立野真琴が描く近未来ボーイズラブ『青い羊の夢』。長く少女漫画を描いてきた作者ならではの、切なくも意外性のあるストーリーが話題です。ここでは、そんな『青い羊の夢』を全巻ネタバレ解説していきます。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2006-08-28
『青い羊の夢』は、『YELLOW』などの作品で知られる立野真琴が描く近未来ボーイズラブストーリーです。2つのグループが抗争を繰り返す荒廃した街を舞台に、殺し屋として活動する2人の男性の絆と愛を描いています。同作者の『Steal Moon』のサイドストーリーであり、一度発売されたコミックスのカバーをリニューアルして再刊行されました。
本作は1999年に「別冊花とゆめ」に掲載され、コミックスが1巻のみ発売されましたが、その後長きにわたって続編は発表されませんでした。しかし2007年、長年の沈黙を破り「花恋」に籍を移して連載が再開。足掛け16年でようやく完結し、ファンは喜びに包まれました。
男性同士のバディものを得意とする立野真琴が、2人の殺し屋を主人公に据えて描く近未来アクションは、多くの女性ファンに支持されています。ハードボイルドなアクションシーンと、ラーティと界が死地を潜り抜けながら互いに愛を育んでいく姿の対比が切なく、最終回までまさにジェットコースター的展開を見せてくれます。
愛しいマリア その指を飾る青い宝石 記憶はいつも そこに還る
(『青い羊の夢』1巻より引用)
舞台となる「アカツキの街」はサルト・マイナという2つのグループが支配し、毎日のように抗争が繰り広げられていました。恋人のマリアを何者かに殺害されてしまった主人公の界=コウダはサルトの四天王の一人「鋼鉄のラーティ」ことラーティ=バーラに近付き、ボディガードとして雇ってもらおうとします。ラーティは、何とマリアと同じ指輪を持っていたのです。
ラーティによって足を撃たれた界は、サルトグループの食堂に運び込まれ、女将のヤンという老女に介抱されます。ラーティが呼んだ男たちと戦って最後まで立っていたらボディガードとして雇ってやると告げられた界は、戦いの末見事合格。ついにラーティの用心棒となるのです。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2006-08-28
マリアが殺された理由を知るため、もっと強くなりたいと願う界でしたが、情報やのシキからラーティについての情報がもたらされました。何とラーティはゲイだというのです。ある時、ラーティの命を狙った輩から彼を守った界はラーティに気に入られ、明日から自分と一緒にいろと命じられます。ラーティから直々に特訓を受ける界でしたが、ラーティはそんな彼に部屋に泊ってもいいと告げ、界は真実を知るために彼に抱かれることになります。
うわさは聞いているだろう? 俺の
それでも来るか? 俺のベッドに(『青い羊の夢』1巻より引用)
ラーティの指輪はマリアのものとはデザインが違っていました。ラーティはマリア殺害の犯人ではなかったのです。しかも、死んだと思っていたマリアが界の前に現れます。さらに、彼女の衝撃の正体が。マリアは元サルトの四天王「冷血のビハーン」であり、ラーティの双子の妹だったのです。また、医師を称していたマリアは怪我を手当するふりをして、界の頭の中にチップを埋め込んでいました。それによって、界は偽物の記憶を植え付けられていたのです。そして、ラーティが界を庇ってマリアの刃に刺されてしまい……。
舞台は、荒涼としたスラム街の様相を様相を呈しながらも、近未来のテクノロジーが随所に見られる不思議な街・アカツキ。実は殺し屋だった恋人、そしてチップによる偽物の記憶など、ストーリーの初めから二転三転する展開が繰り広げられていきます。
かつての恋人・マリアへの気持ちを忘れられない中、ラーティにも確実に惹かれていく界。真実を知るためにラーティと体を重ねた界でしたが、あまり自分を信用してくれない彼に徐々に苦しさを感じ始めます。彼の切ない思いが、これからのストーリー展開に大きく関わってくることになるのです。
そして、マリアの意外な正体も早々に明かされます。彼女は元サルトの四天王で、殺し屋の「冷血のビハーン」でした。その他にも、食堂女将のヤンや情報やのシキらも実は四天王であることが判明。特に老女のヤンが銃を携えて戦う姿は、非常にかっこいいです。
サルトのボス・カグラが死亡しました。盛大な告別式が営まれますが、その最中、参列したラーティとナラダが棺に蓋をしようとした瞬間、突如爆発が起こります。大きな怪我はない代わりに、報復を誓い合うラーティとナラダ。彼ら2人は、サルトの中枢である元老院によって次期ボスだと目されていました。
界は、自分がラーティやナラダと並べるくらいに強くなりたいと願います。しかし、ある時ラーティを助けるために無茶をした界は、ラーティから「自分の命は自分で守れ」と鋭い言葉を浴びせられるのです。少しでもラーティの役に立ちたいだけの界でしたが、そこへナラダが自分が鍛えてやろうかと声を掛けてきます。そして、元老院ではナラダが次期サルトのボスに決定しつつありました。
自分を気遣ってくれるナラダに、思わず辛い思いを打ち明ける界。すると「俺のものになればいい」と突然ナラダに押し倒されてしまいます。しかし訪れたラーティによってナラダの行為は阻止され、ラーティとナラダはどこかへ向かうのでした。実はカグラの葬儀での爆発は元老院が仕組んだものだったのです。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2008-03-05
2巻では、自分がラーティの「特別」ではないことに少しずつ心を痛め始める界が描かれます。彼の一途さが少し違うものに変化し始めているのですが、まだ界はそれに気が付いていないようです。そして新キャラクターのナラダは、飄々としながらもどこか只者ではない雰囲気を醸し出しており、ラーティに信頼を寄せていることが伺えます。そして、サルトの新しい指導者に選ばれるラーティ。界とラーティの関係性は、徐々に変わっていきます。
また、ナラダは界にちょっかいをかけながらも、ラーティと界の間の潤滑油的な存在となっています。彼のおかげで、やきもちを妬くラーティが見られるのもポイント。そんなラーティによって新しく四天王に任命された界は、愛や優しさではなく、ラーティの隣に立っていたいと願う自分を強く意識することになります。
また、ラーティの中にも少しずつ界への愛着が生まれているのが随所に見て取れます。彼も双子の妹であるビハーンへの慕情と、界への感情で揺れているのです。そんな2人の気持ちが今後どう交わっていくのか、読者に期待させる展開となっています。
アカツキの街で四天王「閃光の界」と呼ばれるまでに腕を上げた界。彼は、ラーティにもっと強くなって見せろと言われ続けていました。最近は夜にラーティの部屋に呼ばれることがあまりなくなったことに、少なからず不安を抱いていたのですが、界はそれをラーティが自分を認めてくれているのだと思うことで納得しようとしていたのです。
ある日、ラーティの元に「ハイ・ヌーンの街」のナンバー2であるダニエルから通信が。ハイ・ヌーンの街のトップが打診していた会談に応じる代わりに当日界を連れて来いと言うのです。その夜、界が自室に戻ると、ラーティがドアの前で待っていました。何かあったかと彼を招き入れる界でしたが、ラーティはそんな界を性急に抱きました。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2009-04-28
ハイ・ヌーンのボスの正体は、界がマイナで初めて殺した男・ガルの双子の兄・ガイでした。ガイは、界をここに置いて行けとラーティに命令し、ラーティもその通りにします。界をサルトからの「貢ぎもの」と称して拷問するガイ。暴行の末、数人の男たちに界を襲わせようとします。しかしジャッドが持ってきた情報でラーティはナンバー2のダニエルに脅しをかけました。ダニエルは実は少年趣味で数々の少年たちを誘拐しており、その中には市長の孫もいるというのです。結果、ダニエルはクーデターを起こし、ガイも界によって殺害されます。
珍しく部屋に来て自分を抱くラーティに、訝しがりながらも喜びを隠せない界。少しずつ、ラーティに対して心を開いてきているのが感じ取れます。また、その後のストーリーでは、かつてラーティの男娼だったサリアが戻ってきて、界はまた複雑な気持ちを胸の内に宿すことになってしまうのですが……。
ビハーンやナラダなど、界のラーティへの感情に水を差す存在は多いですが、この3巻ではさらに元・ラーティ専属の男娼というサリアが登場。しかしやはり界はまだビハーンに対する愛情を捨てきれず、サリアに彼女についての情報をちらつかされるとそちらに揺れ動いてしまう部分もあります。そして「ラーティは俺のもの、ここから消えてくれ」と告げられ、ラーティのもとから去る界の姿に胸を打たれます。
また、殺人の記憶をラーティへの忠誠に変換することで、壊れずに自分を保っている界の悲痛は胸の内も明らかに。ラーティに期待しているわけではないと言い、監獄の看守たちの身体を差し出すなど、自分を顧みない界の行動にハラハラさせられることも。反面、ラーティは界の心情を一定のところで理解していて、卑劣なサリアを泰然と拒絶し、界を大切に思っていることもきちんと伺わせています。
界が自分のもとを去り、四天王が1人欠けたことで、界の代わりに新しい四天王を選ぶことを求められるラーティ。そんな中、マイナの幹部が何者かに惨殺される事件が起こり、日頃何かとぶつかり合っているサルトの仕業だとマイナの住人たちは色めき立ちます。やがてマイナの統括・カーナ=ガルビスから声明が届き、報復の意思があることと伝えたうえで、犯人を知っている場合はその人物を差し出すことを要求してきました。さらに、ここで2人目の犠牲者が……。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2010-05-28
ラーティはカーナに直々に会いに行くことを約束しますが、その直後、カーナが何者かによって殺害されます。そして、その首には界の使うチェーンが巻きついていました。カーナ暗殺容疑でラーティは拘束され、界にも捕縛命令が。マイナは2日待って犯人が見つからない場合は、ラーティを処刑すると宣告。界はマイナの幹部・コヨーテによって見つけられますが、彼は全部自分のやったことだと話すのです。
処刑は俺が受ける 八ツ裂きでもなんでも だから…
…助けて ラーティを 助けてくれ……(『青い羊の夢』4巻より引用)
ついに、自分がラーティを愛しているのだということに気付く界。ようやくラーティのもとに戻った界に、これからはお前だけを抱くと告げるラーティ。お互いの想いを確かめ合う2人のシーンが、4巻の最大の見どころです。これまではどちらかと言うと一人で思い詰めて突っ走ってしまう印象が強かった界ですが、ラーティと想いが通じ合うことでようやくビハーンへの未練も断ち切れるのでしょうか。
4巻では、主にマイナとサルトの均衡を破壊する事件が描かれています。敵の姿はまだ不明瞭ながらも何か大きなものが背後で動き始めていることを予感させてくれるのです。また、マイナ幹部として登場したコヨーテが謎の暗躍を見せるなど、登場人物たちの意外な動きも見どころ。
ラーティのために全ての罪を被ろうとする界の自己犠牲精神が切ないシーンもありますが、ここから今まで滞っていた界とラーティの関係がようやく良い方向に流れ始めるのでは、というホッとした気持ちにさせてくれます。
マイナとの抗争で受けた怪我も完治した界とラーティ。そして彼らは晴れて恋人同士になることができました。そこへ、新しくマイナの統括になったドッグ・Dから声明が送られてきます。彼は、カーナたちを殺した真犯人であるビハーンたちを許すことはできないと言い、彼女を捕らえ処刑すると宣言するのです。気が沈む界でしたが、それを察知したラーティは彼に声を掛けます。
そんなにビハーンが好きだったのか?
二度とこの身体を粗末に扱うな
俺のものだ(『青い羊の夢』5巻より引用)
界は、捕らえられたビハーンを救出するため連邦の監獄で男たちに体を差し出した記憶を思わず甦らせてしまいました。自分を抱いた後、一人でビハーンを助けに行こうとするマーティに、一緒に行きたいと懇願する界。そして、マイナの手から逃亡を続けるビハーンの前にナラダが現れます。彼はビハーンの保護と抹殺、両方を請け負うためサルトに戻ってきたのです。さらに連邦軍の始末屋「scatter(スカッター)」のゲイルとフィーダも登場。するとビハーンはscatterに投降を申し出るのですが……。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2011-06-29
相変わらず暗躍するビハーンと、ナラダの帰還。そしてscatterの登場と、物語は一気に物々しい雰囲気へと展開。さらに想いが通じ合ったにも関わらず、まだどこかぎこちなさを感じさせる界とラーティに次々と事件が襲い掛かってきます。
マリアことビハーンがいる限り、彼女の存在に囚われてしまう界。しかしそのビハーンが軍に加わったことで、ストーリーの絶望感が増す結果に。今までの敵に比べると、遥かに暴力的な殺し方をするscatterの描かれ方も絶望を助長しています。
そして、この巻ではナラダの妻・メリィローザも初登場。可憐な外見とは裏腹になかなか逞しい性格のようです。ビハーンやこのメリィローザのように、女性が戦場の中で能力の高さを発揮しているのが本作の魅力でもあります。
戦乱の中、ビハーンを助けるラーティ。界はビハーンを殺そうとするドッグ・Dを止めにかかります。しかしビハーンにはある切り札がありました。実は連邦の将軍たちの身体はあちこちが機械化されているため、ビハーンは彼ら全員と寝ることで極小のナノマシンを体内に送り込み、彼らを「内側から」破壊する作戦を立てていたのです。完全に生身であるフィーダにはこの作戦は効果がありませんでしたが、彼は銃撃によって命を散らします。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2012-07-28
何とかscatterを倒した界たちでしたが、ドッグ・Dが最期の力を振り絞ったゲイルから界を庇い、死亡してしまいます。多くの犠牲を払ってscatter事件は終結し、ビハーンもまたどこかへ姿を消しました。そしてドッグ・Dの葬儀が営まれる中、界はラーティからドッグ・Dが自分に惚れていたと教えられます。2人でドッグ・Dが死亡した場所に花を供えに行く界とラーティ。しかし、突然界の目の前でラーティが倒れてしまいました。彼は何者かによって神経毒を打たれていたのです。
またしても現れて、界の心を惑わせるビハーン。彼女がナノマシンを使ってscatterを静かに殺していく場面は、何か大きな決意のようなものがあるように感じさせます。そして想いを寄せられることが多い界ですが、ドッグ・Dやナラダたちも、どこか危なっかしい界を放っておけないのかも知れません。
この巻では、ヤンの孫であるジンが新しく四天王として加わることに。長い黒髪を持つ美しい青年ですが、もしかしたらヤンも若い頃はものすごく美人だったのでは?と想像してしまいます。しかし、ジンが界に対して複雑な感情を抱いているところに、次巻以降彼の見せ場があることを期待させてくれます。
そして、ラーティと共に生きる覚悟を決めた界。この街で、ラーティのそばで生き抜くことを誓い、物語はラストへ向かって少しずつ動き出します。そして、作者のコメントによると、この巻の時系列は本作の別ストーリーである『Steal Moon』と繋がっています。それぞれの思惑が交差していく6巻です。
ナラダと会うため、宵闇の街を訪れたラーティたち。ここでは連邦監査官、ハイ・ヌーンの総首、マイナの総首たちが一堂に会し、平和のための話し合いがおこなわれようとしていました。マイナの新リーダーにはドッグ・Dの弟であるニーノが就任。ナラダは今は分かれている街を元のようにひとつに戻さないかと提案しますが、全てを宵闇に、と他のリーダーたちを捕縛してしまいます。ラーティから逃げろという無言の命令を受け取った界は、宵闇を探ることに。
一方、ナラダの妻・メリィローザが人質としてビハーンに捕らえられていました。そのためナラダは、他の街を裏切る行動をとらざるをえなかったのです。森の中のとある館にメリィローザがいると睨んだ界は、そこでビハーンと邂逅します。メリィローザが救出されたことでラーティたちの拘束も解かれましたが、ニーノはナラダを殺すと色めき立ちます。
そして、ハイ・ヌーンのダニエルも誰かの指示を受けマイナの幹部を殺害。しかし、やがてダニエルも殺されてしまいました。宵闇の街に眠っているという「イシスの子供」とは一体何なのでしょうか?
- 著者
- 立野真琴
- 出版日
- 2013-08-29
闘争も激化し、何者かの姦計によってさらに多くの犠牲が出てしまいます。そして登場する「イシス」という言葉。それぞれの街には、何か大きな力を持つものが眠っているようです。
また、政界側にも諍いがあり、いろいろなキャラクターの野望が明るみに出始めるのですが、そんな中で静かに暗躍を始めるのがラダ市長の孫のフローリアです。彼は分裂前の街と同じ名前を持っており、ダニエルが殺されたことで急速に力を取り戻していきます。
この巻では、ナラダがリーダーとなった「宵闇の街」のことが初めて描かれます。ナラダと共に、妻のメリィローザもかなりの使い手であることが先の巻で示唆されていましたが、彼ら夫婦がカラスを手足のように使って戦う場面も初披露されます。さらに、ビハーンとメリィローザという強気な女性2人の絡みも見どころ。
また、初登場となったニーノは、かなり好戦的な性格。理知的な印象のあったドッグ・Dに比べ、闘争心をむき出しにしていますが、彼も界に対して不穏な態度を取り、落ち着き始めつつあった界とラーティの関係に新しい波風を立ててくれます。
ダニエルの件で話題になったラダ市長の孫・フローリアの存在が伏線となっていたことが判明し、さらに想像もしない狡猾な性格だったことで、読んでいる側も少なからず衝撃を受けます。彼が今後のストーリーにどのように関わってくるのかもポイント。
ニーノに捕らえられた界。そこには殴られて気を失う直前に見た子供の姿もありました。ニーノに組み敷かれる界でしたが、すんでのところでジンが助けに入ります。子供を連れて逃げ出す界とジン。この子供の正体こそラダ市長の孫・フローリアだったのです。フローリアが市長に通信を送り、サルトの本部に監禁されているから助けて欲しいと訴えたため、アカツキに警官隊が乗り込んでくることになります。
突入する警官隊と交戦するラーティたち。そこへマイナのニーノまでが参戦してきます。そしてラダ市長がサルトに到着。解放されるフローリアでしたが、彼の目の前で市長が銃撃されてしまいました。その後、ベルナルディーノの宣言により、アカツキの街は一時封鎖され、戒厳令が敷かれることに。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2014-09-29
市長を撃ったのは、予想通りビハーンでした。一方、街から逃げ出す界たちは、コヨーテに助けられます。どうやらベルナルディーノは総裁の座を奪い、イシスを手に入れようとしているらしいのです。そしてそのイシスとは、かつて総裁を殺害するために乗っ取られたキラー衛星のことでした。
イシスの驚くべき正体が判明。さらにベルナルディーノが悪意をむき出しにして、アカツキの街を襲い始めます。
そして、この巻でマイナのコヨーテの正体も判明します。彼は連邦のレシーノス総裁の息子でした。父を守るためにイシスの調査をすべくアカツキの街に潜伏していたコヨーテ。連邦軍の大佐として、ラーティたちに力を貸してくれます。相変わらずなニーノも初めこそ兄の復讐のため界を凌辱しようとしていましたが、だんだんと界に惹かれていくようになります。
終盤では、複雑な境遇によって愛を「気持ち悪い」と蔑んでいるフローリアが、目の前で祖父のラダ市長を狙撃されるシーンに胸を掴まれます。もちろんベルナルディーノによる策略なのですが、絶望を感じさせるには十分です。
ラストではラーティが界に対して少し弱気な心の内を垣間見せるシーンがあります。それに対して界は「絶対死なせない」と強く思い、いつの間にかここまで強くなっていた2人の絆を感じることができる重要なシーンとなっています。しかしコヨーテがビハーンに襲撃され、界たちは一気に窮地に。最終回に向けて、物語が加速していきます。
コヨーテはビハーンによって神経毒を打ち込まれていました。そして界たちのもとにビハーンが現れます。彼女の要求は「イシス」と3人の月の女神たち。しかしコヨーテは文字通り「死んでも」3人の女神は渡さないと宣言します。
ベルナルディーノは、総裁のレシーノスに対して大きなコンプレックスを抱えていました。実はレシーノスのルーツはアカツキの街なのですが、ただかつて民間から連邦の総裁に登りつめた祖父に生き写しだとう理由だけで総裁に選ばれたことがどうしても許せなかったのです。ベルナルディーノはレシーノスに対して屈辱を感じ、イシスを手に入れて愚かしい国を正そうとしていました。
イシスは遠隔操作が可能な攻撃型の人工衛星で、地上に「アルテミス」「セレネ」「ヘカテ」という3つの端末が存在しています。しかも「セレネ」はサルト本部の地下に、「アルテミス」は宵闇の本部に、「ヘカテ」はハイ・ヌーンの本部にそれぞれ設置されているのです。そして、界たちの前に望・ソーマ・玉兎という3人の少年たちが姿を見せます。彼らこそ、3人の月の女神でした。
ラーティがある作戦を考えていましたが、望たちは自分たちの意思でベルナルディーノのもとへ向かいます。そこでヘルメス博士がイシスにあるプログラムを送ります。すると衛星がベルナルディーノのいるサルトの本部ビルを攻撃し始めました。一方、ラーティはビハーンと対峙。界も駆けつけますが、ビハーンは自分を殺せと告げます。しかし彼女は狙撃を受け、瓦礫の中へ……。
- 著者
- 立野 真琴
- 出版日
- 2015-11-28
メインのキャラクターが一堂に会し、最後の戦いに臨む最終9巻。ベルナルディーノの野望と、ビハーンとの戦いが、ここでついに終結します。目的のために手段を選ばないベルナルディーノと、互いを信頼してイシスを止める作戦を成功させるラーティたちの対比が描かれています。
ようやく長年抱いていた自分の気持ちに決着をつけるラーティと界。終始緊迫した9巻の中で、ツンデレを発揮してソーマたちに突っ込まれるニーノとジンにほっこりさせられます。
コヨーテには「命をかけて守りたい人」がいるとわかりますが、その人物こそ『Steal Moon』の登場人物である望でした。この巻では『青い羊の夢』『Steal Moon』の両方のストーリーが完全にリンクします。『Steal Moon』を読んだ人ならば、さらに楽しめるかも知れません。
本作は、一途な界の想いが「鋼鉄のラーティ」の心を長い時間をかけて溶かしていくストーリーといっても過言ではありません。彼らが反発し合い、やがて何物にも代えがたい絆を手に入れる純愛物語『青い羊の夢』。重厚なストーリー展開と魅力的なキャラクターたちも見事に花を添えていました。
『青い羊の夢』は、主人公・界やラーティの心の動きが中心に据えられた物語で読み応えがあります。ハードボイルドなアクションも次々と展開されるので、ボーイズラブ初心者にもおすすめです。