ポスト伊藤計劃とも囁かれる野崎まど。近い未来に実際にあり得そうな独創的な作品群は、SF世界観を存分に楽しめるだけではなく、実際に発生しうる問題提起もされており、より現実味を帯びています。近い未来に起こりうる世界を、のぞいてみませんか?
野崎まどは東京都墨田区生まれの作家です。麻布大学獣医学部卒。2009年、『[映]アムリタ』で、メディアワークス文庫賞」の最初の受賞者となったほか、『know』は第34回日本SF大賞にノミネートされ、「本の雑誌増刊 おすすめ文庫王国」オリジナル文庫大賞BEST1受賞しています。
2081年の日本。超情報化対策として、脳に電子葉の移植が義務化されていました。ネットから情報を引っ張ってくることを調べると言っていた時代と比べ、もともと知っていた状態で答えることと、電子葉を使って答えることにタイムラグがほとんどなくなっており、最初から知っていることと、調べて知ったことの差異が縮まっているのでした。
電子葉を実用化させた道終常イチは、人は知れるだけ知るべきだという言葉を御野連レルに残して失踪していましたが、御野はとうとう見つけ出します。道終は既に、世界で最高の情報処理能力の量子葉を持つ人間を生み出していました。道終常イチをお父さんと呼ぶその少女の名前は、道終知ル。
その能力は、未来を予測することすらできたのです。そして御野は、道終常イチの真意もわからぬまま、知ルと行動を共にすることになるのです。すべてを知るために……。
- 著者
- 野崎 まど
- 出版日
- 2013-07-24
日本SF大賞にノミネートされた作品です。拡張現実装置でメールが確認することができたり、指先のアクションでメール操作ができたりする、そんなSF好きにはたまらない世界です。極限まで知ることができる世界、そこは一体どんな世界なのでしょうか。最後の一文まで、見逃さずにお楽しみください。
東京地検特捜部検事の正崎善は、コンビを組んでいる検察事務次官の文緒厚彦と、臨床研究不正事件を追っていました。その捜査で見つけたのは、毛、爪の端、皮膚のかけらが混ざった血痕が付いた書面。そこには書面を埋め尽くすように書かれたFの文字が。
そして関係者である医師が、異常な死を遂げます。
30時間をかけて死ぬ。それは自殺なのか、他殺なのか。迫る大型選挙の裏を追う内に、少しずつ全てを操る人物に近づいていきます。
- 著者
- 野崎 まど
- 出版日
- 2015-10-20
太古の昔、恐れていた火を人類が手に入れたように、人類は死の価値を認めるとするならば。火を扱うことで人類の文化が進化したように、死を手にし、純粋に死をゆっくりと楽しむ。そんなことが許されるならば。
正義とはなんでしょうか。悪とはなんでしょうか。社会派ミステリーでありながら、小難しくて読みづらいといったことがなく、予想がつかないスリルある展開を楽しみながら読める作品です。
6歳の時、父に連れられて行ったルーヴル美術館で、大兄太子はミロのヴィーナスに強く魅入られます。それから女性の身体に強い興味を持つものの、その心を理解することはできませんでした。それから勉強を続けた太子は東大に進み、物理分野で研究成果を上げます。
そこで研究室の同僚となる越智に出会います。越智は婚約者に裏切られたことがあり、女性にトラウマがあるという共通点を持つ二人は、大兄が身体を、越智が心を担当することで、この世で一番の女性を作り出そうとしますが……。
- 著者
- 野崎まど
- 出版日
- 2013-09-20
様々な実験を経て13年後、「憧れの従順な少女機関」(Yearing-Obedient Maiden Engine)Y-omeと名付けられた組織は、やっと一体の女体を作り出し、心を入れるところまでたどり着きました。唯一の希望である理想の女性、つまりファンタジスタを作り出せるのでしょうか。
アニメ「ファンタジスタドール」の前日譚とありますが、予備知識などがない方でも問題なく楽しめます。アニメをご存知の方にも、ご存じでない方にもおすすめの作品です。
二見遭一は、映画学科役者コースに在籍する20歳の学生です。ある日、撮影コースの華である画素(かくす)はこびに声をかけられ、彼女の撮る映画に役者として出演してほしいと頼まれます。そして監督である1年生の天才、最原最早が書いたというコンテを渡されます。月の海と題されたコンテを読み始めると、魅力にとりつかれ、なんと2日も読み続けてしまうことに。
そして二見は最原が作ったコンテ、最原自身に魅かれ撮影にのめりこんでいき、ついに映画は完成するのですが……。
- 著者
- 野崎 まど
- 出版日
- 2009-12-16
映画でできることは何でしょうか。人を感動させること。怒らせること。夢を変えてしまうこと。考えを180度変えさせること。
では、人格を変えることはできるのでしょうか。
天才を超えた神ともいうべき最原が作り出した映画で、二見と最原が見たもの、望んだものはなんだったのでしょうか。
あなたは最後まで自分を見失わずに、この映画を見ることができますか?
数多一人は、超劇団「パンドラ」の入団試験を乗り越え、ついに劇団員になれるのですが、とある新人がやってきたことにより、何と劇団は解散してしまします。数多とふたりで残された稽古場で、最原最早と名乗る新人はこう言いました。
「映画に出ませんか?」
全ての創作は、人の心を動かすためにある。人を愛したいから、創らずにはいられない。そう言った最早は、一体どんな映画を作ろうとしているのでしょうか。
- 著者
- 野崎 まど
- 出版日
- 2012-08-25
先にご紹介した『[映]アムリタ』の最原最早が登場します。それ以外に、『舞面真面とお面の女』、『死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~』、『小説家の作り方』、『パーフェクトフレンド』の計5作品に出てくる登場人物が出てきます。
単品で読んでも面白い作品ですが、登場人物が出てくる他の5作品を読んでからのほうが、何倍も楽しめます。最初の方はミステリー系ホラーのように思えますが、最後の方では、やはりテーマは愛なのだと思わずにはいられない、なんとも心温まる作品です。
以上、幅広いジャンルの5作品をご紹介しました。どの作品も予想がつかない展開で、途中で飽きることがありません。最新SFがお好きな方も、ミステリーがお好きな方も、まずはどうぞ一冊手に取ってみてください。