ドラマ化された『校閲ガール』は多くの共感を呼びました。しかし、宮木あや子の魅力的な物語はそれだけではありません。さまざまな形で生きる女性が、それぞれの世界での悩みにぶつかる物語は、読む人の心を捉えて離さないこと請け合いです。
宮木あや子は1976年生まれ、神奈川県出身の小説家です。幼い頃から小説家を志し、2006年に『花魁道中』でR-18文学賞大賞を受賞してデビューします。
彼女の作品は本人いわく、A面とB面があるそう。細やかで心にしっとりと沁みてくるようなA面、女性の本音を赤裸々につづったコミカルなB面だそうです。
正反対の両者ですが、どちらにも共通しているのが「リアル」であるということ。時には艶かしく、時には痛快に笑えるリアリティがそこにはあります。
今回紹介する5冊はそんな両者のおすすめ作品をバランスよくご紹介させて頂きます。あなたの好みは宮木あや子のA面、B面どちらでしょうか?
夢はファッション誌の編集者。倍率も高く難関と言われた出版社に、とんでもない苦労の末入社した主人公・河野悦子。しかし配属されたのは、想像と違う地味な校閲部……
もともと文芸は苦手だけど、「ファッション誌の世界にいってやる」と言わんばかりの根性で、入社2年目の日々を原稿に向かって過ごす。そんな主人公を取り巻くトラブルや事件の数々が、現実の仕事を思い起こさせます。
- 著者
- 宮木 あや子
- 出版日
- 2016-08-25
自分に向いている仕事って何だろう。今やっていることは何の役に立つのだろう。本当に自分のやりたいことに行けつけるのだろうか。
毎日働く上で、ついついマイナスな方向に考えてしまうことってありませんか?そんな後ろ向きになってしまう気持ちを、この作品は強く前に押し出してくれます。主人公のパワフルさを見ているだけで、日々のやるせなさを吹き飛ばしてくれますよ。
読んで元気になる、明日に向かう女性のワーキングストーリーです。
29歳の後藤は、今でも外資系サポートセンターの派遣OLとして働いています。
夢なんかない。自分が何者かなんて分からなくて良い。大学時代の友人と飲み屋でぶっちゃけ話をする毎日が幸せなんだ。怒ったり悲しんだり、私なりに一生懸命生きているのだから、わざわざつまらないことで悩む必要なんかない。
- 著者
- 宮木 あや子
- 出版日
- 2014-10-23
どうしたって、仕事をしている中で甘えが出てくる年齢です。
それ以外にも、結婚するだとか、昇進するだとか、夢を叶えたいだとか、考えるべきことは尽きません。ですが、そういった欲や願望が何一つなく、何となく、まあ良いかと日々を過ごしてしまっていませんか?
何となくで生きられることを、幸せと取るか不幸と取るかはその人次第です。が、周りを見渡すと、自分より上手く生きている人たちが目についたりします。そんなとき、不意に物悲しくなったりしてしまうこともあるでしょう。
目標はあるのにだらだらと過ごしている方や、気張りすぎて働いている人に是非読んでもらいたい、
仕事がのってきている女性のリアルな姿に共感できる、働くアラサーストーリーです。
資産家の家庭に生まれた女の子だけが入学できる特別な全寮制の女子大。そこでは衣食住は完備されていて、好きなだけ手に入れられる。しかし、外部からの情報は入らず、自由に外には出られない。そこはまさに閉鎖的な空間。そんな孤島に、4人の少女が暮らしている。それぞれにあるのは、後ろ暗い背景と孤独感。4人は同じ匂いを感じ、惹かれ合う。その中で起こる嫉妬と執着のせいで、4人は狂っていく……
- 著者
- 宮木 あや子
- 出版日
- 2011-02-18
読めば読むほど、物語へ移入しようとすればするほど、少女たちの気持ちが分からなくなっていきます。
籠の中の鳥が飛び立てず、決まった顔ぶれとだけ触れ合う日々を過ごしている様子は、あまりにも退屈そうです。ですが、その世界しか知らない4人にとっては、その中だけが自分のいても良い場所であり、唯一の居場所でもあります。
いかに退屈で、いかに危なかしげか。見ていてひやひやするほど、儚い。世界がこの4人で構成されているような錯覚を起こすこと間違いなしです。
大人の女性に向けた、少女時代を思い起こさせる物語です。
「お葬式のご用命は、真心と信頼の旅立ち・セレモニー黒真珠へ」。そんな謳い文句のおかげで、お葬式の光景がありありと目に浮かびませんか?
町の葬儀屋である、「セレモニー黒真珠」。しっかり者で働き者のアラサーである笹島と、銀縁眼鏡をかけて喪服を着こなす木崎、何か怪しいところのある派遣で新人の妹尾という、異色の3人。
- 著者
- 宮木 あや子
- 出版日
- 2011-10-22
彼らが行うのは、死人との悲しいお別れをそっと見守ってあげること。生きているうちに言っておきたかったこと、してあげたかったことが遺族や葬儀に参列している人の口から出るのを、そばにいて見ていてあげることです。
お葬式に対しての思い入れがある、3人の登場人物。人が亡くなるということを、3人それぞれの視点から描き出されます。
故人への気持ちが良いものであれ悪いものであれ、それで最期なのだと考えると、せっかくならキレイに見送ってあげたい。個性的な葬儀屋ですが、人が死ぬということを考えさせられ、こんな見送られ方をしたいと思うような、心温まる作品です。
愛しているの一言が、どうしても伝えられないような恋を、したことがありますか?
遊女は男に抱かれることが仕事。仕事だから、何も感じない。誰かに惚れるなんて、まっぴらごめんだ。そう思っていたはずの遊女たちが、ふとしたきっかけで人に恋をする。
- 著者
- 斉木久美子
- 出版日
しかし、彼女たちを待っているのは、愛する人の前で別の客に抱かれること。初見世の夜を違う男の腕な中に収まること。自分の思いとは裏腹な、現実という残酷な世界。実の弟に禁断の恋をしたり、自分の姉女郎に欲情したりする遊女もいるが、変形した愛も、もちろん認められない。
誰かを愛しても、その人のものにはなれない。自分のものにもできない。それが、その仕事をする女の宿命だとしたら、一体どうしたら良いのでしょう。
男たちに夢を見せることが遊女としての生き甲斐。それ以上に望むなんて何もない……様々な理由から遊女になった女性たちの、プライドと淡い恋心とのせめぎ合いは圧巻です。
江戸末期の遊郭・新吉原での、悲しい宿命を背負った遊女の切ない恋を描いた、官能かつ純愛の物語です。
いかがでしたか?
校閲ガールだけでなく、宮木あや子の作品には魅力的な登場人物がたくさん出てきます。自分の今の気持ちに、どんな場面にいる主人公があてはまるのだろうか、そんなことを考えながら作品を選んでみても良いかもしれませんね。
今回ご紹介した5作品、是非読んでみてください!