シンデレラ、白雪姫、眠り姫、人魚姫、おやゆび姫……。有名な童話のお姫様たちと、そんな彼女たち全員を口説き落とした王子、そして不誠実な王子に呪いをかけた魔女が、現世に性別を変えて転生し、「運命の相手」を見つけるという本作。 スマホアプリで無料で読むことのできる本作について、その見所や魅力を紹介していきます。
その男性的な美しい見た目と、女子を思いやるかっこいい性格から、同性に人気のある女子高生・大路昴(おおじ すばる)。彼女は父が海外赴任から戻ってきたことをきっかけに、女子校から共学校へと転校するのですが、そこで前世がおとぎ話の姫だったというイケメン5人と出会います。
そして彼女たちが全員思いを寄せていた王子の生まれ変わりだとされ、5人のイケメンから愛を囁かれることに。 前世からの因縁に突然巻き込まれた彼女は、すべての事情を知る幼馴染の少年に助けられながら、自分自身の「愛」を見つけていくのです。
- 著者
- 松月 滉
- 出版日
- 2010-07-16
主人公となるのは、高身長でイケメン、かわいい女子が好きだという女子高生・大路昴です。もともとは彼女自身、女性らしい恰好やおこないに憧れを抱いていたそうですが、しだいに女性らしい女子や、かわいい女子を愛でていくように変貌。今ではすっかり素敵な「王子様」のようでした。
「女子」への憧れは終始強いものの、過去のトラウマから自分を「かわいくない」「男性的」と思い込む彼女。女好きはその反動ともいえますが、それだけとも言い切れないのが、面白いところ。
昴は実際、美少女に弱く、どんなにイケメンでもかわいい女の子の方を選ぶような人物。その反応の違いは明らかで、見目麗しい5人組に言い寄られても、美少女の友人にかけられた言葉のほうに頬を染めるほど。
遠出に誘われてもイケメンたちなら断り、美少女なら快諾という徹底ぶりです。そもそも彼女が女好きなのは、彼女の前世がタラシな王子だったから。そして魔女の呪いで、来世で女性へと性別を変えられてしまったのです。しかし性別を変えられたところで、その女好きは無くならなかったよう。
女タラシが女性に転生して、男タラシにならないところが面白いですよね。
元姫たちも、王子が女性として転生されるのに合わせ、男性へと性別を変えて生まれ変わりました。
同級生の元シンデレラ・煤原零時(すすはら れいじ)は、継母たちにいびられるか弱いシンデレラではなく、自分自身が昴や他の人をいびるドSに。
同じく同級生の元白雪姫・雪梨真白(ゆきなし ましろ)は、毒のリンゴで命を落としかけたはずなのに、なぜかリンゴばかり食べていました。
後輩の元おやゆび姫・指宿元親(いぶすき もとちか)は、見た目はかわいいものの、か弱さはなく、自分より大きな相手を軽々投げ飛ばせる怪力の持ち主。
先輩の元眠り姫・茨城夢路(いばらき ゆめじ)は、チャラチャラしているように見えて、好きな子に5秒も見つめられると照れるピュア少年。
同じく先輩の元人魚姫・魚住隼人(うおずみ はやと)は、放浪癖があり、歌は聞いた人が肉体的ダメージをくらうほどの音痴です。
また、王子が口説き落とした姫ではないですが、転生組では赤ずきんも。彼女は性別をそのままに転生し、現世では変わった大食い美少女という立ち位置でした。
それぞれ、元の姫の要素を残しているものの、どこか違う人物のような成長を遂げていますね。キャラが濃すぎて収拾のつかないレベルです。そんな彼らをまとめ、友人でもある昴の幼馴染の少年・黒森仁(くろもり めぐみ)はすごいですね。
あらゆる手段で昴に好かれようと躍起になる彼らは、仁がいなければ、おそらくもっと無法地帯となっていたのではないでしょうか。
元姫たちは、それぞれ前世で不遇な人生を送った人がほとんどでした。シンデレラは継母や継姉にいじめられ、白雪姫は毒殺されそうになっていましたよね。そんな壮絶な生を送ってきた姫たちは、転生しても、その運命から逃れられないようでした。
いろいろな動物たちに攫われ各地を転々としたおやゆび姫は、今生でもいろいろな家庭をたらい回し。白雪姫は義母から実子との格差のある対応をされ、人魚姫は自分のせいで足を失った姉の代わりに泳ぐことを決意していたのです。
普段はタカが外れたように、驚くほど素直に自身の好意を昴にぶつけている元姫たちは、それぞれが何かしらの家庭事情、特異な体質を抱えていました。前世を知っているというだけで大変なのに、表面上見えない苦労が彼らにはあったのです。
元赤ずきんも、婚約者に好きな人ができたからと婚約破棄されるなど、転生組は揃ってあまりいいことを経験していないようですね。昴自身、いい家庭環境ではあったものの、決して恵まれているばかりではない人生を過ごしていました。幼馴染の仁もそうです。
メインとなる登場人物は、みんな何かしら愛に飢えていて、愛を知らずに育つ環境にいた子たちばかり。もともと元姫たちは、前世で好きでもない相手と添い遂げなければならない道を進まされたのですから、そもそも愛が足りない環境にいたのです。
前世でも今生でもさまざまな事情を抱えている彼らが、無事に満たされるのか。それが物語の焦点でもあります。
最初はギャグ成分強めで、冗談にも見えかねない口説き方を昴にしていた元姫たち。しかし、彼らの前世を知る理事長の登場や、全員が全員、昴への想いを自覚し、彼女が元姫たちに特別な感情も抱けないことがわかってからは、そのアプローチも過激化していくことになります。
彼女がいくら女好きで男性的な面があるとはいえ、許可もなくベタベタとしたり、口づけをするのはなかなかなマナー違反ですよね。前世からの因縁がなければ、速攻嫌われてもおかしくありません。
元姫たちが互いに牽制しつつ、過剰ともいえるアプローチをし出すころで、仁がその保護者的ポシションの枠割を発揮。そして彼が昴のことを守ると強く意識しだしてから、物語はさらにシリアスになっていきます。実は彼も前世を覚えているキャラクターで、決して彼らと無関係ではなかったのです。
しかし彼は、自分が昴と結ばれるのは禁断の恋だと、彼女は元姫たちを結ばれるべきだと、必死に自分の感情に蓋をしていました。そんな彼の気持ちに気づいていた姫たちと、彼の気持ちに気づかず、ただ自分の気持ちにだけ気づいてしまった昴。
きちんと向き合えばすれ違うこともない想い、もっと早く気づいていればそれぞれが深く傷つくこともなかったであろう想い。そして、必ず誰かは失恋しなければいけない運命が、切なさを増していきます。
自分の想いを自覚した昴は、自分に好意を寄せてくれていた人1人1人に、お礼とお別れを告げていくことに。そして自身の気持ちを仁へ伝えた彼女に待っていたのは、好きな人の消失という予想もしない展開でした。
仁はただ姿を消した訳ではありません。存在ごと消えてしまったのです。彼のことを慕っていた元姫たちも、他の生徒も、彼の母親でさえ、その存在を覚えている者はいませんでした。絶望に打ちひしがれるなか、昴は理事長の元で過去のすべての真実を知ることになります。
勘のいい方なら全員の正体がわかったあたり、もしくは文化祭のあたりで気づいたかもしれませんが、やはりただ呪いをかけられた訳ではなかったのです。呪いの内容もそうですが、前世の出来事も苦しいものですね。
- 著者
- 松月滉
- 出版日
- 2014-06-20
最終回、仁を探す彼女のもとに、幼い仁の姿を借りた人物が現れます。その人物は、2人がハッピーエンドに進むための最後の足がかりとなるのですが、その人物が一体誰なのかはぜひ読んで確かめてみてください。昴と幼い仁が別れたあと、うっすらと姿を借りていた人物が描かれていますよ。
幼い仁に導かれ、深く眠る仁を見つけることができた昴。王子とその運命の相手なら、目覚めさせる方法はたったひとつですね。呪いを解く唯一の方法をやっと見つけた彼女は、すべての想いをぶつけます。
果たして2人の運命は……。ぜひお手に取ってお確かめください。
性転換とはまた違う魅力のある本作。イケメンヒロインのかっこよさはもちろん、現世の男らしさのなかに、前世の姫らしさも兼ね備えた元姫たちも、非常に魅力的ですね。各姫にはそれぞれパートナーになりそうなキャラクターも登場しているので、彼女たちにも注目したいところです。