おとぎ話として有名な「舌切り雀」。子どもの頃、誰もが1度は読んだことがあるのではないでしょうか。しかしストーリーをよく考えてみると、実はとても怖い話である可能性があるのです。この記事では、原作といわれている「腰折れ雀」のあらすじや、怖いストーリーの考察、結末から学べる教訓などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
「舌を切られたかわいそうな雀」や「大きなつづらと小さなつづら」などでおなじみのおとぎ話「舌切り雀」。まずは一般的に伝わっているあらすじを簡単に紹介しましょう。
むかしむかしあるところに、心優しいおじいさんと欲張りなおばあさんが住んでいました。おじいさんが怪我をした雀を助けてからは、すっかり懐いた雀も一緒に暮らしています。
おじいさんが出掛けたある日、おばあさんが家事に使おうとしていた糊を雀が食べてしまいました。それを見て怒ったおばあさんは、雀の舌をハサミで切り、家から追い出してしまったのです。
帰ってきたおじいさんは、雀を探しに山の中へ。奥の方へ行くとそこに雀のお宿があり、中にはあの雀がいました。雀はおじいさんへ糊を食べてしまったことを謝り、これまでのお礼にと豪華な料理や踊りでもてなします。
夜も更けたのでおじいさんが帰ろうとすると、雀はお土産に大きなつづらと小さなつづらの2つを用意していました。おじいさんは、自分はもう年寄りだからと小さなつづらを選び、雀のお宿をあとにします。家にい帰ってつづらを開けてみると、中には金銀財宝がたくさん入っていたのです。
これを見ていた欲張りなおばあさん。大きいつづらにはもっとたくさんの財宝が入っているに違いないと、自分も雀のお宿に向かいます。無理やり大きいつづらを貰い、待ちきれずに帰り道で開けてみると、出てきたのは魑魅魍魎。命からがら逃げ帰ったおばあさんが、おじいさんに事の顛末を話すと、おじいさんは「欲張るものではない」と言ったそうです。
実はおとぎ話の「舌切り雀」には、原作があるといわれています。鎌倉時代初期に成立したと考えられている『宇治拾遺物語』に収録された「腰折雀(こしおれすずめ)」という説話です。『宇治拾遺物語』の作者は不明で、日本やインド、中国に伝わる多彩な話を収めたもの。全部で197話あります。
では「腰折れ雀」のあらすじを見ていきましょう。
むかしむかしあるところに、心優しいおばあさんがいました。ある日、腰の折れてしまった雀を見つけ、親切にお世話をします。やがて元気になった雀はおばあさんの元を離れますが、しばらく経つと戻ってきて「助けてくれたお礼に」と、種を置いていきました。
おばあさんが種を植えてみると、たくさんのひょうたんが実ります。収穫して干しておくと、なんと中からお米が出てきました。ひょうたんのお米は尽きることがなく、それ以降おばあさんは食べ物に困らなくなりました。
それを見ていたのが、隣に住んでいる欲張りなおばあさんです。自分も真似をしようとしますが、なかなかケガをした雀を見つけることができません。そこで欲張りなおばあさんはわざと雀をおびき寄せ、石を投げつけてケガをさせ、看病して放しました。
しばらくすると雀がやってきて、同じように種を置いていきます。欲張りなおばあさんが植えるとひょうたんが実りました。収穫してしばらく置いておきますが、いっこうにお米が出てくる気配はありません。耐えきれなくなった欲張りなおばあさんがひょうたんを叩き割ると、中から毒虫が沸き出てきて欲張りなおばあさんを襲い、殺してしまいました。
おとぎ話として子どもにも親しまれている「舌切り雀」。実はもともとは過激な表現が多く、現代に伝わっているものは、明治時代以降に子どもが読めるように改定されていったものだといいます。
たとえばおじいさんが雀を山に探しに行った際、さまざまな人に雀の居場所を聞くのですが、道を教えてもらうことと引き換えに牛や馬の血や尿を飲むことを強制されるのです。またラストは、大きいつづらをもらった欲張りなおばあさんが、中から出てきた妖怪に食い殺されてしまう展開もありました。
このように残酷でグロテスクな表現が多かったため、しだいに内容が整えられていったそうです。
それだけではありません。「舌切り雀」のストーリーをよくよく考察してみると、本当はとても恐ろしい物語である可能性があるのです。
欲張りなおばあさんは、家に帰る前に大きなつづらを開けて魑魅魍魎に襲われてしまいますが、もしもおばあさんが途中で開けたりせずに家に帰ってから開けたとしたらどうでしょうか。そこにはもちろん、心優しいおじいさんもいます。そしてそのことは、雀も知っているはず。雀はおじいさんに危害が加わる可能性を考えなかったのでしょうか。
ここでもうひとつ問題になるのが、雀の正体です。山奥のお宿にいた時、雀は言葉を話していました。またおじいさんに豪華なごちそうを振る舞ったという説もあります。このことからも雀は、人間、しかも若い女性だったのではないかと考えられるのではないでしょうか。
そうすると、おばあさんが糊を食べられたという小さな出来事で舌を切ってしまうほど怒るのも納得がいきますし、おじいさんが雀のために辛い思いをしてまで山奥に会いに行くことも頷けます。
いわゆるおじいさんの愛人だった雀。魑魅魍魎が入った大きなつづらで、もしかしたらおじいさんのこともおばあさんのことも殺してしまおうと思っていたのかもしれません。
「舌切り雀」のストーリーから学べる教訓は、やはり「欲を張ることはよくない」ということでしょう。
心優しいおじいさんは、損得の勘定をせずに弱っていた雀を助け、可愛がりました。雀のお宿に行った際も、欲を出さずに身の丈にあった小さいつづらを選らびます。中から金銀財宝が出てきた時も、「大きい方を選べばよかった」とは思わずに、「これで十分だ」と考えることができているのも見習いたいポイントでしょう。
一方の欲張りなおばあさんは、おじいさんとは正反対の性格に描かれています。雀の食べる量などたかが知れているはずなのに、糊を食べられただけで怒り、つづらから財宝が出てくるとわかると、すでに一家はお金持ちになったにも関わらずもう1度雀のお宿へ向かうのです。
魑魅魍魎に襲われて命からがら逃げ帰ったおばあさんに、おじいさんが「欲を張ったり意地悪なことをしたりするものではない」と諭すシーンがあります。このことからも「舌切り雀」の教訓は、「欲を張ることはよくない」だといえるでしょう。
- 著者
- 長谷川 摂子
- 出版日
- 2004-07-15
A4よりも小さいサイズで、寝ながら読み聞かせをする際やお出かけにぴったりの「てのひらむかしばなし」シリーズ。サイズは小さいものの中身は濃厚で、細やかな文章表現がされているのが特徴です。
たとえばおばあさんは、雀の世話をするおじいさんを見て、「自分たちもなかなか食べることがないのに、お米を雀に与えている」と不満を抱くのです。なぜおばあさんが雀をよく思わなくなったのかなど、それぞれの登場人物の心情がわかりやすくなっています。また雀のお宿を探しに行ったおじいさんが、牛や馬の荒い水を飲むなど、改定前のストーリーを踏襲しているのもポイントです。
語り口だけでなく絵も細やかで、昔の暮らしを感じさせる小道具などが丁寧に描かれているのも魅力のひとつでしょう。
- 著者
- 山下 明生
- 出版日
- 2010-06-01
人気漫画家のしりあがり寿がイラストを手掛けた絵本です。しりあがりはパロディーを中心としたギャグを得意としていて、本作にもさまざまなアレンジが加えられています。
イラスト自体はかわいらしく、小さな子どもにもわかりやすいもの。大きなつづらから妖怪たちが飛び出してくるシーンは見ごたえばっちりです。
また文章も、読み聞かせを想定したリズム感のよいものに仕上がっています。親子で楽しめる一冊でしょう。