現世に生きる少年少女と、死後の世界を生きる霊達による、恐ろしくも心躍るストーリーが展開される本作。夢にまで出てきそうな凶悪な印象を与える怪物達と、その脅威に立ち向かおうとする霊体化した人間達による戦いがくり広げられていきます。倒すべき怪物達と、それらに恐怖するキャラクター達の表情によって、鮮烈な恐怖感を感じることが出来る内容です。 今回は、そんな本作の魅力をご紹介します。スマホアプリで無料で読むこともできます!
幼い頃から、霊が見える事で周囲から浮いた存在となってしまった少女・恩田衣子(おんだ いこ)。
そんな彼女は、中学生になり、動画を見た事がきっかけで幽体離脱が出来るようになった少年・空木(うつぎ)と、高条(たかじょう)と出会うのです。
彼らは、「夜人」と呼ばれる存在で……。
- 著者
- 岡部 閏
- 出版日
- 2018-08-17
夜人とは、夜に限って、壁を通り抜けたり、空を飛べたりする存在のこと。一般的にいう、幽体離脱と同じものを指します。彼らは、ある動画を見たことがきっかけで、この能力を手に入れたと言いますが……。
ひょんなことから、幽体化をきっかけに交流する事となった衣子、空木、高条。
しかし、この世界は廃霊と呼ばれる怪物が闊歩する、幽体となった人間にとっては恐ろしい世界だったのでした。
ホラー作品である本作は、なんといっても恐ろしい怪物達による恐怖演出が見所です。
そして、怪物そのものの描写もさることながら、怪物達が登場するシーンの背景や、それに遭遇したキャラクター達の表情といった要因も含めて、とにかく恐怖心を刺激してやみません。
おどろおどろしさと不気味さを演出する事に非常に優れた絵柄を駆使して描かれているため、1シーン1シーンが強烈なインパクトを持っているのです。
たとえば冒頭、衣子の部屋にずっと住み着いている幽霊である廃霊・ウノ子は、部屋の隅に突っ立って延々と「うの、うの」とつぶやき続けるという、非常に不気味な登場の仕方をします。
しかし、ずっと壁の方を向いているのでその表情は伺えず、ただただ正体不明の不気味な存在という印象だけを与えてくるのです。
そんなウノ子は、空木と高条と出会った後に再び登場するのですが、その際にはついに振り返って、凶悪な表情を露わに襲い掛かってくる存在となります。最初から怪物として襲い掛かってくるのではなく、それまで正体不明だったものが突如として牙を剥く、というところに緩急を利用した恐怖演出が光ります。
こうした、思わず背筋が凍るようなシーンが随所に展開されており、ホラー作品好きには文句なしの魅力であるといえるでしょう。
また、作者・岡部閏が描く作品では、キャラクター達がとても人間臭いという共通点があります。いわゆる英雄的な優れた人格者という存在はあまりおらず、誰しもが心の弱さを抱えた、生身の人間らしいキャラクターとして描かれているのです。
それは、その人物の持つ能力の優劣に関わらず、ただ個々の人格によるものであるため、精神的に未熟な人物が強力な能力を有している事も多々あります。
本作もその例に漏れず、主人公である衣子は霊を見る事が出来、強力な霊能力を有している人物ではありますが、精神的にはあくまで中学生の女の子でしかありません。
そのため些細な事で不機嫌になったり、他者に対して刺々しく当たったり、鬱陶しがったりといった精神的に未成熟な部分が、度々出てしまいます。
しかし、そんな少女としてのリアリティある描かれ方だからこそ、読んでいて違和感なく、むしろ自然に展開を受け入れる事が出来るのです。空木や高条も、思春期の男子特有の初々しさや馬鹿馬鹿しさがあり、そんな少年少女達の掛け合いが、読んでいて青春らしさを感じられるでしょう。
他にも、空木や高条よりも前に幽体離脱をしていた「夜人」としての先立達も、それぞれ元々はただの人間であり、完璧な人格者らしい人物はいません。
むしろ、どこか危うさを感じさせる、社交性が欠落した性格のように感じられます。こうした個性豊かな人物達による掛け合いだからこそ、実に刺激的で、魅力あふれるものとなっているのです。
怪異と恐怖に満ちた本作ですが、冒頭の時点では、とにかく謎が多いです。まず、衣子は生まれた時から霊を見る事が出来ましたが、触れる事や、除霊のための力を持っていたというわけではありません。
しかし作中では、彼女には強い霊能力があり、強力な幽体を相手にしても通用するほどの力があるとされています。
果たして、彼女に眠っている力とは、どれほどのものなのでしょうか。
また、彼女は霊能力を有しているようですが、幽体離脱をすることは出来ません。空木や高条といった霊的な能力を持たない人物が幽体離脱を可能とするのに、なぜ彼女は出来ないのでしょうか。
そして、本作で倒すべき存在として登場する、廃霊よりもはるかに上位の怪物である「魔」について。
魔は、そもそも空木や高条のように何の力も持たない者たちに対し、動画配信を通じて幽体離脱をさせるよう行動しています。おそらく、その目的は、魔が人間の生霊を捕食しやすくするためであると考えられますが、とにかく魔については、その正体が未だ謎に満ちているのです。
魔は幽体とは違い、生身の人間にも目視する事が出来ます。そして触れる事も可能です。しかし、明らかに単なる生物とは考えられないほどの力と、姿かたち……。作中では「死神」と表現されるほどの禍々しい姿なのです。
では、魔とは一体どこから生まれた何者なのでしょう。そして、衣子達にとって、どんな存在になっていくのでしょうか。
このように、作中の気になる疑問が尽きません。その謎の数に比例するように、多くの魅力を持った作品であるといえるのではないでしょうか。
ここからは、単行本の見所についてネタバレ紹介していきます。
本巻では、主役陣である衣子、空木、高条が幽体離脱をきっかけに交流を図るようになり、そこから徐々に夜の世界に巣食う脅威と対峙する事となっていくのです。
衣子の部屋に居座っていた廃霊・ウノ子を3人で追い払ったまではよかったのですが、そこから黒衣を纏う謎の幽体の一団と出会い、なんと高条は肉体と幽体との繋がりを断ち切られて、一度絶命してしまいます。
そんな彼を救うため、空木と衣子は協力して黒衣の一団を追いますが、待っていたのは醜悪で恐ろしい怪物達との戦いという、非日常だったのです。
- 著者
- 岡部 閏
- 出版日
- 2018-08-17
そんな本巻の見所は、廃霊・ウノ子と3人の戦いでしょう。
まだ廃霊という存在すら知らない3人が、とにかく必死に怪物と戦う事になるシーンなのですが、有効な攻撃手段を持っていないなかでの戦いは、とにかく緊張しっぱなしです。
明らかに人が対峙するには過ぎた相手に見えるウノ子を相手に、少年少女達がどう戦うのか、というワクワク感が刺激となる、よい初戦ではないでしょうか。
明らかにウノ子が優勢な状態で、果たして彼らはどのように立ち向かうのでしょうか。
衣子、空木は幽体離脱の謎を調べ始めました。差し当たって衣子の幽体離脱を試そうとするものの、その矢先に高条が鈴木暁の夜人グループに連れて行かれてしまいます。
衣子と空木はなんとか高条の居場所に辿り着きますが、そこでは夜人のグループと「カラス廃霊」の戦闘が起こっていました。
- 著者
- 岡部 閏
- 出版日
- 2018-12-12
衣子(と実験で幽体離脱してしまった飼い犬のピコ)の活躍で戦闘は終わるものの、その成り行きで彼女が夜人の主「夜叉」だと判明します。衝撃の展開が続きますが、事件はそこで終わりません。高条の肉体が鈴木暁のせいで死んだことが判明し、また一波乱起こります。
ダラダラとした展開ではなく、情報量が多くて読みごたえがある2巻。高条の一大事では意外な霊が再登場し、なぜかラブコメめいたことにまで発展します。
ホラー要素はますます怖くなる一方で、アクションとしても面白くなってくる内容です。キャラの確立と同時にメインキャラクター3人の絆が生まれるので、青春モノとしても楽しめます。
作者・岡部閏の得意な混沌と不条理が物語にどういった変化を与えていくのか、ぜひ実際にご覧ください。
目が離せない展開の『夜人』。ぜひ、これを機にご一読ください。