親を殺された子ガニたちがサルに敵討ちをする「さるかに合戦」。サルが加害者でカニが被害者だと思いがちですが、本当にそうでしょうか。この記事ではあらすじを説明したうえで、物語に隠された群集心理の恐ろしさや教訓を考察していきます。あわせておすすめの絵本や漫画も紹介するので、ぜひご覧ください。
日本に伝わる民話のひとつ「さるかに合戦」。「桃太郎」や「舌切り雀」とともに「日本五大御伽噺」に数えられ、江戸時代にはすでに存在していました。1800年代後半には教科書にも掲載されたほか、芥川龍之介が短編小説化したことでも知られています。
ではあらすじを簡単に紹介していきましょう。
あるところにカニがいました。おにぎりを持って歩いていると、柿の種を持ったずる賢いサルと出会います。サルは「種は成長すると大きな木になってたくさんの柿が食べられて得だ」と言って、おにぎりとの交換を持ち掛けてきました。
その話を聞いて了承したカニは、おにぎりと交換をした柿の種を庭に埋めて、大切に育てます。種はやがて立派な柿の木に成長し、たくさんの実がなりました。
そこへあのサルがやってきます。自分で柿の実を採ることができないカニを見て、代わりに採ってやろうと木に登っていきました。
しかしサルはいつまで経っても降りてこず、自分ばかりが柿を食べています。カニが催促をすると、まだ熟していない青い柿の実を投げつけてきました。
柿の実がぶつかったショックでカニは死んでしまい、お腹からはたくさんの子ガニが出てきます。親を殺されて怒った子ガニたちは、栗と蜂と牛の糞と臼に声を掛け、敵討ちの計画をたてます。サルの留守中に家に忍び込みました。
やがてサルが帰宅をし、囲炉裏で体をあたためようとします。すると中に隠れていた栗が弾け飛び、サルにぶつかって火傷をさせました。驚いたサルは水桶へと向かいますが、今度はその中に隠れていた蜂に刺されてしまいます。
サルは慌てて家の外へ逃げ出そうとするものの、出入口にいた牛の糞で滑って転んでしまいました。最後は屋根の上に隠れていた臼が落ちてきて、下敷きになって死んでしまうのです。
計画的な敵討ちが印象的な物語ですが、最終的にはサルが死んでしまいます。果たして子ガニたちの行動は正しいものだったのでしょうか。
まず、冒頭でカニとサルがおにぎりと柿の種を交換しますが、これはあくまでもお互いに合意をしたうえでのやり取りでした。柿の木が成長した後は、カニがサルに対して実をよこすよう催促をした結果、サルが青い実を投げます。サルは自分から実を投げたわけではないので、カニを殺すつもりではなかったかもしれないのです。
しかし子ガニたちは、親が死んでしまったことにショックを受け、冷静な判断ができなくなっていました。仲間を呼び、徹底的にサルを懲らしめます。
この時協力していた栗、蜂、牛の糞、臼の面々は、サルから直接的な被害を受けていたわけではありません。しかし子ガニの復讐心に同調し、計画に乗ってしまうのです。ここに「さるかに合戦」の恐ろしさがあります。
本作におけるサルは、「ずる賢い」ものとして描かれる悪役ではありましたが、それでも殺されるほどのことをしたでしょうか。もしもサルに子どもがいたら、後日、同じように子ガニたちへ敵討ちをする可能性もあります。どちらかが止めないかぎり、復讐の連鎖が終わることはないでしょう。
サルが反省の心をもっていたら、子ガニたちが冷静になっていたら、栗や蜂、牛の糞、臼が両者を復讐ではなく和解に導くことができていたら……「さるかに合戦」は異なる結末になっていたに違いありません。
「さるかに合戦」に込められたテーマは、「因果応報」だといわれています。仏教用語のひとつで、善いおこないをすれば善い結果が、悪いおこないをすれば悪い結果が訪れるという意味です。
サルはまず、自分の欲を満たすためにカニの持っていたおにぎりと柿の種を交換しました。さらには、カニが柿の木を立派に育てたことを知ると、自分ばかりが熟した実を食べ、カニには青い実を投げつけて死なせてしまうのです。
こうして悪事を働いたサルには、後に天罰が下されました。まさしく因果応報だといえるでしょう。
もうひとつ本作の教訓として、「適材適所」も挙げられます。
サルに敵討ちをする場合、子ガニだけでは力が及びません。それだけでなく、協力した栗や蜂、牛の糞、臼にいたっても、単独でサルと戦い勝つことはなかなか難しいのではないでしょうか。しかし仲間と協力をし、自分の特徴を存分に活かしたことで、サルをやっつけることができました。
これは、彼らが自分自身のできることを理解し、もっとも力を発揮できるように工夫したからだといえるでしょう。
- 著者
- いもと ようこ
- 出版日
- 2008-09-01
人気絵本作家いもとようこが手掛けた作品です。立体的なイラストが想像力を膨らませてくれます。
本作のラストは、サルが死んでしまうのではなく、泣きながら改心して謝るというもの。救いのある結末で、小さなお子さんにもおすすめです。
また本のサイズが大きいため、読み聞かせにもぴったり。ぜひ親子で読んでみてください。
- 著者
- 木下 順二
- 出版日
- 1959-12-05
劇作家の木下順二と、漫画家の清水崑による作品です。なんといっても特徴は、独特な方言まじりの文章ではないでしょうか。もの珍しい擬音はつい声に出して読みたくなってしまいます。
また墨で描かれたイラストは、派手ではないものの味わい深いもの。昔ばなしの世界にすぐに入り込めるでしょう。
本書では、子ガニたちがサルに敵討ちをする際、きびだんごを用いて道すがら仲間を増やしていくという「桃太郎」を彷彿とさせるシーンがあります。冒険心をくすぐられる「さるかに合戦」に魅了されてみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 吉田 戦車
- 出版日
- 2008-07-22
『伝染るんです。』や『ぷりぷり県』などの代表作で知られる漫画家、吉田戦車による「さるかに合戦」のパロディ作品です。
力強くシンプルな作風は昔ばなしとマッチしていて、映画を見ているような迫力とテンポの良さにおもわず感情移入してしまうかもしれません。
「ある日私たちはおにぎりをひろいました。それがすべての始まりだったのです」(『武侠さるかに合戦』より引用)
カニの親子とサルの攻防に多くの人が巻き込まれていく熱血冒険活劇となっています。