甘く切なく儚い禁断の花、その名は百合。女性同士の恋愛を描いた百合漫画の選りすぐり5作品をランキング形式でご紹介したいと思います。
姉ひまりと妹あいりはとても仲の良い双子の姉妹です。中学までは髪型も服装も、何もかも同じでした。しかし高校入学以来、あいりは少しずつ変わっていき、ひまりに内緒でバイトをするようになりました。そんな妹にひまりは内心穏やかではありません。
そんなある日、足首を痛める怪我をしてしまいます。絶対に休めない、というあいりに代わってひまりがバイトに出るのですが、バイト先の先輩朝霧ちさきから告白されてしまうのでした。自分の正体を告げられないまま、ひまりはあいりとして朝霧先輩との関係を続けてしまって……。
- 著者
- タチ
- 出版日
- 2016-03-12
本作は2015年から「まんがタイムきららフォワード」で連載されていたタチの作品です。
『桜Trick』で知られる作者の新たなタイトル。本作ではドキドキして、ニヤニヤさせられる百合展開は据え置きに、新要素が加わっています。それは背徳感。
姉妹仲の良い双子。麗しき姉妹愛で妹のミンチヒッターを務めてみれば、妹に恋慕を抱く第三者から、姉の方が告白されるという急展開で物語は幕を開けます。しかも、返答に困った姉は保留の上、独断で友達付き合いから始めようとするものの、うっかり妹ではなく自分の連絡先を渡してしまうという大ポカ。
かくして姉妹愛の強いひまりは、あいりのフリをして、あいりを好きな朝霧と交流を重ねていくことになるのでした。実に複雑な関係です。さらに間の悪いのは、やがてひまりの方が朝霧に惹かれていくということ。ウィン・ウィンと言えばそうなのですが、朝霧が好きなのはあくまでもあいり。
それぞれ個別に見れば百合百合しいのですが、冷静に考えるとドツボそのもの。どちらかにバレた瞬間、全てが終わる儚い関係。それもただ終わるだけではなく、騙していた、という悪感情まで生まれる最悪の状態です。
可愛らしいキャラ、初々しいシチュエーションに反して、非常にドロドロした人間関係が描かれます。この嘘から出た本当の恋はどう決着するのでしょうか。
主人公の白鳥司(しらとりつかさ)と鷲尾撫子(わしおなでしこ)、そして琴岡みかげは中学校入学初日に知り合って以来、親友同士の3人です。3人の中では男子を取っ替え引っ替えしているみかげを除くと、他の2人には浮いた話はありません。
それもそのはず。入学初日の出来事以来、司は撫子に恋をしていたのです。友人関係に亀裂を入れたくなかった彼女は、ずっとその想いを秘めていました。ところがある日、司は撫子の気持ちがみかげにあることに気付いてしまいます。成り行きで撫子に協力することになる司でしたが、一方のみかげは……。
- 著者
- 小林 キナ
- 出版日
- 2016-03-25
本作は2015年からWebコミックサイト「ガンガンONLINE」で連載されいた小林キナの作品。
タイトルのアステリズムとは、「星座」や「星群」を意味する言葉です。本作の登場人物を星になぞらえて、その関係を表しているのでしょう。恋愛群像劇として見ることが出来ます。
星の中で一際輝く3人の主要人物は、それぞれタイプの異なる女の子です。ボーイッシュで元気な司、大人しい文系の撫子、無邪気でガーリーなみかげ。性格はまるで違いますが、彼女達が出会ったきっかけである、電車での出来事から大の仲良しです。3人は3人とも、この友人関係を一番大事にしています。
それを踏まえての友達への片想いが描かれます。出るに出られない、引くに引けないもどかしさ。司から撫子、撫子からみかげへの一方通行……と思いきや。事情はもう少し込み入っています。
百合漫画では言語道断ながら、みかげには彼氏がいます。ただ、これがどうにも曲者。実はこれ、友人関係を崩さないための欺瞞だったのです。みかげが本心から好きな人――それはなんと、司でした。くしくも3人は、友人として出会ったきっかけで、片想いの三角星座を作っていたのです。
物語はそれだけに留まりません。この3人の微妙な関係に割って入ってくる者達が出てきます。それが朝倉恭介と、司の弟である昴。女の子同士がメインの漫画なのになぜ、と思われることでしょう。この男子が介在することで、物語のアクセントになるのです。そしてまたこの2人の男子も一筋縄ではいかないキャラで……。
恋と友情、嘘と嫉妬が入り交じる、少女のピュアな青春。こじれた星々は最後にどんな星座を浮き上がらせるのでしょうか。
コンビニで一目惚れして告白する女子高生メグと、告白される女性店員土谷。初々しい申し出に、土谷の想いが揺れていく……。(「夏の導火線」より)
告白して、キスまでした女性があっさり結婚してしまい、気持ちを引き摺り続けていた少女がいました。ところが、その人は離婚して彼女の元に戻ってきたのです。年の差カップル、失恋のその後……。(「エッちゃんとマイちゃんの恋模様」より)
7回語られる女性同士の恋模様。
- 著者
- 百乃 モト
- 出版日
- 2016-10-18
本作は2016年に「百合姫コミックス」レーベルから発売された百乃モトの作品。以前作者が同人誌で発表していた7篇の短編、および短編連作を収録した短編集となっています。
少女同士の純な交流が描かれる「寒空に熱視線」、「君主導の恋」。女性関係だけでなく、男性との関係まで描写される「Drunken Night」など、非常にバラエティ豊かな作品が収録されています。
「Drunken Night」と「エッちゃんとマイちゃんの恋模様」は男性との婚約、結婚まで出てくるので、苦手な方もいらっしゃるかも知れません。甘いだけが恋ではなく、ビターな味わいがあるのが恋愛というもの。同性愛と異性愛を同列に語ってこそ、お話に深みが生まれるのです。
全体的にしっとりとした切ない読後感が残る短編集。ぜひ一度この独特の世界をお試し下さい。
長谷川花(はせがわはな)はバイト禁止であるにも関わらず、隠れて働いている女子高生です。そんな花の働くファンシーショップ「ポプリ」で、常連客の江森ひなこが同僚として働くことになりました。先輩なのに商品に無知な花へ、当初冷淡な態度を取るひなこ。2人は商店街の祭を通じて打ち解け合い、「ハナ」「ヒナ」と呼ぶようになります。
やがて進級した花は、新入生の中にひなこの姿を見つけました。バイトが学校側に知られないよう、2人の秘密の関係が始まります。
- 著者
- 森永 みるく
- 出版日
- 2016-01-12
本作は2015年から「コミックハイ!」、後に「月刊アクション」に移籍して連載されていた森永みるくの作品です。
内緒の関係から始まって、徐々に互いに惹かれていき、秘密の関係に至る正統派百合漫画。王道中の王道と言える本作ですが、要所要所で少しお約束からズレているのがポイントでしょうか。
女子校の先輩と後輩というのはよくありますが、2人が知り合ったのは学校よりも前のこと。しかも、先輩の花より後輩ひなこの方が大人びていて、当初はひなこが年上のように描かれていました。しっかり者で長身が年上、うっかり者で背が低いと年下。そういった既成概念とも言える容姿と性格、先輩後輩の関係があべこべなのです。
そして女子高生なので学校生活も描かれますが、基本的に学校で2人の接点はありません。まず学年が違うこと、それぞれの立ち位置によるグループの違い。そして何より、彼女達自身がバイトを隠し通すために、意識的にお互いを避けるためです。
女子高生の恋愛を描くのに学校を抜かすとは何事か。いや、それこそがミソなのです。学校で話してはいけない、誰にも知られてはいけない。その共通の秘密が、2人に仲間意識を芽生えさせ、関係をより発展させていくのです。また、この秘密によって学校でのニアミスや、バイト先に同級生が来るなどのハプニングが良いエッセンスとして利いてきます。
もちろんそれらはキャラが魅力的であればこそ。一見クールなギャルなのに、本当は可愛いもの好きなひなこ。駄目な先輩の花が時折見せる、年上らしい懐の深さ。王道とはあべこべの設定から来るギャップが、彼女達をより強く魅力的に見せているのです。
女子高生が本当にキラキラ輝く秘密の放課後。ちょっと覗いてみませんか?
主人公の少女、小糸侑(こいとゆう)は「好き」ということがわからない少女でした。中学卒業時に、仲の良かった男子から告白された彼女は、そのことで悩んでいました。そんな彼女が高校入学後、生徒会に入って先輩の七海燈子(ななみとうこ)と出会います。
燈子は誰もが羨む美人で、成績優秀の女生徒でした。燈子が告白され、きっちり答えを返しているのを見た侑は、思い切って彼女に悩みを打ち明けます。おかげでその件は無事に解決しました。ところが、思いも寄らない事態が起こります。誰にも惹かれず、全ての告白を断ってきた燈子。なんと燈子が、侑が気になると言うのです……。
- 著者
- 仲谷鳰
- 出版日
- 2015-10-24
本作は2015年から「月刊コミック電撃大王」で連載されている仲谷鳰の作品。
単なる百合漫画というよりは、本作では純粋な恋愛感情そのものに主眼があるように思えます。ですので、女の子同士がイチャイチャしているのを楽しむ、という作品ではありません。
キャラの配置としては、しっかり者の年上が惚れていて、年下が冷めている、というちょっと珍しいもの。しかも、その冷め方がちょっと特殊なのです。主人公の侑は、年頃の少女に似合わず恋愛感情というものを持ち合わせていません。正確には「誰かを特別に想う(想われる)」ということが、わからない少女なのです。
周囲の話や、自身が触れる本やテレビの、どこか浮ついた理想像としての恋。それらが、侑にとっては、まさに空想の産物。いつか自分にも理解出来ると思い続けて、けれど彼女にはそれがわからないままなのです。
そんな侑を「特別」に見ていくのが燈子です。特別がわからない侑と、侑に特別を見出す燈子。この辺りのやり取りが非常に秀逸です。内面を独白させるだけでなく、「目は口ほどに物を言う」を地で行く見事な表情の描き方が見所となっています。
恋愛感情がわからないという異例の主人公侑。彼女が「特別」に気付く、即ち恋心を自覚していく過程が丁寧に繊細に描かれます。淡く、そして儚い美しい物語は、必ずやあなたの「特別」な作品になることでしょう。
いかがでしたか? 実際の花がそうであるように、百合漫画にもいくつもの側面や、色があるものです。ただ一心に好みの一輪を愛でるのも良いですが、たまには趣向を変えて別の彩りを添えてみるのも一興ですよ。