「恋せよ乙女」?はたまた「恋せよ『人類』」?本来、恋は素晴らしいものであるはず。純粋なものから、重かったり歪んでいたり、理解しがたいものまで、恋愛のかたちは多種多様。今回は女性作家による恋愛小説をご紹介します。
恋愛脳で恋愛中毒症状のある、いわゆる「危ない女」のお話。それなのに、どうしてこんなにも共感してしまうのでしょう。
- 著者
- 山本 文緒
- 出版日
物語は、主人公・水無月の独白から始まります。水無月は、40歳を超えた地味な独身女性。離婚の痛手から、「二度と恋愛はしない」と誓うも、長年ファンであった作家の創路と出会い、愛人関係を結びます。
「恋愛に不器用な女性」という印象の水無月ですが、物語の後半になるにつれ、彼女が重度のストーカーであることがわかります。裁判沙汰になっても、自分の過ちに気付けない水無月。「自分だけが悪いのか」と思ってしまうあたり、感覚が麻痺しているのかもしれません。
人を一方的に愛しすぎる狂気は恐ろしく、展開の巧妙さが不気味さを際立たせます。感情に振り回され、自分をコントロールできない水無月の重い思いは、自分と相手の双方を苦しめます。苦しいのに、どうしても繰り返してしまうのは「恋愛中毒」だからでしょうか。
山本文緒の作品には、限りなく「普通」に近いが「普通」ではない、といった女性が度々登場します。読み応え十分ですので、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
梨果は、8年も同棲していた健吾から、ある日突然、「好きな人が出来た」と別れを切り出されてしまいます。恋敵になるはずの華子が、元彼女である梨果のもとへなぜか押しかけてきて、これまたなぜか同居することに。けれど、華子は「不思議な魅力」を持っていました。家に上がり込んできたときも、仲良くなり始めたときも「自然」だったのでした。
- 著者
- 江國 香織
- 出版日
健吾は、華子が好きだけれど、8年間も付き合った梨果を蔑ろ(ないがしろ)にはできません。華子は、妙に梨果に懐きます。梨果は、健吾を簡単に割り切れず、華子を憎むこともできません。あやふやな状態を淡々と描く江國先生のコントロール力が素晴らしいと思います。
健吾は言いますーー「華子に執着していた」と。この言葉の意味に、読了後、多くの方が共感を覚えるかもしれませんね。
混沌としているのに冷静で明晰な、不思議なお話。皆様も是非、江國ワールドを味わってみてはいかがでしょうか。
高校3年生の勝利は、父の転勤のため、いとこ姉弟と同居することになります。久しぶりに会った5歳年上のかれんの秘密を知り、彼女の哀しい想いを守ってあげたいと思った勝利のピュアで真摯な純愛物語です。
- 著者
- 村山 由佳
- 出版日
- 1999-06-18
すれ違いや喧嘩を繰り返しながらも、お互いを求め合い、支え合う二人の関係から目が離せません。勝利の辛さも、かれんの寂しさも共感できて切なくなりますが、誰も責めることはできません。見守っていたいカップルです。
しかし、ハッピーエンドは簡単に迎えることができません。勝利とかれんを取り巻く人々の行き場のない思いも相まって、巻数を重ねるごとに深みが増していきます。
長いシリーズですが、飽きることなく、どんどんのめり込んでいける魅力的な作品です。ぜひ一度、お手に取ってご覧ください。
女を武器として生きる「るり子」と、恋も仕事もちょっと冷めたところがある「萌」は、幼なじみであり、親友でもあります。物語は、るり子の三度目の結婚式から始まるのですが、彼女の旦那はなんと、萌の元彼氏。対照的に描かれる、るり子と萌。だからこそ、二人の考え方が深掘りされて、味わい深い作品になっています。
- 著者
- 唯川 恵
- 出版日
- 2004-10-20
小説を読むにあたって、るり子のキャラクターに圧倒されるかもしれません。わがままを通し、女性であることを最大限に活用する彼女ですが、誰になんと言われようとも、自分が幸せになるための努力を惜しまないところが、なんとも魅力的に映ります。
一方、萌は現実的な女性。夢を諦め、身の丈にあった生き方を模索します。ただ、焦りがあることも自覚しているのです。るり子に振り回されつつも、彼女を認めるという二人の関係性がとかく面白く、どちらにも自分を投影できるのではないかと思います。
「人生哲学」にまで発展する、読み応え十分の恋愛小説です。
どの作品も題材が面白いなあと思う有川先生。今回は、何人かのショートストーリーが折り重なり、誰かの脇役で登場した人物が、別の章で主人公になったりする恋愛短編小説をご紹介します。
- 著者
- 有川 浩
- 出版日
- 2010-08-05
各章が駅名タイトルとなり、時には時系列をずらしながら描かれるストーリーは、なにより構成がうまく、面白い!あなた自身の電車内でのちょっとしたエピソードを思い出しながら読んでみても、面白いのではないでしょうか。あのとき誰かと会話が生まれていたなら、この小説のように別のストーリーが待っていたのかも、なんて思うかもしれません。
あらすじには、「人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく」とありますが、まさにこの一言に尽きるでしょう。偶然隣り合った人と恋が始まったり、元婚約者と同期生の結婚式に純白のドレスで乗り込んだ女性が同乗したり、様々なドラマを、線路の上を進む電車の中で垣間見ることが出来ます。
男性作家と間違われることも多い有川浩さんの世界観は、多くの人から愛されます。未読の方はぜひご覧になってください。新しい景色が見えてくるはずです。
18歳で結婚した、とある夫婦の物語。若い夫婦がともに痛みを得て一緒に成長していくストーリーです。
- 著者
- 吉本 ばなな
- 出版日
主人公・まなかは、隣の家で暮らす裕志と恋に落ち、結婚します。挙式はせず、裕志の婿入りという形で戸籍を変えだけでした。結婚後も生活は変わらず、彼女は自分の実家で暮らし、裕志は祖父と暮らしています。裕志は、祖父を失うことを恐れており、彼はいつも死の恐怖に怯えています。
やがて裕志は祖父、まなかは愛犬を亡くします。二人の痛みは、二人の中でしか癒されることはありません。本作はとにかく「癒し」が丁寧に描かれています。派手な恋愛小説というよりは、静かで優しく心に訴えかけてくる物語となっています。