドン」のジャンプを身に付け、空中に羽ばたくことで高いブロックとも戦えるようになります。
ハイセットのオープン攻撃を身に付けた日向は、敵のブロックの指先を狙って弾き飛ばしたり、滞空時間の長さで有利に戦ったりといった芸当も見せつけます。そしてレシーブでも活躍し、烏野は第2セットを取り返します。
いよいよ第3セットまでもつれ込んだ試合。ライバルであると同時に友人でもある烏野・音駒の排球部の面々にとっては、この試合そのものが、これまでの苦しさを乗り越えたことへの「ご褒美」とも呼べる時間です。ブロッカーの月島と黒尾、リベロの西谷と夜久、スパイカーの田中と武虎など、これまでに互いを高め合ってきました。試合はそんな各々の対比関係を描きながら、さらに過熱していきます。
そのなかでも、研磨がこれまでにないほど日向に対抗意識を燃やしていました。同様に、研磨に負けたくないと思っている日向は、第3セット終盤で「フェイントに見せかけたロングプッシュ」を披露。フェイントが来ると思っていた研磨は出し抜かれ、汗まみれでコートに転がり、ついにこう口にします。
「たーのしー」
それを見た日向は、まるで試合に勝ったかのようなガッツポーズをするのでした。
その後、烏野と音駒の攻防はさらに加速。研磨はこれまでに見せたことのないボールへの執着を見せます。苦しい、しんどい、けれど終わらないでほしい、そう思いながら両者は夢中でバレーボールに没頭します。しかし、最後は研磨がトスしようとしたボールが汗で滑り、烏野が得点。試合は25-21で烏野の勝利に終わりました。
こうして、多くの人が待ち望んだ「ゴミ捨て場の決戦」が終了しました。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
音駒に勝利した烏野の次なる相手は、星海光来を擁する鴎台高校。小柄ながら八面六臂の活躍を見せる星海は、日向に「どっちが現在の小さな巨人か決めよう」と宣戦布告します。そして、鴎台高校は伊達工業に匹敵するレベルのブロックを誇るチームでもあり、烏野との空中戦が激化することは必至です。全国屈指の攻撃力を誇る烏野VS全国屈指の守備力を誇る鴎台の試合が始まりました。
「証明してきてください 烏野高校こそ空中戦の覇者であると」
烏野は初っ端からセンターで日向の速攻を使うなど、攻撃力の高さを見せつけます。
しかし、烏野の優位をせき止めたのが星海です。星海の武器は、日向に匹敵する圧倒的なジャンプ力だけではありません。攻撃面ではブロックの指先に当てて弾き飛ばすブロックアウトを使いこなし、威力の高いジャンプサーブも安定して打ちます。さらに、影山のサーブを完璧に上げるレシーブや、距離の長い2段トスも完璧にこなすのでした。星海は決して体格には恵まれませんでしたが、その分人の何倍も努力をして、すべてのプレーを安定してこなせるバレーボール選手になっていたのです。
そして、そんな試合をかつて「小さな巨人」であった宇内(うだい)が見ていました。彼は語ります。当時、宮城県内ではトップレベルの選手だった小さな巨人ですが、全国へ行くほど相手はより大きく、速く、賢くなっていったといいます。
「俺は小さい代わりに技術で勝負するんだと思っていました
でも 小さかろうが大きかろうが技術を磨いた奴が技術を持ってる」「世界は平等じゃなくて 平等だ」
そして、ひたすら練習を重ねて全部できるようになった星海は、すでにそれを知っていたのです。
「俺は俺が弱い事をとうの昔にしっている」
さらに、星海の活躍に引っ張られるように鴎台のブロックが効果を発揮し始めます。ブロックの要となる「不動の昼神」や2m超えの白馬が立ちはだかり、烏野は思うように攻撃が決まりません。そのまま第1セットを先取されてしまいます。
これを受け、烏野は多人数・多方向からの攻撃でブロッカーが処理する情報を増やしたり、ローテーションを変更して各選手のマッチアップをずらしたりして鴎台に対抗することになります。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
鴎台に1セットを先取され、追い込まれた烏野。しかし、影山はそんな局面にあってもどこか楽しげです。1セット目とは違うローテーションを利用し、わざと弱いサーブを入れるといった遊び心を見せ、鴎台を翻弄します。それを見た日向は、思わずこう呟くのです。
「強いって 自由だ」
しかし、そんな状況でもエースである東峰は思うように力を発揮できずにいました。鴎台のブロックは、ことごとく東峰のスパイクを遮るのです。
流れを掴むチャンスが来たのに、仲間がそのチャンスを作ってくれているのに、期待に応えたいと思っているのに、思うように攻撃を決められない罪悪感。ピンチの時にこそボールを託されるエースとしての責任感と恐怖心。ただでさえ気持ちが落ち込みやすい東峰は、だんだんと焦り始めます。失敗するたびに、自分を責めてしまう東峰。無駄だとわかっていても、そんなマイナス思考へ陥りそうになってしまう彼を支えたのは、同じく3年生である菅原と澤村の言葉でした。
心から仲間を信頼する東峰は、「こいつらと少しでも長く一緒にバレーをしたい」と願います。しかし、そんな彼がただ一人信頼してこなかったのが「自分」です。
「罪悪感も恐怖心も在って当然
ぜんぶ背負って
俺は今日 俺を味方にする」
そして、影山はそれでも東峰にトスを上げ続けます。
『重い重いエースの重圧?』
「仲間が重圧であったことがあるか」
強烈なスパイクが打たれるかと思った刹那、東峰は突然力を抜き、フェイントを仕掛けることで鴎台のブロックを出し抜きます。これをきっかけに東峰は覚醒し、これまでよりもブロックの動きやコート全体を冷静に見ることができるように。ついには、スパイクを打つタイミングを意図的にずらすことで鴎台のブロックを打ち破り、試合の流れを一気に烏野へ引き寄せます。
さらに、「ドン」のジャンプとマイナステンポを組み合わせた日向の速攻や、ブロックアウト狙いの星海を逆に利用して「ブロックの手をわざと引っ込める」月島の戦略も重なり、烏野は第2セットを取り返しました。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
第3セットにもつれこむ鴎台戦。2セット目を取った烏野が有利かと思いきや、鴎台は一向に崩れる気配がなく、かといって劇的なパワーアップをするわけでもありません。鴎台はメンタルトレーニングと成功の習慣化により、安定した強さを誇るチームだったのです。安定感を誇る鴎台のリード・ブロックはさらに練度を高め、烏野の攻撃を妨げます。
そんな「淡々と強いチーム」の中にあっても、星海の強さが埋もれることはありませんでした。星海は速攻のセットアップを完璧にこなし、東峰のサーブをレシーブしたすぐ後に攻撃に参加して得点するなど縦横無尽の活躍を見せます。
まさに現在の「小さな巨人」と呼ぶに相応しい星海に対して、日向もまたマイナステンポや1stテンポの速攻を使い分け、鴎台を翻弄します。そして、鴎台ブロックの要であった「不動の昼神」は、ついに日向の動きに釣られてブロックは分断。烏野・田中のスパイクはコートの中央へと深く刺さります。
日向はずっと、「小さな巨人」やエースという存在に強い憧れを抱いていました。いざという時にボールが集まるチームの主砲であり、仲間からの信頼をその背に引き受けるエースという存在は、確かに輝かしく見えることでしょう。烏野高校に入った当初は、エースへの羨望や嫉妬から、「最強の囮」という自分の立ち位置に不満を覚えることもありました。けれど、日向はここに至り、「あくまで自分は最強の囮でありたい」と語ります。
あんな風になれたらかっこいいと思った
でもこの先 色んな事ができるようになっても
誰かがおれに名前をつけてくれるなら
おれは
最強の囮がいい
「だから小さな巨人の称号は星海さんにどうぞ」と日向に言われ、星海は高らかに笑います。日向のことを「自分と同様の存在」とライバル視していた彼も、「俺たちの強さは一つなんかじゃない」と認識を改めます。
その後も烏野と鴎台は激しいラリーを繰り広げますが、突如、日向が倒れてしまいます。起き上がろうとしても身体が上手く動かない日向を見た影山は、「日向はきっと熱が出ている」と指摘。実際に体温を測ってみると、なんと39℃もの高熱を出していたのです。
それでも「怪我ではないから試合に出させてほしい」と懇願する日向。彼は、中学時代まともに試合に出られなかった分、バレーボールに対する執着が人一倍強い人物です。そんな日向を、顧問の武田先生が諭します。
「今、これ以上君を試合に出すことはできません」
「そして君は今、がむしゃらだけでは越えられない壁があると知っている
その時必要になるのは知識・理性・そして思考
日向くん今この瞬間も「バレーボール」だ」
武田先生は、「日向は小柄であるがゆえに、これからもバレーにおけるチャンスが少ないだろう」と言います。だからこそ、その少ないチャンスを取りこぼさないように、こう告げました。
「君こそは いつも万全でチャンスの最前線に居なさい」
武田先生に諭され、日向の途中退場が決定しました。
そして、「コートにより長くいる」という勝負でも張り合っていた日向と影山。影山は、「今回も俺の勝ちだ」と日向に宣言します。
こうして、日向は一足早く東京体育館を後にすることに。日向はタブレットで自分がいなくなったコートの試合を目に焼き付けますが、そこには日向がいなくなってなお鴎台と一進一退の攻防を繰り広げる烏野の姿がありました。それは日向が最強の囮として「鴎台のブロックを打ち抜ける」というイメージを与えた結果でもあったのです。しかし、激しいラリーの末、最後は星海にスパイクを決められて試合終了。烏野の春高は準々決勝敗退で幕を下ろしました。
その様子を見ていたのが、バレー全日本代表の雲雀田吹です。春高では一握りの勝者が生まれる一方、数々の敗者が次々と生まれます。そんな様子を見て、「ここにいる選手たちに敗北を経験しない者はいないし、強者ほどさらに上の強者に打ち負かされる」と語ります。
「今日 敗者の君たちよ
明日は何者になる?」
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
白熱した春高が終わると、次なる舞台はなんとブラジル。烏野高校を卒業した日向は、ブラジルでビーチバレーの修行をすることに。
ビーチバレーは、インドアのバレーボールとは異なり、2体2で行うのが基本的なルールです。一人でなんでもできるようになる必要があるため、スパイクやレシーブ以外の技術も身に付けたいと願う日向にとってはうってつけなのです。
とはいえ、地球の裏側でのビーチバレーは日向にとって苦難の連続でした。日向はインドアバレーでは大活躍していましたが、砂の上では思うように身体を操ることができないうえに、ボールが風の影響を受けるやりにくさもありました。また、無口なルームメイトとも打ち解けられず、それまで培った自信を失いかけてしまいます。
そんな折、なんと元青葉城西の「大王様」こと及川徹にビーチでばったり遭遇します。及川は卒業後、アルゼンチンのリーグで活躍していて、休暇としてブラジルまでやって来ていたのです。そんな及川と共にビーチバレーをするうちに元気を取り戻した日向は、次第に砂の上での戦い方を身に付けていきます。やがて、ビーチでも活躍するようになった日向は、「ニンジャ・ショーヨー」の名で知られるように。帰国前の最後の試合では、相手の動きを見るだけではなく、「相手にどう見られているか」を考えながら動けるようになっていました。
そして、ついに日本へと帰国した日向は、かつて激闘を繰り広げた木兎光太郎や宮侑、高校時代全国3大エースだった佐久早が所属するVリーグチーム・MSBYブラックジャッカルに参加することになります。
一方、日向が烏野で共にプレイしていた影山は、Vリーグのシュヴァイデンアドラーズのセッターとして既に大活躍していました。その活躍ぶりは、テレビCMに抜擢されるほどのもの。しかも、シュヴァイデンアドラーズには、日向の因縁の相手ともいえる牛島や星海らも所属していたのです。
そんなブラックジャッカルとシュヴァイデンアドラーズの試合が決定しました。かつて、「影山を倒す」と宣言した日向が、初めて公式戦の場で影山とぶつかることになります。「ハイキュー!!」を締めくくる最後の戦いが始まろうとしていました……。
- 著者
- 古舘 春一
- 出版日
ついに始まった、日向と影山が初めてぶつかる公式戦。この試合を楽しみにしている人々がいました。会場に駆けつけたのは、月島や山口、澤村、東峰、菅原、田中など、かつて烏野で共にプレーしたチームメイトたちです。その中にはもうバレーを辞めてしまった人もいますが、それぞれが自分の人生を歩み始めていました。烏野の面々だけでなく、かつてしのぎを削った他校の面々の誰もがこの日の試合に注目していました。
そんな試合は、影山の強烈なサーブから始まります。しかし、日向はこれを見事にセッターの位置まで返し、さらに「ドン」ジャンプからのスパイクを見事決めてみせます。さらに、宮侑とのコンビネーションによって、高校時代よりもさらにスピードを高めたマイナステンポの速攻を繰り出し、ジャンプサーブまで使いこなせるようになっていました。
日向は守備でも大活躍します。彼はビーチバレーの経験を通じて、「自分の守備の位置をあえて相手に見せてその裏をかく」という超高度な駆け引きができるようになっていたのです。しかも、セッターである宮侑がファーストタッチに触れた際には、日向が速攻のセットアップを完璧にこなしてみせました。日向は一人でなんでもできるプレイヤーへと成長していたのでした。
その様子を見ていたのは、かつて日向に対して対抗心を燃やしていた元白鳥沢のコーチ・鷲匠です。
「何をどれだけできようとも
俺たちに"十分"は無えんだ」
そのままブラックジャッカルは第1セットを先取します。
そして、ここに来て初めて影山の過去が明かされます。
影山にバレーを教えてくれたのは、祖父である一与(かずよ)でした。影山は幼少期からバレーボールに触れ、「できるだけ長く、多くの試合をしたい」と願うバレー馬鹿でもありました。そんな影山に、一与は試合をたくさんする方法を教えます。
「強くなれば どんどん試合できるよ」
「強くなれば 絶っっっ対に
目の前にはもっと強い誰かが現れるから」
しかし、ひたすらにバレーボールだけに没頭する影山についてこられる人間はいませんでした。
一与も亡くなり、中学のチームメイトから拒絶され、影山は孤独になっていきますが、そんなとき、影山についていくことができる日向が現れました。そして、影山にとっても最強の味方であった日向は今、「最強の敵」として目の前に立ちはだかっているのです。
そんな日向と対峙する影山は、抜群のセンスでトスを上げ、ブラックジャッカルの守備を翻弄します。影山は、烏野高校の三年間を通してもっと自由に戦っていいことを学んでいたのです。そこにあるのはかつての孤独な独裁者ではなく、確かな自負を持ってスパイカーを操り、コートを支配する真の「コート上の王様」でした。
「今までも 今日も
スパイカー達は最高のトスを待っている」
影山の活躍もあり、第2セットはアドラーズが取り返します。
続く第3セットでは、ブラックジャッカルの宮侑がジャンプフローターサーブのモーションから強打を繰り出す「ハイブリッドサーブ」を駆使し、連続で得点を稼ぎます。さらに木兎も抜群の集中と判断力でブロッカーを出し抜き、試合はブラックジャッカル優勢で進みます。途中、空中戦の技術にさらに磨きをかけた星海や、フォームを矯正して以前にも増して強力になった牛島のスパイクに苦しめられるものの、日向の奇襲により得点。第3セットはブラックジャッカルが奪い、勝利に王手をかけます。
そして迎えた第4セット。これまでにも何度も苦しめられ、この試合でも脅威であり続けたのが牛島のスパイクでした。圧倒的な威力と左利きならではの回転を持つ彼のスパイクは、高校時代には烏野のリベロ・西谷が苦しめられたほど。牛島は日向に対抗心を燃やし、彼にスパイクを打ち込み続けますが、ついに日向はこれをレシーブすることに成功します。日向は以前とは違い、膝をつかず、抜群の安定感を誇るレシーブ力を手に入れていました。それは、日向が発熱で途中退場した春高からビーチバレーでの2年間の修行、すべてが繋がった結果でもありました。
その後も一進一退の攻防を繰り広げ、第4セットはデュースへもつれ込むことに。
最終局面、ブラックジャッカルのセットポイント。日向と影山がネット際でギリギリのせめぎ合いをするものの、ブラックジャッカル側へと返ったボールはセッターの宮侑へ。日向は全力でコートの反対側まで走ってスパイクを打とうとしますが、宮侑のトスは木兎へ上がります。日向の動きに完全に引っ張られたアドラーズはブロックが間に合わず、隙を突いた木兎のスパイクが決まって試合終了。プロとして日向と影山が初めてぶつかった試合は、日向の勝利で幕を閉じました。
そして、時は進み2020年。東京オリンピックが始まります。
日本が対峙する相手は、セッター・及川徹擁するアルゼンチン。一方、日本チームには、主人公・日向翔陽と、セッター影山飛雄の姿がありました。
オリンピックの舞台で、日向と影山は再びあの「変人速攻」を決めます。烏野で培われ、これまでに幾多の激闘を繰り広げながら繋がれてきた絆は、今度は世界を相手取ることになるのでした……。
「さあ今日も
バレーボールは面白いと証明しよう」
今回は最終巻までの見所をダイジェスト版でご紹介しました。とはいえ、「ハイキュー!!」の魅力は文章だけではとても伝えきれません。今回紹介した名シーン・名言の他にも、あなたの心に刺さるものがきっとあるはず。ぜひ原作を手に取ってみることをおすすめします。バレーボール漫画の金字塔を心ゆくまで楽しんでみてください。