近未来の架空の日本を舞台にしたSF作品『魔法科高校の劣等生』。主人公の兄妹を中心に、魔法科高校でくり広げられるさまざまな出来事と登場人物たちの成長や心模様を描き出しています。フィクションとはいえご都合主義に走らず、SF要素を盛り込みつつもリアリティある描写で、多くのファンの心を掴んでいる本作について、既刊全巻をご紹介します。ネタバレを含みますので、ご注意ください。
2008年から小説投稿webサイト「小説家になろう」にて連載をスタートさせ、その後電撃文庫より書籍化された本作。サイトに掲載されるやいなや話題を集め、ドラマCD化、テレビアニメ化、映画化、ゲーム化、コミカライズと幅広くメディアミックスされました。
舞台となっているのは、1995年から歴史が分岐した架空の日本にある「国立魔法大学付属第一高校」。全国に9校設置されていて、「魔法師」、いわゆる魔法使いを養成するための高校です。
かつて「超能力」とよばれていた先天的な能力は「魔法」という名称で体系化されており、科学的に開発し普及されたものを本作では「魔法」と定義しています。
その「魔法」を操るエリートたちを、国策として利用しようという目論んで設立されたのが「国立魔法大学付属第一高校」(通称:第一高校)です。
第一高校に2人の兄妹が入学してきたことから、平穏だった学校にはさまざまな波乱が巻き起こることになりました。
本作は、エリートとして進路を約束された「一科生」の妹と、その補欠である「二科生」の兄が第一高校に入学してから卒業するまでを軸に、学内外のキャラクターたちの物語が交錯するように描かれた小説です。
- 著者
- ["佐島 勤", "石田 可奈"]
- 出版日
本作の主人公である司波達也と、妹の司波深雪が国立魔法大学付属第一高校に入学するところから物語は動き出します。
エリートとして「花冠(ブルーム)」と呼ばれる「一科生」の深雪、劣等生として「雑草(ウィード)」と呼ばれる「二科生」の達也。
個性豊かなクラスメイトたちと仲良くなった2人は、深雪が生徒会、達也が風紀委員会とそれぞれのコミュニティをさらに広げていくことになります。
しかし、平穏に過ぎていく日々のなかで、ひょんなことから達也が生徒たちの注目を集める出来事が起こります。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2011-08-10
風紀委員として校内を巡回していた達也は、剣道部の壬生紗耶香と剣術部の桐原武明を中心とした両部の乱闘に遭遇。そしてこれをひとりで制圧してしまったから大変です。
1年生、さらに補欠扱いの二科生である達也が、校内でも実力者である桐原をあっさりと制圧してしまったのですから、校内が騒然とするのも無理はありません。
その後は奇異の目にさらされながらも通常の学園生活を送っていた達也ですが、今度は政治結社「ブランシュ」のメンバーによってその日常が侵されようとしていました。
怒りを覚えた達也は、ブランシュの壊滅を決意。クラスメイトや桐原の協力を得て、あっという間に制圧してしまうのです。
この一連の出来事が達也と深雪の運命を動かしていくきっかけとなるのですが、その壮大な物語はまだ始まったばかり。深い親愛の情で結ばれた兄妹の関係や、強い力を持っているにも関わらず「劣等生」として扱われている達也の秘密、クラスメイトとの人間関係など見どころが満載です。
2人の兄妹の高校生活はどこへ向かっていくのか、気になる方はぜひ読んでみてください。
「入学編」でセンセーショナルな登場を果たした達也と深雪。兄妹愛を超えているようにも見える2人の親密さもさることながら、達也の無双っぷりがさらに明らかとなる「九校戦編」は、全国に9校ある国立魔法大学付属高校の親善球技大会が舞台です。
毎年夏に10日間おこなわれる全国大会で、魔法科高校の生徒が一堂に会し、スポーツ系魔法競技で競いあいます。
そんな「九校戦」を目前に、達也は選手たちが持つCAD(術式補助演算機)調整を担当するエンジニアとして抜擢され、一方で深雪は新人戦のエース選手として大会に臨むこととなりました。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2011-11-10
持ち前のCAD調整技術によって、クラスメイトや選手たちの裏方として活躍する達也と、彼のフォローによって新人戦で他校を圧勝していく第一高校の生徒たち。すると他校生も達也を警戒されるようになります。
実は、達也は魔法技術の劣る二科生ではあるものの、魔法理論ではダントツでトップの成績を修めるほか、魔法の特性を瞬時に分析できたり、体術にも優れていたり、エンジニアとして匿名でCADを開発したりと非凡な才能を持っています。
しかし、そんな彼が率いる第一高校の面々には、初日から不穏な出来事が相次いでいました。
大会会場に向かう選手たちを乗せたバスに事故車両が突っ込んできたり、宿泊ホテルの敷地内に不審な集団が侵入したり、さらに大会中盤では試合中に突然ビルが崩れ、生徒が下敷きになるなどの事故も起こります。
これだけ悪いことが重なると、何かあるのではと疑いたくなるのも当然。実は裏で「ノー・ヘッド・ドラゴン」という犯罪組織が手を引いていました。
ノー・ヘッド・ドラゴンは九校戦を利用した賭博を主催しており、上述の事故だけでなく、深雪のCADにまで細工をしようとしていたことが発覚。それが達也の逆鱗に触れ、彼は独立魔法大隊の助力も得て組織を壊滅させてしまうのでした……。
仲間の怪我や事故よりも深雪……達也のシスコンぶりが大いに発揮された瞬間です。
このシリーズでは達也のシスコンぶり、深雪のブラコンぶりが全編にわたって見られ、物語を語るうえでも重要なファクターになります。
ちなみに九校戦は、第一高校の総合優勝で幕を閉じました。
今巻は日常を描いた短編集になっています。
・豪華リゾート地で繰くり広げられるドタバタ人間模様を描いた「夏の休日」
・達也をライバル視する森崎視点の物語「優等生の課外授業」
・国内最強の魔法集団「十師族」に次いで、優秀な魔法師を輩出している「百家」の十三束(とみつか)と、達也の同級生明智英美について描いた「アメリア・イン・ワンダーランド」
・「十師族」のうち、一条家の次期当主のプライベートを描く「友情と信頼とロリコン疑惑」
・町へショッピングに出た達也と深雪のエピソード「メモリーズ・オブ・ザ・サマー」
・生徒会長の七草真由美が、ある人物を後継者に選んだことから展開する「会長選挙と女王さま」
書下ろし2編を含む短編が収録されていますから、webサイトで既読の人も楽しめる一冊です。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2012-04-10
主役2人のとてつもなく甘々な日常に加え、多々登場する個性的なキャラクターにスポットがあたる短編集となっています。
特に「アメリア・イン・ワンダーランド」の明智英美と、百家・十三束の共闘は必見です。
「魔弾タスラム」という魔法を祖母から受け継いだ英美は、友人と訪れたテーマパークでその魔法を狙う親族の手下に襲われそうになりました。そこでテーマパークの経営に関わっている十三束鋼と協力して敵に対峙することになるという、手に汗握る展開です。
最後には「魔弾タスラム」を使って敵を撃退。鋼に魔法の秘密を披露してしまった英美は、「魔弾タスラム」について内密にする代わりに十三束のオリジナル技術のことも秘密にする盟約を結ぶことになりました。
なんだか仲良しな2人の関係も気になるところです。
強すぎる主人公の影に隠れていますが、ほかの登場人物たちもまた優れた魔法技術を持っているのが再認識でき、それに付随するエピソードがよりキャラクターを愛おしく思わせてくれます。多彩なサイドストーリーが楽しめるので、この一冊から読みはじめてみるのもおすすめです。
横浜で開催される秋の「コンペ」が舞台。達也は、日頃の研究の成果を発表する場である「全国高校生魔法学論文コンペティション」に、第一高校の代表である市原鈴音のサポートメンバーとして参加することになりました。
魔法理論の得意な彼の実力を発揮できる、絶好の機会です。
しかし、来るコンペに向けて準備をはじめる参加者をよそに、諜報員や同じ魔法科高校の生徒、「大陸」からの暗殺者といった影が忍び寄っていました。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2012-07-10
コンペ会場に突如現れたのは、謎の武装集団。その正体は、「大陸」からやってきた大亜連合軍の魔法師と、その機動兵器群、さらには最新鋭の魔法技術武装集団など、目的のためには手段を選ばない強者たちです。
コンペに向けての準備が描かれるゆったりとした流れの上巻に比べ、事件が起きてからの下巻のスピード感は抜群。目まぐるしく変化する状況や、スイッチされるシーン、手に汗握る戦闘状況など息をつく暇もありません。まさに騒乱。
そんななか、これまで達也の無双っぷりに隠れて目立たなかったキャラクターたちが印象的な戦いをくり広げたり、最強魔法師集団「十師族」の圧倒的な存在感が場面を引き立てたりします。
しかし見せ場はやはり達也の無双っぷり。しかも「軍人」として戦場の最前線へと送り出されるのですから、驚きです。いくつの顔をもっているのでしょうか。
「ご存分に」
「征ってくる」(『魔法科広報の劣等生』7巻より引用)
深雪の言葉で、真の力を発揮する達也……その強さは読者も思わず笑ってしまうほど。どんな悪い状況になっても彼が何とかしてくれるという安心感はあるものの、底なしの強さに一抹の恐怖すら覚えます。
彼の力の本質はいったいどこにあるのでしょうか。今後も目が離せません。
秋のコンペで、エンジニアだけでなく軍人としての顔ものぞかせた達也ですが、今巻ではそんな彼と深雪の兄妹に起きた3年前の出来事を、深雪が追憶するかたちで進行します。
3年前、中学1年生だった深雪は、自分の兄である達也のことが苦手だったそう。彼は、家族でありながら使用人同然の扱いを受けており、それにも関わらず妹の「ガーディアン」として完璧に振る舞っていました。
そんな達也に、理不尽であることを理解しながら深雪はワガママをぶつけてしまっていたのです。
しかし、2人の関係は、沖縄で起きたある出来事によって大きく変化していくことになります。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2012-12-08
8巻では、深雪が他の家族と同様に兄を使用人のように扱い、さらに兄からも事務的に対応されている状態から、なぜ今のように「お兄様」と呼ぶ極度のブラコンになったのか、その過程が如実に描かれています。
休暇をとって母と沖縄へ旅行した深雪は、旅先で出会った軍人の少佐に基地に誘われ、敵国の侵入や基地内の反乱に巻き込まれてしまいました。そして、母のガーディアンとともに銃撃され命の危機にさらされてしまうのです。
その時、達也が必死になって彼女を助けにきたのでした。その姿を目の当たりにした深雪は、達也の生来の力である「再成」の能力によって命を救われたのです。
それ以来、深雪が達也のことを「お兄様」と敬愛するようになったのでした。ちょっと他人が入り込めないほどの関係性でも、仕方ないのかもしれません。
また達也は達也で、深雪が襲撃され命を落としかけたことに激怒し、確実に敵を殲滅するために少佐の協力を得て軍人として参戦。後に軍の間で伝説となる「摩醯首羅」事件を引き起こします。
このほか達也の「感情の欠落」についての事実が判明したり、真の力について分かったりと本編への理解が深まる内容となっています。
入学してから波乱続きだった一年が終わろうとしています。しかし、達也と深雪にまたも「激動」が襲ってくるのです。
深雪のクラスメイト・北山雫が、USNA(北アメリカ大陸合衆国)に交換留学することになり、彼女と入れ替わるかたちで魔法科高校に留学生がやってきました。
金髪碧眼の美処女、アンジェリーナ=クドウ=シールズ、通称リーナです。
実はこの交換留学にはUSNAの思惑が潜んでいて……。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2013-03-09
7巻で達也が放ったエネルギー派「マテリアル・バースト」が港ごと艦隊を破壊するというとんでもない事態が起きていました。これに危機感を覚えた北アメリカは、犯人探しのために「スターズ」という特殊部隊を使って達也と深雪を探っているとのことでした。
そんな矢先の北アメリカからの交換留学なので、リーナの存在は十分に怪しい……達也はその事実に気づき警戒を強めますが、どこか抜けているところのあるリーナは、達也が「マテリアル・バースト」を使った本人だと気づきません。さらには彼らのことを探っている様子がバレバレで、逆に心配されてしまうのです。
しかし、リーナは、大規模破壊兵器に匹敵する戦略級魔法師「十三使徒」の一員という実力者で、「スターズ」の総隊長。「アンジー・シリウス」という異名をもっていました。それなのに内偵にはまったく向いていないぽんこつっぷりを発揮する、なんとも愛おしいキャラクターです。
さらに、まったく別の「来訪者」もやってきて……。
意図せず招かれた「来訪者」と意思を持って訪れた「来訪者」。彼らに達也がどのように立ち向かうのか、必見です。
来訪者を退けた達也たちは、ついに2年生へと進級することになります。これまでの活躍や実績を配慮し、新設された「魔法工学科コース」へと転籍した達也は、深雪とともに生徒会に所属することになりました。
また、進級するということは、自分の下に新しく生徒が入学してくるということ。新入生たちが達也と深雪の学園生活に、新たな波乱を巻き起こしていきます。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2013-10-10
本巻では戦闘シーンはおあずけ。学園内部で巻き起こるさまざまな出来事をまとめた「学園もの」らしい和やかな展開です。
新入生総代として入学してきたのは、「十師族」をサポートする「師補十八家」のひとつ「七宝家」の長男、琢磨。また「十師族」のうちの「七草家」の双子、香澄と泉美。この3人が騒動を巻き起こしていきます。
さらに達也と深雪の実家では、「十師族」のなかで最有力の「四葉家」と、双子の実家「七草家」との邂逅があり、今後は「十師族」選定会議も開催されるようで、まだまだ物語は盛り上がりそうです。
1年生の時に達也が大活躍した「全国魔法科高校神前魔法球技大会」、通称「九校戦」の季節が今年もやってきました。しかし、今年の「九校戦」は競技種目やルールが大幅に改変。各参加校はてんやわんやの状態です。
ある日、作戦の立案をしていた達也の元に、九校戦を巻き込んだ陰謀の存在を示唆する匿名のメッセージが届けられました。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2014-04-10
前回裏で暗躍していたのは、スポーツ賭博を主催していた犯罪組織でした。
今回は、メッセージによって九校戦中に何かが起こることは分かっています。それでも事前に対処することができないまま、大会当日がやってきてしまいました……。
変更された競技のうちのひとつが、「スティープルチェース・クロスカントリー」です。4kmの林の中を罠や障害を避けながら走破するという軍事訓練の一種。メッセージによると、この競技内で「十師族」のなかの「九島家」が新兵器の実験をおこなうとのことでした。
魔法科高校の生徒がどうなってもいいということでしょうか……。はたして、達也はこの陰謀を阻止して深雪や第一高校の生徒たちを守ることができるのでしょうか?
前作の「九校戦」の裏側で起こっていた新兵器実験のいざこざに紛れて、黒幕のひとりだった周公瑾が姿を眩ませてから早2ヶ月。今巻では、2年目の「全国高校生魔法学論文コンペティション」のシーズンに突入します。
達也が新魔法の研究をしているところに、実家である「四葉家」の当主、四葉真夜からある依頼が届きます。
- 著者
- 佐島勤
- 出版日
- 2014-09-10
その内容は、「周公瑾の捕縛に協力してほしい」 というものでした。
依頼を受け、周公瑾の潜伏先である京都へ赴くことになった達也と深雪。さらに、周公瑾をかくまっているのは魔法界でも有力な勢力ということが判明すると、その対抗勢力である「九島家」に強力を仰ぐことにするのです。
そこで出会ったのが、世界最強の魔法師のひとり、九島烈の孫である光宣です。彼は「十三使徒」であるリーナを凌ぐほどの魔法の使い手ながら、病弱で体調が不安定なために力が定まらないという欠点も持っていました。
兄妹と信頼関係を築く光宣に、第三高校の一条将輝と七草真由美も加わって、周の捜索はクライマックスを迎えます。
十師族の関係者で、さらに実力もある面々がパーティを組むのは見ていてワクワクしますね。今後も関係が保たれるのでしょうか。
また、終盤では光宣が抱えている秘密が暴かれ、それを聞いた深雪が息を飲む姿に、「もしかすると彼女も同じなのでは?」という予感も生まれます。
次巻で「四葉」の当主が継承される際に、明らかになるのではないでしょうか。
前回のラストで、光宣が遺伝子操作で生み出された「調整体」であることが発覚しました。本巻では、深雪の元へ四葉本家からの新年の集い「慶春会」の招待状が届きます。
一族の有力者が顔をそろえる集まりの意味するところは、四葉家の次期当主指名のため。自分が当主になれば、兄の地位は向上するものの、当主にふさわしい「婚約者」も付きまとってきます。しかしながら、深雪にとって兄以外の男性は不要。彼女はそんな葛藤を抱え、次第に落ち込んでいきます。
彼女が初めて認めたその感情は、もはや兄に対するものではありませんが、本巻ではまだまだ衝撃的な展開が続きます。
- 著者
- 佐島勤
- 出版日
- 2015-05-09
「四葉家」を訪れた達也と深雪は、親族からの執拗な妨害に遭うものの、なんとか本邸へとたどり着くことができました。
しかし、そこで衝撃の事実を突きつけられます。達也の出生の際、「四葉家」の特性である精神系の魔法が、胎児に影響を与えてしまっていたのだとか。
達也の叔母である四葉真夜には誘拐された過去がありました。その反動として、「自分を守ってくれる超人的な存在の誕生を望んだこと」と「自分の幸せを奪った世界を恨んでいること」から、世界を滅ぼすほどの力を持った達也が生まれてきたのだそうです。
なぜ母親の深夜ではなく、叔母の真夜の願いが反映されたのかということですが、それは彼女たちが双子だったからにほかなりません。
さらに、実は達也と深雪は本当の兄妹ではなく、深雪が当主になった際の婚約者は達也になるという事実もわかりました。
喜ぶ深雪と訝しむ達也……彼には「視る力」が備わっているので、叔母の話が「嘘」であるということが瞬時に分かってしまったのです。しかし、嘘でも問題ありません。深雪も遺伝子操作で生まれた「完全調整体」だったのですから!
衝撃的な新事実がとめどなく押し寄せてくる今巻。晴れて婚約者同士となった達也と深雪の今後に期待したいところです。
怒涛の展開で幕を下ろした16巻から引き続き、達也と深雪の「婚約」問題は方々に影響を与えていました。友人たちとギクシャクしてしまう場面も描かれます。
彼らが悪名髙い「四葉」の一族の当主と、その婚約者になるとわかれば畏れるのも無理はありません。さらにその事実を隠されていたというショックも、冷静な判断をできなくさせた原因のひとつでしょう。
そんななか、全世界の魔法師が注目する「十師族選定会議」が開かれます。協議のすえ「十師族」が再決定された直後、謎の爆発が会場を襲いました。
- 著者
- 佐島勤
- 出版日
- 2015-08-08
何者かの自爆テロによって幕を下ろした十師族選定会議。今回のテロには「死体を操る」魔法が使われていて、世論は魔法師と相対する「人間主義」に傾いていきました。
魔法師に対する非難が強まると危惧した関係者たちは、独自にテロの黒幕であるグ・ジーの排除に乗り出します。達也もそのメンバーに加わりますが、無事にグ・ジーを確保することができるのでしょうか?
今巻は閑話休題といった様相。達也と深雪の2度目の沖縄(婚前)旅行がメインに描かれています。
2人は「四葉家」の代表として沖縄の慰霊祭に出向くことになったのですが、それは表向きの理由。裏には、大亜連合の脱走兵が主力となっているテロリストたちの作戦を阻止する、という目的がありました。
一方で時を同じくして、達也たちの先輩でもうすぐ卒業するあずさ、五十里、花音、服部、桐原、紗耶香の6人が、沖縄への卒業旅行を計画しています。
- 著者
- 佐島勤
- 出版日
- 2016-09-10
パワーバランスが崩れかけている現状を見て、世界では「日本が強くなりすぎるのでは」と懸念する声が上がっていました。沖縄でテロを起こすことで日本を弱体化させようと目論んでいたのです。
しかしそんなテロ行為も、達也の活躍で事なきをえます。すぐそばで卒業生メンバーがほのぼのと旅行を満喫しているギャップもたまりません。
脇役たちがいきいきと描かれる20巻は、サブキャラ好きの読者にとっては垂涎もの。すでにカップルになっている五十里&花音、桐原&紗耶香にもご注目。婚約者となった達也と深雪はすでに夫婦のような空気を醸し出していて、さらにあずさと服部にも何やら予兆が……?
ラブコメ要素も満載なので、肩肘張らずに春のバカンスを楽しめます。
束の間の休息をはさみ、いよいよ達也と深雪は3年生に。新入生との他愛ないやりとりがかわいい上巻と、世界情勢から一族会議に発展していく下巻。振れ幅の大きい「動乱の序章編」です。
魔法師を敵視する世論にどう対応するべきか検討する会議への招待状が、「十文字家」から達也と深雪に届きます。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2017-02-10
十師族のひとつである「三矢家」の三矢詩奈と、そのお付きになることを目指しつつも果たせなかった矢車侍郎という2人の新入生が初々しい。かわいくてほっこりします。新入生総代の三矢を生徒会に誘ったり、達也の同級生である千葉エリカが矢車を鍛えたりと、新たな風も巻き起こしながら物語は進みます。
また、「十師族」と「師補十八家」の若手で構成された会議の議題となっているのが、「人間」と「魔法師」との共存について。日に日に強くなる反魔法師勢力に、どのように対応するか話し合われます。
しかし、会議と時を同じくして、三矢が行方不明になる事件が勃発。その陰には、国防陸軍所属の軍人が暗躍していて……まさに「動乱」のタイトルにふさわしく、状況がめまぐるしく変わっていくのです。
反魔法師の世論は、達也たちの運命を一変させるほどのもの。意図せず動乱の渦へと巻きこまれていく彼らの今後から目が離せません。
世界各地で「戦争兵器」として使用されるさまざまな魔法。魔法の存在によって戦火は拡大し、人々は恐怖を抱いていました。
その想いはやがて魔法を使う者への批判となり、魔法をつくった者への非難へと変化していきます。
そんななか、平和的に魔法を利用する方法として発案されたのが「ディオーネ―計画」です。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2017-08-10
達也が1年生の時の「九校戦」で考案した魔法が大亜連合軍にアレンジされ、戦略級魔法「霹靂塔(へきれきとう)」として使用されてしまいました。それを受けて「九校戦」は中止に。不満やバッシング、クレームが達也へ向けられるようになります。
ほとぼりが冷めるまで休学することになり、さらに国防陸軍情報部が達也を排除しようとする動きもあって、彼は日本国内で孤立状態になってしまいました。
USNAの研究者クラークが提案した「ディオーネ―計画」は、魔法を使った金星への移住計画という宇宙開発プロジェクト。さらに、そのメンバーとして「トーラス・シルバー」の名前が挙がっており、この事実が達也をさらに孤立させてしまうのです。
実は達也は以前、あるエンジニアとともにCADを開発したのですが、その時につけた開発者名が「トーラス・シルバー」というもの。達也がトーラス・シルバーであることが周囲にバレてしまうのです。
孤立する達也が進むべき道は、どこにあるのでしょうか。今こそ深雪との愛が試される時です。
達也こそがトーラス・シルバーであるということが全世界に知られることとなってしまったなか、達也は次なる一手、「ESCAPES計画」を発表します。
それは彼が魔法使いの未来のため、そして深雪のために選んだ道でした。
- 著者
- 佐島 勤
- 出版日
- 2018-03-10
24巻、25巻の上下巻構成となっている「エスケープ編」。世界を敵に回すことになってしまった達也と深雪は危機に立たされます。しかし、そんななかでも深雪がお風呂で達也の背中を流したり、戦闘メイドの水波が達也のために体を張ったりと、ヒロインたちとの甘い時間や見所も、多く盛り込まれています。
特に水波は達也のために体を張っており、24巻では一時生命の危機にすら立たされてしまうのです。もちろん、そんな彼女の危機にも達也がしっかりと対応してくれるのですが、そうとわかっていてもドキドキしてしまう展開です。
このように、「エスケープ編」では、水波がメインヒロインのような活躍をみせているので、彼女のファンはぜひチェックしてみてください。達也と深雪、そして魔法使いたちの未来がかかった展開から目が離せません。
パラサイトによる侵攻が始まるなか、達也のもとへと逃げ延びてきたリーナ。達也と深雪の手引きで、巳焼島へと潜伏することになります。一方、水波を狙う光宣は、病院を襲撃。
魔法師達の戦いが各地で起こるなか、達也と深雪の取った行動とは……。
- 著者
- ["佐島 勤", "石田 可奈"]
- 出版日
「インベージョン編」となる本巻では、達也たちのもとへ逃れてきたリーナはもちろんですが、光宣が主人公級の活躍を見せます。彼を中心に葛藤や戦いが描かれ、読みごたえも十分です。
達也とは何かと相反する立場として描かれている彼のエピソードが、今後どのように絡んでいくのかも楽しみなポイントでしょう。本巻では光宣のバトルシーンが多いので、彼のエピソードが気になる方は終始楽しめるのではないでしょうか。
もちろん、達也もしっかりと登場しています。終盤では、彼がかつて九校戦で組んだ幹比古、レオ、そして達也の3人組が復活し、彼らの戦いをまた見ることができます。友情を感じられるこちらのエピソードも、必読です。
激化するパラサイトと光宣との戦いに備え、達也は新魔法『封玉』の完成を目指し鍛錬を続けます。
ちょうど同じ頃、世界規模の魔法師の衝突もある転機を迎えていました。
- 著者
- ["佐島 勤", "石田 可奈"]
- 出版日
「急転編」と題した27巻では、表紙を飾る将輝と吉祥寺に大きな見せ場があります。
二人は日本に迫る新ソ連艦隊を迎え撃つべく、行動を開始します。その過程で新たな「戦略級魔法師」が誕生するのですが、すべてが達也の計算通りに動いているのが恐ろしいポイント。
また、リーナが潜伏する巳焼島には、パラサイトと同化したかつての同胞、スターズが上陸します。クライマックスへと着実に進行する物語から目が離せませんね。
前巻のラストで、光宣に水波をさらわれてしまった深雪。
しかし、実際には水波本人の意思で光宣にさらわれたという一面もあり、彼女の奪還は容易ではありません。
- 著者
- ["佐島 勤", "石田 可奈"]
- 出版日
達也は光宣と水波を探しますが、捜索は難航します。また、「忠義を尽くしている深雪を裏切ってしまった」と自責の念を抱える水波と、二人を逃してしまったことを悔いる深雪の心情も丁寧に描かれています。
光宣は達也と敵対しているものの、水波を救いたい一心で動いています。だからこそ、二人の対立に心を痛める読者は多いでしょう。
一方、達也を暗殺するべく、USNA軍の暗殺者小隊「イリーガルMAP」が動き出します。その魔の手は彼の友人にも向けられることに……。さまざまな思惑が交差する追跡編の結末は、ご自身の目で確かめてみてください。
光宣は水波を連れ、日本からUSNA軍基地がある北西ハワイ諸島へと渡ります。
達也も二人を追いかけ、USNA軍基地へと向かうことになりますが……。
- 著者
- ["佐島 勤", "石田 可奈"]
- 出版日
この巻でも、なんでもありな達也の能力が存分に発揮されています。米軍基地を強襲した達也は、なんの問題もなく、リーナに救出するよう頼まれていたカノープス少佐を奪還します。
一方、光宣はまさかの水波を置き去りにして逃亡してしまいます。光宣との決着はまだつきませんが、無事に水波を救出することに成功します。達也と光宣の因縁がどんな結末を迎えるのか、今後の展開が楽しみです。
水波を奪還したことで、達也と深雪にもこれまで通りの日常が戻ってきました。しかし、それはつかの間の休息でしかありませんでした。
彼らの日常を切り裂くように、達也を恨むUSNAや新ソ連の人々が動きはじめます。
- 著者
- ["佐島 勤", "石田 可奈"]
- 出版日
31巻では、USNAのエドワード・クラーク、新ソ連のベゾブラゾフなど、多数の敵が登場します。達也と深雪は敵を巳焼島で迎え撃ちますが、このシーンでも二人の比類なき強さを見せつけられます。
敵は大規模艦隊や強力な魔法を使用しますが、そのすべてを無効化し、ついには達也が深雪のためだけに作り上げた新魔法「グレイシャル・エイジ」によって、敵艦隊を完封します。
後に「巳焼島事変」と呼ばれるこの事件を通して、達也の存在は一人の魔法師に留まらず、抑止力そのものとして認知されるようになります。
達也のもとに、しばらく消息を絶っていた光宣から挑戦状が届きます。
彼の目的は、やはり愛する水波を救うことでした……。
- 著者
- ["佐島 勤", "石田 可奈"]
- 出版日
物語を締めくくる32巻では、いよいよ光宣と達也の因縁に決着がつきます。
巳焼島事変を通して「最強の魔法師」となった達也と、人外の力を宿し「最強の敵」となった光宣が激突します。しかし、二人はそれぞれ別の思惑を持っていて、単なる宿敵との戦いといった図式にならないのがラストバトルの見どころです。
そして、光宣の強烈な覚悟と想いに応えるため、水波はある重大な決断をします。水波の決意は、ぜひあなたの目で見届けてください。
最終巻だけあって、達也と深雪の卒業後の様子も描かれています。二人の恋の行方にも注目して読んでみてください。
壮大なスケールと魅力的なキャラクター、計算されたレトリックで多くのファンから支持を集める『魔法科高校の劣等生』。達也と深雪の深い愛の物語でもあり、SFでもあり、ドタバタハーレム系でもあり、学園日常ものでもある本作はどんな風にでも楽しめます。さまざまなシーンと工夫を凝らした演出が秀逸な本作の魅力に酔いしれてみてください。