9つの命を受けて生まれた猫たちが暮らす猫の世界。そこで取り立て屋として働いている八潮に命を救われた三雲は、恩返しをするため彼を追いかけ仕事の相棒となることに。不思議な猫たちの世界を描いた『八潮と三雲』がスマホで無料で読むことができます。
- 著者
- 草川 為
- 出版日
- 2010-06-04
9つの命を持つ猫たちが暮らす世界で、その命の管理をしていた男・八潮。そんな八潮に助けられた三雲は、彼に恩返しすべく近づきます。成り行きで取り立ての仕事を手伝った三雲は、その後正式採用され八潮の相棒に。
八潮への愛を隠すことなくアタックする可愛い三雲と、そんな三雲の態度に顔色ひとつ変えず仏頂面を貫く八潮の、付かず離れずな関係が恋愛ものとしても、仕事のバディものとしても魅力的な『八潮と三雲』。
そんな本作の魅力を、ネタバレも含めながら紹介していきます。
人間の住む世界のすぐ隣にある、不思議な猫の世界。9つの命を持って生まれた猫たちが暮らす世界で取り立て屋をやっていた八潮。そんな八潮に人間世界で命を救われた三雲は、彼に恩返しをするため彼が追っていた人物を探す手助けをします。
その縁で、彼の相棒として取り立て屋に雇われた三雲は、八潮へのラブコールを留めることなく発しながら、仕事でも次第に活躍するように。トラブルに巻き込まれながらも、順調に実績を伸ばす2匹は、徐々に私生活でも距離を縮めていきます。
『八潮と三雲』の主人公は猫たち。「九生の猫」と呼ばれる、9つの命を持った猫が暮らす世界で、残りの命の数に応じて天から名前が与えられます。八潮であれば残り8つの命、三雲であれば残り3つの命ですね。
死んで名前が変わったら、本人とその地域のボスにわかるようになっていて、名前が変われば更新が必要になります。これは私たち人間と同じですね。ただ人間と違うのは、名前が変わったのに更新手続きをしないまま以前の名前で暮らし続けると狂ってしまうということ。更新を怠ると彼らは巨大な化け猫になってしまうのです。
化け猫は正常な判断力も思考回路も持ち合わせておらず、手当たり次第に暴れまくります。更新を怠った彼らに秩序を乱されないよう更新を催促するのが「取り立て屋」の仕事で、それはエリアのボス直属の組織になります。
基本的に本作の世界は猫の暮らしを中心としていますので、身近な周りの猫に置き換えて考えると、とある一画に住む強いボス猫とその部下たちが、いうことを聞かない他の猫に縄張りを荒らされないため先手を打つ、という感じではないでしょうか。
エリアはいくつにも分かれているようで『八潮と三雲』は一色というボスが治める地域に住む猫になります。猫の姿で想像するとなんだか可愛らしいですよね。
三雲たちの住む猫の世界は「九生の猫」のみが暮らせる場所で、1つの命しか持たない普通の猫は特別なパスがないと入れません。そんな彼らの世界は、人間世界にあるちょっとしたスキマの向こう側に広がっていて、人間世界では猫の姿、猫世界ではヒトの姿に変わるのです。
死んだのが猫の世界であれ人間の世界であれ、命は変わらず1つ減るのみ。死んだら名前が変わるだけで、子どもに戻る、一気に老ける、ということはありませんが、その名前にこだわりを持つ者も多い様子。そういった猫たちは、狂うギリギリまで名前を更新しないのです。
確かに、特別思い入れのある名前だったら変えたくないものですよね。もちろん、作中では「そんな理由!?」と思ってしまうことも多々ありますが、これが猫ちゃんたちが行っている押し問答だと思うと、つい笑みがこぼれてしまいます。
三雲はとても可愛い美猫で、助けてもらったときに八潮がそっけない態度をとったことに心を奪われたそう。普段は引く手数多でちやほやされることの方が多かったのです。
そんな三雲の好き好き攻撃にはそっけなく、それ以外では優しさを見せるなど、不器用で偏屈な八潮に、三雲の好きは深まるばかり。とはいえ、常に塩対応な八潮に必要以上を期待していない三雲は、そのちょっとした優しさが嬉しい様子。
どんな子であれ、自分をまっすぐ慕ってくれるのは嬉しいものですよね。
ただ、三雲の想いを知れば知るほどその重さに八潮はゾッとすることも。三雲はもともと人間の世界や別のエリアで生活をしていて、一色の治めるエリアに来たのはつい最近なのです。八潮を追って来たのですね。
「改めて考えるとおまえ重いな…」(『八潮と三雲』2巻より引用)
仕事で三雲の家にやって来た八潮は、板をつぎはぎした掘っ建て小屋に、改めて三雲の愛の重さを実感します。しかし、この仕事のせいで三雲の家は倒壊してしまい、八潮の家に居候することが決まったのです。家が壊れたことに責任を感じているのかもしれませんが、なんだかんだ三雲を気に入っている証拠かもしれませんね。
三雲の新居が建つまで八潮の家にいることになりましたが、仕事以外に一緒に行動することはほぼない様子。しかし、仕事を一緒にしていき、三雲のことを知るうちに、八潮の三雲への態度にも少しずつ変化が……。
三雲の周りについて消えない男の影に眉をひそめる八潮の本心は……。
想いが通じ合ってからの方がすれ違う2匹の恋模様に、読んでいる方がもどかしくなってしまいそうです。
三雲への想いを自覚した八潮ですが、告白は失敗に終わり、それからも何かと噛み合わない生活が続きます。改めて八潮に告白することを決意した三雲は、一色の助言に従い、いつも通り正面きって告白することを決意し、その心意気をそのまま八潮に伝えますが、そんな八潮から待ったがかけられてしまいます。
八潮は、三雲の弟分で普通猫の白と、三雲を好きにならないと指切りをしていたのです。白が弟として、男として三雲を好いていると知っていた八潮は、その約束を反故にした義理として、白に認めてくれるよう直談判しにいくことを決めていました。
多くの知り合いから「偏屈」と言われる八潮ですが、こうと決めたら臆することなく自分の気持ちをいう真っ正直なところもあるのです。それが八潮の魅力のひとつ。
元が猫だからか、無邪気というか純粋というか、「人間の偏屈」に比べると非常に可愛らしいものがあります。眉間のシワはよったままですが、何ごとにも真面目な八潮の姿は、三雲でなくとも胸打たれるものがありますよ。
白との問答の末、三雲に改めて想いを告げに行った八潮。2匹が両想いを実感しているなか、取り立て屋のブラックリストに入っている「二葉」が死んだことが判明。今回も更新を踏み倒し暴れることを予想した一色ですが、彼には仲間がいるようで、エリアのあちこちで巨大な化け猫が暴れます。
- 著者
- 草川為
- 出版日
- 2014-07-04
二葉は更新するのを嫌がっているわけではなく、大好きな取り立て屋の仕事をもっと盛り上げようと、ギリギリまで更新をしないよう。悪意がない分たちが悪いというか、気ままで実に猫らしいキャラクターですね。
八潮と三雲も感慨に浸る間もなく、取り立て屋総出で二葉とその仲間を追いかけ、二葉の真意を探ります。そのなかで「九生の猫」にかけて9カ所で化け猫を暴れさせ、猫の形を作り上げるのではと予想。しかし、困ったことに二葉が最後に暴れると予想される場所は人間の世界でした。
人間の世界で猫の姿のまま巨大な化け猫を抑えるのは非常に難しいものがあります。ただ「九生の猫」は、自分の命1つと引き換えに人間世界でもヒトの姿になることができるのです。
彼らは無事に仕事を終えることができるのか、2匹は無事取り立てできるのか、最後の活躍まで目が離せません。
- 著者
- 草川 為
- 出版日
- 2010-11-05
9つの命を持つ猫たちが暮らす世界で取り立て屋として働く猫たちの、仕事ぶりと生活、恋模様も描いた本作。
残り8つの命を持っている八潮と、残り3つの命を持っている三雲の恋はもちろん、仕事のバディものとしても読み応えのある作品となっています。
物語はおおむね猫の世界で進むので、ヒトの姿で描かれることも多いですが、たまに出てくる人間世界での猫姿は、猫好きにはたまらない可愛らしさがありますよ。もちろん、普段のヒトの姿でも、猫らしさがうかがえる行動があり、非常に可愛くかっこいい場面も多いです。
仕事のパートナーである2人が、私生活でも徐々に絆を深めていっている過程は、この作品の見どころでもあります。どんな風に距離を縮めるのか、スマホのアプリ「マンガPark」で無料で配信されていますので、ぜひ読んで確かめて見てください。
「猫に九生有り」ということわざもある通り、猫は不思議な魅力をたくさん持った動物です。人間とは違う猫たちの恋模様は、ほっこりとしていて胸が温かくなりますよ。