新井素子は、「新口語文」と評される、口語表現を反映した文体を多用し、ライトノベルの草分け的存在として知られています。 ライトノベルを読んだことがある方はもちろん、読んだことがない方も、是非その文体に衝撃を受けてください。
1977年に高校2年生という若さで、第1回奇想天外SF新人賞に佳作入選し、文学界に衝撃を与え、「SF界のプリンセス」と称されました。
2度の星雲賞や日本SF大賞を受賞し、日本SF作家クラブ会長を務めていたこともあり、SFに関する作品を多く書いていますが、実体験に基づくコメディ小説や、サイホコラーのような作品も多く出版しています。
新井素子の30冊目であり、日本SF大賞を受賞した壮大な惑星年代記です。
遠い未来のこと。地球から他の惑星に移民が行われるようになっていました。その中の9番目となったのが、惑星「ナイン」です。船長のキャプテン・リュウイチ、その妻であるレイディ・アカリは、選りすぐりのクルーとともに移民船に乗り込み、ナインに定着します。
凍結受精卵や人工子宮により、人工120万人のナイン社会を作り上げますが、なぜか新生児が生まれにくくなり、人口が減少し、とうとう「最後の子供」ルナが生まれてしまいます。
たったひとり、ナインに取り残されたルナは、未来の治療のためにコールドスリープしていた人間を、ひとりずつ起こし始めるのでした。
- 著者
- 新井 素子
- 出版日
自分が最後の子供だと知っていてなぜ自分を生んだのか。自分の人生に何の意味があったのか。起こされた各人の人生に対する思いと、ルナの思いがぶつかり合って、何かがすこしずつ変わっていきます。
ゆるやかに蛍達が飛んでいく最後の情景は、寂しく悲しいのに、とても穏やかです。現在の日本でも少子化が進んでおり、ありえないストーリーではありません。あなたは最後のひとりになっても生きていけますか?
星雲賞を受賞し、映画化された作品です。表題作ほか2編が収録されています。
嶋村信彦は7歳の時に迷い込んだ裏山で聞こえてきたピアノの音に誘われるようにして、年下の少女に出会いました。なんとその少女は、緑色の髪をしていました。少女は信彦の黒髪を不思議がり、信彦がピアノの音だと思ったものは、自分のママの歌だと言いました。裏山の化け物の噂を思い出した信彦はそこから逃げ出してしまうのでした。
- 著者
- 新井 素子
- 出版日
月日は流れ、25歳になった信彦は生物学の研究室で助手をしていました。ある日、公園の陽のあたるベンチに座っている髪の長い女性、三沢明日香に恋心を抱くようになります。明日香は昔会ったあの少女に似ていたのです。
明日香の本当の髪の色は緑色でした。それを知った研究室の人間は、施設に明日香を監禁してしまいます。一体彼女の正体は何なのでしょう。信彦はどうするのでしょうか。ふたりにどんな結末が待っているのでしょうか。
自分の大切な人が自分たちとは違う何かだった時、あなたはどうしますか?ショパンのノクターンの聞きながら、読んでいただきたい一冊です。
主人公は後藤明という女性です。頼りになる夫きーちゃんとふたり暮らしをしています。文章を書くのが好きなあきらはライターの仕事をしていましたが、夫に後押しされて書いた小説が新人賞を受賞してしまいます。幸せ絶頂のあきら。
そんななか、ささいなきっかけで、あきらは浪人生市原裕司の逆恨みを買ってしまいます。「いい気になるなよ」。そんないたずら電話や手紙を受け取るようになり、精神的に弱いところのあるあきらは、追い詰められていきます。不運にも夫の事故死が重なり、とうとうあきらは壊れてしまうのです。
夫の死後、あきらは裕司への復讐を決意し、裕司に自分を殺させようとします。浪人生の裕司は、もうすぐ二十歳の誕生日を迎えることはわかっていました。二十歳になれば、殺人で逮捕できるのですから……。
- 著者
- 新井 素子
- 出版日
- 2002-09-26
あきらは、『ハッピー・バースデイ』と題された小説を幾通りも書いていました。夫が死んでいないバージョン、夫の事故が軽いけがで済んだバージョン、裕司を殺すバージョン。毎日毎日、あきらは小説の中で生きなおすのです。
人間の弱さや弱さを描く、サイコホラーです。精神が弱っているとき読むと、少し影響をうけてしまうかもしれません。どうぞ元気な時にお読みください。
ぬいぐるみ好きの新井素子が、ぬいぐるみホラーを目指して書いたとされる作品です。
事故で両親を亡くした成美は、ママの親友である裕子さんに引き取られることになります。ぬいぐるみの「くますけ」を片時も話すことができない成美は、くますけ以外を信じることができません。
それでも成美の心に近づこうと精一杯の裕子さんと、仲良くしようと頑張る晃一おじさんに、少しずつ心を開き、子供らしい感情を持てるようになっていきます。そんななか、ある事件が起こります。裕子さんの秘密は、一体何でしょうか。
- 著者
- 新井 素子
- 出版日
- 2012-08-23
ラストに関しては、ハッピーエンドととらえる方も、少し怖いと思う方もいるでしょう。ですが、親子のあり方を考えれば、血がつながっていてもいなくても、ちゃんとした親子になれるという結末は、間違いなく幸せなことではないでしょうか。
自分が子供のときに大切にしていたぬいぐるみのことを思い出しながら、読んでいただきたい作品です。
数日後に隕石が地球にぶつかり、人類は滅亡する。そんなニュースが世界中に流れます。癌にかかって余命いくばくもないからという理由で、恋人から突然別れを告げられた女子大生の圭子は、決意します。最後にもう一度、会いに行こう。交通機関が止まっている中、歩いて鎌倉を目指す道中で、4人の女性と出会います。
- 著者
- 新井 素子
- 出版日
- 2008-05-29
由利子は、不理想の家庭を作りたかっただけでした。滅亡のニュースを聞いて、不倫相手のところに行こうとする夫。「わたしの中にいれてあげる。お腹の中に帰してあげるわ」そう言って包丁を持ち出し……。
両親自慢の娘である真理子は、夏期講習がなくなったことが不満でした。誰もいない公園で、世界史の参考書を広げて……。
眠って夢を見ることが大好きな智子。ある日、おしゃれをしたママとパパが、夢を見ないほどぐっすり眠れる薬をくれたのです。夢を見られないのは嫌で、飲んだふりをした智子が翌朝みたものは……。
妊娠している恭子は、愛する夫と、核シェルターを持つ会社に勤めていた昔の恋人との間で、心が揺れ動きます。最後に出した答えは……。
正気と狂気のはざまをくぐり抜け、果たして圭子は恋人に会うことができるのでしょうか。どうぞ自分の大切な人を頭に描きながら、読んでみてください。
どの作品も、独特と言われる口語体で書かれているため、読みなれない方は最初に違和感を覚えるかもしれません。その違和感を忘れたころには、きっと新井素子の世界に、すっかり入り込んでしまっていることでしょう。