不朽の名作『シティーハンター』。完結から20年以上を経てにわかに活気づいているのですが、なんと、そこへまさかの公式二次創作(!?)が登場しました。今作は最近流行りの、異世界転生モノ。大好きな漫画の世界に迷い込んでしまった主人公はどうなるの? そんな異色の作品「今日からシティーハンター」をご紹介しましょう。スマホアプリからは無料で読めますよ!
『シティーハンター(以下、CH)』は、「週刊少年ジャンプ」誌上で1985年から1991年にかけて連載されていた人気作です。東京は新宿を拠点にする凄腕のスイーパー(裏の始末屋)である冴羽獠、通称「シティーハンター」が時にコミカルに、時にハードボイルドに、美女の依頼を解決していくお話でした。
大人の雰囲気やリアリティのある設定が魅力的で、何度もアニメや映画になっています。2019年にフランスで実写映画が作られるというのが最新の話題だったのですが、同じ年にオリジナルキャスト、スタッフが再結集(!)した新作アニメ映画の制作が発表されました。ファンならずとも必見でしょう!
「CH」は、完結してからも人気が衰えません。そんなシリーズに新たに名を連ねるのが、今回ご紹介する「今日からシティーハンター」なのです。
- 著者
- ["北条司", "錦ソクラ"]
- 出版日
- 2018-04-20
サブカル界隈ではここ数年、異世界転生モノがブーム。ご存じない方に簡単に説明しますと、現実世界から、なんらかの事情で異世界の住人として生まれ変わってしまう話を指します。その代表格・ドラボンボールの『転生したらヤムチャだった件』は、皆さん作品名を1度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
本作「今日からシティーハンター」は、「CH」好きをこじらせた独身アラフォー女子が、なんと女子高生になって「CH」の世界に入りこんでしまうという物語なのです。
こう書いてしまうと名作に泥を塗るおふざけのように思えるかもしれませんが、これがなかなかあなどれません。本作が、いかに原作愛に満ちた作品かをご説明しましょう。
『シティーハンター』のストーリーをおさらいしたい方はこちらの記事がおすすめです。
漫画『シティーハンター』を最終回まで本気でネタバレ考察!2019年映画化
東京・新宿。そこに、暗殺・ボディーガードなどの危険な裏の仕事を請け負う、1人の凄腕スイーパーがいました。彼の名は、冴羽獠。ちょっとスケベな彼によって、今日も依頼は遂行されていくのでした。 ジャンプ黄金期を支えた伝説的作品の1つで、くり返しメディアミックスされる不朽のハードボイルド・アクション・コメディ作品。それが本作『シティーハンター 』です。今回の記事では、その魅力や見所などをご紹介。 ちなみに、スマホアプリからは無料で読むこともできるので、そちらもどうぞ!
さて、先ほど異世界転生と書いたことで、おどろいた方もいらっしゃることでしょう。ですが、たとえば好きな作品を見て「魅力的な登場人物と数々の物語を体験してみたい!」と考えたことはありませんか? つまり、そういった妄想がうっかり実現してしまったとお考えください。
本作の主人公・沙織は、大ファンである作品世界に読者の目線を持ったまま、物語に入りこんでしまいました。慣れ親しんだ原作「CH」の知識もそのままです。はじめての異世界なのに、彼女にとっては知りつくした庭と同じということ。
物語がどう進むのかも知っているわけですが、そこで彼女自身の存在が物語のアクセントとなってきます。「CH」の世界にとってイレギュラーな沙織は、先に起こるできごとを知っているからこそ、彼女の意志とは無関係に微妙な変化をもたらしてしまうのです。
もちろん、物語への介入は彼女の本意ではなく、正しい歴史通りに進むよう苦心するところも見所。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に近い面白さともいえるかもしれません。
そんなやりとりのなかで、変わったようで変わらなかったり、原作の魅力を再発見できるところが本作の魅力でしょう。
- 著者
- ["北条司", "錦ソクラ"]
- 出版日
- 2018-04-20
「今日からシティーハンター」は、本物と見まちがえるほど原作者・北条司の絵柄と似ています。隅々まで「CH」愛にあふれた本作は、そもそも作者である錦ソクラが大ファンだからこそできた作品です。では一体、この錦ソクラとは何者なのでしょうか?
ここ数年「近代麻雀」で不定期連載されている『3年B組一八先生』という漫画が、一部で注目されていました。その作者こそ、錦ソクラ。
見るからにクセがありそうなタイトルですが、中身はそれ以上です。古今さまざまな漫画キャラを絵柄から名前まで、完璧に真似てゲスト出演させています。そのなかで、通称「ポンチーハンター」なる獠のそっくりさんも登場しました。
一見ふざけていると思われるかもしれませんが、本当のパロディとは、オリジナルへの愛がなければ成立しません。その点、小さい頃から「CH」に親しんでいたという錦のこだわりは、尋常ではないのです。
わざわざ近年の『エンジェル・ハート』ではなく、「CH」連載当時の北条のタッチを忠実に再現して、原作エピソードや設定の細かいネタまで、しっかり拾う徹底ぶり。
ほとんど偏執的といってよいほどのできばえは、ひとえに愛あるからこそでしょう。
主人公の沙織の本名は、香といいます。偶然にも冴羽獠のパートナー・香と同じ名前です。そのせいか、彼女は学生時代に読んだ「CH」にのめりこみ、獠を初恋相手として生きてきました。
そんな彼女が「CH」世界に転生するとどうなるか……完全にあこがれの有名人とばったり出くわしたファンのそれです。「CH」の沙織は、獠だけでなく香や海坊主、美樹などの主要人物と会うだけで舞いあがるほど。
幸運にも彼らに近づけた彼女は、異世界に来てしまったという事情はさておいて、1番の特等席で憧れの世界を楽しむただのファンになります。
もはや説明するまでもないと思いますが、獠は無類の女好き。アラフォーから、うら若き女子高生となった沙織も、「もっこり」の対象となる……かと思えば、さにあらず。彼は妙齢の女性以外には紳士的……というか、彼女を子供あつかいして、相手にしません。
彼女もファンとしては、獠と香の仲が1番大切だと考えているので、今のところは丸く収まっています。ただ、やはり彼女の初恋は獠なのです。理想とする本人がすぐ近くにいて、意識しないはずがありません。
複雑な乙女心がどう展開していくか、気になるところでしょう。
アラフォー派遣社員の香は、40歳になってまだ独身の女性です。
特に秀でたところもない彼女の数少ない楽しみは、何十年も愛してやまない「CH」の世界に浸ることでした。
- 著者
- ["北条司", "錦ソクラ"]
- 出版日
- 2018-04-20
そんな彼女が、ふとしたことから電車事故に遭って――気がつくと、80年代の東京にいたのです。居場所も、頼るあてもない彼女は、新宿駅の掲示板に「XYZ」と助けを求めました。すると彼女の目の前に、夢にまで見た、あの冴羽獠が現れたのです。
そして、沙織と名を変えた彼女と獠、そして香の新たな生活が始まります。
よく見知っているのに、どこかが違う。新しい視点から描かれる物語は、名作『シティーハンター』の未知なる魅力を引き出していきます。
「CH」美樹の初登場から始まる本巻。美樹と海坊主がどうなるのか知っている沙織は、もうニヤニヤが止まりません。獠のかっこよさ、海坊主の優しさ、香と美樹のいい匂い(!)にドッキドキの沙織が、本巻1番の見所でしょう。
海坊主と美樹のエピソードが見逃せない本巻。美樹にデレデレ&もっこりな獠を見て、沙織は安定の「CH」感を感じるのでした。
- 著者
- 錦ソクラ
- 出版日
- 2018-07-20
美樹が獠のよさに気づいた場面で、思わず素(40歳女性)が出てしまう沙織。筋金入りの「CH」ファンとしては、反応せずにはいられません。美樹と獠が2人でイチャイチャしているという香の冗談に対して突っかかる海坊主も、まさに安定でしょう。
「CH」読了済みでも、海坊主と美樹の話は胸キュン必須です。
こっちのエピソードも気になりますが、「CH」ファンの沙織としては、獠と海坊主の決闘は見逃せないところ!それを見届けるために、彼女はこっそり後をつけます。
純粋にファンとして行動した沙織。しかし、この行動が「CH」の物語に影響を与えてしまうことになってしまうのです。それによってもたらされた、意外な結末とは……?
麻上亜紀子から、彼女の娘・沙羅のボディーガードをするように頼まれた獠。守られているうちに、彼に想いを寄せるようになった沙羅……の様子を見てニヤニヤしている沙織。沙羅のかわいさに、海坊主と美樹の関係に、彼女は微笑まずにはいられません。
そんな彼女の前に、ある1人の少女が現れます。そして、彼女は沙織に言うのです。
あんたみたいなキャラは 本来……この世界には登場しないはずなのよ!!
(『今日からCITY HUNTER』3巻より引用)
- 著者
- 錦ソクラ
- 出版日
- 2019-01-19
そう、彼女も現実世界から、この世界に転生してきた人物だったのです!しかも(というか、やはり)、筋金入りの「CH」ファン。彼女は「CH」の世界を愛しているからこそ、獠達と親しくしている沙織に対し、その世界観を壊さないでと言いにきたのでした。
しかし、原作通りの沙羅から獠へのほっぺチューを見た2人は思わずテンションを上げて、その場面についてアツく語り合います。その流れで、なんとお互い同年代だということが発覚して、たちまち意気投合するのです。しかも、よくよく話したら現実世界で知り合い同士で……!?
ここから2人は、まさに親友同士のような間柄となります。大好きな「CH」の世界とはいえ、異世界での、ある意味孤独な生活。同じ境遇同士仲を深め合う彼女達に、今後も注目です!
前巻から、オリジナルな展開を見せはじめた『今日からシティーハンター』の世界。
第4巻でも、冴羽獠の過去にまつわる、独自の物語が繰り広げられます。
- 著者
- 錦ソクラ
- 出版日
- 2019-06-20
第4巻の前半では、もうひとりの転生者・百合華の学校のクラスで起こった事件が描かれます。獠と海坊主の息の合った活躍に、「CH」ファンは大興奮です!
そして、第4巻の後半。「CH」本編でも大きな存在であった「エンジェル・ダスト」にまつわる物語がはじまります。
獠の前に現れた、「CH」には登場しない謎の少年・JJ。冷酷な殺し屋であった彼の正体はなんと……!
「過去の亡霊がはるばる挨拶に来たってわけか…」(『今日からCITY HUNTER』4巻より引用)
彼は獠に本気を出させるため、獠の目の前で沙織を殺すと宣言。沙織を守るため、獠と海坊主はJJに立ち向かうことになったのですが……?
JJの登場で、自らの過去と向き合わざるを得なくなった獠は、いったい何を想うのでしょうか?
いかがでしたか? 本作が単なるイロモノ作品ではないことがおわかりいただけたかと思います。原作をなぞりつつも、沙織という新しい視点を加えることで、新規の読者の導入と古参ファンの郷愁を誘う意欲作なのです。『今日からCITY HUNTER』、ぜひご一読ください!