超常の力を持った妖怪変化や、地霊の類が息づく世界。そんな世界で、人々から尊信と畏怖の対象とされていた「ヌシ」を巡り、人間達がそれぞれの思惑をぶつけ合い争う、アクション活劇。それが、『斑丸ケイオス』です。迫力のあるアクションシーンと、個性豊かなキャラクター達の感情のぶつけ合いが楽しい作品となっています。今回はそんな本作の魅力を全巻ご紹介していきます。 ネタバレを含ますので、気になる方は無料で読めるスマホアプリからご自身の目でご覧ください。
禁制とされる「ヌシ」のいる森へと足を踏み入れた元殻洲(からす)忍衆の女忍者・白夜(びゃくや)。そんな彼女の追手として差し向けられた忍のうち、彼女に心酔し、その匂いを求めて後を追っていたのが、斑丸(ぶちまる)という忍者でした。
彼は、ある目的のためにヌシを殺そうとする白夜とともに戦うことを決め、自身も殻洲忍衆を抜けることに。しかし「ヌシ」討伐の際に呪いを受け、結局白夜からも見捨てられてしまうのです。
ところが斑丸はそれだけではあきらめません。白夜に力の源である右腕を奪われて死を待つ身となったヌシ「タダムキ」とともに、白夜の後を追うことにするのです。
果たして白夜のがヌシを殺そうとする目的とは。そして斑丸は彼女を追うなかで、何を想い、旅の果てにどんな結末を迎えるのでしょうか。
- 著者
- 大野ツトム
- 出版日
- 2017-04-28
本作の主要な設定であり、物語の行く末を左右する存在として、何といっても「ヌシ」は欠かせません。
そして、主人公である斑丸が妄信して止まない白夜は、ある人物を蘇らせるという目的のために、神に等しいとされる「ヌシ」を殺しています。
世界の根幹を司る存在であるヌシを殺すという事は、いわば世界の理そのものを崩壊させるに等しい行いです。
実際、作中ではヌシを殺した事によって、大規模な変化が起こっています。世界を一変させてしまう恐ろしい行いであると、人々は白夜の行為を恐れます。
しかし、その一方で全てのヌシが死に、神がいなくなることによって、人によって統治される世を望む人々もいるのです。
神によって均衡が保たれた世界と、人々によって統治される新たな世界。果たしてこの世は、どのような結末を迎えるのでしょうか。
本作の主人公は、タイトルにもなっている「斑丸」という忍者です。単行本1巻の表紙では、実にカッコイイ決めポーズを見せてくれている彼ですが、ちょっと(かなり?)普通ではない人物。
というのも、彼が世界を巡るきっかけとなったのは、全て白夜が理由であり、それ以外の目的はないのです。
ただただ彼女の傍に居たいから、という理由だけで、元居た忍衆を敵に回し、神にも等しい「ヌシ」を殺す事を決めるのです。純愛といえば聞こえはいいかもしれませんが、実際には盲目的に彼女を愛するがあまり、他者を殺める事も厭わないという危険な思考を持った人物であるともいえます。
また彼女に心酔する理由も、その匂いが好きだからと述べるなど、お世辞にも好感が持てる人物とはいえません。むしろストーカーじみた理由である分、嫌悪感を抱く読者の方もいるのではないでしょうか。
しかしながら、そんな彼だからこそ、これまでの王道ともいえる正義感に満ちた主人公の旅路とは一味違った楽しみを見出すことが出来るといえるでしょう。
また、変態的な感性を持った斑丸ではありますが、そんな彼も旅を続けていくにつれて、少しずつ人間的にも成長していく事になります。
これまで白夜のみだった彼の世界が、少しずつ周囲の人間達やヌシとの関わりによって変化していく過程は、どうしようもなかったダメな息子が一人前に成長していくさまを見るようです。そのため、彼の旅路を見守ってきた読者としても、一種の感慨深さのようなものを得る事が出来るのではないでしょうか。
いずれにしても、普通ではない魅力に満ちた主人公なのです。
ここからは、単行本各巻のあらすじと、見所をご紹介していきます。
本巻では、大切な人を蘇らせるためにヌシ殺しをおこなう女忍者・白夜と、それに付き従う斑丸という2人の描写から物語が始まります。
- 著者
- 大野ツトム
- 出版日
- 2017-04-28
2人はまず手始めに、「ヌシの森」に住むとされる「人喰いタダムキ」を殺すため、その根城へと向かいます。本来であればヌシは人の手で殺める事が出来ない存在。しかし白夜の持っている刀「宝刀千歳」はヌシの血で清めた刀であるため、彼らを殺す力を持っているのです。
彼女はその刀によって、タダムキの力の源である右腕を切り落とし、手に入れようと考えていました。そしていよいよタダムキと対峙し、狙い通り右腕を切り落とす事に成功。しかし、その戦いで斑丸は、ヌシの呪いを受けてしまうのでした。
そんな彼に対し、白夜は右腕を手に入れたので用済みとばかりに、あっさりと彼を見捨てます。それでも彼女を諦める事が出来ない斑丸は、呪いの力をその身に宿し、彼女の後を追う事を決めたのでした。
一方のタダムキは、そのままでは右腕を切り落とされた事により、ただ死を待つだけの身となってしまいます。彼は白夜を追って右腕を取り返そうと考え、図らずも斑丸とタダムキは2人で彼女を追うことに。
こうして奇妙な組み合わせの2人組の追跡が始まります。果たして2人は彼女に追いつくことが出来るのでしょうか。
本巻の見所は、斑丸の白夜に対する偏愛の描写です。やはり、冒頭の彼女に対する盲目的な愛情は凄まじいものがあり、1巻ということで初見だと読んでいてかなり強烈に感じるものです。
しかし、この頃の斑丸があればこそ、旅を経て成長していく彼のカッコよさが後々際立つのだともいえる設定。斑丸という主人公を好きになるために、まずは成長前の姿を脳裏に焼き付けてはいかがでしょうか。
白夜を追う斑丸を、さらに追いかける追手が登場する2巻です。
- 著者
- 大野ツトム
- 出版日
- 2017-09-29
彼らを追う暗殺部隊と、白夜と斑丸の2人がついに対峙し、いよいよ争い始めたその時、争っていた場所が大きく動きました。なんとその場所は、白夜が狙っていた三柱のヌシの一角が眠っている場所だったのです。
ヌシを交えた大混戦の行方はどうなるのでしょうか。
そんな2巻の見所は、斑丸が少しずつ成長していく過程です。これまで白夜だけを想い、彼女の傍にいる事だけを考えていた彼でしたが、自分を慕ってくれる葉泉や、周りの想いを感じた事で、少しずつその在り方が変わっていきます。
白夜の傍にいる事だけが生き甲斐だった彼から、大切な白夜を守るために彼女を止めようとする斑丸へと成長していくのです。
ようやく主人公らしく、漢らしくなってきた彼の成長に注目です。
いよいよ神殺しの物語も終息となる最終巻。
本巻では、ついに三柱のヌシを殺した白夜が、100年前に封印された「瞬目のヌシ」を復活させようとします。
- 著者
- 大野ツトム
- 出版日
- 2018-02-28
白夜の目的は、三柱のヌシによって封印されていた瞬目のヌシを復活させる事で、瞬目のヌシによって時間を奪われてしまっていた村人と、彼女の師匠を救い出す事にあったのでした。しかし、100年間止まっていた時を動かしてしまった事で時間は一気に進み、村人全員が風化して朽ち果ててしまうのです。
呆然として無気力になってしまった白夜に迫る瞬目のヌシでしたが、そこに戦いのなかでヌシの呪いによって妖士となった斑丸が現れ、彼女を守るために戦い始めます。
しかし、瞬目のヌシの力は凄まじく、斑丸はいよいよ追い詰められてしまいます。ですが、彼と仲間達の戦いを見ていた白夜は、自分のこれまでのおこないを償うように瞬目のヌシ殺しに参加。ようやく止めを刺す事が出来たのです。
しかし、瞬目のヌシは他者に寄生して生き延びるヌシであったため、止めを刺される寸でのところで、今度は斑丸に取りつきました。彼を取り戻すために奮闘する仲間達とヌシの戦いの行方は、一体どうなるのでしょうか。結末はご自身の目で確認して頂ければと思います。
そんな本巻の見所は、仲間達と力を合わせた、瞬目のヌシとの総力戦です。やはりバトルアクションとしての熱さとカッコよさも本作の大事な魅力であると感じさせられる、よい展開だと感じられます。
また、これまでの旅を経て、衝突し合った仲間達の絆が確かなものとなっていることがよく分かる内容です。
ぜひ最終回がご自身の目でご覧ください!