サッカーの「応援」を通し、地元への愛に気づかされていく少女の様子を描いた漫画「サポルト! 」。この記事では、全3巻の魅力と見どころについてご紹介いたしましょう。
- 著者
- 高田桂
- 出版日
- 2016-07-12
サッカー選手を題材とした漫画はいくつもありますが、応援席にスポットを当てた漫画というのは珍しいのではないでしょうか。「サポルト!」は、「サポーター」としてチームを応援する少女たちの青春の記録を描いた作品です。
特筆すべきは、作品から溢れるサッカー愛と地元愛。著者の高田桂自身もあるサッカーチームのサポーターで、サッカー観戦にまつわるQ&Aをまとめた『初心者の素朴な疑問に答えたサッカー観戦Q&A』の挿絵も手がけています。
この記事では、全3巻の魅力と見どころについてご紹介いたしましょう。
女子高生の室町花子(むろまちはなこ)は、地元の木更津市(千葉)が大嫌い。高校を卒業したらおシャレな街の大学生になって、華やかな生活を送ろうと心に決めています。そんな花子は駅前で、同級生の佐橋風夏(さはしふうか)に遭遇し、「自転車を貸せ」と頼まれてしまうのでした。
花子が自転車を取られたら帰れなくなってしまうと説明すると、風夏は「じゃあお前ごと借りる」と言って花子を後ろに乗せ、猛スピードでどこかへ向かいます。恐怖に震える花子がたどり着いたのは、大きなサッカー場でした。
自転車を盗まれてしまった風夏のために、あるサッカー場まで同行した花子。風夏は自転車を貸してくれたお礼に「木更津FC」というサッカーチームの試合をタダで見させてくれると言いますが、花子はあまりサッカーに興味がありません。
結局ほぼ強引に会場に連れ込まれ、ゴール裏の席で試合を観戦することになってしまいます。エネルギッシュな観客たちに囲まれてたじたじな花子でしたが、選手たちが入場してきた瞬間から、サッカーよりも「サポーター」に圧倒されることとなるのでした。
- 著者
- 高田桂
- 出版日
- 2016-07-12
はじめに注目していただきたいのは、木更津の街並み。風景たけでなく雰囲気まで忠実に描き起こされたかのような背景は実に見事で、地元に不満を募らせる日々を送る花子の姿も非常にリアルです。
さて、風夏に連れられてサッカーの試合を観戦することになってしまった花子でしたが、客席には怖そうな人々もちらほら。風夏にも「不良」というイメージを持っていたためおどおどしながら席に着き、気乗りしないまま試合開始を待ちました。そんな彼女を圧倒したのは選手たちではなく、サポーターです。
客席が一丸となって選手に声援を送ると、まるで空気を揺さぶられているかのような衝撃に包まれます。あまりの迫力に花子は言葉を出せません。さらに試合開始直後、選手の一人が相手ディフェンスを巧みに切り抜け華麗なゴールを決めた瞬間に、先ほどより一層大きな歓声がスタンドを揺らしました。花子が、ぞくぞくと込み上げてくる高揚感の虜になっていく様子が見事に表現されています。
「わたしは この街がきらいだ けれど あそこには “好き”がたくさんあったんだ」(『サポルト! 木更津女子サポ応援記』1巻から引用)
会場を出てもなお、興奮の治まらない花子の独白です。風夏という新しい友達もでき、夢中になれるかもしれないサッカーにも出会った花子の地元への意識は、これからどんなふうに変わっていくのでしょうか。
花子と風夏は、新たな仲間の熊倉あゆみ(くまくらあゆみ)と一緒に、千葉県美浜区に位置する「海浜幕張」に訪れていました。因縁の相手「幕張SC」と衝突する「千葉ダービー」の観戦に来ていたのです。
試合が始まる前から、スタジアムの外でははやくもサポーター同士の衝突が勃発しています。両者気合十分といった様子で、会場が盛り上がることが期待できますが、臆病な花子は相変わらず慣れません。
いざスタジアムに入ると、会場は幕張のホームのため、木更津はすっかりアウェーです。敵に飲まれそうになる空気を取り返すのはサポーターの役目。花子たちサポーターは相手の圧倒的な数に負けず、選手たちに声を届けることができるのでしょうか?
- 著者
- 高田桂
- 出版日
- 2016-12-12
「ダービー」の発祥はイングランド・ダービー市。街を二分して行われていた試合のことを指したのだそうです。そこから派生し、主に地理的に隣り合っているクラブ同士の戦いを、ダービーと呼ぶようになったのだとか。こういった興味深い豆知識が取り上げられているところも本作の魅力です。
幕張SCは、木更津FCにとって因縁の相手。サポーターたちにとっても「世界で一番大事な試合」と呼ばれるほど注目されており、普段よりさらに気合が入ります。そんな中花子は幕張FCのサポーターたちが掲げる、木更津を侮辱する弾幕に怯みますが、そんな花子の背中を押すように風夏は言いました。
「こんな風に 死んでも負けたくねー相手がいるのって 幸せなコトなのかもな だいっきらい だけどな!」(『サポルト! 木更津女子サポ応援記』2巻から引用)
花子の目には「大好き」と言っているように聞こえた風夏の言葉。大好きなものを応援することの奥深さを味わわせてくれる2巻です。
サッカーの魅力、「地元の人間」として応援することの魅力に気づき始めていた花子。サポーター仲間もどんどん増えていき、「自分の居場所」だと思えるほどゴール裏を好きになっていた花子でしたが、その純粋な心を邪魔するかのように、不安も広がっていました。
ギガンテブランコ、通称「GB」と呼ばれる過激なサポーターたちが徐々に客席に戻り始めていたのです。過去に起きた事件をきっかけに一度解散した団体で、応援時には選手に向かって下品なヤジを飛ばし、サポーター同士の乱闘も自分たちから煽るような危険な集団です。
GBが巻き起こした乱闘のせいで、あやかは頭に怪我をするというアクシデントも起こってしまいます。客席がすっかり「危険な場所」になってしまったせいで、観戦を自粛するサポーターまで現れはじめ……。
せっかく芽生えた地元愛に影がさしてしまった花子。街の仲間たちの危機を、どのように救うのでしょうか。
- 著者
- 高田桂
- 出版日
- 2017-06-12
サポーターの応援にはさまざまな特色があります。選手を支えるような暖かい声援を送る人、どんと背中を押すような勢いのある応援をする人、挑発的な言葉で闘争心を煽る人、好む応援方法も人によって異なります。
ただ、本来女性でも子供でも入ることができた客席が「危険だから」という理由で、一部の人にしか楽しまれない場所になってしまうのは悲しいことで、花子もどうしたらいいかと悩むようになりました。ゴール裏のアツさを知る以前の花子ならば、こんな風に地元のために頭を悩ませることはしなかったでしょう。
「ゴール裏は 世界でいちばん アキらめのわるい場所‼」(『サポルト! 木更津女子サポ応援記』3巻から引用)
皆で一つのものに夢中になれることの素晴らしさ、一丸となれることの暖かさを気づかせてくれる最終巻。感動の結末をぜひ読んでみてください。
- 著者
- 高田桂
- 出版日
- 2016-07-12
徐々にサッカーにハマっていき、それと同時に地元のことも好きになっていくストーリーの本作。ひとりの少女が生まれ育った町を見直す、爽やかな内容です。
この作品最大の魅力は何といってもピッチ内と、ピッチ外、どちらでも心を揺らしてくること。試合の臨場感や、勝敗を分ける緊張感に、それを支える人々の気持ちがのり、大きな波となって読者を作品に飲み込んでくるのです。
そして作品世界に没入できるのはそんな力強いパワーだけでなく、木更津のリアルな描写にもあります。地元民なら見ていて恥ずかしくなるような、地元民でなくともちょっとした田舎に住んでいた人なら共感度抜群の日常感に溢れているのです。
ハラハラドキドキの内容がありながらも、身近な雰囲気で進んでいく展開は、さらっと作品にのめり込め、それでいて大きな感動に読者を連れていってくれるでしょう。
ぜひそんな本作の魅力をご自身で体感してみてください!
いかがでしたか?サポーターの声援に空気が揺れる様子が、読んでいるだけでも伝わってくるような臨場感溢れる本作。ぜひこの機会に楽しんでみてください。