本作は「小説家になろう」発、のの原兎太によるライトノベル小説です。イラストはoxが担当。累計15万部突破の人気シリーズで、KADOKAWAより既刊4巻まで発売中です。また、『B’s-LOG COMIC』にて、溝口ぐる作画の漫画版も連載中となっております。 この記事では、うっかり錬金術師のほのぼのスローライフ・ファンタジーを、全巻分ご紹介させて頂きます。
魔の森の氾濫(スタンピード)によって滅んだエンダルジア王国。
大挙して襲い来る魔物達から逃れるために、仮死の魔法陣を使用した錬金術師の少女マリエラは、魔物の脅威から逃れる事には成功したものの、些細なうっかりによって眠り続け、目覚めたのはなんと200年後の世界でした。
王国は滅び、錬金術師は死に絶え、ポーションが高級品となったこの地で、天然記念物級に珍しい存在となってしまった彼女。周りから注目されるのですが、そんな彼女の望みは「街で静かに暮らしたい」というのんびりしたものでした。
- 著者
- のの原 兎太
- 出版日
- 2017-09-30
スタンピードの後にできたダンジョン「迷宮」の存在、精霊眼を失った瀕死の奴隷ジークムントとの出会い、魔の森を抜ける黒鉄輸送隊のリンクスや迷宮都市に暮らす人々との交流……。
そういったことを通じ、この都市で居場所を見つける事が出来たマリエラは、迷宮を倒す事を悲願として戦い続けてきた辺境伯爵家など、さまざまな人々の願い、思い、思惑が入り交じるなかで、錬金術師である事を隠し、穏やかに暮らしていく事ができるのでしょうか。
ここでは、本作の見所をご紹介。錬金術好きの方、イラストが気になる方、おっさん好きな方には、特におすすめの魅力、ポイント多数です!
「錬金術師」というタイトルに惹かれて手に取られた方、錬金術師ものがお好きな方には、かなりオススメできるお話だと思います。
主人公マリエラの扱う、この世界独特の錬金術はかなり詳細に設定されており、その成り立ちや各種ポーションの作り方、応用アイテムから生活お役立ち情報まで、本当にいろいろな場面・用途で登場します。
それらに感心したり、ワクワクしたり、くすっと笑ったりしながら、楽しく読み進める事が出来るのではないでしょうか。彼女の使う、かなり魅力的なおもしろ錬金術(もちろん真面目に感心させられる部分もあります!)が堪能出来るはずです。
表紙に惹かれて、読もうかどうしようか迷っておられる方。本屋さんで1度お手に取ってみることをおすすめします。ぱらりと表紙をめくってみると、作画oxさんによるカラー漫画で、各巻冒頭のシーンが読めるのです。
表紙イラスト同様に、衣装や装飾品、背景・風景、小物、どれも素敵で一見の価値有り。ぜひ、チェックしてみてほしい、おすすめポイントの1つとなっております。
気になる登場人物ですが、ちょくちょくおっさん、爺さんが登場するのも魅力(?)の1つです。偏屈な薬草店の店主ガーク爺、頑固大工・建築家のドワーフ親子ゴードンとヨハン、ドワーフガラス職人ルダン、頭が眩しい熱血ギルドマスターのハーゲイなどなど……。
強烈な個性のおっさん(爺さん)達がそこここに登場し、物語になんともいえない味を追加してくれるのも楽しいのです。彼らの活躍はいかなるものか、ぜひご覧頂きたいと思います。
最後に主人公マリエラと、その従者となる奴隷ジークムント(通称・ジーク)の関係についてもご紹介。瀕死で回復の望みが無く、他の奴隷達への見せしめに使われる予定だったジークは、マリエラに買われた事でその運命が大きく変わりました。
とある事情から身を持ち崩して奴隷落ちし、以前の主人からは人間扱いされず虐げられ続け、さらには濡れ衣で犯罪奴隷にまで落とされたどん底に不運な彼は、瀕死の傷を癒して自分を人間扱いしてくれた新しい主人に人生を捧げる事を決意します。
しかし当のマリエラは、自分のした事がそれほどまでに重く受け止められている事にまったく気づいておらず、200年後の世界に感じていた孤独を埋めてくれる彼に、家族のような親愛と信頼を寄せ、朗らかに過ごしているのですが……。
繊細で些細な事に苦悩懊悩する苦労人ジークと、おおらかであまり深く考えない、どこまでも普通の少女マリエラの、どこかボタンをかけ違えているのに丸く収まっている、アンバランスなのにバランスの取れてしまっている2人の生活は、読んでいてじわじわきます。
ほのぼの感溢れる、家族ごっこのような、温かい暮らし。彼らの関係が、これから起こる出来事のなかでどのように変化していくのか。注目のポイントです。
迷宮討伐。それはエンダルジア王国滅亡後に発生した、迷宮を擁するこの都市に住む人々の悲願です。
迷宮を倒さなければ、この地は完全に魔物の土地となってしまいます。しかし錬金術師が死に絶え、必要なポーションの供給は滞り、迷宮討伐への道程は常に厳しく、その結果200年経った今も戦いは脈々と受け継がれていました。
そんな状況で目覚めた、錬金術師のマリエラ。彼女は、このままでは普通に生活できるか危うい存在です。絶滅危惧種よろしく最後の生き残りとして手厚く保護(監禁もしくは換金)されてしまうかもしれません。あくまで普通の生活を望む彼女は、それを回避するために行動していきます。
- 著者
- のの原 兎太
- 出版日
- 2017-09-30
そして、200年の断絶による孤独を抱えていた彼女は繋がりを求め、奴隷ジークムントを買い、彼の家族として接するのでした。ジークも主人の意を汲み、彼女の望みに応えようと努め、2人はともに生活し始めます。
黒鉄輸送隊のメンバーで同年代の、リンクスという友人もできました。薬師ギルドのエルメラ女史、薬草店の店主ガーク爺、ギルドマスターのハーゲイ、さまざまな人々との交流を経て、薬師としてこの迷宮都市に居場所を見つけたマリエラ。
薬屋を開き、店名そのままの「木漏れ日」のような温かい日々を得て、少女はこの生活がいつまでも続くことを願うのでした。
見所は、随所に見られる「勘違い」の可笑しみです。これは全巻とおして面白いポイントなのですが、マリエラの行動や言動が誤解され、双方それに気付かないままぐいぐいお話が進んでいくのです。
彼女は錬金術師という素性を隠しているため、得体の知れない部分があるように見えて、実は大変普通の女の子。しかも、ちょっとずれていて、大らかです。
そのアンバランスさが、周囲との認識のずれを呼び、彼女は「なんかすごい」人のように思われがち。頭のよい人ほど単純なトラップに引っ掛かるような感じでしょうか?
そして、盲目に主人を敬愛するジーク。ただのどんくさい女だという、彼女の本質を見抜いているリンクス。彼ら2人の、彼女に対する感情の変化も見所です。
迷宮都市に薬師として店を構える事ができたマリエラですが、迷宮討伐軍の金獅子将軍レオンハルトの危機を救った「解呪」特化の上級ポーションの件で、錬金術師の存在が一部の人々に知られる事となってしまいました。
その事件をきっかけに、彼女の存在は停滞していた迷宮攻略に躍進をもたらし、その影響はじわじわと広がっていくのです。表向き平穏に過ごす彼女は、エンダルジア滅亡後のポーション供給を担ってきたアグウィナス家の少女キャロラインと友人になります。
- 著者
- のの原 兎太
- 出版日
- 2017-12-28
しかし彼女の兄で現当主のロバートは、錬金術師の存在を察知し、保護しようと動き始め、不穏な動きが活性化していくのです。彼の開発した「新薬」と呼ばれるポーションのおぞましい製造法、200年の間ポーションを供給し続けたアグウィナス家の秘密と闇、平穏な日々に訪れる変化……。
マリエラの心は、「このまま錬金術師である事を隠し続けていいのだろうか」と揺れ動きます。
本巻の見所は、謎に包まれたAランク冒険者である雷帝エルシーの登場と驚きの正体、少しずつ本来の自分を取り戻していくジークの成長、迷宮討伐軍の面々の登場です。
討伐軍は、迷宮攻略の要。マリエラという錬金術師との関係をどう築いていくか悩む彼らの出す答えは、一体どういうものになるのでしょうか。そしてアグウィナス家の秘密は、マリエラにも無関係とはいえないものとなります。
新たなおっさん(強面)の登場も、目が離せません。
アグウィナス家の当主交代劇を経て、マリエラの周りにも少しずつ変化が訪れていきます。ポーションによって進む迷宮攻略、彼女を護るためのさらなる強さを求め、Aランク冒険者を目指すと決めたジーク、彼女を特別な存在だと自覚して「彼女のために迷宮を倒したい」という決意を新たにするリンクス……。
順風満帆に思われる前途。いつまでも、こんな木漏れ日の日々が続いていくはずでした。
けれど、いくつもの偶然と不運、些細な油断が、折り重なる悪意が、不意に牙を剥くのです。マリエラに、ジークに、リンクスに訪れるその運命は、多くの人々に転機をもたらし、少女はついに錬金術師として名乗り出る覚悟を決めるのでした。
- 著者
- のの原 兎太
- 出版日
- 2018-04-27
本巻の見所は、各所でくり広げられる恋愛模様。そして、リンクスの決意です。中身はあんなに普通の女の子なのに、今のままでは、どうあっても普通ではいられないマリエラが、いつまでものんきに笑っていられるように……。
そんな思いから彼は、「迷宮を斃す」と決意するのです。その心情が語られる本巻には、作者がいう「この物語で1番〇〇〇シーン」が納められています。
一体何が待ち受けているのか。それは、ぜひ読んで確かめて頂きたいと思います。
炎災の賢者、フレイジージャ。それはエンダルジア滅亡の際にも凄まじい活躍を見せたという、伝説の存在でした。賢者がその姿を現す時、エンダルジア滅亡の真実、そして迷宮の謎と精霊眼の秘密が明かされるのです。
「迷宮を倒したい」という思いを強く抱いたマリエラでしたが、決意を固めた経緯を思うと、前向きになる事ができません。そんな彼女の前に、なんと、かつての師匠フレイジージャが現れます。
- 著者
- のの原 兎太
- 出版日
- 2018-09-01
弟子と同じく仮死の魔法陣でうっかり寝過ごした師匠は、200年前と変わらない豪快さ。その凄まじい破壊力(いろいろな意味で)を前に、彼女はようやく立ち直ったのでした。
そして特級ポーションの作成条件を満たすために、200年ぶりのスパルタ修行に立ち向かいます。そんななかポーションの販売が発表され、錬金術師を巡るさまざまな利権・思惑が陰謀を呼ぶのです。
そして、囮として矢面に立っていたキャロラインが、誘拐される事件が起きてしまいます。動揺するマリエラと、それを支えて助けになりたいと心から願うジーク。師匠の導きのもと、マリエラにしかできない方法で、キャロライン救出の一助となるために力を合わせるのでした。
本巻の見所は、まず師匠の登場です。破天荒で謎に満ちた彼のパワーに物語が引っ張られて行くさまは、前巻の衝撃が残る読者にも、読み進める気力を与えてくれます。
そして、マリエラが特級の眼球特化型ポーションを完成させ、ジークの精霊眼が復活したことで、物語の多くの謎が明かされる事にも繋がります。
さらに、マリエラとジークの関係にも、小さな変化が訪れました。果たして2人は、迷宮を倒す事ができるのでしょうか。
以上、『生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい』のご紹介でした。錬金術で、ほのぼのスローライフ。しかし、なかなかそうはいかないハラハラ加減が面白いところ。ぜひ、これを機にご一読ください。