今回は『ヴァンパイア十字界』を紹介します。ヴァンパイアの王・ストラウスが、世界のどこかに封印された女王・アーデルハイトを捜し求めて戦うファンタジー漫画です。スマホの漫画アプリで無料で読むことができるので、緻密に練られたストーリーをぜひ楽しんでみてください!
『ヴァンパイア十字界』は、推理作家・城平京が原作、漫画家・木村有里が作画のバトルファンタジー漫画です。「月刊少年ガンガン」にて2003年から2007年まで連載され、ミステリー作家ならではの構成とスピーディーな戦闘シーンが人気を博しました。
無料漫画アプリでも好評配信中なので、お気軽に楽しめます。
- 著者
- 城平 京
- 出版日
- 2003-12-22
1000年前に起こったある出来事が鍵となっていて、それに関する登場人物たちの過去や記憶が伏線であり、見どころでもあります。時には真相とされていたものが覆ることもあるので、過去が語られるシーンは見逃せません。
また、キャラクターの「名言」も注目ポイントのひとつです。発せられる言葉がキャラクターの人となりを表しているので、物語の重要な要素といえるでしょう。
本記事では、作品のあらすじと主要な登場人物の名言を紹介し、その魅力を考察していきます。
はるか昔、ヴァンパイアの女王・アーデルハイトは魔力を暴走させ、世界滅亡の危機を招いたことで、世界のどこかに封印されてしまいました。女王を奪われた王・ストラウスは憤慨し、自らが治めていた「夜の国」を滅ぼしてしまいます。
長い年月をかけ、封印されたアーデルハイトを捜すストラウス。ヴァンパイアと人間の混血種・ダムピールや、ヴァンパイアを滅ぼす力を持つ人間・ブラックスワンに命を狙われながらも旅を続けるのには、他者の想像を超える理由があったのでした。
ヴァンパイアの王・ストラウスは、戦闘能力や王としての手腕、さらには精神力でさえも規格外の最強主人公です。とくに精神力の強さはすさまじいものがあり、それを垣間見られるのが、この名言です。
「大事なものを失ったのがどうした。這い回ったのがどうした。復讐を否定されたのがどうした。それくらい私だって見たぞ。――いやそれ以上のものさえ私は見ているぞ。お前はまだずっとましだ。そんなもので支えられた剣を私に誇るな。私を殺したければ私以上の地獄を見つけるがいい」(『ヴァンパイア十字界』4巻より引用)
ストラウスによって愛する人を殺されたダムピール・蓮火との戦いのなかで、彼から苦しみをぶつけられた際にストラウスが言い放ったセリフです。実際、ストラウスは数々の辛い体験をしており、苦しみを抱えたまま1000年を超える歳月を生き続けています。
物語を読み進め、真実が明かされていくにつれ、このセリフに隠されたストラウスの苦しみや悲しみも明らかになり、彼がいかに強靭な精神力の持ち主なのかがわかるでしょう。
ダムピールのリーダー、ブリジットは、かつて義理の父であるストラウスを慕っていました。しかしストラウスによって「夜の国」を滅ぼされ、彼女自身も裏切られたことで、憎しみを抱くようになります。
「愛するアーデルハイトだと?ふざけるな。ストラウスはこれっぽっちもアーデルハイトなど愛してはいない!」(『ヴァンパイア十字界』3巻より引用)
この発言により、ストーリーの様相が変化を遂げることになります。 それまでストラウスがアーデルハイトを捜す動機は「愛」だと考えられてきましたが、この発言によりって動機は「復讐」だったことが明らかになりました。
さらにその復讐の動機として、ストラウスは同族のアーデルハイトではなく、人間の女性・ステラという女性を愛しており、彼女がアーデルハイトに殺されたからだということもブリジットの口から語られます。
ブリジットはストラウスを憎む一方で、彼を慕う気持ちも抱き続けており、真実が明らかになるなかで相反する2つの感情に揺れ動くことになります。その複雑な心境の描かれ方は必見です。
ストラウスの旅に同行するダムピールの少女・レティシアは、自らを拾って育ててくれたストラウスを父親として慕っています。そんな彼女が上記のブリジットの話を聞いた後、次のように言いました。
「あたしはストラウスについてく。それがあたしの真実だ」(『ヴァンパイア十字界』3巻より引用)
50年もの間ストラウスを間近で見てきたレティシアは、彼の性格や抱えている思いの一端を知るよき理解者です。ストラウスに対する信頼の大きさが見て取れるセリフといっても、過言ではありません。この言葉どおり、彼女はストラウスと行動をともにし、さまざまな真実を知っていくことになります。
またレティシアは、持ち前の明るさで場を盛り上げたり和ませたりするムードメーカーでもあり、彼女が起点となるギャグシーンも作品を楽しむ要素のひとつです。
魔力の暴走の果てに封印されていたアーデルハイト。彼女はブリジットたちによって封印を解かれ、復活することになります。その直後、アーデルハイトはこのような発言をしたのです。
「ストラウスはわたくしを許しました。ステラを殺したわたくしを許したんです」(『ヴァンパイア十字界』7巻より引用)
このセリフによって、再び「真相」とされていたものが覆りました。ブリジットたちでさえ真実が見えなくなり、混乱状態に。さらに、アーデルハイトが実際にはステラを殺していないことがわかり、そこから「本物の真相」へ物語が動いていきます。
実のところアーデルハイトは、ステラを亡くしたストラウスが自らの心を凍りつかせてしまったことを案じていたのです。生きることにさえ執着しなくなった彼を救いたいという思いから、ステラを殺したのは自分だということにし、ストラウスの復讐の対象となることで、彼の凍った心を溶かそうとしていました。
献身的すぎる愛情が、彼女の最大の魅力といえます。
ヴァンパイアを殺す力を持った女性・ブラックスワンの50代目に選ばれた花雪は、クールで理知的な振る舞いを見せますが、内面は夢見る少女です。悪と戦うスーパーヒロインに憧れており、悪を倒す使命を受けたことに喜びを感じていました。
しかし、ブラックスワンの秘密や「本物の真相」を知ったことで、自分がいかに不都合な真実から目を背け浮かれていたかを思い知ることになります。そのときに口にしたのが、このセリフです。
「誰もが正しくて、誰もが傷だらけで、単純な善悪などどこにもなかったのです」(『ヴァンパイア十字界』9巻より引用)
真実を知った花雪は、「正義の味方」としてではなく、「ブラックスワン」としてストラウスと向き合おうとします。このように、登場人物たちが成長を遂げるプロセスも本作の見どころのひとつです。
そんななか、花雪はある重大な選択を迫られて思い悩みます。彼女の決断が生み出すラストに、読者の心はきっと動かされるはずです。
- 著者
- 城平 京
- 出版日
- 2007-04-21
いかがだったでしょうか?本記事ではストーリーに焦点を当てて紹介しましたが、バトルシーンも迫力があって見ごたえ十分です。話が進むにつれて、さまざまな様相を見せる極上のファンタジーを、ぜひご一読いただければと思います!