アルバイト先の花屋の店長に、一途に想いを寄せる青年。ある日突然彼の前に、店長の亡き夫が現れます。ぽっと出の青年に妻を奪われたくないと、幽霊となった夫が妨害行為をくり返し、物語は意外な方向へ……。奇妙で切ない三角関係の結末が気になります。
2009年から「FEEL YOUNG」で連載され、テレビアニメ化もされた本作。作者は、『関根くんの恋』や『涙雨とセレナーデ』などのヒット作で知られる河内遙です。
花屋の店長である六花(ろっか)に恋心を抱く葉月(はづき)と、その恋路をことごとく邪魔する六花の亡き夫、島尾(しまお)との奇妙な三角関係が、切なくもユーモラスに描かれています。
愛する人に先立たれた六花の寂しさと、その過去ごと受け入れようとする葉月、どうしても妻の新しい恋の背中を押せない島尾…… ぞれぞれの相手を想う気持ちが交錯し、ハラハラする展開もありつつ、最後はきっとあたたかい涙を流すことができるでしょう。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2010-02-20
本作の主人公・葉月は22歳。花屋で働く六花にひと目惚れをし、鉢植えを飼い続ける常連客でしたが、ある日「アルバイト募集」の張り紙を見つけてともに働くことを決意します。
しかし毎日顔を合わせ、言葉を交わせる距離にいながらも、なかなか心の距離を縮めることができません。六花はまだ30歳ですが、どうやら彼氏を作る気はさらさら無いようなのです。そばを通りすぎるだけの関係だった時とはまた違う切なさを感じていました。
ある日、店の2階にある彼女の自宅を訪ねると、なんとそこには下着姿の男性の姿が……。
これまで恋人の存在など微塵も感じさせていなかったため、葉月は一緒に暮らす関係の男性がいたことに驚き、ショックを受けます。
しかもあろうことか六花は、男性の存在には一切触れることなく普通に話しかけてきて、そのデリカシーの無さに苛ついてしまうのです。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2010-02-20
しかしその男性の正体は、3年前に亡くなった六花の元旦那、 島尾。つまり幽霊です。
なんの因果かその姿は葉月にしか見えず、声も彼にしか聞こえません。六花は気配にすら気づいてないようでした。
島尾に出会ってはじめて、六花に夫がいたことと死別していたことを知った葉月。彼女が抱えている悲しみをたどたどしく受け止めながらも、自らの想いを告げ、積極的にアプローチをはじめるのでした。
8つも年下の葉月から気持ちを告げられた六花。最愛の夫を亡くした悲しみはまだ癒えておらず、ふとした時に涙することはありますが、そんな状況も丸ごと受け止めようとしてくれる彼にしだいに惹かれていきます。
一方の島尾は、まだ六花へ未練たらたら。仕事中に葉月が六花へ話しかけようとすると、間に入って立ちふさがったり、変顔をしたりと邪魔をしてくるのです。
ちょっと笑ってしまうような子供っぽいやり方ですが、島尾は島尾なりに、亡くなってからも彼女のことをずっと愛し続けていることがわかるでしょう。彼は、死に際に六花と交わしたある約束を守り続けようとしていたのでした。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2010-09-08
そばにいるのに、六花のことを見守ることしかできない島尾。しだいに彼のなかに、複雑な感情が芽生えてきました。
幼いころから病弱で、愛する人ができたのに、彼女を置いて先立たなくてはならなかった彼の心の闇は、葉月に対する強い嫉妬心に変わっていきます。
そんな彼を見た葉月は、不憫に思いつつもこう言うのです。
「病気になったのはあんたのせいじゃないけど 店長が次行けないのは確実にあんたのせいだ」(『夏雪ランデブー』2巻より引用)
葉月はただ六花の幸せを願っていました。島尾の心にも突き刺さる、印象的なセリフです。
そして島尾は、ついに葉月に「体を貸してくれ」と頼みました。承諾した葉月は、不思議な世界へと迷いこんでしまいます……。
葉月は不思議な世界に迷い込んだまま。3巻のほとんどは、葉月の姿をした島尾と六花のやりとりで進んでいきます。
呼べば振り向き、触れることができる。花束を贈ることもできる……葉月の体を借りた島尾は、「生身」に感動しながらも、生きている人間への嫉妬を抱いてしまいます。
もちろん六花は、葉月の姿をした相手を「葉月」だと思っていて、まさか中身が島尾だとは思っていません。2人の関係もややこしくなってしまうのです。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2011-08-08
「姿かたちが変わっても 僕は君の 一歩もそばを離れたくない」
「病気も子どもも 店のことも全部どっかであきらめ続けた こんな僕にだってひとつくらい ゆずれないものがあったっていいじゃんか」(『夏雪ランデブー』3巻より引用)
これまでの人生、病気のせいで諦めることばかりだった彼の気持ちも切ないですね。さらに、葉月の姿をしているからこそ突き付けられる現実もあり……。
一方の六花は、とあることから、葉月のなかに島尾が入り込んでいることに気が付いて……?
島尾は、葉月のなかに自分がいることを認めてしまいました。六花は泣いて抱きつきます。
一方の葉月は、いまだ不思議な世界に迷い込んだままでした。しかしふと気が付くと、目の前に自分の姿をした島尾と六花の姿が見えます。浮遊している自分の姿は、六花には見えず、島尾にだけ見えているよう。立場が変わっただけで、出会った時とまるで同じシチュエーションです。
ここで六花は、いつから葉月のなかに島尾がいたのか、疑問に思います。彼の中身がどこにいってしまったのか、島尾に尋ねるのです。
その言葉から、島尾も葉月も、彼女が確かに葉月に惹かれていたことに気づくのでした。しかし当の本人は、ただ見ていることしかできません。唯一カギを握っている島尾がとった行動とは……。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2012-04-07
最後の最後まで目が離せない最終巻。1番最後に島尾が放ったセリフには驚きを隠せないはずです。
読み進めていくと、六花が島尾のことを忘れられないことも、島尾が生きている葉月に嫉妬することも、誰も何も悪くないのだと思わされてしまい、どんな展開になっても切ない結末に胸が痛くなってしまいます。
ただ、そんな複雑な関係のなかで、葉月は一途に六花の幸せを願っていました。
本作には4つの物語から成る番外編が用意されていて、これこそ「最終巻」とした方がよいのではという声もある内容になっています。
描かれているのは、「これまで」と「その後」のお話です。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2013-11-08
本編における島尾は、六花への愛情がともすれば「執着」にも見える場面がありましたが、本当はただ彼女を愛し、彼女のために生きていたかったのだということが苦しいほどわかります。
また、六花と葉月のその後のお話も。最愛の人を失うという出来事は、そう簡単には立ち直れるものではないですが、それでも島尾の存在ごと彼女を愛する葉月の優しさがあたたかいです。
奇妙で切ない三角関係、3人はそれぞれ、きっと幸せになれたのでしょう。ぜひ番外編も合わせて読んでみてください。