夏は若さとエネルギーにあふれた青春の季節です。青い海、青い空、真っ白な入道雲、恋と友情、そして切なさとノスタルジー……夏にどっぷり浸れる物語を集めました。
ある事情から離島にある高校へひとり入学した主人公の和希。島での生活にも慣れたころ、「神隠しの入江」と呼ばれる場所で少女倒れているのを発見します。
彼女の名は七緒。不思議なことに、彼女は自分がいた時代は1974年だと言うのです。島に彼女を知る人はいません。七緒は本当にタイムスリップしてきたのでしょうか。
- 著者
- 阿部 暁子
- 出版日
- 2017-10-20
タイムスリップしてきたかもしれない七緒の存在に気をとられるのですが、島や学校の様子がわかってくるにつれ、和希たち他の子どもたちにも違和感を覚えるようになります。
なぜ和希はわざわざ横浜から離島へやってきたのか、なぜそんな彼を追いかけてきてまで面倒をみる少年がいるのか……。
和希の抱えている苦しみが明らかになると、実は物語の最初から忍ばせてあった伏線が次々と意味を成していき、ページをめくる手が止まらなくなるはず。丁寧に作り込まれた構成は圧巻で、描写のどこにも無駄がなく、最初のエピソードがまさかこう繋がるとは……!
時間SFモノですが、魅力的なのは人間関係。あたたかい涙とともに本を閉じることができるはずです。表紙に描かれた海辺に立つ2人の影を見ると、胸がいっぱいになります。
甲子園を前にして、エースで4番の益岡が腰を故障。須藤は、彼のピンチランナーになるよう監督から指名されました。しかし、そのためにフルで出場できる選手の枠を潰してしまっていいのだろうか……。
このほか、甲子園にまつわる短編が2つ収録されています。
- 著者
- 須賀 しのぶ
- 出版日
- 2015-07-17
作者が高校野球のファンだけあって、試合の展開や球児たちの心理描写がとても細やか。あたたかい目線を感じるでしょう。
「ピンチランナー」で描かれるのは、万年補欠だった主人公が「代走」という走る専門家への道を模索する物語。しかも彼が走るのは、腰を痛めしまったためにたった1回だけ出場するエースの打席です。甲子園への執着ともとれる想いの強さに、心動かされるでしょう。
「甲子園への道」はスポーツ新聞の新人記者の目線で描かれる物語。第三者の目線から、2人のライバルの本音が引き出されていきます。
そして「雲は湧き、光あふれて」の舞台は1942年。戦時中のため甲子園の大会は中止になりましたが、それでも夢をあきらめずに努力を続ける少年たちの物語です。
甲子園に向かって走る彼らの姿は、ただ眩しいだけではありません。チームメイトやライバルに対する嫉妬や嫌悪の感情もしっかりと表されていて、それでも困難を乗り越えていくから輝いているのです。
夏にぴったりの一冊だといえるでしょう。
小学5年生の8月、台風が接近しているなかで、主人公の進は右腕だけで泳いでいる広一という少年と出会います。
この日から2人の交流がはじまるのですが、ある日仲の悪い姉に彼の存在を知られてしまい……。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2003-08-28
タイトルにもなっている「サマータイム」というのは、ジャズのナンバー。ピアノの才能にめぐまれていた広一は、片腕だけでピアノを弾いていました。この出会いは進にとって大きな影響を与えるもので、2人は濃密な時を過ごしていきます。
しかしそこに、ひょんなことから姉の佳奈が入り込んでくるのです。いつも不機嫌で進に突っかかってきてばかりの彼女ですが、広一が弾くサマータイムに左手の伴奏をつけはじめて……。
3人の小学生が過ごす、特別な夏。それにふさわしいきらきらした言葉で綴られていて、何度も読み返したくなる一冊です。
死に際の彼女に伝えた「好きだ」という言葉が、彼女を傷つけてしまった……。
残された篠原智は、後悔に苛まれ続けていました。ところが、彼女と初めて出会った日に時間が巻き戻っていることに気づき……?
- 著者
- 赤城 大空
- 出版日
- 2015-01-20
誰しも人生において、「言わなければよかった」と後悔したことがあるのではないでしょうか。本作の主人公・智は、バンド仲間の森山燐のことを好きになるのですが、不治の病で亡くなる直前の彼女に、思わず自分の気持ちを伝えてしまいました。
彼女はひどく動揺し、その後会えないまま亡くなってしまいます。
智が後悔していると、なぜか燐と初めて出会った河原まで時間が巻き戻り、もう1度出会いからやり直すチャンスを与えられるのです。
2度目の夏、死ぬ運命を背負っている彼女に何をしてあげればいいのか。どんな時間を過ごせばいいのか、何が最善なのか……智はひたすら悩み、考え、そして行動するのです。読者もともに考え、「そうじゃない」と声をかけたくなったり、「それでいいんだよ」と肩を叩いてあげたくなったり。
好きな女の子の最後の夏を最高のものにしたい、という気持ちは、純粋すぎて切なくなるもの。片思いが美しい物語です。
主人公は、青森県に住む中学2年生の神山久志。母を亡くし、父とは再婚話でもめ、学校では教師たちの理不尽に振り回され、己の弱さを思い知らされる日々を過ごしていました。
そんなある日、米軍放送でビートルズが流れているのを聞き、衝撃を受けます。
- 著者
- 川上 健一
- 出版日
舞台となっているのは昭和の中学校。教師から生徒への暴言や体罰などの描写が当たり前に出てくるので、苦手な方は注意してください。
ただ、それらの支配に少年たちは立ち向かっていくのです。しかも同じ暴力ではなく、音楽で。生徒たちが抗議のためにビートルズの曲で踊るエピソードは、読んでいて胸がすかっとするはず。
ビートルズだけでなく、クラシックなども含め、音楽が若者たちの青春を彩り、勇気を与え、世界を広げる大きな力として描かれています。
思い出のナンバーにのせて成長していく彼らの姿に、大人になった読者もピュアな気持ちを味わえるでしょう。
夏と青春のきらめきを感じてみてください。