現代から大正時代にタイムスリップしてしまった主人公が、曾祖父の親友と出会い、親交を深めていく物語『ゴールデン・デイズ』。スマホの漫画アプリで無料で読むことができます。今回は、大正浪漫を感じさせる本作の魅力を、ネタバレをしつつご紹介していきましょう。
2005年から2008年まで「花とゆめ」で連載されていた高尾滋の『ゴールデン・デイズ』。現代から大正時代にタイムスリップしてしまった主人公が、その時代に生きるさまざまな人と出会い、ある謎を探っていきます。
タイムスリップした先で曾祖父の友人と出会い、彼とのBL的展開も楽しむことができます。2人の家柄や立場は複雑で恋愛関係はままならず、大正という激動の時代を必死に生きていく姿が魅力でしょう。
深みのあるストーリーに引き込まれること間違いなしです。
- 著者
- 高尾 滋
- 出版日
- 2005-11-18
本作の主人公、相馬光也(そうまみつや)は、幼いころに誘拐された過去があり、そのため異常なまでに過保護な母親に悩まされていました。昔はプロを目指すほどの腕があったバイオリンも、彼女の言いつけで辞めてしまっています。病気で入院している曾祖父、慶光(よしみつ)のお見舞いを日課にしていました。
慶光も曾孫の心中を憂い、ある日、自分がずっと後悔を抱えながら生きてきたことをアルバムを見つめながら語りかけます。
「私にはね ずっと悔やみ続けていることがあります」
「もしも時を戻す術があるのなら 何を引き換えにしても構わない」(『ゴールデン・デイズ』1巻より引用)
光也がのぞきこんだ写真には、彼と瓜二つの容姿をした若かりし頃の慶光と、眼鏡の青年の姿が写っていました。
その夜、慶光の危篤の報せを受け、光也たちは再び病院に駆けつけます。しかしそこで突然地震が起こり、光也と母親は階段から転げ落ちてしまいました。
そして彼が目を覚ますと、そこにあったのは大正時代の街並みと、写真に映っていた眼鏡の青年・仁の顔でした。
本作でメインに描かれるのは、少年同士の交流です。しかしひと括りに「BL」といっても、光也と仁に直接性的な接触があるわけではありません。心の動きに重きを置いて、丁寧に人間関係を描いていきます。
相手を慕う心は友情を超えた深い愛情で、その純粋な気持ちは性別などを飛び越える説得力を感じるでしょう。
このような丁寧な心理描写は、「花とゆめ」という少女漫画誌ならではかもしれません。また作者の高尾の画風も美しく可憐で、読者の目を楽しませてくれます。
BLですが、BL好きでない人も夢中になれるはずです。
- 著者
- 高尾 滋
- 出版日
- 2006-12-18
本作のメイン舞台は大正時代。登場人物の服装や街並みなどのディティールにも注目です。高尾の細かなこだわりを感じることができるでしょう。読者の心をほんわかと癒してくれる、優しいタッチも魅力的です。
タイムスリップをした光也は、曾祖父の慶光とそっくりの見た目だったため、「記憶喪失になった慶光」として過ごすことになりました。慶光は幼いころに両親を亡くしていて、父親の友人である春日真一郎(かすがしんいちろう)の家に引き取られています。仁はこの家の子どもです。
春日家は由緒正しい名家で、仁の祖父は伯爵の位を持つ権威ある人物でした。春日家で生きる者には厳格に接していましたが、そんななか真一郎が結婚したのはイタリア人のアンジェ。2人は愛し合い子どもをもうけましたが、当時の外国人に対する差別的観念から、春日家の名を落としたと責め立てられる立場になってしまいました。
それは仁に対しても例外ではありません。ハーフである彼への当たりは強いものでしたが、そんな仁を春日家に引き取られた慶光が良き理解者として支えます。
大正時代ならではの格差や差別など、やや重たいテーマをはらんだストーリーには深みがあり、思わず考えさせられる場面があるはずです。
本作の魅力のひとつとして、個性豊かなキャラクターたちが挙げられます。光也は長くてサラサラの黒髪が特徴的な美男子。しかし王子のような見た目とは裏腹に、けんかっ早い性格です。しかし彼とそっくりの慶光は、物腰柔らかで温和な性格。同じ顔なのに正反対なのです。
一方の仁は、イタリア人である母親ゆずりのキレイな顔立ち。くせっ毛の赤髪が特徴です。幼いころから迫害ともいえる差別を受けてきたため、自分が敵とみなした相手にはとことん冷徹に振る舞います。
優しく接してくれた慶光のことは特別に想っていて、友情を超えた感情を抱いていました。どこか影のある雰囲気ですが、聡明で、愛情深い一面には愛着を感じずにはいられません。
この他に登場するキャラクターたちも個性的な人ばかり。ちなみに仁には姉妹がいるのですが、彼らはそれぞれをチェスの駒にたとえた「クイーン」「ビショップ」などの愛称で呼びあっています。個性を引き立てた呼び名にも注目してみてください。
- 著者
- 高尾 滋
- 出版日
- 2008-03-19
ずっと謎だった、光也が大正時代にタイムスリップしたワケ。そこには、彼の曾祖父である慶光の後悔と、「仁を救いたい」という思いの強さが関係していました。
慶光の願いは「奇跡を起こす」ようなもので、その願いは歴史を変えてしまうほどのもの。そしてそれは、仁と一緒の時を過ごすうちに、光也の願いにもなっていきます。
しかし歴史を動かすのは難しく、彼の前には厳しい現実が立ちはだかるのです。
物語の結末は、ぎゅっと胸が締め付けられて涙してしまうような、悲しくて切ないもの。しかし仁をはじめさまざまな人と過ごした光也の経験は、彼のなかに大きな変革をもたらしました……。
美しく繊細なタッチで描かれる、大正時代の情緒溢れる街並みは魅力的。そこで生きる光也と仁は、おのおのが置かれた複雑な立場のなかで、友情を超えた深い愛情を抱いていきます。青年たちの迎える結末は切ないもの。しかし彼らが経験した日々がかけがえのないものであったと願うばかりです。スマホの漫画アプリで無料で読むことができるので、気になった方はぜひチェックしてみてくださいね。