佐々木丸美が書くのは、大人の幻想的なファンタジーです。詩のように紡がれる言葉は、日本語の美しさが際立ち、その繊細なストーリーをより一層引き立てます。言葉の美しさを楽しみたい方に、佐々木丸美は是非ともお薦めしたい作家です。
佐々木丸美は1949年生まれの北海道出身で、2005年に残念ながら亡くなっています。
1975年に『雪の断章』でテレビ懸賞小説佳作入選し、1985年に斉藤由貴主演で映画化されました。
佐々木丸美が亡くなったことをうけ、2006年から作品が続々と復刊されはじめており、再評価されています。
佐々木丸美の、孤児4部作の1冊目です。孤児院で育った倉折飛鳥は、ある日迷子になった公園で親切な青年に出会います。それから二年後、引き取られた本岡家から逃げ出した飛鳥は、かつての青年、滝杷祐也に救われるのでした。裕也、お手伝いのトキさん、裕也の友人史郎に囲まれ、幸せな生活が始まります。
「森は生きている」の童話の少女のように、あるいはマツユキ草のように、雪の中で強く素直に生き始める飛鳥。裕也を初めてあった日も、助けてもらったあの日も雪が降っていました。
- 著者
- 佐々木 丸美
- 出版日
そんな中、ある毒殺事件がきっかけに、様々な思いが深くねじれていきます。粉雪のように舞う愛の行方は、史郎、裕也、飛鳥をどこに向かわせるのでしょう。
雪に包まれた札幌を舞台にした、雪の結晶のように繊細な佐々木丸美の大人のファンタジーです。大切な人ができたときに、どうぞ読んでみてください。ぜひ佐々木丸美の世界に浸ってもらいたい、一作です。
佐々木丸美の孤児4部作の3冊目です。人格者の父と、美しく従順な母。藍、郁、詩、織の四人姉妹は父母に愛され、何不自由なく育ってきました。その中で家族として認められず、教育さえ与えられずにひとり愛に無縁な昭菜。
母の実弟である荘嗣(つよし)が、大学生になって一緒に住むようになってから、いとこの奈津子、織は荘嗣をめぐり自分がお嫁さんになるのだと言っては争っていました。孤独に過ぎる日々の中で、誰もいないときには優しくしてくれる荘嗣に、昭菜もまた思いを募らせるのでした。
食事の席も別にされ、食べることができない日もある日々。織が捨てたカルタをこっそり拾い、ひらがなの練習をする昭菜。ある日目覚めると、机に置かれていた美しいノートと万年筆は、一体誰がくれたのでしょうか。
- 著者
- 佐々木 丸美
- 出版日
- 2007-02-24
一族の歯車に郁の恋も翻弄されるなか、郁がいなくなる前に昭菜に手渡しした手紙で、様々な真実が明らかになります。様々な愛がねじれ絡まり、昭菜は冷酷な宿命を断ち切り、自分の幸せのために動き出すのです。
人を愛するということは、こんなにも残酷なことでしょうか。郁、織、昭菜、あるいは父、母、荘嗣。あなたは一体だれに自分を重ねて読みますか?
旧家に住むのは16歳の娘である砂霧、その父に老女中など合わせて6人だけで、静かな生活をしていました。おとなしく華奢な砂霧。彼女は性格破綻者だったのです。突然眠り込んだかと思うと、きつい目つきで、きびきびした少女が現れたのです。
おとなしく右利きの砂霧と、活発で左利きの砂霧。吹雪の中訪れた若い旅人が、運命をひずませていきます。
- 著者
- 佐々木 丸美
- 出版日
- 2008-02-20
ある日の黄昏、束の間姿を消した沙霧は、掌に血をつけて見つかります。裁縫鋏をなくしたまま。そしてとうとう、父、砂霧、旅人の目の前に、もう一人の砂霧が現れます。すぐに消えたその姿は、幻か。
少しずつ眠る時間が永くなる沙霧。鏡に映るような二人の沙霧と二人の恋人。本身と影の二人は、やがて影の沙霧の恋心まで吸収していくのです。
回る運命の歯車に、二人の沙霧の幸せはどこへ向かうのでしょうか。北国の山と海を舞台にした、佐々木丸美の宿命と恋のおとぎ話をどうぞご堪能ください。
佐々木丸美の「館」シリーズの1作目です。百人浜の断崖に建つ白い館。高校2年生の涼子と5人のいとこたちは、いつものように冬休みを過ごすためにやってきます。そこは資産家のおばの養女である愛娘、千波が住んでいましたが、2年前、結婚を控えていた千波は崖から転落死してしまったのでした。
そして到着したその日に絵画が一枚消えてしまい、その翌日から次々といとこたちが惨劇に巻き込まれるのです。風が不気味に吹くその館に、生まれ始めた謎が心のすき間にしのび入り始めます。
- 著者
- 佐々木 丸美
- 出版日
- 2006-12-21
館に昔からひそむ血なまぐさい殺意は、一体誰のものだったのか。美しかった千波の死は、殺人だったのか。この惨劇も同じ人間の犯行か。
海と崖の厳しい冬のなか、真実は海に託されていました。全ての犯人は、明るくなっていく海へと、雪の中を歩いていくのでした。
前に紹介した佐々木丸美の作品と比較すると、しっかりとしたミステリーになっています。雪と海の自然の美しさの中で起きる、密室殺人をファンタジー仕立てでお楽しみください。
不思議な遺伝子を持つために、隠れ里に住む美しい姉妹。それは双児か分身か。母から子へと受け継げられていく血の因縁と、それを優しく見守る人々を描いた佐々木丸美の作品です。
邇邇玉(ににぎ)さまは、お館さまの子である毘翠(びなす)を生んですぐ亡くなります。2歳のときに毘翠は二人に。14歳になった毘翠は、恋をします。けれど二人になった毘翠を見て、男は逃げ出してしまうのです。
それでも毘翠は愛した人の子、真折を生むのでした。真折は、秘密をすべて受け入れてくれた男によって、隠れ里から連れ出されます。守り通され幸せな一生を過ごした真折は、ただ一度、娘の結婚時に分身します。
- 著者
- 佐々木 丸美
- 出版日
- 2007-12-21
見上げる夜空。あそこに光るはお母さま。こちらに光るはお父さま。子守唄にのせて、伝説は受け継がれます。人への愛はかならず己へ戻る。巡る愛が、いつかあなたに届き受け取ることができますように。
この作品の最後に出てくる女性が、孤児シリーズの主人公の母となって、話は続いていきます。佐々木丸美の全作品の原点ともいうべきです。無償の愛を描く最高傑作を、どうぞお楽しみください。
以上、5作品をご紹介いたしました。どの作品も、佐々木丸美節ともいうべき詩的な文章で書かれており、その世界観にはまってしまう方もきっと多いことでしょう。雪や海など大自然を背景にした、究極の愛の幻想物語をどうぞお楽しみください。