人間が魔人に支配される世界。亡くなったと思っていた兄ストラと再会したことで、ルドルフは魔人と戦う道を選びます。人間は平穏な生活を取り戻せるのでしょうか……。異形の魔人と豪快な魔法が見どころの『邪風のストラ』。是非この機会にチェックしてみてください。
物語の舞台は、人間が魔人に支配されてから10年が経った世界。工場で働いていたルドルフは、亡くなったはずの兄ストラと再会しました。
記憶を失くしている兄と行動をともにすることで、彼は自分の正体を知ることになるのです。
豪快な魔法と優しい人々、まっすぐ生きるルドルフの生きざまと兄弟愛が魅力の本作。この記事では、各巻の見どころを紹介していきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- 岩田 ナヲヤ
- 出版日
- 2014-06-09
魔人に対抗できる唯一の存在といわれているのが、魔法使いです。全滅したと思われていましたが、ただひとりストラという少年が一命をとり留め、魔人を倒すために暗躍していました。
彼が破壊しに訪れた魔人の工場では、弟のルドルフが働いています。ルドルフは魔法の使えない魔法使いでしたが、兄が記憶喪失の状態で魔人と戦っていることを知ると、その記憶を取り戻すため一緒に行動するようになるのです。
目的地に向かう道中で多くの人と関わり、魔人と相対することで、ルドルフは兄の現状を知り、自分の本当の姿を知ることになります。
魔人に支配された世界で、人間を奴隷のように使う魔人工場で働いていたルドルフ。ある日、魔人に唯一対抗できる魔法使いの生き残りであり、実の兄であるストラが工場にやってきました。
ルドルフは兄と行動をともにし、魔人退治の手助けをすることを決めるのです。
- 著者
- 岩田 ナヲヤ
- 出版日
- 2014-06-09
1巻の見どころは、なんといってもルドルフの優しさでしょう。
彼は同じ工場で働く幼い兄弟が、魔人から槍で殺されそうになっているところを助けます。2人をかばった代償として、自分より何倍も図体がでかい魔人にボコボコに殴られますが、その後兄弟には気にしないように声をかけるのです。
さらに、再び2人が魔人に殺されそうになると、未来ある子どもを死なせるわけにはいかないと、自らの身を投げうつことを決めますが、そこにストラが登場するのです。体を覆っていた鎧が剥がれ、顔が見えると、ルドルフはストラに駆け寄りました。
しかしストラは、彼のことを覚えていませんでした。魔人を倒す兵器として他の魔法使いの細胞を組み込まれ、実験台にされていたのです。
体もルドルフが最後に見た子どもままの姿で成長しておらず、唯一変わっていたのは、黒かった髪が白くなっていたことだけでした。
改造されて強力な魔法を使えるようになった兄を助けることはできないと、1度は違う道を歩むルドルフですが、工場で出会った幼い兄弟の言葉を聞き、自分も兄のそばで手助けをしようと決心するのです。
このシーンにはルドルフの優しさと兄を想う気持ちが詰まっていて、彼の人柄を知ることができます。自分が死ぬかもしれない状況で誰かに手を差し伸べたり、誰かを助けたいと思ったりできることは、ある意味特別な能力なのではないでしょうか。
その後も兄や、兄と一緒に旅をしている少女デビィが危険にさらされると、体を張って助けていきます。ルドルフは魔法が使えない自分自身に負い目があるようでしたが、誰かを助けるために行動できる力は時として魔法よりも素晴らしい力になるのです。
正義とはまた違う、自分の良心に従って動くルドルフの姿は、ひとりの人間として心奪われるものがあるでしょう。
魔人の第二工場まで行く道中、ルドルフとデビィは、魔人のフリをして生活する人間たち「アナグマ」に捕らえられてしまいました。さらに、別行動となってしまったストラを追いかけてきた魔人によって、アナグマの隠れ家が襲撃されます。
隠れ家は要塞になっていて、さまざまな仕掛けで魔人を倒そうとしますが、何をやっても太刀打ちできません。3人がやっと合流できた時には、ストラはすでに重症でした。
- 著者
- 岩田 ナヲヤ
- 出版日
- 2014-10-09
2巻の見どころは、アナグマの女頭領ベアードが最終的に下す決断です。
彼女は自分の仲間を守るために、自信のあった要塞が魔人に効かないことに気づいても、ひとり剣を持ち立ち向かっていきました。しかし人間の道具が魔人に致命傷を与えられるわけもなく、危機に陥ってしまいます。
あわや魔人に食べられそうになったとき、彼女を助けたのはルドルフでした。自分たちを襲い捕まえてきた人を助ける彼の優しさが、ここでも垣間見えます。
ルドルフは、ベアードが持っていったストラの能力を解放するための鍵を取り返すべく、彼女の元にやって来たのです。ストラこそが魔人を倒す希望だと必至に訴えますが、ベアードはその言葉を信じることができません。
ただ、自分を助けようとしてくれたルドルフを救おうと、再び剣を持ちました。すると魔人は彼を盾にし、攻撃ができないようにしてきます。そのうち、彼女の妹分であるべアッカも魔人に捕らえれてしまいました。
ルドルフかべアッカ、どちらかを殺せば他のみんなを助けるという魔人の言葉に、ベアードは迷います。殺すなら自分にしろ、と言うルドルフに剣を向けますが、その時ストラが血まみれの体を奮い立たせ、静止の声をかけました。
「みんなを守れるのは僕しかいない」(『邪風のストラ』2巻より引用)
ベアードは初めから、「魔法使い」には何も期待していないようでした。かつて魔人が攻めて来たとき、魔法使いのほとんどが殺されたからです。魔人に対抗できるとは言っても、必ずしも勝てるわけではないと、絶望していたのかもしれません。
しかし彼女は諦めませんでした。ルドルフも含め、「みんな」を助けるためにストラに賭けたのです。
誰かを守るために誰かを犠牲にするのではなく、絶対的な悪を倒してみんなを守る、そんなストラの考えに思うところがあったのかもしれません。理不尽なものに屈しないとする、人間の強い意志が感じられるシーンです。
重症を負っているストラは、力を解放しても魔人を倒せるほどのパワーが残っておらず、劣勢に立たされてしまいます。しかしそんなピンチを救ったのはベアードでした。
無事に魔人に勝利し、ベアードに「魔道書」を貰ったルドルフたちは、第二工場を目指して進みます。
「魔道書」に載っている万能薬を作るため、工場に行く前に薬草探しをする3人でしたが、彼らの前に手負いの魔人が現れました。
その魔人は、ルドルフたちが働いていた工場で見張りをしていたバークンという者。彼は薬草を見つける代わりに、第二工場のボス・クレイビーを殺してくれと頼んできたのです。
- 著者
- 岩田 ナヲヤ
- 出版日
- 2015-02-09
バークンの協力を得ることにした3人は、無事に薬草を見つけ万能薬を作り出します。しかしできたばかりのその薬を、バークンに奪われてしまいました。
万能薬を飲み、自らの傷を塞いだバークンでしたが、気づけば犬の姿へと変わっていました。
そこに2人の魔人がやって来ます。魔法を使って応戦するストラでしたが、相手と相性が悪く、再びピンチに陥ってしまいます。
そこで活躍したのがバークンです。相手を倒せるわけではありませんが、魔人のことをよく知っているうえ、工場の立地にも精通していたため、その場をやり過ごすことができました。
そして、2人の魔人をかわしたところで、ルドルフたちを工場の内部に案内します。
犬になったバークンの良いところは、鼻が利くところでもあります。大きな鼻で匂いをかぎ分け、魔人の来襲を感知することができるのです。魔人と協力関係を築くという新しい展開に、今までなかったドキドキ感を味わうことができるでしょう。
ルドルフたちはバークンが裏切ることも覚悟していますし、バークンにとっても彼らはいつでも切り捨てられるコマです。しかしお互いに目的がはっきりしている分、意外とこの3人と1匹の繋がりは強いように思えます。
また犬になったバークンによって、一気にコミカル感が増すのも特徴的。常に死ぬか生きるかの瀬戸際にいることは間違いないですが、少々お調子者な彼の一挙手一投足が、読者にホッとひと息つかせる安心感を放っています。
嵐の前の静けさかもしれませんが、バークンの登場で小休止できる3巻です。
バークンに導かれ第二工場に突入したルドルフたち。ストラの限界は近い状態でしたが、休む間も無くクレイビーが攻撃を仕掛けてきました。
そんなストラを守るように盾になったのが、デビィです。この時彼女は、これまでの事務的なやり取りではなく、ずっと抱えていた感情を初めてストラにぶつけました。
怒ったストラはクレイビーに猛攻を仕掛けます。さらに、デビィからストラの力を解放する最後の鍵を預かったルドルフは、手負いの彼女を抱えてストラの後を追いかけました。
そして最終手段の鍵で解錠すると、ストラが魔人のような姿に変わっていきます。彼の体には、魔法使いだけでなく、魔人の細胞も入っていたのです。
- 著者
- 岩田 ナヲヤ
- 出版日
- 2015-03-09
力を解放しクレイビーを倒すことができたストラですが、思考と心がどんどん魔人の細胞に支配され、手当たりしだい周りを攻撃するようになりました。
彼の心の根本には「ルドルフを守る」という思いが詰まっていますが、ルドルフやデビィを冷静に捉えることができなくなっていたのです。
それでもルドルフは諦めません。ストラがデビィを手にかけ絶望的な状況になっても、何とかしようと考えます。
すると、そんな彼の想いに呼応するかのように、ベアードから貰った「魔道書」が反応し、ストラの動きを止めました。
「魔道書」から姿を現したベアードは、魔法が使えないとされてきたたルドルフは、力が強すぎたために力を封じられていたことを告げます。ルドルフにかけられた封印を解くと言いますが、同時に強大すぎる魔力に飲み込まれて死ぬかもしれないということも伝えてきました。
しかし、ルドルフの心は決まっていました。封印を解き、今度こそ自分が兄を救うことを決めるのです。
記憶のないストラが本能的にルドルフを守ろうとしたのは、ルドルフの力が強すぎて封じられていたことが理由のようでした。彼はルドルフが封印を解く前にも、逃げろと伝えてきます。
ストラにとってルドルフはずっと守るべき弟で、ルドルフにとってストラはずっと超えられない憧れの兄でした。互いの想いをぶつけるように2人。そこには、離れていた期間があっても決して変わらない兄弟愛がありました。
魔法を使った戦いは一段と激しくなり、ストラは正気に戻ることができるのか、ルドルフは自分の力をコントロールすることができるのか、そしてデビィは助かるのか、バークンがどうなるのか……最終回は目の離せない展開が続きます。
また、ルドルフとバークンの間にも絆のようなものが見えてくるので、自然と協力しあうこのコンビにも注目してみてください。
巻数は少ないですが、そのなかに多くのキャラクターの想いや魔法アクションが詰まっていて、読み応えがある作品です。