体は小さいけれども勇敢な少年が活躍する昔話「一寸法師」。その原典を調べてみると、ちょっと変わった読後感を味わえるはずです。この記事では、あらすじや物語のモデルとなった人物、教訓などを解説していきます。あわせておすすめの絵本も紹介するので、チェックしてみてください。
昔話の「一寸法師」は、江戸時代に発表された民間説話を集めた『御伽草子』に収録されているものが元になっています。その後明治時代になってから、児童文学者の巖谷小波(いわやさざなみ)がまとめた『日本昔噺』のストーリーが、現在一般的に伝わっているものとして定着しました。
それではあらすじを簡単に紹介しましょう。
あるところに、子宝に恵まれない老夫婦がいました。神様にお願いをすると、小さな男の子を授かることになりました。しかしこの男の子、いつまでたっても大きくなりません。身長はたったの一寸(約3cm)です。
男の子は「一寸法師」と名付けられ、大切に育てられていきました。
ある日、少年になった一寸法師は「武士になりたい」と言い、止める両親の反対を押し切って京へと旅立ちます。持ち物は刀代わりの針と、鞘代わりのわら。お椀の船に乗り、勇んで出発しました。
やがてとあるお金持ちの家に仕えることとなり、数年が経過。一寸法師はその家の姫と親しくなっていました。
ある時鬼がやってきて、姫をさらおうとします。一寸法師はどうにか姫を守ろうとしますが、鬼に「こんな小さい姿で女を守れるものか」と笑われ、一口で飲み込まれてしまいました。
しかし一寸法師は諦めません。鬼の体の中で暴れまわり、とうとう鬼に勝つのです。鬼は命からがら逃げていき、その際に「打出の小槌」を落としていきました。
その小槌を振ると、小さかった一寸法師の体はみるみるうちに大きくなります。さらに金銀財宝まで得ることができ、姫と幸せに暮らしました。
先述したとおり「一寸法師」が世に広まっていったのは、『御伽草子』に収録されたことがきっかけです。『御伽草子』は、民間で言い伝えられていたさまざまなおとぎ話を絵入りの物語として収録した書物を指し、「浦島太郎」など私たちの知っている昔話の原典が多くあります。
しかしその後巖谷小波によって子供向けに改変されたため、現在伝わっているストーリーとは異なる部分があるのです。では『御伽草子』に収録された「一寸法師」のあらすじを見ていきましょう。
ある日老夫婦は一寸法師という男の子を授かりますが、いつまでたっても成長しないため、我が子を気味悪がっていました。その様子を見ていた一寸法師は、自ら家を出て旅をすることにします。
一寸法師が辿り着いたのは、京の宰相の家でした。そこで暮らすことになると、宰相の娘に一目惚れをしてしまいます。
しかしこんな自分では彼女を手に入れることはできないと思い、一計を案じて、眠っている姫の口元にこっそりと米粒をつけ、大声で泣きました。そして「姫がわたしの大切な米を食べてしまった」と言うのです。
怒った宰相は娘を殺そうとしますが、一寸法師はその場をうまくとりなして、娘と2人で屋敷を出ることになりました。
旅に出た2人は嵐に遭い、鬼ヶ島という不気味な島に流れ着きます。鬼に襲われますが、一寸法師はその小さな体を生かした攻撃で撃退。鬼は恐れをなし、逃げ出してしまうのでした。
その時鬼が落としていったのが「打出の小槌」です。一寸法師は打出の小槌の力で大きくなり、娘と結婚。さらには鬼を倒したという評判が都に広まったため、最終的には中納言にまで出世を遂げて幸せに暮らしました。
『御伽草子』版で目立つのは、一寸法師のずる賢さです。好きな娘を手に入れるための策を練り、宰相を騙すという、昔話の主人公らしからぬ行動をみせています。
「一寸法師」の物語にはモデルが存在するといわれています。といっても一寸しか身長が無い人間はいないので、モデルとなったのは神話に登場する「神様」です。
少彦名命(すくなびこなのみこと)という名前で、日本最古の歴史書である『古事記』に登場。大国主命(おおくにぬしのみこと)という神が国を造っていく際に、多大な尽力をしたとされています。薬や酒、温泉などを造ったと伝えられていて、非常に大きな役割を果たしたのです。
少彦名命のサイズは「手のひらに乗るくらい」で、まさしく一寸法師のような見た目でしょう。
あの世といわれている、海の向こうにある「常世の国」から船に乗ってやって来て、大国主命の国造りをサポートすると、また常世の国に帰ってしまったそうです。
物語のなかで、一寸法師がお椀を船にして川を下る印象的なシーンがありますが、これは少彦名命が船に乗って現れた場面を想起させるでしょう。
昔話「一寸法師」から得られる教訓として考えられるものを2つ紹介しましょう。
人生は自分の手で切り拓き、進んでいくことが大切だ
一寸法師は体が小さいという自らの特殊な境遇を恥じることもなく、また悲観してふさぎ込んでしまうこともありませんでした。むしろ夢や希望を抱いて京に向かいます。
『御伽草子』版の一寸法師は、己の野心のために宰相や姫を騙すずる賢い一面がありましたが、それも自分の人生を変えるための機転でした。
たとえめぐまれない境遇に置かれたとしても、自分しだいで人生は変えることができると教えてくれるでしょう。
自分の個性を活かすことが重要だ
体の大きな鬼と対峙して危機的な状況に陥ってしまった際、一寸法師は自らの小さな体を活かして鬼を撃退します。
身の丈以上のことをするのは難しいですが、自分がもっている能力や個性をうまく活かすことができれば、状況を変えることができるのです。諦める前に、「今の」自分にできることは何なのか、考えて実践することが大切なのでしょう。
- 著者
- いしい ももこ
- 出版日
- 1965-12-01
じっくりと物語の世界観を味わいたい人におすすめの絵本です。あきのふくが手掛けたイラストは、本作にぴったりの時代を感じさせるテイストのもの。迫力も満点で、鬼と戦うシーンは躍動感にあふれています。
また、いしいももこの文章は簡潔ながら美しく、読み聞かせにもぴったりです。
本書の初版が発表されたのは1965年。長い間多くの人に愛され、読み継がれてきた作品だといえるでしょう。
- 著者
- あや 秀夫
- 出版日
- 2002-01-01
本作は、ポップなアニメ調のイラストが特徴の一冊。小さなお子さんでもわかりやすく、鬼などが出てくる物語が苦手な子でも楽しめるでしょう。持ち運びに手ごろなサイズでページ数も少ないので、お出かけの際に持ち運ぶのもおすすめです。
一寸法師を育てたのが老夫婦ではなく、若い男女になっているのも親しみやすいポイントでしょう。初めての絵本におすすめの一冊です。