「ロードス島」シリーズは、角川スニーカー文庫から発売されている、水野良の作品です。呪われた島ロードスを巡る戦乱が描かれた内容で、古きよき剣と魔法のファンタジーとして、日本のサブカルチャー史に燦然と輝く金字塔です。 2018年には、30周年を記念した新作が予定されている本作。和製ファンタジーの元祖の魅力を、余さずお伝えしたいと思います。
剣と魔法の世界フォーセリア。その世界にある大陸の1つ、アレクラスト大陸の南に「呪われた島」ロードス島がありました。そこには神話の「神々の戦い」において破壊神カーディスの呪いを受け、大陸から切り離されたという伝説が残っています。
そこでは幾度となく戦争がくり返されており、その度に一時の平和がもたらされていました。神の呪いの名残か、あるいは均衡を求める何者かの意志であるかのように……。
本作は一時代に立ち上がった、ヒロイックな若者の姿を描いた、正統派のファンタジーです。「ロードス島」シリーズの物語では、この島の歴史の契機となる3つの時代と3つの戦争が、時代を前後して、それぞれの主人公の目をとおして描かれていきます。
- 著者
- 水野 良
- 出版日
- 2013-10-31
本シリーズは英雄的な主人公が登場する、正統派にして王道をいくヒロイック・ファンタジーです。
いわゆるライトノベルと呼ばれるジャンルの始祖的な存在ですが、後に見られるコメディタッチの遊びは、基本的にはありません。そういった神話か英雄譚のようなストイックさが本シリーズにはあり、それが魅力となっているのです。
主人公達は剣を武器に戦い、見目麗しいエルフが魔法を行使する、というようにファンタジーとしてはポピュラーな構成となっています。ありきたりといえばありきたりですが、そもそも日本におけるハイ・ファンタジー(異世界ファンタジー)とは、この本シリーズが元祖なのです。
あらゆる和製ファンタジーは「ロードス島」のフォロワーに過ぎず、従って既視感を覚えるのは当然です。そして、この「ロードス島」も、元を辿ればテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に行き着きます。
これはJ・R・R・トールキンの『指輪物語』をモチーフとした、会話主体のアナログゲームです。
- 著者
- ["清松 みゆき", "グループSNE"]
- 出版日
「ロードス島」は元々、そんな『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を遊ぶためのオリジナルシナリオでした。そのゲーム進行を雑誌連載したリプレイ(解説を加えた文字起こし)が好評となり、単独の作品として発表されたのです。
元がアドリブ重視のゲームだけに、思わぬ展開や予想外の行動がしばしば見られ、おとぎ話風の英雄譚なのに、単調な物語になっていないところがポイント。
そして、この「ロードス島」の設定を逆輸入的に活かし、新たなテーブルトークRPG『ソード・ワールドRPG』というものも作られました。小説のキャラクターと同じ時代、同じ世界で遊べるとあって、こちらも大人気に。
こうして「ロードス島」のフォーセリア世界には、作品の内外に膨大な設定が生み出され、本シリーズ以外にも『クリスタニア』『魔法戦士リウイ』といった同一世界(シェアード・ワールド)の作品も多数書かれました。
それぞれの作品を読む度に発見や驚きがあり、「ロードス島」はもはや1つの神話体系ともいえる架空世界の、その根幹を成す作品といえるでしょう。
ちなみに、近年『ソード・ワールドRPG』の最新バージョン『ソード・ワールド2.0』が展開されていますが、こちらはフォーセリアとは異なるラクシアという世界が舞台になっており、「ロードス島」との繋がりはありません。
暗黒神ファラリスを頂くマーモ帝国と、至高神ファリスを奉じる神聖ヴァリス王国とその連合国による戦争がおこなわれていた時代が舞台。
マーモは暗黒皇帝ベルドに率いられており、対するヴァリスには英雄王ファーンがいました。どちらも先の戦争「魔神戦争」で活躍した「六英雄」に数えられる人物であることから、後に「英雄戦争」と称される戦いとなったのです。
- 著者
- 水野 良
- 出版日
- 2013-10-31
主人公パーンは、そんな時代に騎士を夢見て冒険の旅に出た若者でした。彼は仲間とともに戦いで頭角を現し、英雄戦争の裏で暗躍する「灰色の魔女」と呼ばれる者に迫っていきます。
序盤はRPG的に5人のパーティを組み、問題を解決していくオーソドックスなストーリー。それが灰色の魔女と関わっていくことで、どんどんダイナミックな歴史的転換点の当事者となっていくところが見所です。基本的に、悪の帝国と対峙する主人公一行、という王道の展開が描かれます。
ただ、悪には悪の理由があったり、思惑はどうあれ火竜討伐など、敵味方で共通の巨悪と戦うことになるのも熱い展開です。
英雄戦争から遡ること30数年前。ロードス島南西部のモス地方は、無数の小国が乱立して、小競り合いが絶えない場所でした。
その小国の1つ、スカード国の王ブルークは、後に続くナシェル王子のため、平定と独立を目指して禁断の法に手を出してしまいます。
彼は、賢者ウォートの助力によって古代魔法王国時代の「魔神王の書」を解読し、封印されていた魔神王と「最も深き迷宮」を解き放ってしまったのでした。
- 著者
- 水野 良
- 出版日
- 1994-09-01
ロードス各地から腕に覚えのある者達が集い、彼らによって迷宮の攻略がおこなわれます。そして、そのなかにはベルドやファーンといった、後に六英雄と称賛される者達も含まれていました。
『ロードス島戦記』において断片的に語られていた、魔神戦争を描く物語です。「戦記」は主人公の活躍が歴史となっていく話でしたが、こちらは神話に挑む人間の「伝説」となっています。RPG的に「戦記」のパーンらを勇者とするなら、先代勇者に相当する者達の活躍が楽しめるのです。
特に敵方のカリスマ的存在だったベルドが、前作と異なって等身大の人間くさい男として描写されるのが新鮮なポイント。後の英雄戦争を考えると、ファーンとの関係や(後の)六英雄の立ち位置に、感慨深いものを感じます。
英雄戦争の終結から10数年の月日が流れ、かつてはパーンと肩を並べていた若き戦士スパークが、暗黒の島マーモの公王となっていました。
邪神戦争の経緯からその身分についたものの、まだ未熟さのある彼の統治は困難をきわめていたのです。
- 著者
- 水野 良
- 出版日
- 2002-06-01
やがてスパークとマーモ公国は、邪神カーディスの教団と対立。フォーセリア世界の行方を左右する「終末のもの」との戦いに突入していきます。
シリーズのなかでも特に、「ロードス島」シリーズの集大成的な内容です。新旧キャラが勢揃いし、ロードスのみならず、世界の敵に立ち向かっていく場面は筆舌に尽くせません。
「ロードス島戦記」の初登場時には新米で頼りなかったスパークが、未熟とはいえ一国の王になり、また一角の人物になっていくのが面映いです。彼の話をとおして、帝国の打倒や、迷宮の攻略といった王道ファンタジーではなく、不安定な領土の統治という新しい物語の形が提示されます。
壮大なフィナーレに、ご注目ください。
いかがでしたか?未読の方はこの機会に、日本のファンタジーのルーツにぜひ触れてみてください。