繊細な描写が魅力的なフライのイラストを使用したライトノベルを集めました。思春期の男女を描いたイラストは光の加減が美しく、作品の空気感がよく伝わってきます。しっとりとしたイラストの世界観からか、本編の物語も落ち着いた印象のライトノベルが多いですよ。
フライは、『弱キャラ友崎くん』や『佐伯さんと、ひとつ屋根の下 I'll have Sherbet!』などのライトノベルだけでなく、漫画『けものフレンズ』など、漫画作品も手掛けるイラストレーターです。
背景から光が溢れてくるような構図が特徴で、ハイライトを使った美しい表現に定評があります。
妹が生まれたけれど、そもそも「いもうと」がどんなものかよくわからない兄。「今まで1人で使っていた子供部屋が狭くなる」くらいの認識しかなく、小学校にあがるまではろくに話もしたことがありません。
しかし小学校の夏休みの終わり、妹が絵日記を抱えて兄のもとへやってきます。「てつだって」とお願いされた絵日記は最初の3日分しか描かれておらず、兄は頭を抱えながら手伝ってやることに。それ以来、妹は兄を「にーさん」と呼んで後をついてくるようになります。
どうやら友達がいないらしい妹と、彼女を見守る兄の姿を描いたライトノベルです。
- 著者
- 入間人間
- 出版日
- 2016-07-09
フライによる、キラキラした夏の日差しを感じられるイラストが魅力的なライトノベルですが、物語の内容はやや暗めです。さわやかな印象の挿画とは裏腹に、思春期らしい青春も、著者の入間人間が得意とする流血沙汰もなく、淡々とした語り口で兄と妹の人生が描かれていきます。
家族とはよく話すけれど外では無口な妹には、友達の影がありません。夏休みは毎日、兄を連れて学校に行き、ヒマワリの観察日記を書いています。彼女が携帯電話を持ちはじめると、そのなかに入っているアプリ「くーまん」が唯一の親友となりますが、彼女は兄にこんな相談をしてくるようになりました。
「にーさん」
「ん?」
「触れない友達って、おかしいかなあ?」(『いもーとらいふ』上から引用)
友達は触れることが条件ではない、と妹をなぐさめた兄ですが、果たして自分は他の友人に同じことを言われたらこう答えただろうかと首をかしげます。
頼り頼られる日々を送りながら、徐々に依存を深めていく兄と妹。2人が辿り着く、ほろ苦い結末とは……。
若くして両親を失い、天涯孤独の身になってしまった主人公とその妹。親戚中をたらい回しにされた後、両親の遺産でアパートを借り、2人で暮らしをはじめました。しかし、今度はそのアパートが火事になってしまいます。
火災保険にも入っておらず、財産もすべて現金で手元に置いていたため、すべてを燃やしてしまった2人は無一文で路頭に迷うことに。
ホームレス生活から脱するには、とにかく家がないと!と、空き家を見つけた兄妹は勝手にそこで寝泊まりをはじめましたが、実はそこは空き家ではなかったのです……。
- 著者
- 五十嵐 雄策
- 出版日
- 2016-11-10
兄妹が忍び込んだ家は、兄のクラスメイト・成瀬莉緒が暮らす家でした。美人ですが口数が少なく、周囲とのコミュニケーションを拒絶している彼女は「損得」ですべての物事をはかるクセがあります。彼女の行動パターンが毎日同じであることを知った兄は、このまま彼女のいない時間を活用して「幸せ二世帯同居生活」をはじめてしまおうと考えました。
成瀬はほとんど2階へ上がらないので、そこに自分たちの部屋を勝手に作り、バイトで帰りが遅い彼女の時間を見計らってキッチンを使う生活が始まります。不意に彼女が現れたときは瞬時に姿を隠す練習までする兄妹。「ホームレス生活はもういやだ!」という切実な声が聞こえてきそうです。
しかしある日、兄の飲みかけのコーヒーが出しっぱなしになっているところを成瀬に見つかってしまいます。「もうだめだ」と覚悟する彼ですが、そこで成瀬が発した独り言は……
「まさか……まさか、”妖精さん”!? ”妖精さん”が私のために淹れてくれたの?」(『 幸せ二世帯同居計画 ~妖精さんのお話~』から引用)
という盛大な勘違いでした。
その後「妖精さん」として成瀬とコミュニケーションをとり始めた兄は、徐々に彼女の秘められた思いに触れていくことになるのです。フライのイラストで描かれる硬質な成瀬の表情が、どんどんやわらかくなっていくところに注目してください!
酸素と同じように、「精霊」の存在が必要不可欠な世界が舞台です。人々は精霊を通した魔法を使って生活しており、エネルギーを使えば二酸化炭素が出るように、魔術を使うと「ダスト層雲」というものが発生します。そのダスト層雲が上空を厚く覆い、晴れた青空が見えなくなってしまった社会に、主人公のカリムは暮らしていました。
環境問題になっているダスト層雲を払えるのは、箒に乗って空を飛ぶ「グラオベーゼン」という儀式のみ。それをおこなえるのはある条件を満たした十代の少年少女だけで、儀式をおこなう彼らは「ヘクセ」と呼ばれています。
カリムはそのなかでも特に技術に秀でたヘクセですが、とある過去の事件からダスト層雲に近づくことができず、儀式に必要な高度まで飛行できずにいました。
彼が強く意識しているのは、過去の事件と関わりのある幼馴染の揺月。彼女もまた優秀なヘクセであり、カリムとは因縁があります。彼らが儀式を成功させて晴天を取り戻し、カリムと揺月が「青空のヘクセ」と呼ばれるようになったところで第1巻は終わります。
- 著者
- 藤宮カズキ
- 出版日
- 2016-08-31
2巻からはカリムの先輩であるレイシャが登場します。彼女はカリムに恋をしているのですが、同時に「カリムは揺月のことが好き」と確信しています。そのため自分の恋に見切りをつけようとしますが、そんな時に彼とデートをすることになり、しかも、揺月のかわりに彼と一緒に飛ぶことになります。
果たしてレイシャはカリムに想いを伝えるのでしょうか?
少年少女たちの切なく純粋な三角関係が、同じく切ないイラストとともに綴られます。物語を読み終えた後にこの絵を見て、おもわず泣きそうになってしまう読者もいるかもしれません。
本作はweb上で公開されていた作品が書籍化されたものです。憧れのひとり暮らしを夢見てアパートを借りた高校2年生・弓月恭嗣は、自分が借りたはずの部屋に荷物を運びこむ少女を発見します。慌てて確認すると、彼女もこの部屋を借りたと主張するのです。
一体どういうことなのかと不動産屋に確認してみると、なんと契約のダブルブッキングが発生しとのこと!
弓月より一つ年下の少女・佐伯貴理華はアメリカからの帰国子女で、「この部屋以外に帰る場所はない」と言います。一方、弓月もひとり暮らしを諦めたくはありません。
悩んだすえ、佐伯は「同じ部屋をシェアしよう!」と提案し、奇妙な2人暮らしがはじまったのでした。
- 著者
- 九曜
- 出版日
- 2017-02-28
驚きの展開はこれだけではありません。なんと佐伯は、弓月と同じ学校の生徒でした。しかもただの生徒ではなく、ズバ抜けた学力で「新入生総代」として入学式で挨拶をするほどの秀才だったのです。
学校ではおしとやかな彼女ですが、家ではワガママを言って弓月を振り回し、「学校では近づいてこないで」と頼んだ弓月をからかうかのように、校内で彼に声や視線を送ってきます。
可愛くて頭もいい帰国子女の佐伯と、高校生とは思えないほど老成した弓月の組み合わせが、ゆっくりと仲を進展させていく様子がたまりません。
また、佐伯を描いたイラストも見どころです。彼女の可愛さが魅力なストーリーだけに、佐伯が見せるさまざまな表情にときめく読者も多いはず。
キラキラした青春学生ライフを感じたい方は、ぜひ手に取ってみてくださいね!
いかがでしたか?光が印象的なフライのイラストに似合う、ライトノベルにしてはしっとりと落ち着きのあるストーリーの小説をご紹介しました。特に十代の少年少女の青春模様が好きな読者におすすめです。