魅力的なキャラクターを登場させ、読みやすい文章で、読者をあっという間に物語の世界へ引き込んでくれる作家、金城一紀。ここでは、そんな金城作品が好きな方がきっと楽しめる、おすすめの小説をご紹介します。
『MISSING』は、本多孝好による短編集。収録されている作品は、「眠りの海」「祈火」「蝉の証」「瑠璃」「彼の棲む場所」の5つです。
「瑠璃」の主人公「僕」は、小学校6年生。音大に通う姉が、この夏海外で演奏することが決まり、家族はそれについて行ってしまいました。「僕」は、学校の終業式が終わっていないという理由で、1人留守番することになり、家族が留守の間、4つ年上のいとこ、ルコが家に来てくれることになります。
ルコは明るく破天荒で、とにかく魅力的な女の子。人見知りな「僕」は、なぜか幼い頃からルコには心を許していました。ところがそんなルコも、成長して大人になるにしたがい、様々な悩みを抱えるようになっていくのです。
なんとも切ない物語なのですが、作品全体には清んだ透明感が漂います。登場人物の会話もテンポが良くて読みやすく、発せられる言葉のひとつひとつが、スッと心に沁み渡るように感じます。全てが「僕」の視点から語られているため、ルコに関して描かれていない部分も多く、それが効果的に想像力を刺激してくれます。
- 著者
- 本多 孝好
- 出版日
- 2013-02-23
「瑠璃」を含め、5つの短編どれもが、人の死をテーマにしています。悲しみや、時には恐ろしさも感じる中で、人の心というものについて考えさせられ、読後静かな余韻に浸ることのできる作品です。ちょっとした謎も提示されており、つい引き込まれてしまうことでしょう。短編なので空き時間に読むのにもおすすめの1冊です。
吉川英治文学新人賞を受賞した『パイロットフィッシュ』は、現在と過去を巡りながら、人との出会いと別れを描く感動ストーリーです。
「人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない」という印象的な一文で始まります。
主人公の山崎隆二は、午前2時にかかってきた電話に気分を滅入らせながらも、渋々受話器を取りました。「わかる?」という相手の声を聞き、山崎は一瞬でそれが、19年前に別れた恋人、由希子の声だとわかります。たわいない会話を交わしながら、山崎は由希子と過ごした3年間の日々を回想するのでした。
- 著者
- 大崎 善生
- 出版日
- 2004-03-25
主人公がアダルト雑誌の編集者をしていることもあり、性に関する描写も多く見られる本作ですが、作品全体には穏やかで、それでいてどこか哀しげな雰囲気が流れています。スマートで魅力的な文体も相まって、いやらしさを感じることなく読み進めていけるでしょう。
それまで忘れていた記憶が、あることをきっかけにふと鮮明に蘇るという経験は、誰にでもあるものではないでしょうか。人は記憶とともに生きているのであり、そこから逃れることはできないという言葉に深く共感してしまう作品です。
こちらは乙一の短編集です。切なく儚い物語から、ユーモアを感じる物語まで、様々な作品が収録されています。
表題作「失はれる物語」の主人公「僕」は、妻と幼い娘と共に、妻の実家で暮らしていました。ところが、ある日交通事故に遭ってしまい、目覚めると右腕の皮膚の感覚以外の、すべての五感を失っていたのです。
病院のベッドらしき場所で、常に暗闇の中という状況でしたが、妻が優しい手つきで自分の右腕に触れているのはわかりました。右手の人差し指だけは動かすことができたため、妻が「僕」の手のひらに指で言葉を書き、「僕」が人差し指の動きでそれに応えるという方法で、2人はコミュニケーションを取っていきます。
特殊な状況に置かれた主人公の心理描写をとてもリアルに感じてしまい、感情移入せずにはいられなくなる作品です。妻を想ってした主人公の選択には、胸が締めつけられるような切なさを感じてしまい、なんとも言えない読後感を体験できるでしょう。
- 著者
- 乙一
- 出版日
乙一といえば、ホラーテイストの作品も大変定評のある作家ですが、本作では思わず涙してしまうような、哀愁と温かさの漂う物語を楽しむことができます。どの作品も深く心に響き、著者独特の世界観を堪能できる短編集なので、興味のある方はぜひ手に取ってみてください。
芸大に通う主人公の二見遭一は、憧れの女性である画素(かくす)から、大学の自主制作映画の役者としてスカウトを受けました。この映画で監督を務めるのは、「天才」と言われている芸大の生徒、最原最早。二見は、面接の際に画素から手渡された、最原の絵コンテに魅せられ、夢中になって読み耽ってしまいます。
彼女の天才ぶりを目の当たりにした二見は、映画への出演を承諾し、撮影がスタートすることとなりました。撮影は順調に進んでいましたが、二見は次第に、最早に対してある疑念を抱くようになっていくのです。
- 著者
- 野崎 まど
- 出版日
- 2009-12-16
ストーリーは青春物語から突如様相を変え、緊張感走るミステリーへと変貌を遂げていきます。二転三転していく展開から目が離せなくなり、読む手が止まらなくなること必至の驚きを味わえることでしょう。
なんと言っても魅力的なのは、美少女で天才のヒロイン、最原最早。魔法かと思うほど、人を虜にしてしまう映像を作り出し、バイオリンの腕もプロ並みの彼女によって、物語の世界観は劇的に変化していきます。
青春や恋愛、コミカルな会話、予想外のどんでん返しと、様々な要素が楽しむことができ、普段本を読まない方にもおすすめできる1冊となっています。
本作、舞城王太郎の『好き好き大好き超愛してる。』は、芥川賞候補にも選出されるなど、大変話題になった作品です。7つの章で構成されており、どの章にも女性の名前がタイトルとして使われています。
体の中に寄生虫が入りこんでしまった女性の様子を、恋人の男の視点から綴る「智依子」。夢に出てくる女性に恋をした男が主人公の「佐々木妙子」。男女一組となって神に戦いを挑む「ニオモ」。そしてこの3つの物語に挟まれるようにして、小説家である主人公治と、癌によって死んでしまった恋人、柿緒とのエピソードが展開されていくのです。
- 著者
- 舞城 王太郎
- 出版日
- 2008-06-13
「愛は祈りだ。僕は祈る。」という言葉から幕を開ける本作は、収録された作品いずれも、愛する女性を失う物語です。読み始めてすぐに、軽妙で勢いのある、独特の文体に引き込まれ、気づけばその世界観の虜となってしまうのではないでしょうか。
文体や斬新なストーリーとは裏腹に、「愛」とは何か?という疑問に、驚くほど真摯に向き合っており、強く心を揺さぶられてしまいます。章ごとに舞台が変化していくため、最初は戸惑うかもしれませんが、最後まで読めば、誰の心の中にもあるであろう「愛」の姿が、とてもストレート描かれていることに気付くことができるでしょう。
金城一紀の小説が好きな方に、ぜひおすすめしたい作品を5つご紹介しました。どの作品も難しい言葉は一切使われておらず、安心して気軽に読むことができます。それぞれに個性的な世界観を楽しむことができますから、興味があれば読んでみてくださいね。