正義の味方を夢見る少女が、ある日突然神主に?『はらたまきよたま』は、個性豊かな神様たちに囲まれながら人助けに奮闘する真っすぐな元気娘がなんともかわいらしいドタバタギャグコメディです。
正義の味方に憧れる中学生の神代美珠(かみしろみたま)が、ある日突然神主になって人助けに奮闘する日々を描いた、ドタバタコメディ『はらたまきよたま』。
まるで人間のように個性的な神様たちに背中を押され、真っすぐさを失わないまま少しずつ成長していく彼女の姿がなんとも微笑ましく、読者を魅了していきます。
この記事では、そんな本作の魅力をあますところなくじっくりとお伝えしていきましょう。
- 著者
- 永野 あかね
- 出版日
- 2014-09-09
主人公の神代美珠は中学生。家庭の事情で親戚のハナの家に引き取られ、育てられていました。幼いころから一緒に過ごしているハナは、いつも穏やかでやさしい性格をしている子。しかしある日学校で、彼女が自分に対し冷たい発言をしているのを耳にしてしまいます。
しかし美珠は、その事実をどうしても信じられません。何か原因があって彼女がおかしくなっているのだと考えて、その手掛かりを探しに行くことにするのです。
すると、いつの間にか神が集うという商店街に迷い込み、そこで謎の男と出会いました。半ば強引に連れて行かれたカフェには、グラマラスな女性と老人が。なんと彼ら、「七福神」だと名乗るのです。
そして美珠に、神に願い、神の力を思い通りに使うことができる「神主」にならないかと提案しました。
にわかには信じることができませんでしたが、ある事実を知り、神主を引き受けることに。この日から、美珠は七福神たちとともに全国をまわり、各地にいる「土地神」の願いを叶える日々を送るのです。
美珠は、近所の小学生にもバカにされてしまうほど真っすぐな少女。もう14歳ですが、正義の味方に憧れています。どんなに気の進まないような頼みごとでも、「人助け」という言葉が出ようものなら、たちまちやる気になってしまうのです。
常軌を逸した単純さゆえ、何かを疑うよりも先に体が動き、抜群の行動力を発揮します。ただちょっとおバカで真っすぐすぎるため、彼女の周りの人たちは振り回されてしまいがち。それでも可愛い見た目と純粋さに、頼みごとをした人たちの心が救われていくのです。
初対面の人ともすぐに意気投合できるコミュニケーション力の高さと、彼女のどこか危なっかしいところが相まって、いつも周りにはたくさんの人が集まってきます。読者も思わず彼女の神主の仕事を応援したくなってしまう、愛され主人公だといえるでしょう。
美珠の周りを囲むのは、個性豊かな七福神の面々です。といっても、読者のみなさんがイメージしているであろう一般的な七福神とはまったくの別物。異様に人間らしく、自然と愛着の沸くキャラクターばかりです。
たとえば真面目でしっかり者の弁天ですが、彼女の格好は谷間を強調し、ヘソ出しルックのだいぶセクシーなもの。神主としての仕事がダメダメな美珠に対し、Sっ気を発揮します。
毘沙門天は寡黙で無表情。見た目は若者ですがやけに貫録を持ったたたずまいです。
またロリッ子のような見た目をしている大黒天は、もっとも神様らしい口調で話し、プライドが高い女の子。弁天の妹なのですが、破天荒で生意気で、姉とは似ても似つかない性格をしています。
そんな彼女たちの両親が、福禄寿と布袋。父親の福禄寿はやたらとテンションが高く、布袋はいつもニコニコ穏やか。ただ福禄寿が若い娘にちょっかいを出すと、雷を落とします。
このように彼らには家族の設定が加えられていて、それぞれのキャラを活かしたやりとりが魅力的。美珠も、こんなアットホームな環境で神主としての旅を始めることができたので、真っすぐさを失わずに成長していけるのでしょう。
美珠は慣れないながらも、土地神の依頼を引き受け、神主としての仕事をこなしていきます。しかし不器用ゆえに、ただ突っ走るだけのことも多く、なかなかうまくいきません。大黒天たちに助けを求めようとするのですが、逆に振り回されてさらにとっ散らかってしまうこともあるのです……。
次々と起こる問題に彼女が翻弄されるコメディらしいドタバタで、テンポよく読み進めることができるうえ、ひとつの依頼が終わるたびに決まって弁天に叱られる展開があり、微笑ましい気持ちにしてもらえます。
また、全国の土地神から依頼されるのは、「三角関係をなんとかしてほしい。」などかなり身近なもの。こんな頼みごとに一生懸命こたえる美珠の姿に、多くの人が救われていく、とにかく明るい作品です。
- 著者
- 永野 あかね
- 出版日
- 2014-09-09
ある日、人々の信仰で保たれている神の力が、一斉に弱まってしまってしまう事態に。「殺生石」と呼ばれる神の石が商店街から奪われたことが原因でした。どうやらその犯人は、かつて人々の信仰を得ることができなかったために商店街を追われた神のひとりのようです。
美珠は犯人を突き止めると意気込みますが、七福神たちに強い口調で退けられてしまいました。理由がわからずショックを受けた彼女は、ふてくされて商店街を出ていってしまいます。
はたして、商店街と神たちは救われるのでしょうか……?
これまで家族の一員のように一緒に旅をしてきたのに、危機に直面した時に決別してしまうシーンは、胸を締め付けられてしまいます。また美珠はずっと明るい女の子だったのに、彼女らしくない暗い思考に陥ってしまいました。
しかしここで、あるキーパーソンが現れます。ラストシーンでは、最初は神主として頼りなかったはずの美珠の成長した姿を見ることができ、なんだか親心のような感慨深い気持ちになることができますよ。