美しくも恐ろしい「吸血鬼」と、その「使い魔」による血と殺戮のサスペンスホラーアクション漫画。吸血鬼達によっておこなわれる争いのなかで、それに巻き込まれた事により、運命を大きくゆがめられてしまった人間達の葛藤を描いた作品となっています。 今回はそんな本作『屍牙姫』の魅力を、全巻分ご紹介。気になる方はスマホアプリからは無料で読むこともできるので、ぜひそちらをご利用ください。
学校でもいじめられ、家庭も崩壊していた壮一という少年。彼は、とある館に人を案内しては、美輪子という美しい女性を紹介していました。
実は彼女は、壮一が連れてきた人間の心臓をえぐり出し、そこから絞り出した血液を摂取する事で生きている、本物の「吸血鬼」なのでした。
屍牙姫
そんなある日、壮一は修という少年に目をつけ、これまでと同じように館へと案内しました。しかし修は、これまで連れてきた男達とは違い、好きだった女の子を大事に思っていたため美輪子の誘惑に乗らないで帰ろうとします。
そんな彼の清い心をむしろ気に入った美輪子は、これまで献身的に世話をしてくれていた壮一の心臓をえぐり、修を自身の「使い魔」とすることに決めたのでした。
美輪子の思い付きに近いきっかけで、人間ではなくなってしまった修。そして後戻りの出来ない、暗い夜の世界に足を踏み入れてしまう事となったのです。
あらすじからもわかるように、本作は次から次へと登場人物が死んでいく物語となっています。
というのも、主人公である美輪子と、その使い魔の修が、美輪子の食事のために他者の命を奪わなくてはならないためです。心臓を奪うために、人間であれ吸血鬼であれ、殺していかなくてはならない。そんな問答無用の無慈悲な設定が、本作の根幹にはあります。
また直接的な命のやり取りはなくとも、関わってしまった人間達もまた、悲しい運命を背負う事となってしまうのです。たとえば修の彼女であるちかは、使い魔にされてしまって人間の姿ではなくなった彼の姿を見て逃走していた最中、車にはねられて瀕死の重傷を負ってしまいます。
そんな彼女は美輪子の手によってなんとか一命を取り留めたものの、定期的に美輪子によって処置をされなければ再び死に瀕してしまうという、ツギハギのような体となってしまいました。
そのため修は恐ろしい吸血鬼達との関わりを切る事は出来ず、ちかのために何者かの命を奪い続けなくてはならないのです。こうした逃げ道のない絶望感が、読み進めていくにつれて徐々にクセになっていくのが本作の魅力であるといえるでしょう。
先述したとおり、主人公である美輪子を中心とする吸血鬼の女性達は、誰もが恐ろしい化け物であるとともに、見目麗しくもあります。
そして彼女達は、ある時は獲物の人間をおびき寄せるため、ある時は高揚した気分に身を任せて、その身に纏った衣服をよく脱ぎます。そして、その恵まれた肢体を惜しげもなく晒してくれるのです。
その様子は、どうしても情欲を掻き立てられずにはいられないもので、サービスシーンとしては申し分ないといえるでしょう。
一方で、そうしたエロチックな描写の最中であっても、登場人物達はよく血に塗れます。裸であろうと衣服を着ていようと、相手の心臓をえぐり出して血を飲もうとする行為は、作中のありとあらゆる場面でおこなわれるのです。
エロとグロが絶妙なバランスで混在するのも、本作の重要な魅力であるといえるのではないでしょうか。
ここからは単行本各巻のあらすじと、見所についてご紹介しましょう。
本巻では、美輪子が修を使い魔とし、徐々に使い魔として調教していく流れが描かれています。
屍牙姫
殺されるような目にあって、急に使い魔となってしまった修は、当然美輪子に反抗していました。それでも使い魔として生きていかざるを得ない事を知り、半ば諦めながら付き従うのです。
しかし、ちかに化け物となった自分の姿を見られてしまい、逃げ惑った彼女が車に撥ねられてしまった事から、事態は一変。
これまでとは違い、彼女を救うために積極的に心臓を狩る必要が出てきてしまったのです。果たして彼は、彼女を救う事が出来るのでしょうか。
そんな本巻の見所は、何といってもちかが車に撥ねられてしまうまでの場面です。自分の姿が化け物となってしまった事を知りながらも、彼女にだけは自分が修であるとわかってほしい彼は、必死に逃げる彼女を追いかけます。
結局追いかけた先で彼女は車に撥ねられてしまいますが、それでも彼女は修の呼び声に応えて、一瞬ではありますが使い魔としての彼を、修であると認識するのです。
2人の絆の強さを感じるとともに、直後の悲劇の沈痛さが際立つような展開なので、本作の救いのない世界観を感じるには最適なシーンだといえるでしょう。
いよいよ本格的に使い魔としての暮らしが始まる、第2巻です。本巻では前巻から引き続き、美輪子のために人間の心臓を狩る事となった修が描かれています。
しかし狩りをするという事は、すなわち人を殺さなくてはならないということ。そのことに、彼は真剣に悩み続けるのでした。
- 著者
- 佐藤洋寿
- 出版日
- 2017-11-20
そんななか、なんと美輪子とは別の吸血鬼が現れ、彼女の使い魔である修をいたぶり始めます。そこに、美輪子が颯爽と登場。なんと、いとも容易くその吸血鬼を殺してしまうのでした。その際に用いたのが、修の片腕が変質した鋭利な部位「鉤爪」です。
彼女は、使い魔は吸血鬼の狩りの代理者であると同時に、吸血鬼を殺すための武器でもあると明かます。
さらに吸血鬼にはランクがあり、彼女はそのなかでも「オリジナル」と呼ばれる最上位ランクの吸血鬼だということもわかります。つまり修は、オリジナルの使い魔、ということです。
そんな彼は、本来他の吸血鬼を狩る事が出来る程に上等になれる素養があるのでした。そして、美輪子が与える生命力の注入がなければ、ちかは死んでしまうという事がわかった彼は、いよいよ本格的に他者を狩る事を決意するのです。
そんな彼の目の前に、なんと前巻の冒頭で死んだはずの少年・壮一が姿を現します。果たして、彼の目的とは何なのでしょうか。
そんな本巻の見所は、初の吸血鬼同士の戦いです。敵の吸血鬼はかなりランクが低く、オリジナルである美輪子にはまったく敵いませんでした。
勝敗が明らかでも、彼女がその圧倒的な強さと美しさを、血に塗れながら見せつける戦いは壮観の一言です。
主要な面々が揃い始める第3巻。本巻では主に壮一、修、ちかの3人の関係を中心に物語が進んでいきます。
- 著者
- 佐藤洋寿
- 出版日
- 2018-04-20
美輪子の使い魔である修に対し、決闘を申し込んだ壮一は、圧倒的な力で修を下します。そんな壮一が、美輪子と同じくオリジナルのうちの誰かの使い魔であると考えた美輪子は、彼の心をかき乱すために、ちかを利用する事を考えました。
ちかに妖術をかけて彼を誘惑させる事で、関係を拗らせるよう仕向けた彼女。その狙い通り、彼は心をかき乱されて、鉤爪を自在に操る事も出来なくなってしまいます。
一方で、ちかと壮一の関係を邪推した修は、壮一を殺すために本格的に使い魔となるよう、美輪子の指導を受ける事にするのでした。そして、あらためて壮一の前に姿を現し、今度は修から彼に決闘を申し込むのです。
そんな本巻の見所は、美輪子の悪趣味な思惑でしょう。壮一の弱体化を狙ったのでしょうが、それでも面白半分で3人の少年少女の運命を弄ぶ彼女のドSっぷりが、たっぷりと感じられる内容となっています。
ちょっとイジメられる事が好きな読者の方には、堪らない展開といえるのではないでしょうか。
見事、壮一にリベンジを果たした修。しかし強さを手に入れると同時に、彼は徐々に人間らしい心を失っていくのでした。
そんななか、なんと美輪子の姉が登場して……!?
屍牙姫 4 (ゼノンコミックス)
2018年12月20日
壮一の主となる人物、それは美輪子の姉・環でした。彼女は美輪子の姉だけあり、やはり冷徹。なんと、壮一が想いを寄せている相手・ちかを殺すよう、彼に命令するのです。ちかを前にして攻撃できない壮一。そんな彼を尻目に、環はちかの心臓をえぐるのでした。
目の前でちかを殺された壮一は覚醒し、環に襲いかかります。その力は恐るべきものでした。窮地に陥った環は、壮一のある条件を飲んで、このピンチを切り抜けることになります。
それは、ちかに環の力を与えて、彼女を血族に招くことだったのです。
そんな本巻の見所は、修とちかの葛藤です。ちかは環から力を得たことにより、血の臭いを美味しそうと感じるなど徐々に変化が起き始めます。それは、修が見ても彼女と気づかないほどの変化でした。強大な力を得た彼女は、やがて内面も変わっていき……。
さらに、修とちかの関係にも大きな変化が訪れます。ちかは、使い魔が見つかるまでは修を使い魔にしてよい、と美輪子から言われていました。つまり彼らの関係は、恋人同士から主従関係へと変わってしまったのです。
かつては、普通の少年少女だった2人。もう後戻りすることはできないのでしょうか。まだまだ目が離せない最新巻です。
血族になった姿で修の前に現れた、ちか。嬉しそうに彼に恐ろしい姿を見せます。
それに対し、自分と同じ世界に来てはいけないと遠ざける修。しかし逆上した彼女によって気絶させられ、目が覚めると学校が地獄のような惨状になっていて……。
- 著者
- 佐藤洋寿
- 出版日
- 2019-05-20
ついに『屍牙姫』も4巻で最終巻です。
悲しい運命に翻弄された修、壮一、ちか。それぞれがそれぞれを愛しているがゆえに、事態が複雑になっていきます。そして、それをすべて仕組んでいた、美輪子。最終回にむけて物語はどんどん過激に加速していきます。
ラストにちかが語った言葉は、つい泣いてしまいそうになるもの。しかし、彼女の言葉をうけて、修はあることに気づくのです。
最終回は時間が経過し、18年後。またしても美輪子によって生かされた修ですが、彼は彼女にあることを告げて別れます。
悲しくも美しい最後とは?静かに終わる物語にさらに引き込まれること間違いなしです。
グロテスクながらも美しい世界観が魅力の『屍牙姫』、いかがでしたでしょうか。今回の記事で気になった方は、ぜひ漫画を手に取ってみてください。アプリからは無料で読めるので、そちらもぜひ。