大海原を舞台に波乱の展開で読者を魅了する海洋冒険ファンタジー『海のクレイドル』。本作の見どころを、全巻ネタバレ紹介していきます。
幼子と少女を乗せて大海原へとくり出す一隻の船にまつわる物語を描いた、海洋ロマン冒険ファンタジー『海のクレイドル』。
産業革命真っただ中のイギリスを舞台にして、謎の存在「クレイドル」と、それに関わる登場人物たちの思惑と陰謀が交差していきます。
今回はそんな本作の、全巻の見どころをご紹介していきましょう。
- 著者
- 永野 明
- 出版日
- 2014-02-08
貧民街で暮らしていた少女・モニカは、とある屋敷の主人に拾われ、彼の息子の子守りを任されていました。
しかしある日、主人が航海中に亡くなってしまったことがきっかけで、屋敷から追放され、貧民街に逆戻りしてしまいます。
失意のなか、ゴミを拾って小銭を手に入れるような暮らしをしていた彼女が、1年後に主人の墓で目にしたものは、空の棺でした。
もしかしたら主人は生きているかもしれない……そう考えたモニカは、1年前に子守りをしていた幼いエヴァンを連れて、ある蒸気船へと乗り込むことになります。
主人失踪の謎を紐解く言葉は、「クレイドル」。彼女の航海は、この言葉を中心に波乱の展開を見せていくのです。
貧民街で虐げられながら暮らす少女モニカが、決意を胸に世界へと漕ぎ出す1巻です。
モニカは恩人である主人から、「エヴァンのそばにいて、彼を守ってほしい」と言われていました。その約束を守るために奔走する彼女の姿は、ただただ健気のひと言です。
モニカは主人の墓の傍らに寝かされていた幼いエヴァンを抱き上げ、エヴァンを取り戻そうとする追手から逃げようと必死に走ります。そんな彼女が自身の髪の毛を犠牲にしながらも一隻の蒸気船「レディ・オブ・ザ・シー」にたどり着くところから、物語が動きはじめるのです。
乗船の際に、モニカは不愛想な義肢の少年ルイスと出会うのですが、乗船して間もなくレディ・オブ・ザ・シーの機関トラブルによってあわや大惨事といった展開に。しかし、ここで一緒に乗船したルイスが素晴らしい機転で船の機関を安定させるという活躍を見せ、なんとか事態は収束します。そして船はいよいよモニカとエヴァン、そしてルイスという新しい乗員を迎え、大海原へと繰り出していくのでした。
- 著者
- 永野 明
- 出版日
- 2014-02-08
死んだと思っていた主人を追い求めるモニカの旅立ちから、乗船して間もない船の機関を修復するルイスの活躍シーンと、1巻から盛りだくさんな内容となっています。本作はこのように物語の冒頭からテンポのよい展開が続き、登場人物達を通して読者にとっても息をつかせる間もないハラハラしたストーリーが続いていくのです。
それが決して息苦しいわけではなく、次はどんな展開が待ち受けているのかという期待値になっているところが、本作の魅力であるといえるでしょう。
そんな本作の始まりを描く1巻の見所は、モニカ達を乗せたレディ・オブ・ザ・シーが海へと漕ぎ出す場面。レディ・オブ・ザ・シーの機関トラブルを乗り越えたことで、密航者という立場でありながら特別に乗船を許可されたモニカ達ですが、船長の指示により船の甲板に出る事になります。そこでモニカとエヴァンが見た日差しとどこまでも続く水平線は、背景の描写も相まって、本作の広大で美しい世界を舞台に物語の始まりを予感させてくれ、読者のワクワク感を最大限に刺激してくれることでしょう。
追手を振り切って乗船することに成功し、ようやく一息……とはいかない2巻です。
ようやく船に乗り込んだモニカとエヴァンでしたが、そこで待っていたのは海の上での過酷な生活と、身分を隠し続けることで気の休まらない日々、果ては嵐に遭遇しあわや転覆かという、1巻から引き続きのトラブル満載の展開となっています。
船に乗り込んだ直後から機関トラブルに見舞われるなど、順風満帆とはいかないレディ・オブ・ザ・シーの船旅ですが、2巻では船員一人一人についての設定も明らかになっていきます。また船上の生活についての描写も随所に見られ、船上での食事のまずさに驚くエヴァンや、新顔なはずのルイスが機関士として他の船員に怒号を飛ばすなど、船上の慌ただしさがコミカルに描かれているのです。
船上で起こる問題を乗り越えていく中で、モニカ達と船員達の絆が深まっていく様子も描かれており、キャラクター同士の掛け合いが充実してくる巻でもあります。そして謎の乗客「ミス・H(ミス・エイチ)」という人物が登場するのですが、意味深な発言や振る舞いにより、読者にも不穏な印象を与えるキャラクターです。
また、モニカが恩人である主人とどのようにして出会ったかという回想もあり、モニカがなぜ主人との約束を守ろうと必死になっているのかや、エヴァンとの出会いについても語られることになります。モニカという人物の生い立ちを知る事が出来る場面でもありますので、より彼女に感情移入しやすくなる描写といえるのではないでしょうか。
- 著者
- 永野 明
- 出版日
- 2014-10-09
2巻の見所は、船が嵐に見舞われた際の一幕でしょう。
これまで身分を隠す都合上、自分の事をルイスの弟であると名乗ってあまり矢面に立たなかったモニカは、エヴァンの傍を離れられない事もあり船員としては足手まといとなってしまっていました。そんなモニカでしたが、船が嵐に見舞われた際には船員達と力を合わせ、嵐を乗り切るために力を尽くします。
心はたくましいとはいえ、体力的には少女であるモニカが、それでも自分の身を賭して必死に危機を乗り越えようとする姿は、読者の胸を打つことでしょう。
そして物語上でも、そんなモニカの姿を見てこれまでモニカ達の乗船に否定的だった船員達も徐々に打ち解けていくシーンは、乗船当時のギスギスした空気からの緩和を感じられて、感慨深く感じられます。
モニカ達を乗せたレディ・オブ・ザ・シーが、嵐を乗り越えていよいよアイルランドに到着するところから始まる3巻です。
3巻はいよいよ、本作の鍵を握る「クレイドル」について紐解かれることになります。これまで乗船していたミス・Hがクレイドルについて情報を握っているのですが、アイルランド到着と同時にミス・Hは姿をくらましてしまいました。
そしてそんなミス・Hを包囲するため、海軍がアイルランドに待ち受けており、レディ・オブ・ザ・シーは海軍に捕縛されてしまいます。その過程でルイスはミス・Hがクレイドルについて何かを知っているという事を知り、行方を突き止めようと行動を開始するのでした。
また、一方ではモニカが航海士のニールと共にアイルランドの港で買い出しに出かけていたのですが、その最中に逃亡中のミス・Hと再会します。主人も関係していたクレイドルに関する情報を聞こうとミス・Hに協力するモニカでしたが、逃亡中に海軍に捕まってしまうのでした。
しかしルイス達仲間の活躍もあってなんとかミス・Hを連れて再度逃亡することに成功したモニカ達は、いよいよクレイドルを巡る冒険のクライマックスに向けた航海へと繰り出すことになります。
- 著者
- 永野 明
- 出版日
- 2015-08-08
いよいよ物語が大きく動き始めたことが感じられる3巻の見所は、ルイスの過去についてのエピソードでしょう。ルイスがクレイドルについて関心を示していた理由も明らかになるのですが、主人を通してクレイドルに関わろうとしていたモニカ達とは違い、ルイスにとってはクレイドルこそが重要な目的です。彼がなぜ優れた機関士としての技能を持っているのか、なぜクレイドルについて関わろうとするのかが、この回想を読むことでようやく明らかになります。
これまでモニカに対して協力はしていたものの、冷たい態度が多かったルイスについての描写が詳細になったことで、彼に対する共感が生まれやすくなっています。
そんな彼がクレイドルをとおしてとはいえ、モニカやエヴァンと同じ目標に向かう決意を新たにするシーンは、モニカ達との絆が確かに強まっていることを感じさせてくれる描写です。
ついに明らかになる物語の謎と、予想もできない怒涛の展開を見せて結末へと向かう4巻です。
本作はこれで最終巻となりますが、物語の登場人物たちのさらなる旅路を予感させる、ポジティブな印象のラストとなっています。モニカが追い続けていた主人であり、エヴァンの父親「エリック」の妻が、ルイスに船の機関について教えた「ソフィア」という女性であることが分かります。このソフィアという女性こそが、クレイドルそのものの誕生に関わるキーパーソンだったのです。
4巻では、なんと冒頭で死んだと思われていたエリックが登場し、クレイドルにまつわる一連の顛末が明らかになる怒涛の展開を見せます。そして、クレイドルについて陰謀を巡らせていたミス・Hの行いと狙いが明らかになり、物語は結末に向けて収束していくのです。
- 著者
- 永野 明
- 出版日
- 2016-10-08
3巻で明らかになったクレイドルの正体は、過去の事故で失われてしまった幻の造船技術の粋を結集して作られた鉄製の船でした。ルイスとソフィアは、そのクレイドル号の建設に携わっていたのです。
海軍から逃げおおせたミス・Hは、ルイスに対し事故の原因を作った海軍を倒すため、クレイドル号の再建に協力して欲しいと告げます。しかし、ミス・Hの狙いはクレイドルの技術をより高く評価されるものへと昇華させることで、そのためにルイスを利用しようと考えていたのでした。
ミス・Hの思惑に従い、クレイドルの造船場に到着するルイスですが、そこで知った本当のソフィアの遺志とは……そしてミス・Hとレディ・オブ・ザ・シーの面々に迫る海軍との戦いの行方は……人々の想いが絡み合うクレイドルに関わる物語の結末は、ぜひご自身の目でご確認下さい。
そしてクレイドルを巡る一連の事件もひと段落となり、モニカを含む船員達もそれぞれの旅路を歩み始めることとなります。
最終巻の見所は事件の解決に向けた怒涛の展開ももちろんですが、仲間達のその後の人生を予感させる5年後の描写についても読後の爽快感を感じさせてくれるため、本作を最終巻まで読んでみてよかったと思わせてくれることでしょう。キャラクター達についての描写は読者にいろいろと想像の余地を残す形となっているため、本作の世界はまだまだ続いていくのだと感じられるよい描写となっています。
海のように爽やかな読後感を味わうことが出来る作品『海のクレイドル』。冒険漫画が好きな方はぜひともチェックして頂きたい作品となっていますので、ご一読くださいね。