「春はあけぼの……」で始まる、有名な古典文学作品『枕草子』。ここでは日本三大随筆のひとつである本作について、わかりやすく紹介していきます。
『枕草子』は、平安時代中期に中宮定子に仕えていた清少納言によって書かれた随筆です。『清少納言記』、『清少納言抄』などと呼ばれることもありました。
文章は平仮名を中心とした和文で、短編が多いことが特徴的です。センスある文章からは、作者の清少納言が非常に知的な女性であったことを感じることができます。
また、同じ頃に中宮彰子に仕えていた紫式部が『源氏物語』を執筆しており、宮中では何かと比較されることもあったようです。紫式部の書いた『源氏物語』が醸し出す「もののあはれ」に対して、清少納言の『枕草子』は「をかし」という心情を表現しています。
「これは素敵」、「こんなことは嫌だ」など、この時代の女性にしては珍しくはっきりと自分の考えを述べている清少納言。彼女の世界観は現代の私たちにも十分通じるものがあります。
『枕草子』は清少納言が自然について、宮中の出来事についてなど、さまざまな事柄に対して独自の鋭い視点で書き綴っている随筆です。
内容は大きく分けて3つの段に分かれています。その3つとは、「山は……」など、趣の深いものについて綴っている「類聚的章段(るいじょうてきしょうだん)」、宮中で仕えている時に起こった出来事を日記風に綴っている「日記的章段」、そして自然の様子や身の回りのことについて綴っている「随想的章段」があります。
たとえば、「春はあけぼの」でよく知られている第一段は「随想的章段」。「春は明け方が良い、少しずつ周囲が白くなってきて山並みが明るくなり、紫がかった雲がたなびいている様子は非常に良いものだ。」というように、四季折々の「良いと思うもの」について書かれています。
短くまとまった文章が多いので、古典文学作品のなかでは読みやすいものだといえるでしょう。
清少納言の類い稀な知性は、彼女の生まれ育った家庭環境が育んだものでした。
父親の清原元輔(きよはらのもとすけ)は有名な歌人であり、天皇の命を受けて『万葉集』の解読や『後撰和歌集』の編纂などをおこなっていた人物です。そして曽祖父は『古今和歌集』の代表的歌人、清原深養父(きよはらのふかやぶ)。このように、彼女は幼い頃から学問や文学が身近にあった環境で育ったようです。
父や曽祖父と同様に清少納言自身も歌を詠み、中古三十六歌仙、女房三十六歌仙のひとりに選ばれました。また、彼女の42首の歌が収められた『清少納言集』も作られています。
15歳頃、橘則光(たちばなののりみつ)のもとへ嫁いで男の子をもうけましたが、性格の不一致によって離婚。しかしその後すぐ、藤原棟世(ふじわらのむねよ)のもとへ嫁ぎ、女の子をもうけました。
清少納言の子どもたちは、のちにそれぞれ歌人と女流作家に。母親の歌人、作家の才能をしっかりと受け継いでいることがうかがえます。
結婚、離婚、再婚と波乱万丈な生活を送っていた彼女でしたが、27歳の頃に一条天皇の正妻である藤原定子(ふじわらのていし)の教育係を任されます。
ちなみに、一条天皇にはもう一人藤原彰子(ふじわらのしょうし)という正妻がいました。この、彰子に仕えていたのが『源氏物語』の作者である紫式部でした。同じような立場にいた清少納言と紫式部は、お互いのことを心のどこかで意識していたようです。
清少納言が紫式部について書き記しているものはありませんが、紫式部の夫である藤原宣孝(ふじわらののぶたか)のことを「場違いな派手な服を着ている」と『枕草子』に書いています。それにムッとしたのかどうかはわかりませんが、紫式部は『紫式部日記』で清少納言のことを「得意げに自慢の漢字を書いているけど、間違いもあって大したことがない、こういう人の将来はいいことがあるとは思えない」と、評しています。
お互いの立場や文学の才能など共通する部分が多い2人ですが、あまりお互いのことをよくは思っていなかったようです。
定子に仕えていた清少納言でしたが、宮中で藤原道長が力をつけはじめ、その権力争いに巻き込まれてしまいます。道長のスパイだと疑いをかけられた清少納言は、定子の側から離れることに。この頃、『枕草子』を書きはじめたといわれています。
その後、定子に呼び戻されて再び仕えることになった清少納言でしたが、難産で定子が亡くなってしまい、宮中を去ることになり、その後は夫の暮らす摂津国へ向かったそうです。
古文、現代語訳、そしてふりがな付きと、至れり尽くせりな一冊です。古典に苦手意識がある人も、本作ならきっと楽しく読めるでしょう。
- 著者
- 出版日
- 2001-07-01
有名な章段を抜き出しているので、これを読めばどういう作品なのか、概要を知ることができます。
また、本作が書かれた当時の生活様式などの図が載っているので、作品の時代背景をより理解しやすく古典初心者におすすめです。
書かれた背景を、今までとまったく違った視点から解説しています。
政治的に敵対していた当時の権力者の藤原道長は、なぜ彼女の作品を潰そうとしなかったのか?また、清少納言が本作に込めた戦略とは?……など、歴史好きにはたまらない『枕草子』の謎に迫った一冊です。
- 著者
- 山本淳子
- 出版日
- 2017-04-10
日々の出来事を軽やかに知性溢れる文章で書いた随筆。この有名な作品に、実は深い思いが込められていたことをご存知でしたか?
清少納言が支えていた定子。彼女は一条天皇の正妻でしたが、天皇にはもう一人正妻がいました。それが紫式部の仕えていた彰子です。彰子は絶大な権力を手にしていた藤原道長の娘でした。そのため、政治的な争いから定子は藤原道長からさまざまな嫌がらせを受けていたようです。
そんな定子のために清少納言が書いた本作。一体、この随筆のなかにどんな謎が隠されているのでしょうか?ぜひ、あなたの目で確かめてみてください。
清少納言を模するキャラクターが解説してくれる『枕草子』の漫画版です。気軽に楽しみながら読むことができるので、古典が苦手な人、どういった内容なのかあらすじを知りたい人などにぴったりです。
- 著者
- 面堂 かずき
- 出版日
- 2006-02-01
いきなり古典文学を読んでも、昔の言葉が分かりにくく、結局内容がよくわからない……という経験はありませんか?そんな人におすすめしたいのがこの「まんがで読む古典」シリーズ。清少納言が周りの人たちから「ナゴンちゃん」と呼ばれていて、親しみやすさを感じられるでしょう。
大人だけでなく、古典が苦手な学生にもぜひ読んでほしい一冊です。
こちらは原文のみ、現代語訳は付いていません。最初は難しいと感じるかもしれませんが、脚注や巻末に解説が載っています。それらを参考に、ぜひじっくり腰を据えて読んでみてください。
- 著者
- ["清少納言", "池田 亀鑑"]
- 出版日
- 1962-10-16
こちらは、『枕草子』の内容は大体分かっている、という方にぜひ挑戦してみてほしい本です。原文のみなので、現代語訳付きのものと比べるとやはり難しいと感じるでしょう。
しかし原文だからこそ、古典文学の素晴らしさや日本語の美しさを感じられるはずです。また、ひとつひとつの章段が短いので、空いた時間を利用して少しずつ読み進めることができます。
『枕草子』の原文から、平安時代の日常を感じてみてください。
いかがでしたか?身のまわりの出来事や感じたことを、歯切れよく知的な文章で綴っている『枕草子』は現代でいうとブログのようなもの。清少納言が現代に生きていたら、きっとSNSをうまく使いこなしてたはず!そんな彼女の才能溢れる文章が詰まった本作を、ぜひ読んでみてください。