30歳フリーター童貞の真人が池で出会ったのは、人間になりたいと願う美しい女性の人魚・サンゴ。願いを叶えて人間となったサンゴですが、女性にはないはずのモノが足の間にあり……BL?TS?な2人の恋の物語を、ネタバレを含めて紹介していきます!
美しい人魚姫が恋をするため人間になる……と聞けば、童話にもなっているありふれた『人魚姫』の物語ですが、本作では、なぜか人魚が男性へと変化してしまいます。
そんな彼女(?)と一緒に暮らすことになったのは、冴えない30歳の童貞……。
美しい人魚だった姿を知っているからこそ、男性になった人間の姿もよけいに可愛く見えてしまうという、ボーイズラブ?性転換?な『人魚の王子さま』について、魅力や見どころを全4巻分紹介していきます。
- 著者
- 和深ゆあな
- 出版日
- 2014-06-20
30歳フリーターで童貞の真人は、人間になって恋がしたいという美しい女性の人魚・サンゴに出会いました。真人の1年分の人生と引き換えに、彼女は人間になりましたが、なぜかその姿は男です。
サンゴと同居生活を送ることになった真人は、男性になっても可愛い彼女に、内心ドキドキ。
一方のサンゴは、人間になるきっかけとなった男性と偶然出会い……。2人の想いとさまざまな恋心が交錯し、本当の「愛」を見つけていきます。
人間になったサンゴは、真人と一緒に住むことになります。しかし人間界の常識を知らない彼女との暮らしは大変で、突然恋人を紹介してきたり、勝手にお店のものを食べてしまったり。
自由なサンゴに振り回される真人は、いくつか約束を取り付けますが、うっかり外で人魚の姿になってしまい……。
- 著者
- 和深ゆあな
- 出版日
- 2014-06-20
男も女も下半身が尾ひれな人魚にとって、人間の体の構造はよくわからないもの。そのためサンゴは、股間にあるモノを「3本目の足」と呼び、とても大切にします。せっかく手に入れた「3本目の足」を出したいうえに、もともと服を着る概念のないサンゴは、下半身を露出することも……。
人魚のときは胸を隠すものをつけてしませんし、人間の姿であれ人魚の姿であれ、目のやり場に困ってしまいますね。
時たま戻ってしまう人魚の姿のときは、やはり女性らしく愛らしい姿に心奪われ、人間になったときは彼女がもともと持っている潔さや可愛らしさが男性的に見えて、ドキドキさせられてしまうのです。
同一人物だとわかっていてもそれぞれに魅力があり、TSとして女性のサンゴと真人を見守ればいいのか、BLとして男性のサンゴと真人を見守ればいいのか、戸惑ってしまいます。
2巻では、サンゴが人間になって恋がしたい、と思うきっかけになった男性について描かれます。話を聞いた真人は、サンゴがその男性に恋をしていたのではないかと思いますが、口には出しません。
その後、サンゴに会いにきた妹を海に還すべく訪れた海岸で、偶然その男性と出会いました。心躍らせるサンゴの姿を見て、真人は自分の気持ちに気づくのです。
- 著者
- 和深ゆあな
- 出版日
- 2014-10-20
サンゴの妹の登場によって、サンゴも真人もお互いを信頼しあっていることがわかるようになります。また妹の視点から彼らを見ても、ただの友人、というには深い繋がりがあるように思えます。
もしかしてサンゴは真人のことを好きになっているのではないか……読者がそう疑いはじめたときに出てくるのが、例の男性です。サンゴは彼のこととなると感情を抑えられない様子で、頭の中をいっぱいにしているようでした。
その姿を見て、真人は自分が抱いている想いに気づきます。
口に出して自分の恋を認めることができるサンゴと、それができない真人。この対比はとても切ないものですが、真人の優しさやサンゴへの思いやりがうかがえる、目が離せない場面です。
3巻では、真人のことを好きな女性・玲奈が現れます。玲奈といい雰囲気の真人にモヤモヤした気持ちを抱えるサンゴ。複雑な状態のまま、彼女は入院したという男性の元へ向かいました。
- 著者
- 和深ゆあな
- 出版日
- 2015-04-20
玲奈と真人の関係、サンゴと男性の関係、真人とサンゴの想い……と見どころが多い巻ではありますが、特筆すべきはやはり、サンゴが知り合いの女性に指摘された「男同士の恋愛はおかしい」というところではないでしょうか。
BL作品ではたびたび登場人物がぶち当たる「同性愛」の壁ですが、そもそも「性別」という概念が薄いサンゴは、ここで初めて自分が「男性」であることを知りました。それと同時に、人間界では一般的に男性同士での恋愛が難しいこと、そして気持ち悪がられてしまうこともあると、知ることになるのです。
女性なら良かった、と泣くサンゴに、玲奈は自分の洋服を着せてあげます。それでも体は男のままだと言うサンゴに対し、真人はこう声をかけました。
「結局姿がどうであれ お前はお前って事じゃないか」 (『人魚の王子さま』3巻 より引用)
人魚の姿も人間の姿も知っていて、サンゴのことを好きだと自覚している真人のこの言葉からは、サンゴを想う気持ちが伝わってきます。真人に背中を押されて入院している男性の見舞いに行ったサンゴは、そこで自分の気持ちを伝えるのです。
これまで知らなかった「性別」と「恋」に、サンゴがどう向き直っていくのか、注目です。
紆余曲折ありましたが、4巻でサンゴと真人は両想いになります。しかしサンゴには人間としてのタイムリミットが迫っており、海に戻ることを決意しました。
真人とサンゴは、それぞれの想いを抱え、どういった結末を選ぶのでしょうか……。
- 著者
- 和深ゆあな
- 出版日
- 2015-11-20
サンゴと真人は恋人として過ごすようになります。やっと想いの通じ合った2人にホッとしたのも束の間、海にデートへ行った帰り道、サンゴが倒れてしまうのです。
サンゴは真人と付き合ってから、足に違和感を抱いていました。
これまでは自分の思うままにはっきりとモノを言い、正直に生きていたサンゴが、体の違和感を真人に伝えずに隠していたことに成長を感じます。大切な人に心配をかけたくないという、人間らしい気持ちが育っていたのでしょうか。
2人の恋を邪魔する、人間のときは同性、人魚のときは異種族という壁。どうすることもできない現実に向き合いつつも、好きな相手のために自分のすべてを投げ打つ彼ら健気さがもどかしく、読者を切ない気持ちにさせます。
2人の関係は続くのか、サンゴの性別はどうなってしまうのか、最後までハラハラドキドキが止まらない展開に目が離せません。
異種族恋愛なのか、BLなのか、TSなのか……ジャンルに困る作品ではありますが、性別や種族はどうであれ、誰かを愛しく思う気持ちに変わりはありません。笑いあり、涙あり、そして驚きありの作品です。