2018年現在「週刊少年サンデー」で連載中の漫画『初恋ゾンビ』。男たちの初恋相手の姿が見えてしまうという斬新な設定で、ラブコメながらも深い恋愛観が描かれています。今回はそんな本作の魅力と見どころを、10巻までのネタバレと共にご紹介していきましょう。
とあるきっかけで、世の中の男性が心に秘めている妄想の初恋相手が見えるようになってしまった主人公。本作は、彼が送るドタバタの日常と恋模様を描いたラブコメ漫画です。
作者の峰浪りょうは、本作が初の少年誌での週刊連載。さまざまな角度から登場人物たちの恋心を描いていきます。
その恋愛観が実に細やかに描かれているところが何よりの魅力でしょう。また、主人公が見えるようになったのは男性たちの「理想の姿の」初恋相手なので、ちょっぴりセクシーな恰好をした可愛い女の子がたくさん出てくるのもうれしいポイント。
個性的でタイプの異なるキャラクターや、綿密に練られたストーリーは、ラブコメ漫画の傑作といわれるほど。ファンからはアニメ化を期待する声が上がっていますが、いまのところその予定はないそうです…。ですが、これほどまでに人気のある作品なので、いつかアニメ化するかもしれませんね。
今回は、そんな本作の見どころを10巻までご紹介していきます。ネタバレを含むのでご注意ください
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2016-03-18
何事にも情熱を持たず、ほどほどに行動するのがモットーの省エネ系男子、久留目タロウ(くるめたろう)は、10代のうちは彼女もいらないと考えていて、恋愛にも興味がありません。
そんな彼は、ある日体育の授業で幼馴染の江火野芽衣(えびのめい)が打った打球が額に当たり、気絶してしまいました。
そして目が覚めると、目の前には宙を舞う美少女が……。顔も体も声もすべてがストライク。「タロちゃん」と話しかけてきます。
気が動転して保健室から抜け出すと、なんと廊下にも大勢の空飛ぶ美少女がいました。
彼女たちは、男性が心に抱いている初恋相手の理想の姿。彼の目の前に現れた「イヴ」も、タロウの欲望と妄想と願望を凝縮した存在だったのです。男たちの妄想が具現化された彼女たちを、タロウは「初恋ゾンビ」と名付けました。この時から、彼の波乱万丈の日々がはじまります……。
世の中の男性の初恋相手の姿が、妄想で脚色された状態で見えるようになるという斬新な設定の本作。当然ながらどこを見渡しても美少女ばかりで、読者も目移りしてしまいます。
タロウの「初恋ゾンビ」は、幼稚園のころに英会話教室で知りあった女の子。外国に引っ越してしまったためもう会うことはないと思っていましたが、なんとイヴが見えるようになった翌日、帰国子女として転校してきて……。
指宿凛々澄(いぶすきりりと)と名乗った帰国子女は実は男子!タロウは男の子に初恋をしていたことにショックを受けつつ、「初恋ゾンビ」が見えるようになってしまった現状をどうにかしようと奔走します。
タロウの「初恋ゾンビ」イヴのもとである指宿凛々澄は、実は男装をした八女凛々澄(やめりりす)という女の子でした。
幼いころにタロウと頭をぶつけたことで、彼女も「初恋ゾンビ」が見えるようになっていて、自分を妄想ネタにしている男へ恐怖心を抱き、女であることを隠して生きています。このような状況にしたタロウに強い恨みを持っていて、復讐のために日本に帰ってきたのでした。
しかしタロウは、男であることを信じたままです。自分と同様に「初恋ゾンビ」が見える同志として、凛々澄とともにゾンビたちの成仏をしようと試みます。ちなみに「初恋ゾンビ」が消える方法は、初恋を実らせる、もしくは初恋に区切りをつけること。
そんな時彼らの前に、学校中の男子の初恋を奪っている女子生徒、肆部合みさを(しぶあいみさお)が現れました。「初恋キラー」と呼ばれる彼女は、なにやら凛々澄のことを知っているようで……。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2016-06-17
おしとやかで、可憐で美しい、まさに男の理想の姿をした女の子が登場。その見た目や仕草から、多くの男子高生たちが恋に落ちてしまうのも納得です。
しかし彼女の姿はすべて演技。相手の目を見ることで初恋経験の有無を判断することができ、世の中の男の初恋を奪うことに快感を覚えている悪女でした。
初恋は、ある意味「幻想」だということなのでしょうか……。
さらに、タロウと凛々澄が物理的に急接近!?はたして女であることを隠しとおせるのでしょうか。
「初恋キラー」の名をほしいままにしてきたみさをでしたが、タロウの機転により凛々澄の攻略はあえなく失敗に終わります。普段は省エネを心がけるタロウの頑張る姿を見て、凛々澄の心は少しばかり開いていくのでした。
そして、そんな頑張るタロウの姿を見ているのは凛々澄だけではありません。芽依も変わりつつある幼馴染を心配そうな目で見ていたのです。
芽依の心境など知らないタロウは、校内で凛々澄とともにあらゆる人の恋路を手伝うことで初恋ゾンビの成仏をしようと画策します。そして、2人のもとに幼馴染に恋する女の子・薬院が訪れたのです。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2016-08-18
しかし、薬院の想い人である津奈木にはすでに彼女がおり、失恋は確定的……、かに思われましたが、津奈木の初恋ゾンビの姿は薬院だったのです。タロウたちは2人の恋を成就させるために一芝居うつことになるのでした。
今回、幼馴染の恋心というものが「呪い」に例えられました。
「“ずっと一緒にいた”……“これからも続くと思った”……」(『初恋ゾンビ』3巻より引用)
幼馴染がいる方には共感できる思いなのではないでしょうか。形がどうであれ、交流はずっと続いていく……。それが恋であればなお素敵ですね。このように、登場人物の心境が赤裸々に描かれるのも本作の魅力です。
さて、回り道ばかりしている幼馴染の恋路ははたしてどうなるのでしょうか。そして、『初恋ゾンビ』の幼馴染といえばタロウと芽依のコンビ。この2人が互いをどのように認識してるのかも気になるところです。
タロウと芽依の中学時代からの友人・八代龍。省エネを信条とするタロウが唯一親しくしている男子で、親友といえる関係を築いています。彼はタロウが省エネから徐々に脱却しているさまを見て、いい変化だと影ながら応援していたのです。
そんなある日、教室内で誰かの初恋ゾンビが暴走し、あたり一面が茨で埋め尽くされてしまいます。それほど強烈な初恋ゾンビを抱えていたのは、なんと恋とは無縁そうな龍だったのです。
龍の初恋ゾンビは眼鏡をかけたおとなしそうな少女。しかし、その少女の現状はクラスメイトが恐れるヤンキー少女となっていたのでした。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2016-10-18
自身を気にかけてくれる龍のためにもなんとか初恋を実らせてやりたいタロウは、芽依の協力を仰ぎ凛々澄とともにヤンキー少女・天草亜美に接触。しかし、ヤンキーだと思われた亜美の本来の姿は、龍の初恋の姿のままで……。
恋愛に勘違いはつきものです。それが相手を思う気持ちが強いほど、ネガティブな勘違いをしてしまうもの。龍と亜美はその典型で、アホらしいすれ違いで互いへの想いに蓋をしていたのです。ギャグを交えた今回のエピソードは一見の価値あり!
そして、誤解が解ければあとは簡単にくっつくか、と思いきや恋愛はそんなに単純なものではありません。ラブコメながらも、恋愛の複雑さを細かに描いているのも本作の魅力なのでしょう。
また、タロウと芽依の関係にも変化が!?各所で巻き起こる恋愛模様はどのような形になっていくのでしょうか。
凛々澄のイケメンっぷりは他校にも名を轟かせ、校門にはどうにか凛々澄とお近づきになりたい他校生が出待ちをしていました。その中の1人の少女・二月田朱々子(にがつでんすずこ)は凛々澄を見るやイヴと呼び、過去の姿を知っているようなのです。
また、タロウのことも知っているよう。実は朱々子は2人が通っていた英会話教室の後輩だったのでした。そのうえ、凛々澄が男装していることも看破します。
さらには過去に2人が好き合っていたことを覚えていた朱々子は、凛々澄にお節介を焼き始めるのです。朱々子の計らいでかつての英会話教室で2人きりになったタロウたち。凛々澄はかつて別れた場所で、タロウが別れ際の真実を思い出すことを願うのでした。
しかし、鈍感を極めたともいうべきタロウが凛々澄の願う通りに過去を思い出すわけもなく、朱々子の企みは失敗に終わります。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2016-12-16
こうしてさまざまな出来事があった1学期も終わりを迎え、夏休みに突入しようとしていました。終業式の日、地元の祭りがおこなわれ、タロウは龍に誘われて亜美と芽依と行くことに。
客観的にみればダブルデートともいえる組み合わせ。当然、龍と亜美は2人きりになりたいので、自然とタロウと芽依も2人っきりになります。
いつもはジャージ姿の芽依の珍しい浴衣姿に、タロウの視線は釘付けとなり……。
芽依との仲が急接近!?男勝りで強気なキャラのギャップをうまく引き出せる作者の技量はさすがとしかいえません。初恋ゾンビだけでなく、登場人物にもしっかりと魅力が備わっているのも本作の魅力の1つ。
しかし、ここで新たな疑問が生まれます。違う人物に恋をした場合、初恋ゾンビはどのようになってしまうのでしょうか。この疑問から凛々澄や芽依のみならず、イヴにも注目していくとより面白い展開となっていきます。
ようやく待ちに待った夏休みに突入。イベントを盛りだくさんに企画したい友人たちですが、基本の省エネスタンスがまだ治らないタロウはめんどくさいと突っぱねます。
しかし、以前にタロウの尽力によって好きな男子とくっついた三股希空(みまたのあ)の頼みで、彼女の従姉・三股真里南(みまたまりな)の恋路を手伝うこととなったのです。
一方、凛々澄は1人別荘を訪れ、女の姿で海でのバカンスを楽しんでいました。しかし、偶然にも凛々澄のプライベートビーチとタロウが訪れた海の場所が近く、けっきょく2人は遭遇してしまうのです。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2017-03-17
2人そろったからには、協力して真里南の恋路を応援します。絶賛婚活中の真里南は2人の男に言い寄られており、どちらと付き合うべきか悩んでいたのです。
しかし、真里南の本心は10年前の初恋から止まっており、その恋心を押し殺して結婚しようとしていたのでした。
今回は学生の恋愛ではなく、大人の恋愛が描かれます。現実では好きという気持ちだけで結婚をするのは難しく、時には自身の気持ちを押し殺してでも選択をしなければならないこともあります。
しかし、本当の想いを告げずに後悔をするのは大人でも同じことなのです。歳をとることで強固となっていく素直になれない「仮面」との付き合い方をこのエピソードで学んでみましょう。
こういった少々複雑な恋愛模様が描かれるのも本作の魅力といえます。ついつい人の前で仮面を被ってしまう人はぜひとも参考にしてみてくださいね。
夏休みも中盤へと差し掛かり、タロウたちは林間学校へと赴きます。しかし、タロウと凛々澄の林間学校は行きのバスから出鼻をくじかれました。クラスメイトの門司琥珀(もんじこはく)の抱える初恋ゾンビが、モザイクをかけなければならないほどの凄まじいものとなっていたのです。
それはグロ好きの門司がクラスメイトの千綿咲(ちわたさき)にフラれたことで「失恋ゾンビ」へと姿を変えてしまったのでした。
しかし、フラれた原因は千綿がロマンチックな告白を夢見ていたからで、タロウは門司のためにロマンチックな告白プランを練り始めます。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2017-05-18
しかし、タロウが紙に書いた告白プランを芽依や龍が見てしまい、タロウが告白すると勘違い!「その相手は誰だ!?」となると龍は芽依なのではと指摘しました。
龍の言葉を芽依は否定したものの、どうやらまんざらでもない様子。キャンプファイヤーで他の男子に声をかけられても待ち人がいると断るのです。
そしていよいよタロウが動き出しますが、門司のために動くタロウは芽依に告白する予定なんてありません。自分のところに来ずに、林の奥に進むタロウを見た芽依はタロウを追いかけて……。
まんざらでもない、というよりもここまでの芽依の様子を見るに、完全にタロウに惚れているのではないでしょうか。そして、女の子らしい芽依の顔を見るたびにタロウの心も揺さぶられます。
しかし、今のタロウの優先事項はどうしても初恋ゾンビをどうにかすることになってしまうので、2人の仲の進展はなかなか望めないのが歯がゆいところ。2人の仲が幼馴染からどのように変化するのかというのが本作の見所の1つとなります。
2人の関係をまどろっこしいと感じながらも、くすぐったい恋模様が描かれるのも本作の魅力なのでしょう。
夏休みの終盤、タロウは曾祖父も初恋ゾンビが見えるという情報を入手し、凛々澄とともに曾祖父の実家へと赴きます。
情報通り曾祖父も初恋ゾンビが見え、しかもイヴ同様に話せる初恋ゾンビ・キョウコを抱えていたのです。しかし、曾祖父はある時を境にキョウコが見えなくなり、最近になってタロウと同じく頭に衝撃を受けたことで再び初恋ゾンビが見えるようになったといいます。
タロウは何があって初恋ゾンビが見えなくなったのか聞き出さそうとしますが、ボケの始まった曾祖父とはなかなか話が進みません。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2017-07-18
一方、自分と同様に話せる初恋ゾンビと出会ったイヴとキョウコは瞬く間に意気投合。そして、キョウコはイヴに自身の原型となった本物のキョウコの捜索を願い出ます。
タロウや凛々澄の手伝いで何とか本物のキョウコの情報を入手しますが、初恋の人との再会は初恋ゾンビのキョウコがもしかしたら成仏してしまう可能性をはらんでいるのです。
しかし、初恋ゾンビにとって成仏は恐怖ではありません。むしろ、「本来の望み」だとキョウコは語ります。その言葉をきいたイヴは否定もせずにキョウコから逃げるように去っていくのでした……。
今回はタロウ、凛々澄、曾祖父の3人の初恋ゾンビへの思いが描かれます。初恋ゾンビに苦しめられた凛々澄は見えなくなることを願い、逆に曾祖父はキョウコを愛しており、初恋ゾンビと生きることを願っているのです。
そしてタロウはというと、イヴとともに生きていきたいと願っており、曾祖父と同様に初恋ゾンビが見えたまま生きていくことを決意します。
このように、三者三様の、恋愛観のみならず人生観も描かれるのが本作の面白いところでしょう。
夏休みも明け、文化祭の季節に突入!タロウの所属するクラスは文化祭の出し物で「ロミオとジュリエット」の劇をやることになりました。相変わらず省エネを信条とするタロウらしい提案で、特に細かな配役を決めずにクラス一同でシーンごとに分担して演劇をおこなうことに。
公正なるくじ引きの結果、タロウと芽依は演劇の肝となる告白のシーンをロミオとジュリエットとして演じることとなったのでした。
しかし、配役が決まると芽依に惚れているクラスメイトの初恋ゾンビが暴走し、イヴに危害を加えてきたのです。タロウはイヴを守るために、芽依に惚れている男子生徒と勝手に配役を交換してしまいます。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2017-10-18
そのことを知った芽依の反応は、意外にも涙を流すといった素直なものだったのです。
そして文化祭当日、ジュリエットを演じる芽依の前に現れたのは……。
さて、ラブコメの王道イベント文化祭が開幕します。林間学校や海といった定番のイベントを抑えてくるところは本作の1つの美点でしょう。そして、そういったイベントをこなしながら芽依が徐々に素直になっていくところも見どころとなっています。
タロウよりもはるかに高い長身で男勝りな性格をしている芽依ですが、彼女も立派な女の子なのです。だんだんと素直に女の子らしい面をみせてくる芽依はますます魅力的なキャラとなっていきます。
そして、芽依に魅力を感じるようになったタロウの心はどのように動くのでしょうか。
演劇では当然のようにロミオに配役された凛々澄でしたが、やはり女の子としての心を捨てきれていない彼女の心はロミオである自分に納得ができません。
そのうえ、芽依とタロウが演じたロミオとジュリエットを見てしまった凛々澄の心には限界が訪れてしまいます。しかし、タイミング悪くロミオの服を脱ぎ去り、文化祭から逃げようとした凛々澄の前に芽依が現れてしまったのです。
凛々澄の体を見てしまった芽依は女だということに気づいてしまい、もうごまかしようがありません。凛々澄は芽依にとある事情から男装をしていると正直に話し、黙っていることをお願いします。
芽依は凛々澄の目から何か並々ならぬ理由と想いを察し、黙っていることを約束したのでした。
- 著者
- 峰浪 りょう
- 出版日
- 2018-01-18
さて、ついに凛々澄の正体が芽依に発覚してしまいます。不器用な芽依ですが、凛々澄のためにあれこれと尽力。やや明後日のほうに突き抜けることもありますが、それも彼女のお茶目な面としてみれば可愛いものです。
しかし、協力する反面で芽依の心は穏やかなままではいられません。ついにタロウを好きだと自分で認めた芽依にとって、凛々澄はタロウに近い恋敵なのです。そして凛々澄がタロウに対して向ける想いにも気づいている節があります。このように複雑な心境が細かに描かれるも本作の魅力の1つ。
三角関係のようになりつつあるタロウと凛々澄と芽依。今後どのような展開となっていくのか非常に楽しみです。
『初恋ゾンビ』の魅力をネタバレと共に紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?少しでも本作の魅力が伝わったなら、ぜひとも読んでみてください。