鮮やかで表情豊かなキャラクターを描くイラストレーターNardack。担当した数多くのライトノベルのうち、鮮やかさ、美しさ、繊細さ、勢い、セクシーさなど、彼女のイラストの魅力を多方面から味わえる作品をご紹介します。
Nardack(ナルダク)は、有名ゲームのキャラクターデザインやイラストを手がけるほか、ライトノベルのイラストを数多く担当するイラストレーターです。コンテストでも受賞するなど、多くの人に評価されています。
彼女の描くキャラクターはみな活き活きとしており、肌の表現が鮮やかかつ繊細であることが特徴です。また、あたたかみのある背景やきらめく水の表現によって、小説の世界観を描き出すところも魅力となっています。
今回はNardackがイラストを描くライトノベルのなかでも、おすすめの5作品をご紹介します。
「――恋は、心でするのだろうか? それとも、体でするのだろうか?」(『この恋と、その未来。 -一年目 春-』より引用)
主人公の松永四郎は東京の実家を離れ、広島の全寮制高校へ入学します。期待に胸を膨らませて寮を訪れた四郎でしたが、そこで出会ったルームメイトの織田未来は、一人称を「俺」とする性同一性障害の女の子でした。
- 著者
- ["森橋ビンゴ", "Nardack"]
- 出版日
未来は、身体は女性でありながら心は男性であり、学校側の配慮によって男子生徒として生活し、男である四郎と同じ部屋となっています。そんな未来には、男性の親友が欲しいという夢がありました。
しかし未来は身体が女性であり、さらに周りから「イケメン」と呼ばれるほどの整った容姿をもつがゆえに、男性と友達になるのに苦労してきた過去があります。そんな未来の秘密を受け入れ、男友達として関係を構築していく四郎でしたが、ある日、気づいてしまうのです。
それは、自分が未来のことを好きになってしまった、ということでした。男友達に対する好意とは別の感情を抱いてしまったことを自覚し悩む彼の姿が、読者の心を揺さぶる展開となっています。
今作のイラストの魅力は、性同一性障害である未来のイラストの微妙な描き分けにあります。四郎が未来の身体が女であると気付いてない時や、未来を男友達として扱っている時は爽やかな少年らしく、しかし四郎が未来を女の子として意識しはじめてからはほのかに女性みを帯びたイラストになっているのです。
四郎の視点から見た美しく綺麗な未来の姿は、読者を未来に恋させるのに十分すぎるほど。表情豊かな彼らがイラストで現れることで、小説の世界がぐっと身近に感じられる作品です。
「俺はたぶん、何かに一所懸命になっている人間が、苦手なのだ。自分が何にも熱を持てない人間だと思っているから。」(『東雲侑子は短編小説をあいしている』より引用)
主人公である図書委員の男子高生、英太は、同じく図書委員である東雲侑子の無表情で淡々とした様子に興味を持ちました。彼女の、自分と同じように無気力で、暑苦しいクラブ活動を避ける姿に共感したからです。
しかし、東雲に対する英太の印象は、ある日を境に一変するのです。
- 著者
- ["森橋ビンゴ", "Nardack"]
- 出版日
図書委員のカウンター当番のたびに短編小説を読んでいる東雲は、常に冷静であり、まれにわずかな微笑みを浮かべる以外には表情が変化することはありません。それは、図書委員でありながら本に興味のない英太と軽い口論になりかけた時でさえ、口調を荒げることなく話を終わらせる姿にも現れています。
しかしそんな東雲は実はプロの小説家であり、雑誌に写真が載るほどの人物だったのです。東雲が作家であることを偶然知った英太は、彼女が短編小説ばかり読んでいる理由を知りました。
それは、東雲が長編小説を書くことができず、また恋愛経験が無いせいで恋愛小説を書くこともできないという悩みのせいでした。東雲が長編小説を書くために必要な体験を得られるようにと、英太は彼女と恋人ごっこを始めるのです。
今作のイラストの魅力は、表情豊かなキャラクターを描くことを得意とするNardackが、表情を変えない少女東雲を巧みに描写しているところにあります。
無気力で暑苦しいことが嫌いな英太が年相応に表情を変え、生々しい性欲を抱えて悩む姿と、彼につられるようにして表情をほころばせてゆく東雲のイラストは必見です。
「失恋探偵さん、お願いします。彼の気持ちを、調べてもらえないでしょうか……!」(『失恋探偵ももせ』より引用)
ミステリ研究会に所属する主人公の野々村九十九は、後輩である「失恋探偵」の千代田百瀬とともに恋の相談を受けていました。もっともその依頼内容は、失恋をした本当の理由を調べることや、相手の気持ちを調べるというものです。
失恋の痛みを抱えた高校生たちが、今日も依頼人としてミステリ研究会のドアを叩きます。
- 著者
- 岬鷺宮
- 出版日
- 2013-04-10
『失恋探偵ももせ』は電撃小説大賞「電撃文庫MAGAZINE賞」受賞作。失恋の理由を解き明かしていくという、穏やかなミステリー小説です。恋の成就へと進みがちなライトノベルでは珍しく、失恋をテーマにしているところに特徴があるといえるでしょう。
連作短編集で、依頼人たちの失恋の謎を追いつつも、九十九と百瀬のわずかに動く関係性が描かれています。ミステリー小説では、探偵と助手の関係性は探偵が上で助手が下、というのが定番ですが、この2人は対等に調査し、対等に意見を述べ合うのです。
事件を扱うなかで、百瀬はたとえ酷な真実でも正しく依頼人に伝えるべきだと主張し、一方の九十九は依頼人を悲しませないために優しい嘘を混ぜ、真実を一部隠そうとします。それぞれの優しさがぶつかり合うなかで、百瀬が九十九との関係性を壊さないよう懸命に奮闘する姿からは目が離せません。
今作のイラストの魅力は、黒髪おかっぱ頭で幼い見た目の百瀬が、童顔でありながらも真剣な表情を見せたり、九十九にとびきりの笑顔を向けたりするところにあります。そんな彼女が、やわらかな肌の質感とともにイラストとなっているのです。
また他のキャラクターも、女の子の泣き顔は美しく守ってあげたくなるように描かれ、幼い見た目の少女はより可愛らしく描かれていることで、小説の世界観をよりいっそう引き立てるものとなっています。
「僕は今から君の“未来”を奪う。そして“過去”の亡霊として君を縛る。この先、君は否応なしに戦いの運命に巻き込まれるだろう。いつか今日という日を恨むかもしれない。だけど世界を憎むな。……僕を恨め」(『フルブレイド・イグニッション1.星を継ぐ狗たち』より引用)
英雄ソルードと旅をしていた少年は、戦いのなかで致命傷を負ってしまいます。いまにも命のともしびが消えんとするとき、ソルードは決意するのです。自らの命をもって、少年を生かすことを。
- 著者
- GIRA
- 出版日
- 2015-01-22
『フルブレイド・イグニッション』はオーバーラップ文庫大賞「銀賞」を受賞したファンタジー小説です。ここでは、少年や中年男性が戦争を戦い抜いていく姿が描かれています。
主人公は戦場で育ち、平和な世界における常識を持たない少年、ソルード。彼はかつて英雄とされた男の名前を名乗っています。そんなソルードはある日、敵に襲われていた少女を救出するのです。
その少女こそ、星に愛される能力をもつ少女ノルンでした。彼女は世界を揺るがすほどの能力を持ちながら、その力をひた隠しにし、できるだけ普通に生きていきたいと望んでいます。
英雄の名と力を受け継いだソルードと、強すぎる力を持ってしまったノルンの、生きぬくための戦いが始まるのです。
今作のイラストの魅力は、ミニスカートから伸びるノルンの脚にあります。健康的かつ肉感的なその太腿にやさしく食い込む白いニ―ハイソックスや、すらりと伸びる膝下の描写は、脚にフェチシズムを持たない人でも思わず惹かれてしまうことでしょう。
ただ今作の魅力は、女性キャラクターのナイスバディな姿だけにとどまりません。中年の軍人男性のたくましさは、Nardackのイラストのなかでも飛びぬけているといえるでしょう。可愛い少女のイラストで有名なNardackの、新たな一面も見ることができる作品です。
「はぁ……ってか、もぉぉぉぉお! なんでこーなるんだよクソがぁあぁあぁぁぁぁ!」(『ブラパン!』より引用)
高校入学早々、カッとなってコンビニで不良をぶちのめして警察に補導され、やっとたどり着いた学校では食堂で絡んできた不良を殴り倒してしまった亜弓。
そんな自他ともに認める暴力少女である彼女は、方言交じりにロマンチックな言葉を吐く少年、剣と出会いました。
- 著者
- 笠原 曠野
- 出版日
- 2012-03-14
口が悪く態度も大きい、しかし態度と同じかそれ以上にみごとなおっぱいを持つ亜弓は、すぐに暴力をふるってしまうのをやめようと努力しています。『ブラパン!』は、そんな亜弓と、彼女をサポートする親友の乃莉、そしてことあるごとに亜弓を誉めたたえ愛の告白をしてくる剣を中心に進む、ドタバタ暴力コメディです。
今作に出てくる人々はみな「ブラカマン」という能力者であり、それぞれに異なった力を持っています。時間を行ったり来たりできるものや、偽のトラウマを相手に生じさせて行動不能に陥らせるものなど、さまざまです。
そんな世界で亜弓がブラカマンとしての能力に頼らず、メリケンサックをはめた手で不良をぶちのめしていく姿は、まさに快感ともいえるでしょう。『ブラパン!』は、正義とは何か、悪とは何かを解き明かしていく、異能力バイオレンス小説なのです。
イラストの魅力は、ナイスバディな亜弓を中心に、女子高生たちの入浴シーンがカラーで描かれるなど、小説の暴力性をイラストが緩和しているところにあります。ヤンキーバトルもののイラストは、血や青あざにまみれたものが多くなりがちですが、今作は鮮やかでコケティッシュなイラストで彩られているのです。
2巻ではカラーで亜弓のバニーガール姿やナース姿が登場するなど、イラストに対する読者の期待に全力で応える『ブラパン!』。爽快感あふれる内容からも目が離せません。
魅力的なキャラクターイラストを描き続けるNardack。イラストとあいまって広がる小説の世界観はどれも鮮やかなものです。イラストをきっかけに小説を手に取るのはライトノベルならではの楽しみ方でしょう。ぜひ読んでみてください。