エリートが集まる警視庁警務部に勤務することになった、橋本檸美(れみ)。しかし、配属先の特別対応室は、理想とは程遠かった!しかも教育係は、性格上問題だらけの野宮警部補。そんな彼に振り回されながらも、ともに警察内部にはびこる悪と戦います。 ここでご紹介するのは、そんな予想の斜め上をいく警察コメディ。無料で読めるスマホアプリも、要チェックです。
組織内に蔓延する悪の芽を刈る、読めば爽快間違いなしの勧善懲悪ストーリー。
しかし、主人公はかなりの変わり者。彼の恨みを買ってしまうと……。
- 著者
- 宵田佳
- 出版日
- 2018-03-20
警視庁警務部の特別対応室、通称「トクタイ」に配属された橋本檸美(れみ)。憧れの警務部に心躍らせていた彼女ですが、トクタイの業務は彼女の想像とかけ離れていました。
そこでおこなわれていたのは、警察内部の不祥事やトラブルを未然に防ぐ、監察の補佐役のような仕事。地味な職務に、こぢんまりとしたオフィス。のんびりして見える先輩たちに、エリート部署のイメージをことごとく打ち砕かれてしまいます。
そんな彼女の教育係になったのは、一見すると爽やかイケメンの野宮警部補。ところが彼は、とんでもないクセモノでした。外面はいいのに、トクタイ内では傍若無人。変わり者?いじわる?な難あり教育係に、真面目な彼女は振り回されっぱなしです。
果たして、こんなちぐはぐコンビで、トクタイの職務をまっとうすることはできるのでしょうか。
警察といえども一般企業と同様、パワハラやセクハラ、いじめなど問題は山積みです。檸美と野宮は、非行事案を許しません。
主人公というからには爽やかな容姿で、警察官といえばきっと悪を憎む熱血漢で、誰に対しても優しい人物なのだろうと勝手に想像してしまいます。しかし、その期待を見事に裏切ってくれる存在が、野宮警部補です。熱血漢?優しい?とんでもない!
外部の人間には笑顔を振りまく親切な警察官ですが、その実態はたいてい無気力。しかも人の眼前でドアを閉める、通せんぼする……完全に子供です。特に一緒に行動しなければならない檸美は、よく被害を被っています。
こんな男が主人公でいいのか、問いたくなるような人物なのです。
しかし、そんなのは序の口。彼の恐ろしさは、一度感じた恨みは忘れないということ。
彼が職場に置いているノートには、されて嫌だったこと、人物、仕返しの方法が事細かに書き込まれています。そして、その仕返しは確実に実行されるのです。「目には目を、歯には歯を、下衆には下衆を」。
ただ、ストーリー上で彼のターゲットとなるのは不祥事を起こした人物なので、見ているこちらとしてはスカッとします。彼は、相手が何をされたら嫌がるのかを見抜く能力に長けているのでしょう。いつも相手が大きなダメージを負う一手を、最後に残しているのです。
それが、ハラスメント被害などにあった者のためならばどんなによいか。相手を追い詰める野宮は、いつもの無気力な表情はどこへやら、生き生きとしています。
彼は相手の前ではニコニコ笑って、決して黒い腹の中を見せません。しかし、その腹黒さが頼りになる、前代未聞の主人公なのです。
正義が悪を懲らしめるという勧善懲悪物は、古くから好まれてきました。本作も、警察組織内の悪を取り締まる勧善懲悪ストーリーです。弱者が形勢逆転し、本来の強者を追い詰めるというのは見ていてスカッとするもの。
本作には高圧的な態度の上司や、高慢なエリート、不祥事を隠ぺいしようとする組織の動きなど、さまざまなタイプのイラッとさせる人物が登場します。それを野宮たちが、読者に代わって成敗してくれるのです。
「いかにも悪いことしてます」という相手に対して証拠を提示し、言葉巧みに誘導。あの手この手で追い詰めていく展開は、まさに痛快です。
憎らしい人物を相手にした時こそ、野宮のねちねちした性格が光ります。誰もが期待した通り!?の気持ちいい結末になっているはず。これだから、野宮がいくら腹黒くても憎めない!!
腹黒い野宮、真面目な檸美、ゆったり構えた室長など、性質の異なるメンバーがそろうトクタイ。そんなキャラクターたちが面白く、毎話変わるトラブルの中心人物も個性豊かです。特に子供のような一面を見せる野宮には笑ってしまいますが、ストーリー全体はただ笑えるだけではありません。
警察の人間が皆善人なわけじゃない
(『野宮警部補は許さない』1巻より引用)
警察官はみんな品行方正で、よい人だと思いたいもの。しかし、そうはいかないのが現実で、警察組織内にも過失や職務怠慢、不倫、ハラスメントなどの諸問題が渦巻いています。
過ちを犯さないのが1番ですが、万が一誤ったおこないをしてしまったときに素直に過ちを認められるか、保身を優先させるか……。後者を選んでしまう者は、確かに存在するのです。
本作の世界には、このタイプの人物が多く登場します。フィクションではあるけれど、自分たちに無関係とは思えないところに、ドキッとさせられることでしょう。会社に、身の回りに、こんな人たちがいるのではないでしょうか。
もしかしたら故意ではないけど、自分自身ハラスメントに当てはまる行動をしてはいないかなど、ふと頭をよぎるかもしれません。
いつも頭の片隅にトクタイを設置して、野宮に勤務してもらいたく……は、なりませんけれど。
本巻の主な調査対象は、立場を利用して部下に関係を迫る高慢上司。新人巡査を監禁したにも関わらず、勘違いだと言い張るエリート警部補。さらに、理想を求めるあまり、かたくなに外部からの干渉を避け続ける機動隊らです。
元警視総監の孫で、現刑事部長の息子であることを笠に着る秋葉は、実は野宮の同期。野宮とは明らかに相性の悪そうなキラキラオーラをまとった彼を、徹底調査します。
問題の事案は、酔った女性巡査を自室に監禁した疑いです。
- 著者
- 宵田佳
- 出版日
- 2018-03-20
しかし彼は、安全のため一時的に巡査を保護したに過ぎず、監禁は巡査の誤解だと言い張ります。憎らしさがどんどん上昇していきますね。でも安心してください。そんな言い分が、野宮に通用するはずありません。
野宮は彼の過去も調査済みで、性癖まで調べ上げているのです。恐ろしい!!そのうえで、とある罠を仕掛けるのですが、秋葉は狙い通りまんまと罠にかかるのでしょうか!?
野宮のことだから、大きなダメージを与える仕掛けを用意するはず。権力者を親に持つ秋葉が、苦痛に思うことってなんでしょう?
さあ、その腹黒が発揮される時です!!
1巻に引き続き、警察の闇を内部から暴く、しかしだからといって純粋な正義のヒーローとは言えない野宮警部補の活躍が描かれる2巻。独特の性格にクスリとしながら、勧善懲悪のスッキリさを味わえるでしょう。
本巻からは、ストーリーの新たな本筋のようなものも見え隠れし始めます。
- 著者
- 宵田佳
- 出版日
- 2018-09-20
ある日、かつての同僚・百合子から久しぶりに電話をもらった檸美。それは、警察内部でうやむやにされているセクハラの被害についての相談でした。
それを受けて野宮とともに、その被害の調査に乗り出すのですが、アポなしで来た警務課で待っていたのは加害者とされている原田という男と、副署長の来海沢で……。
実は、百合子がセクハラを受けたという定期的なこの食事会が、どうもきな臭い。そこにいる何者かの存在を隠すように、来海沢が動いているようなのです。
警察内部のさらに深い闇に切り込んでいく様子が描かれる、このエピソード。今後につながる重要なものと思われますので、お見逃しなく!
また、書籍カバーを外したおまけ漫画も要チェック。とあるコンビニ店員の体験した本当にあった怖い話に、おののいてしまうはずです。
敵に回したくない人ナンバー1。腹黒いのにどうしても憎めないキャラの野宮警部補、そして檸美のコンビは絶妙です。アクが強い調査対象者を2人が追い詰めていくさまを見て、スッキリしましょう!『野宮警部補は許さない』、おすすめです。