5分でわかる源氏物語!紫式部が描く平安時代の貴族社会を解説

更新:2021.11.11

世界最古の長編小説とも言われる『源氏物語』。光源氏を主人公にして、作者の紫式部は何を描きたかったのでしょうか。ただの平安貴族の恋愛ストーリーだけではない、『源氏物語』を知るための本も合わせて紹介します。

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古典中の古典である長編小説『源氏物語』とは

『源氏物語』は平安時代中期の1008年頃に成立した長編小説。20ヶ国以上の言語に翻訳され、世界的にも高い評価を受けています。

作者は女性歌人で作家の紫式部で、『源氏物語』は彼女が遺した唯一の物語作品です。

およそ70年間におよぶ時代を描き、文字数はおよそ100万、タイトルのみの「雲隠」を含めて全54帖(巻)から成っています。(巻数については諸説あり)

登場人物は500人ほどで、彼らの心情に即した795首の和歌が詠まれており、全帖が紫式部による執筆ではないのではないかという説もあります。

これも諸説ありますが、3部構成と考えるのが一般的です。

 

  • 第1部:「桐壺」から「藤裏葉」まで。主人公光源氏の誕生と栄光を描いている。
     
  • 第2部:「若菜」から「幻」まで。光源氏の苦悩と老いを描いている。
     
  • 「雲隠」:タイトルのみで本文は無し。光源氏の死を示唆している。
     
  • 第3部:「匂兵部卿」から「夢浮橋」まで。光源氏の死後を描いている。
     

 

第3部の最後の10帖は宇治を舞台としており、「宇治十帖」とも呼ばれています。各帖は1帖完結の構成で、その集合体として長大な物語ができあがっているのです。

光源氏と女性の愛の物語を中心に、紫式部から見た貴族社会に関わる女性の苦労話、藤原時代の摂関政治などが描かれています。

平安時代の公家文化の遺産とも言うべきこの物語は、多くの現代語訳がされています。明治から大正時代にかけては与謝野晶子、昭和に入ってからは谷崎潤一郎など、著名な文豪も手がけました。

また現代語訳以外にも、現代風に書きかえられた小説やコミックなど、手に取りやすいものが増え、気軽に平安時代の貴族社会に触れることができますよ。

『源氏物語』のあらすじ

第1部は主人公光源氏の愛の物語です。桐壺帝の子である光源氏は、幼い時に亡くした母に似ている後宮である藤壺、すなわち父の後妻に恋焦がれ、愛してしまいます。

源氏と藤壺の間には子どもが生まれるのですが、その子は桐壺帝の子として育てられました。さらに彼は、年上の葵の上との結婚、空蝉(うつせみ)、夕顔、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)と恋をし、まさに愛の遍歴のストーリーとなっているのです。

源氏は自分の政敵であった右大臣の娘、朧月夜(おぼろづきよ)と関係を持ったことから京を追われ、須磨での生活を余儀なくされましたが、そこで明石の君と出会います。

しかし右大臣が死んだ後は京に戻り、藤壺との子どもが冷泉帝となったことで勢いを盛り返し、六条院で栄華ある生活を送ります。

第2部では一転、源氏の苦悩の世界です。時の朱雀院が娘の女三宮を源氏に預けたため、源氏の本妻の立場にあった紫の上が病に伏してしまいます。

さらに女三宮は青年貴族の柏木と恋仲になって子どもを産み、そのことを知ってしまった源氏は老いていく自分の、過去の過ちへの反省心にさいなまれることになるのです。病気だった最愛の紫の上が死ぬに至り、ついに彼は出家することを決心しました。

第3部は源氏の死後の話で、最後の10帖の舞台は宇治へと移ります。ここでは源氏の孫たちと、大君中君の姉妹など、彼らを取り巻く女性との関係と苦悩が、光源氏よろしく再び展開されます。  

長編ゆえに、数多くの人物が登場するのが『源氏物語』の特色です。多くの本には人間関係図が付いているので、それを利用しながら読み進めていくと分かりやすいでしょう。

『源氏物語』の作者、紫式部について

平安時代中期の物語作者、歌人であり、『源氏物語』のほかに『紫式部日記』も代表作にあげられます。漢学者の藤原為時の娘として生まれ、父の知人で役人の藤原宣孝と結婚しますが、早くに死別。自らの寂しさをなぐさめるために『源氏物語』を書きはじめたと言われています。

その才能が認められて一条天皇の中宮(皇后と同格の后)である藤原彰子に仕えますが、女房(宮中の部屋に住む高身分の女官)の生活になじめなかったことが自身の書いた物語にも反映されており、その苦労をうかがい知ることができるでしょう。

彰子の父である藤原道長にも厚遇され、女房名を「藤(とう)式部」と名乗りました。後世に、登場人物のひとり「紫の上」にちなんで「紫式部」と呼ばれるようになったと考えられています。

一条天皇や中宮彰子、そして藤原道長も読んだとされる『源氏物語』。当時の天皇や貴族にまで人気があったのは、ストーリー性に富み、現実の人間関係に近いリアリズムとしての物語を描いた彼女の作家としての実力と言ってもいいでしょう。

ビギナーズ向けの『源氏物語』入門書

本書は「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」シリーズのうちの一冊。『源氏物語』全54帖について、あらすじを最初に示し、次に抜粋した場面の通釈(意訳と説明)および原文を総ルビ付きで配し、最後に寸評を付け加えた構成になっています。

著者
出版日
2001-11-01

注釈書やいわゆる現代語訳書ではなく、それらを読むための前座のような案内書という肩書きがピッタリの内容です。各帖のあらすじの前に帖名(巻名)の由来、主要登場人物とその年齢が示されていることも、非常に重要な導入の役割を果たしています。

コラムとしての用語解説や図版が随所に加わっているのも親切で、付録の『源氏物語』や紫式部に関する関係系図や年表も役に立ちます。

『源氏物語』の流れをつかむための、文字どおりビギナーズ向けとしては最良の入門書でしょう。

大人も役立つ!漫画版『源氏物語』

本書は「学研まんが日本の古典」シリーズのうち一冊で、文字どおり漫画化された『源氏物語』です。内容を補足するコラム記事も掲載されているため、『源氏物語』の世界を知り、理解を深めるのに役立っています。

著者
出版日
2014-03-14

 

イラストの美しさと字の大きさが、小学生でも飽きずに読ませる大きな力になっています。また各章の最初には人物関係図が示されているため、人間関係が頭の中で整理できない時も、途中で確認しながら読むことができるのです。
 

最後の「宇治十帖」の部分は記述がありませんが、漫画といえども『源氏物語』の大筋のストーリーを理解するための入門書としては、大人でも十分に役立つでしょう。

 

4コマ漫画風ですらすら読める

異色の『源氏物語』ともいえる本書は、全54帖を基本的に4コマ漫画見開き2ページ分の8コマで描く構成になっています。

著者
小泉 吉宏
出版日

光源氏を「まろ」と称して、栗(マロン)の形の顔を持つキャラクターで描くという作者の発想がとてもユニーク。引き込まれるように読み進めてしまうのではないでしょうか。

内容は漫画だけでなく、図版を豊富に使った人物紹介、人間関係図、官位表などを含む解説が加わっています。漫画の欄外に記された源氏の年齢や、随所に挿入された大きな字の和歌(現代語訳付き)も本書の特色のひとつです。

これらの内容がオールカラー版というところも、読者にとっては魅力的でしょう。大掴みではあっても、作者の言うとおりこれ一冊で『源氏物語』を全部読んだ気分になれそうです。

平安人の暮らしぶりを伝える『源氏物語』の解説書

本書は『源氏物語』全54帖を、1帖ごとにキャッチコピーを付け、あらすじと解説の2部構成でまとめています。現代語訳や原文は示されておらず、解説書という位置づけになる本です。

著者
山本淳子
出版日
2014-06-10

帖ごとの解説ではさまざまな話題が取りあげられ、平安人の暮らしぶりを伝えてくれます。見出しの言葉からそれらを拾いあげてみると、

「後宮における天皇、きさきたちの愛し方」
「平安京ミステリーゾーン」
「平安社会は非・学歴主義」
「平安の政治と姫君の入内」
「病を招く、平安ストレス社会」
「平安の不動産、売買と相続」
「平安式、天下取りの方法」(『平安人の心で「源氏物語」を読む』から引用)

などがあげられ、これらの言葉は平安時代の貴族の愛と性、世継ぎ、出世、そしてそれらが政治と結びついていることを語ってくれます。さらに、源氏を取り巻く女性たちも含めて、一見優雅に見える平安貴族の生活にも苦悩の世界があることも教えてくれます。

「平安人の世界を様々な角度からとらえ、そこに読者をいざなうことを目指した。」(『平安人の心で「源氏物語」を読む』から引用)

という作者の言葉を体現している内容です。

現代小説感覚で読む『源氏物語』

本書の表紙には、スマホやタブレットで『源氏物語』を読んでいる姫君や女房が描かれています。

平安人にも人気を博したこの長編小説は、1000年の年月を経て現代にも読み続けられる名作ですが、この絵はまさにその特色を示しているように思われます。

著者
阿刀田 高
出版日
2015-11-28

著名な現代作家である作者が、『源氏物語』全54帖を現代小説に書き換えたものです。原文や現代語訳は記述されていませんが、作者が原文を読みこなして十分に内容を吟味し、紫式部や登場人物の心情をとらえているので、別の物語に大きくアレンジされたわけではありません。

作者の斬新な視点が取り入れられ、随所に挿入された一文コメントには、読者もうなずきながら読んでしまうでしょう。現代小説感覚で読める『源氏物語』です。

『源氏物語』は長大な物語です。現代語訳でも全文を読みとおす人は少ないと言われていますが、今回ご紹介した本はあらすじや解説で構成された入門書が中心です。これらを読んだうえで、現代語訳や原文でじっくり味わっていただければと思います。

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