神崎黒音によるライトノベル小説。「小説家になろう」にて連載され、第5回ネット小説大賞で金賞を受賞。モンスター文庫版のイラストは緒方剛志で、2018年10月発売の新装版では、飯野まことが担当しています。モンスターコミックスにて、身ノ丈あまるによるコミカライズも連載中です。さらに、2019年放送予定のアニメ化企画も進行中。 外見は魔王・中身は一般人という、勘違い系面白ファンタジー。そんな注目の本作を、全巻分ご紹介していきます。ネタバレ注意です。
一般の社会人・大野晶(おおの あきら)。彼は自身が運営するゲームの魔王・九内伯斗(くない はくと)にログインしたまま、異世界へと飛ばされてしまいます。
そこで出会ったのは、異世界人の少女・アク。そんな彼女と旅を始めますが、魔王として、行く先々でトラブルに巻き込まれてしまうのです。討伐対象として国や聖女に狙われ、サタニストと呼ばれる悪魔崇拝の集団に遭遇し、九内の能力と晶の口八丁で切り抜け……。
さらにもう1人のプレイヤーキャラ・霧雨零(きりさめ ぜろ)へのキャラチェンジで危機を乗り越えるうちに、魔王と零の存在や行動が、異世界に影響をおよぼし始めるのです。
- 著者
- 神埼 黒音
- 出版日
- 2018-10-20
思わせぶりな言動から、勘違いで勝手に広まる、魔王と零の名声と噂。最強クラスの戦闘力を持つ反面、この世界の魔法にはめっきり弱いという特性を持つ九内は、自身の保身とログイン状態での異世界転移の謎解明のため、ゲームの拠点を設置したり、魔王側近を召喚したりと大忙し。
世界を巻き込んだ勘違いは、晶の知らないところで拡大中なのでした。
小難しい事は考えずにぐいぐい読める『魔王様、リトライ!』は、テンポのよい文章で展開されるギャグ寄りの会話と、シリアスな雰囲気である現実世界の過去編で、読みやすくて続きが気になる作品です。
酷いネーミングの数々、45歳のおじさま魔王の中身と外見のギャップ……そういったものが各所で炸裂しているさまに、思わず笑ってしまいます。
過去編と現在の状況の繋がりは何なのか?といった気になる謎もあり、すぐに読みきってしまえるのではないでしょうか。ちょっとした気分転換、息抜きにもよいかもしれません。
見所2つ目は、どんどん出てくる強烈キャラです。魔王・九内伯斗の他にも、濃いめのキャラ達が目白押し。ここでは、主要な3名ほどをご紹介していきます。
まずは晶が自身のゲームを遊ぶために造ったキャラクター・霧雨零(きりさめ ぜろ)。
晶は九内だけではなく、零にキャラチェンジする事が出来るのです。ただし九内と違って操作不可能となっており、零は設定された性格のまま硬派な暴走族らしく、弱きを助け、強きを挫くを地でいきます。
龍の入れ墨を入れたその姿は、この世界の絶対強者・龍人と勘違いされ、魔王と同一人物とは知らない異世界の住人達から、噂の的になっていくのです。勘違いの一端を担う零の活躍、そして、そのヒーロー的行動の数々に、九内に戻った晶が悶絶するのも見所です。
2人目は魔王側近・桐野悠(きりの ゆう)。
反則的な腕を持つ回復役で、文句なしの美女医です。マッドな方向に研究者魂を傾けまくっている彼女は、徹頭徹尾の合理主義者……のはずなのですが、九内の中にキャラクターとしての産みの親・晶がいる事を本能的に感じ取っています。
そのため少々(?)狂気じみた献身を見せる事があり、それは魔王をも困惑させる仕上がり。魔王への盲信がとまらない、その暴走っぷりが見所です。
3人目は同じく魔王側近・田原勇(たはら いさみ)。
銃火器に愛されるという特殊能力の他、側近のなかで唯一の天才という設定を付与されています。ただのくたびれた雰囲気のおっさんではありません。
彼も悠と同じく、晶の存在に影響されて、元々はもっとやる気のないキャラクターだったはずが、今は拠点の村を最強の砦にするべく、その有能さをフルに生かして活動中。
ただし重度のシスコンで、妹をこの世界に呼び寄せてやるという魔王の発言に驚喜して、拠点を絶対安全領域にすべく暴走中でもあります。魔王と並んでおっさん好きにはツボかもしれない、隠れた地味かつ派手キャラです。
他にも、聖女や喪女、ヤンキー、ツンデレが揃っていたり、あやしい発言がデフォルトの男の娘、ポッチャリ系眼鏡男子(光の勇者)と面白キャラが盛り沢山。彼らの活躍(?)をお楽しみ頂けます。
キャラクターから入るというのもアリかもしれませんよ!
見所3つ目は、とまらない勘違いの連鎖です。魔王・九内の外見と能力、そして中身の晶が持つ話術で、時に空気を読み、時にそれっぽくごまかして瞬発的にその場を乗り切る、というその行為が発端で、ドミノ倒しのように勘違い連鎖が起こっていく面白さ。
魔王と零が同一人物であるという事や、単に異世界の常識に疎いだけの行動までもが、深読みされ、噂され、そしてタイミングや状況のすべてを巻き込んで、結果、異世界をただの勘違いで席巻してゆくのです。
読んでいて、思わず突っ込みを入れてしまうかも?どこまで誤解されるのか、その勘違いの行く末は?続きが楽しみになってしまいます。
普通の社会人・大野晶は、なぜか自身の運営するゲームのラスボス・九内伯斗にログインした状態で異世界に飛ばされてしまいます。そこで出会った異世界人の少女・アクを保護し、自身を九内と名乗る事にした晶。
彼は「願いの祠」と呼ばれる場所へ赴き、この世界に来た原因を知る事になりました。しかし、魔王召喚を叶えた存在は禍々しい指輪を残して消滅してしまい、晶はその指輪が何なのかも、帰還の方法もわからないまま。
その状態のまま、ゲーム同様の能力が使える事を頼りに、当面の保身のため、最強の砦・不夜城を呼び出す事を目標に行動していく事になります。
- 著者
- 神埼 黒音
- 出版日
- 2017-06-30
サタニスト、天使を崇める聖女達、大陸の中心に空いた巨大な穴・奈落……わからない事ばかりのなか、聖女の1人・ルナを懐柔して彼女の領地を魔改造し、自身の拠点として造った温泉旅館を強化。そして、ゲームでの側近・桐野悠を呼び寄せて活動していく魔王。
彼はもう1人の分身・霧雨零となって、2人目の聖女・クイーンを救った事から、この世界に新たな龍人が出現したと周囲に勘違いされ、ついには国家間にまで波紋が広がっていくことになるのです。
魔王・零としての晶の行動が、世界を巻き込んだ勘違いという事態を引き起こしていくのでした……。
自分が考えたキャラクターが1個の自我として行動する事に感動したり、「どうしてこんなキャラ作ったんだ俺!?」と今さらながら困惑したり、アクのお父さんと化している自分に気付いたりする晶の内心の混乱状態と、表面上の魔王の鉄面皮のギャップが面白い、第1巻。
混乱しつつも口八丁で、思わせぶり発言を重ねてその場を乗り切っていく晶と、その発言によって周囲に勘違いが広がっていくさまを楽しめます。
現実世界での晶の過去、友人・XX(名前が明かされていないため、本文中でもこの表記)と、晶にとって重要な人物・XXX(こちらも同様)との関係や交流が断片的に語られて、物語に何らかの関わりがあると仄めかされていきます。
こちらも謎が一杯で、続きが気になってしまいますね。
三聖女の長女・ホワイトは、2人の妹達がそれぞれ魔王・九内と龍人・零に傾倒(?)している事に頭を痛めていました。
妹達と違って比較的常識人の彼女は、魔王との謁見により警戒をさらに強めますが……魔王の目的は何なのか、深読みして、結果空回ってしまいます。
一方ゲーム由来の、自身の拠点を作成する能力で、ルナの領地に温泉旅館と野戦病院を作り上げた魔王は、新たな側近・田原勇を召喚し、村の発展を加速させていくのです。
銃火器を操るエキスパートで、重度のシスコン男・田原の加入、そしてアクに対するお父さんっぷりに磨きがかかる魔王、この国の影の女帝ともいわれる実力者のマダム・バタフライを巻き込んで、勘違いと村の発展は止まらないのでした。
- 著者
- 神埼 黒音
- 出版日
- 2017-10-28
気になるポイントは、現実世界の晶の過去に関わるXXとXXXの存在です。
XXは彼の側にいますが、XXXと彼は、何らかの事情で没交渉に陥っているようです。本巻で、この2人とも人ならざるものである可能性が浮上。晶の変則的異世界転移に彼らが関わっているのではないかと思わせるような、断片的な情報も明かされました。
2人との関わり、晶との関係……続刊での展開が気になります。
村の開発を田原に任せて、魔王は冒険者・ユキカゼとミカンを案内役に、北方諸国に向かいます。
弱点である魔法に対して有効なドロップアイテムの確保を目的に、監獄迷宮と呼ばれるダンジョンに挑む魔王は、そこで迷宮からの逆侵略というトラブルに巻き込まれてしまいました。そして側近・悠とともに溢れだした魔物を鎮圧した彼は、驚くべき光景に遭遇する事になったのです。
そこにあったのは、近代的な工場とおぼしき施設でした。魔物の死体から建物の残骸まで、あらゆるものを回収して、新しく魔物を産み出す謎の施設。
魔王は、目的不明ながら、自分を呼び寄せる迷宮管理者の影と出会う事になるのでした。
- 著者
- 神埼 黒音
- 出版日
- 2018-03-29
現実世界の晶は、運営していたゲームを閉鎖しました。彼は異世界で、自身の造ったゲームについて考えます。
ゲームから召喚したキャラクター達が自由を得て行動し、この世界で生きている。不思議な感慨とともに、この異世界と自身の造ったゲームを繋いでいるものは一体何なのかという疑問を感じるのでした。
自分と同じく異物ともいえる迷宮の管理者との遭遇は、彼に答えをもたらしてくれるのでしょうか……。
この世界を牛耳る存在の可能性が仄めかされる本巻、それと敵対する事になる魔王。過去編含めて今後の展開が気になります。
サラっと読める、『魔王様、リトライ!』。アニメ化も決定し、今後さらに注目の作品です。これを機に、ぜひご一読してみてはいかがでしょうか。