アンデルセン童話の「マッチ売りの少女」。悲しい結末を迎えることで有名ですが、果たして少女が助かる道はなかったのでしょうか。この記事ではあらすじを簡単に紹介したうえで、結末や、作者が伝えたかったことを考察していきます。あわせておすすめの絵本もご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
デンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンが、1848年に発表した童話「マッチ売りの少女」。まずはあらすじを簡単に紹介していきます。
ある大みそかの夜、ひとりの少女が路上でマッチを売っていました。すべてのマッチを売らないと父親に叱られるため寒空の下に佇んでいますが、年末の忙しい時期のため、見向きもされません。
だんだんと夜が更け、寒さが増してきました。耐えられらなくなった少女が少しでも暖をとろうとマッチに火をつけると、灯かりのなかにあたたかいストーブやごちそうが現れます。喜びも束の間、マッチの火が消えるとともに、その幻も消えてしまいました。
ふと少女が空を見上げると、流れ星を見つけます。亡くなった祖母が「流れ星は誰かの命が消える象徴」と言っていたことを思い出しました。祖母は少女をかわいがってくれた唯一の存在だったのです。
次のマッチに火をつけると、そこに祖母の幻が現れます。
この火が消えてしまうと、祖母も消えてしまう。そう恐れた少女は、持っていたすべてのマッチに火をつけました。その火はとても明るく光り、祖母が少女を優しく抱きよせます。そして2人は共に天国へと昇っていったのでした。
翌朝の街には、燃え尽きたマッチを抱き、幸せそうに微笑みながら亡くなっている少女の姿があったそうです。
なんとも切ない「マッチ売りの少女」のあらすじですが、アメリカ版では、少女が裕福な家庭に引き取られるという救いのある結末になっています。
本作は、父親から厳しくされ、寒空の下でマッチを売り、最終的には少女が亡くなってしまうという、なんとも悲しいお話です。全編をとおして、主人公がここまで辛い状況にある童話というのも珍しいのではないでしょうか。
作者のアンデルセンが「マッチ売りの少女」を発表した1848年当時には、あまりにも物語が悲しすぎるので、もっと救いのある結末に変えてくれという声も挙がったようです。
では、本作の主人公の少女が助かる道はあったのでしょうか。
そもそも少女は、マッチを売り切らないと厳しい父親に叱られるという状況にあります。子どもにマッチ売りをさせるほどなので、相当貧しい暮らしをしていることも想像できるでしょう。
つまり彼女にとっては、自身の家にいること自体が不幸なこと。アンデルセンはそのような少女の状況を踏まえ、「彼女にとっては、祖母の魂と再会し、祖母と一緒に天国に召されることが1番の幸せだ」と考えていたようです。
そのため、結末に対する読者からの不満の声があがっても、変更することはありませんでした。
少女が亡くなってしまうことは悲しいことですが、自分のことをかわいがってくれていた祖母と再会し、笑顔で天国に行くというのは、彼女の境遇を考えるとハッピーエンドなのでしょう。
ただアメリカ版では裕福な家庭に引き取られる結末になっているので、マッチを売っている最中に現状を変えてくれるような人との出会いがあれば、幸せなうえに命も助かる物語にできたのかもしれません。
悲しい物語なのでストーリーが重視され、教訓を考えることはあまりないかもしれませんが、「マッチ売りの少女」をとおしてアンデルセンがどんなことを伝えたかったのか、あらためて考えてみましょう。
幸せは自分の心が決める
誰がどう見ても「かわいそう」と言うであろう環境で生きている少女。しかし、自分の置かれている状況に対して文句や不満を言うことはなく、ひたむきに仕事であるマッチ売りに励みます。
そしてマッチの火のなかに希望を見出し、祖母と再会。亡くなった時に笑顔を浮かべていたことからも、最期は穏やかだったことが想像できます。
このことから、自分の心しだいで幸せを感じられると考えられるのではないでしょうか。その一方で、「死」をもってしか幸せにたどり着けなかったという残酷さも実感させられます。
恵まれない状況で懸命に生きている人がいることを知れる
「マッチ売りの少女」の物語を読んで、「かわいそう」という感情を抱くこと自体が、幼い子どもの読者にとっては大切な機会になるのではないでしょうか。実際に世界には、少女と同じような過酷な状況で生きることを強いられている人もいます。
人を思いやる気持ちを学べるとともに、もしも自分がマッチ売りの少女と出会ったらどんなことができるか、考えてみるのもよいでしょう。
- 著者
- ハンス・クリスチャン アンデルセン
- 出版日
アンデルセンと同じデンマーク出身の画家、スベン・オットーがイラストを手掛けた作品です。冬のデンマークの情景がリアルに描かれていて、臨場感たっぷり。一冊丸ごと画集のように楽しめます。
「マッチ売りの少女」はアンデルセンの母親の体験が元になっているそうで、イラストから寒さまで伝わってくるからこそ、心が痛くなります。
大型本なので、読み聞かせにもぴったり。おすすめの一冊です。
- 著者
- アンデルセン
- 出版日
- 2015-07-29
「マッチ売りの少女」をはじめとするアンデルセンの物語が15編収録された作品です。
少女が主人公のものが多く、弱い立場にあっても前向きに、ピュアに生きていこうとする姿に心を動かされるでしょう。童話というと子ども向けのイメージがありますが、大人になってから読んでもそのメッセージの深さに気付かされます。
ひとりの人間の人生を切り取り、美しい物語へと昇華するアンデルセンの世界観を味わいたい方におすすめです。
- 著者
- 高橋真琴
- 出版日
- 2010-08-30
人気漫画家、高橋真琴が手掛けたアンデルセンの作品集です。「マッチ売りの少女」のほか、「人魚姫」と「野の白鳥」が収められています。
キラキラとした瞳や繊細な服飾で、知っている作品が蘇るのは感動もの。愛らしさと切なさが同居し、少女が主人公になっている物語が多いアンデルセンの世界観とマッチしています。
ひとコマひとコマが美しく、飽きさせない一冊。芸術作品としても楽しめるでしょう。