全6巻というおよそ長編作品とは言えない漫画『銀の鬼』。80年代に『週刊マーガレット』で連載されていた「鬼」をテーマとした本作品が、時代を超えて復活!かつての少女達だけでなく、その子ども達世代が読んでも心打たれる少女漫画の名作です。
1986年より少女漫画雑誌『週刊マーガレット』で連載されていた『銀の鬼』。ラブコメ漫画全盛期であった当時、「鬼」や「日本の伝説」などを題材とした本格派ミステリーラブロマンスの本作品は、少女漫画界の異色作として注目を集めていました。
それもそのはず。本作品のメインテーマは鬼×少女のラブロマンス。人外×少女の作品が少なかった80年代当時、『銀の鬼』のヒロイン夏乃ふぶきと、鬼である島影十年との恋愛は少女達の興味を惹きつけるには強烈すぎるストーリーでした。
- 著者
- 茶木 ひろみ
- 出版日
- 2007-11-26
特に本作品を盛り上げたのが、脇を固めたサブキャラクター達の存在。ツンデレ系やヤンデレ系、病み系など、内面の個性が際立つキャラクター達が多数登場しました。彼らの存在がなければ、もしかするとふぶきと十年の恋愛は、もう少し楽に進展していたのかもしれないと思わせるほどです。
もちろん、ふぶきと十年の恋愛の障害となったのは、彼らを取り巻く周りのキャラクターの存在だけでなく、十年の持つ鬼としての残酷な性質にもありました。十年を愛する心と、彼の悪行を許せないという心の葛藤に苦しむふぶきは、物語の中で何度も十年を殺すという選択を迫られます。
十年を愛するあまり、 彼女の出す答えは何度も変わってしまいますが、その理由は悪い鬼であっても何とか理解し救いたいというふぶきの深い愛情の表れでもありました。
そんなふぶきと十年の愛の行方は、一体どのような形でエンディングを迎えることになるのでしょうか?衝撃のラストに多くの読者が涙した『銀の鬼』。
80年代の作品なので、絵柄やキャラクターたちのやりとりに古臭さを感じるのは仕方ありませんが、若い世代から見ても、充分に楽しめる元祖人外×少女の切ないラブストーリーです。
- 著者
- 茶木 ひろみ
- 出版日
- 2006-04-19
幼い頃、全身を銀色に覆われた「鬼」に出会ったことがきっかけで、口数の少ない少女へと成長したヒロイン夏乃ふぶき。
17歳になった時、ついにその鬼は担任の島影十年としてふぶきの前に姿を現します。そしてふぶきからの信頼を得、彼女が鬼について相談をしてきた時、ついにその正体を明かしたのでした。
もともと成長したふぶきを食べるつもりで、ふぶきの成長を見守っていた十年でしたが、彼はひとつだけ想定外のミスを犯してしまいます。
それは「ふぶきを愛してしまった」ということです。そして十年は、ふぶきの心臓を食べることはせず、彼女に自分の花嫁になることを強いるようになったのでした。
はじめの頃は、十年を完全に拒んでいたふぶきでしたが、徐々に彼女の感情にも変化が起こり始めます。果たして、人を食う鬼の十年とふぶきの間にどういった恋愛感情が芽生えてくるのでしょうか?
鬼×少女の苦しみの上に成り立つ恋愛模様は、最後まで見逃せません!
幼い頃出会った銀色の鬼に、「いつか迎えにくる」と告げられたことがきっかけで、心を閉ざし成長したヒロイン夏乃ふぶき。
同級生ともほとんど馴染むこともない高校生活を送っていたふぶきでしたが、ある日彼女のクラスにやってきた転校生の近松善三の存在がきっかけとなり、その生活は大きく変わることに。
近松の目つきが昔出会ったあの銀の鬼の目に似ていると感じたふぶきは、ちょっといい加減ですが話しやすいイケメン担任の島影十年に、近松が鬼ではないかと相談を持ちかけます。
普通なら到底信じて貰えそうにない内容の話ですが、十年は何の疑いも無くふぶきの話を信じます。それもそのはず、担任の島影十年の正体こそがその銀色の鬼だったのです!
そして、ふぶきの目の前で銀色の鬼に変身した十年は、自分の正体を明かしただけでなく、ふぶきを愛するようになってしまったと告白。そして、ふぶきを自分の花嫁にすると言い放ったのでした。
- 著者
- 茶木 宏美
- 出版日
大きなショックを受ける中、ふぶきにはさらなる不幸が襲い掛かります。それが理由で、ふぶきは強制的に十年の元に引き取られ生活を供にすることに。
普段は、人間社会に馴染むため適当ながらも優しい先生を演じていた十年ですが、彼の本質は残忍で残酷。人間より高等な生物であるがゆえ平気で人間を襲い、血の滴る心臓をむさぼり食うことに何の罪悪感もありません。
しかしなぜそんな十年が、いくら近くで見守っていたからといって、人間の娘を愛し始めるようになったのか大きな疑問が残ります。確かにふぶきには、芯の通った心の強さがあり、十年の狂気的な支配にさえ決して屈伏する事はありません。しかしそれだけが、鬼が人間を愛するきっかけとなるのでしょうか?
そして、偶然に十年の弱点を知ったふぶきが取った行動が、十年の逆鱗に触れ彼女を恐怖へと陥れます。ふぶきの命は、十年によって絶たれてしまうのでしょうか!?ふぶきへの愛がありながらも、残忍な本能を持つ十年が選ぶのは......!?
ふぶきに淡い恋心を抱いた転校生の近松は、危険を冒してふぶきを十年の元から救出。その足で彼らは、鬼を殺せる可能性に賭け京都に向かいます。
そんなふぶき達が出会うのが、鬼を殺す秘薬「神便鬼毒酒」を代々造り伝えている洋菓子店のオーナー広田幸二。鬼の存在を疑いもせず、彼はすぐに十年つまり鬼を退治する協力を申し出ました。
この人なら十年を殺してしまうという確信を持ったふぶき。そんな彼女の胸には、複雑な感情が渦巻いていました。
- 著者
- 茶木 宏美
- 出版日
十年を殺そうと画策する幸二の想いに複雑な想いを抱え、さらに彼からの突然の愛の告白にとまどうふぶき。
一度に三人の男性から愛されるふぶきの存在は、もはや乙女ゲームのヒロインのようです。ふぶきを取り囲む80年代のイケメン達ですが、時折見せる彼らの古臭いセリフや行動が逆にちょっとバブリーで面白く、若い読者にとっては目新しく映るかもしれませんね。
様々な想いが交錯する2巻ですが、ついにふぶきが自分の本当の気持ちに気づきます。果たしてふぶきの気持ちが向かう先にいるのは誰なのでしょう!?
「神便鬼毒酒」でついに命を落とした十年。彼を想い、十年のお菓子の家に戻ったふぶきは、十年の残した石笛を見つけそれを吹きます。
すると外に人影が!十年が戻ったのかと外に出たふぶきでしたが、そこにいたのは片方のツノしかない青の鬼でした。
しかしその鬼は気が非常に弱く、駆けつけた近松や幸二の存在にさえ怯えるほど。それでも鬼なのだから退治しなければという幸二の言葉に、殺される前にツノを返して欲しいと懇願してきます。
気の毒に思った幸二は、すぐに自分の家に伝わっていた青い鬼のツノを返すのですが、ツノを頭にくっつけた途端にその鬼の態度は豹変。
かつての十年のように尊大な態度になったかと思うと、そこにいた幸二の店の従業員女性をさらいどこかに去ってしまったのでした。
さらわれた女性の運命は!?そして、ふぶきの石笛に呼ばれたのは、青鬼だけだったのでしょうか?
- 著者
- 茶木 宏美
- 出版日
物語が大きく進展する3巻で特に注目したいのは、ふぶきの正体についてです。人間であるはずのふぶきが、鬼の心をこれ程にまで惑わせたことには、本人も知らない理由があったのでした。
また3巻ではふぶきの十年への愛と、それでも恐怖を感じてしまう彼女の心の葛藤がとても切なく描かれています。彼らの想いが救われる未来を願わずにはいられません。
絶体絶命の窮地を潜り抜け、生還した十年。住み慣れたお菓子の家を離れ、彼らは別の土地での生活を始めていました。しかし、そこでもふぶきは十年の過去に犯した罪に苦しむことになります。
その理由が、そこで知り合った高校生の末流也の存在です。彼の母は、彼が幼い頃全身銀色の野犬に襲われ命を失っていました。その事件のあらましを聞いたふぶきは、その事件の犯人が野犬でないことは容易に想像がつきました。
一方、流也はほとんど一目ぼれだったふぶきに想いを募らせていきます。のちに告白もしますが、あえなく玉砕。しかし、ふぶきが悪い男に騙されているだけだと信じる流也は、十年に強い不満を抱くようになっていきます。
そんな中、真面目な生活をふぶきによって強いられていた十年は、数々の不満を持て余していました。しかし、そんな不満と気の緩みが十年に大きな失敗を犯させることになるのです。
これまでも、千年生きている割りには迂闊なことをしでかすことがあった十年でしたが、ふぶきとの生活は確実に彼の心に何かしらの変化を起こしていました。
- 著者
- 茶木 宏美
- 出版日
この4巻では、ふぶきに想いを寄せる流也が不気味な存在感を放ちます。また、だまっていても女が寄ってくる十年にも複数の女性が思いを寄せはじめます。
正直言って、一読者の立場としてはこの二人を放っておいて欲しいところ。イケメンゆえか、美少女ゆえか、何もしなくても人を寄せ付けるこのカップルに平穏な日々が訪れるのは難しいようです。
十年に告白してきた女子高生の存在が、彼の鬼としての残忍な心を再び呼び起こしてしまいます。その現場を偶然にも流也に目撃され、十年は流也を殺そうとしました。
しかし、止めを刺す直前に救急車が到着したせいで、流也を殺し損ねてしまいます。そしてそれが後々大きな事件を引き起こすことになるのでした。
流也の怪我、そして入院の原因が十年であることを知ったふぶきは、誰も傷つけないとの約束を破った十年を激しく叱責。しかしその喧嘩は、二人の気持ちをすり合わせることさえできないことを露呈するだけに終わります。
そんな時、十年を何としても自分のものにしたいと思っていた、十年が務める会社令嬢麗子の思惑と、流也の復讐が絶妙なタイミングで実ります。
十年は流也に鬼の力の元であるツノを切り取られ、そのツノを麗子に持ち去られてしまうのでした。
- 著者
- 茶木 宏美
- 出版日
十年に母親を殺されたことを知った流也の怒りはすさまじく、その怒りはふぶきを巻き込んでしまう程。また、麗子のカルト的な十年への愛情も狂喜の域に達していきます。
もとはといえば、十年が自分で蒔いた種。しかし十年の気持ちを想うあまり、自分をすり減らしていくふぶきの姿は見るに堪えません。
そして遂にふぶきは十年のために、自分の本当の心とは裏腹の決断をします。ここまで来たら、ふぶきには悲しみの中でも自分の想いを違えずに貫き通して欲しいと願ってしまいます。
最終巻を前に怒涛の盛り上がりを見せる第5巻。十年とふぶきの恋に、ハッピーエンドは来ないのでしょうか?少なくとも5巻ではハッピーエンドの予感は、わずかながらも感じられません。
持ち去ったツノを隠すことで、十年と一緒の生活をはじめた麗子でしたが、十年の心は未だふぶきに向いていることに悔しさを募らせます。
ツノを折られ力を失くした十年でしたが、何とかふぶきの元へ戻ろうと決意。しかし、それと同時に十年の居場所をつきとめたふぶきと行き違ってしまいます。力なく歩き続ける十年は、ついに力尽き倒れてしまうのでした。
発見された十年は仮死状態でしたが、死亡と診断され麗子の元へ連絡が入り、幸二の提案で火葬が執り行われることに。自分の元を離れた十年を殺したい程憎むようになっていた麗子も、この計画に賛成します。
全てをぶぶきにだけ知らせず終わらせる計画でしたが、近松はふぶきの気持ちを想うがあまり、事のあらましをふぶきに伝えてしまいます。
十年を死なせたくないという想いと、いつかは殺さなければならないという想いに、身が引き裂かれそうになるふぶき。必死の思いで十年のツノを探し当てるものの、そのツノを再び十年に返すことにはためらいを感じます。
- 著者
- 茶木 宏美
- 出版日
愛する人にはどんな形であっても生きていて欲しい。これは人間の持つ愛情の形のひとつとも言って良いでしょう。
しかし、十年を完全な形で生かしておくということは、人間を恐怖に陥れることと同義です。そこでふぶきは、誰もが考えつかなかった行動に出るのでした。
ふぶきの十年への深い愛情しか感じられないエンディングにどれ程のファンが涙したことでしょう。愛を貫くだけが愛じゃないということを、その身を持って表現したふぶき。そのの強さにたくさんの少女が勇気をもらったに違いありません。
- 著者
- 茶木 宏美
- 出版日
トラウマを抱えたものの健気に強く生きる主人公と、そんな彼女に熱烈なまでの愛を注ぐ鬼の物語。人外恋愛ものの名作少女漫画です。
まさかの結末は涙無くして読めないものですが、そこにはある種の希望が残っています。しかしその救いの周辺で不穏な動きがあることも匂わされているのです。
実は本作は無印の他にも『銀の鬼 目覚め』という続編も発売されています。そしてそこでふたりのアフターストーリーが見られるのです。ファンの方でも知らなかったという方も多いかと思うので、そちらも合わせてご覧いただくとさらに作品を楽しめるかと思います。
懐かしくて今読んでも面白い、恋愛漫画にきゅんきゅんすること間違いなしです!
後味が良い作品かどうかといったら、賛否両論あるかもしれませんが、名作かどうかといったら間違いなく名作であると胸を張って言える作品です。実は連載終了から数年後に作者が漫画界から長らく姿を消し、絶版したこともあり一時は幻の作品とも言われていた『銀の鬼』。2007年に復刻版として復活してからは、デジタル書籍の販売も開始され続編も続々と発表されています。
今回ご紹介した『銀の鬼』を読んだら、どういった形で続編が続いているのか気になるはず!その場合はぜひ続編までご覧くださいね!