魑魅魍魎、妖怪変化を生業とする少女による、奇々怪々な道中を描く本作。バラバラになってしまった師匠の体を取り戻すため、道中の敵を容赦なく切り倒す謎の少女が主人公です。欲に溺れた悪辣な人間達や、人に危害を加える怪異に対し、問答無用の鉄槌を下す姿が爽快な作品となっています。 作者は「茂吉」というペンネームでイラストなどを手がけてもいる白石純。コミックマーケットなどの参加経験もあり、絵のクオリティについては折り紙つきです。 今回はそんな本作の魅力をネタバレ紹介。アプリから無料で読みこともできるので、興味があればそちらもご利用ください。
妖怪変化や魑魅魍魎を加工して「種」とし、便利な道具として売る稼業「魍魎屋」。そんな魍魎屋を営んでいた「雪之条(ゆきのじょう)」という男性は、同じ魍魎屋として働いていた「八房(やつふさ)」によって殺害されてしまいます。
そして彼の肉体は七つに切り分けられ、八房の魍魎によって各地へと持ち去られてしまったのです。
- 著者
- 白石純
- 出版日
- 2018-08-20
そんな彼を師匠と呼ぶ少女「林檎丸(りんごまる)」は、その肉体を集めるために、肉塊となってしまった師匠とともに各地を旅してまわるのでした。
本作の世界観を形成するうえで中心となる不思議な存在「魍魎」。それを生活のなかで役に立つ道具「種」として利用できるようにし、それを売る事で生計を立てるのが「魍魎屋」という職業です。魍魎屋が使役する「種」には、妖怪の種類に応じてさまざまなものがあります。
作中に登場するものとしては、開かなくなった鍵穴を開けるために使える魍魎や、人間に寄生させて人を思うように操る事が出来るという危険なものもあるのです。そんな不思議な力を持つ魍魎ですから、その力を使って悪事を働こうとする人間にとっては、きわめて恐ろしい存在ともなり得ます。
本作は、そんな恐ろしくも不思議な魅力を持つ魍魎と、それを操る者たちが起こす騒動によって怪しくも怖いもの見たさを感じさせてくれるのです。
ホラー要素を含むおどろおどろしさもさることながら、その不気味さがクセになり、魅力に満ちているといえるでしょう。
本作は、主役の2人組がキャラクターとして魅力的なのも見所といえるでしょう。
まず、師匠の体を取り戻すために各地を行脚中の林檎丸。彼女はその自由奔放な振る舞いが、見ていて爽快なキャラクターです。雪之条を師匠と呼びつつも、彼に対する振る舞いは非常にいい加減で、尊敬の念が感じられるとは言い難いもの。
それでも、ふとした時に彼を気遣う様子を見せ、口では文句を言いつつも体探しに奮闘しているあたりは、心の内ではちゃんと師匠として敬っているのかもしれません。
しかし一方で、師匠以外の人間に対する対応はやや冷淡で、思いやりに欠ける印象を受けます。自分たちの障害になるようであれば、それがたとえ罪のない人間であろうと切り伏せ、排除する事が出来る冷酷さを持っているのです。
彼女はそうした危うい魅力と、年相応の少女らしさが同居したキャラクターといえるでしょう。
対して師匠の雪之条ですが、彼は先述のとおり肉体を失っており、物語の冒頭ではただの壺に入った肉塊でしかありません。
しかし、彼は不死の肉体を持っているため、そのような状態でも命を失わず、言葉を発してコミュニケーションを図る事が出来るのです。そんな、自らも魍魎のような存在である彼ですが、その性格は実に感情豊か。顔もないのに表情が見えてくるようなキャラクターとなっています。
基本的には人当りがよく、明るい性格をしているようで、弟子の林檎丸に辛辣に扱われても怒る事なく、甘んじて受け入れる度量(?)を持ち合わせているようです。
そんな彼は、物語のなかでは比較的ゆるいノリのキャラクターであるため、おどろおどろしい雰囲気が続く作中では、一種の癒しといえるかもしれません。
そんな2人の道中での掛け合いは、読者をしっかりと楽しませてくれることでしょう。
雪之条と林檎丸の旅は、そもそも旅立ちからして多くの謎に満ちています。まず八房は、なぜ同業として働いていた雪之条を殺害しなくてはならなかったのでしょうか。
また雪之条の肉体を復活できないようにバラバラにして持ち去ったのは、一体何のためだったのでしょうか。作中の冒頭では、それらの理由について一切明かされる事なく物語が進行していきます。しかし、それも物語が進むに連れて、しだいに明らかになっていくこととなるのです。
また主役2人の素性についても、謎だらけ。まず雪之条については、作中では当然のように語られますが、不死の存在です。
また肉片のみの状態であるにも関わらず、普通に他人と言葉を交わすことが出来ます。彼自体がおおよそ怪異としか思えない存在なのですが、特に現状そのことについて指摘する者は誰もいません。
同行している林檎丸についても、また謎多き存在です。彼女は見た目こそ小柄で、華奢な少女にしか見えないのですが、戦闘時は身の丈以上の武器を振り回し周囲をなぎ払う、とんでもない怪力の持ち主。
そのくせ師匠譲りなのか魍魎に対する知識も豊富で、魍魎を用いた奇策にも通じていると、かなり強力な人物だといえるでしょう。
しかし、なぜ彼女がそれ程の力を持っているのか、雪之条の体探しに対して積極的に協力するのか、何も明らかにはなっていないのです。
彼女には何らかの狙いがあるのか、それとも純粋に師匠に対する信頼で手伝っているのか、今後の展開で明らかになるのでしょうか。
冒頭では、雪之条が八房に殺されてから、林檎丸とともに旅に出る事になるところから始まります。そして、各地で本業である魍魎屋を行いながら、雪之条の肉体を探す手がかりを集めているのでした。
そんな2人の元に、訪れた者を襲い金品を強奪している侍と、近隣の村の百姓の噂を耳にします。そして、その侍達の大将が持つ「鬼の左目」の噂を聞いた林檎丸は、それが間違いなく雪之条の目であると確信するのです。
そして読みどおり、強盗犯の侍大将の左目は雪之条のものであり、特に危うげなく侍を討伐して取り返す事に成功するのでした。
- 著者
- 白石純
- 出版日
- 2018-08-20
ようやく体の一部を取り返す事に成功した2人は、次の目的地に、呪われた腕が保管されているといわれる寺を定め、片腕を取り戻すべく潜入を試みます。
しかし、そこでは片腕を取り戻すために、寺の修行僧達を巻き込んだ大騒動が待っていたのでした。果たして、彼女達は無事に片腕を取り戻す事が出来るのでしょうか。
そんな序盤の見所は、林檎丸による大立ち回りでしょう。侍達を相手にまったく苦戦の様子を見せない彼女は、次々と相手を切り伏せていきます。汗一つかかずに、華麗に戦場を飛び回るその姿は、圧巻の一言。バトル漫画としても楽しめるよい作品だといえるのではないでしょうか。
旅のなかで、左目と左腕を取り戻した一行。彼らは次なる目的地、銀座へと向かいます。
到着した銀座は若い男女が多く、なんだか華やかな雰囲気。いたるところでカップルが抱き合っています。林檎丸の協力者で私立探偵の星鷹ノ助は、その大胆さにやや呆れ気味です。
そんななか1人の男が、女を引き連れて彼らのもとにやってきます。そして言うのです。「助けて」と。すると、隣にいた女は男に噛みつき、男はみるみるうちに溶けてしまったのでした。そして、目の前で増殖する女……。
謎の魍魎との戦いが始まります。
魍魎少女 2 (ゼノンコミックス)
2019年02月20日
なんとも不気味な魍魎との戦いから幕を開ける本巻。今回は、今まで明らかにされてこなかった雪之条と八房の過去が明らかになっていきます。なぜ、親友の関係であったのに雪之条は八房に殺されてしまったのか、その一端が描かれることとなるのです。
幼少期、彼らが生きていた環境は、あまりにも荒んだものでした。雪之条の父親は狂い、すでに亡くなった彼の妹を背負ったまま生活する日々。八房の家族は、彼を差別し続けていました。しかし、そんな家族たちも全員亡くなってしまいます。
そして飢えていた雪之条と八房は、海で見つけた魍魎を食してしまうのです。そのことをきっかけに、彼らは不死の体となってしまったのでした。流れていく月日のなかで、くり返していく出会いと別れ。そんななかで、八房は雪之条が少しずつ狂っていくのを見ていきます。そして……。
2人の間にあった出来事。それは悲しく、切ないものでした。彼らの抱えたそれらの感情の象徴ともいえるのが、林檎丸の存在なのです。本巻では、彼女の出生の秘密も明らかになります。雪之条を大切に思ってきたからこその、八房の決断。その想いを、ぜひ本巻で感じてみてください。
またラストでは、衝撃の事実も明らかになります。まだまだ続きが気になる、最新巻です。
- 著者
- 白石純
- 出版日
- 2018-08-20
ホラーとしても、ファンタジーとしても、バトルとしても楽しめる本作は、現在無料で読むことが出来ます。
この機会に、本作の独特な世界観に触れてみてはいかがでしょうか。不気味な世界観と個性豊かな面々の魅力に、思わずハマってしまうかもしれません。