日本に伝わる神話のひとつ「因幡の白兎」。大国主という神様の国作りにまつわる話の一部分で、『古事記』などに描かれてきました。この記事では、そんな本作のあらすじや教訓、大国主の人物像などを解説していきます。あわせておすすめの絵本も紹介するので、ぜひご覧ください。
『古事記』に収められている神話のひとつ、「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」。古くから神話として日本に伝わっています。まずはあらすじをご紹介しましょう。
あるところに、「八十神(やそがみ)」という神様の兄弟がいました。因幡の国にいる「八上姫(やがみひめ)」に求婚をしに行く道中で、毛をむしられて丸裸になり泣いている兎と出会います。
神様たちは面白がって、「海水を浴びて、山の頂上で風と日光を浴びていれば治る」と言いました。その言葉を信じた兎でしたが、実際にやってみると痛みはひどくなる一方です。
そこへ、ほかの神様たちの荷物を全部持たされていた大国主(おおくにぬし)という神様が遅れてやってきました。泣いている兎を見て理由を聞くと、兎はこう語ります。
「隠岐島にいた私は、どうにかして因幡の国まで行ってみたいと考えていました。しかし自分の力ではどうしても渡ることができません。そこでそこで一計を案じ、ワニザメにこう声をかけたのです。『あなたたちと私たちの種族は、どちらのほうが数が多いか数えてみよう。できるだけたくさんの仲間を連れて、並んでください』と。
そして兎は、ずらっと並んだワニザメの背中の上を渡って、因幡の国に行くことに成功しました。しかしいざ降りたとうとする時に、『お前たちは騙されたのさ』とからかってしまったのです。するとワニザメの怒りを買い、毛を剥ぎ取られて丸裸にされてしまいました。
その後泣いているところへやってきた八十神たちの言うとおりにしたところ、余計に体が傷ついてしまったのです。」
この話を聞いた大国主は、兎をかわいそうに思い、「河口に行って真水で体を洗い、蒲(がま)の穂をつけておきなさい」と教えてあげました。
兎が大国主の言うとおりにすると、体の傷はたちまち癒えていき、毛も元通りになりました。
感激した兎は「あなたこそが八上姫の婿になるお方です。あの意地悪な兄神さまたちは八上姫を貰い受けることはできません」と伝えます。
その後八上姫のもとに八十神たちが着き、求婚をしますが、八上姫は相手にしません。そして、八十神たちの荷物を持って遅れてやってきた大国主の姿を見ると、「荷物を背負っているあなたの妻にしてください」と言い、兎が言ったとおりに2人は結ばれることとなったのです。
この話から得られる教訓を考えてみましょう。
思いやりの心をもっていると、幸せな結末が待っている
本作で際立っているのは、大国主の「優しさ」です。八十神たちの荷物を背負わされ、自分も辛い状況にあるにもかかわらず、困っている兎を助けてあげました。
兎に意地悪をしていた八十神たちは八上姫から相手にされず、優しい大国主が結婚できるという結末から、どんな状況でも他人への思いやりを忘れないでいると、よい結果が待っていることがわかるでしょう。
余計な振る舞いは災いを招く
「因幡の白兎」で有名なのは、兎がワニザメをの背中を渡るシーンです。海を渡るために考え出した方法は機転がきいたものでしたが、渡りきる直前に余計なひと言を言ってしまったがために、台無しになってしまいました。あの時ワニザメをからかっていなければ、兎はきっと因幡の国へ行けていたはずなのです。
相手のことを馬鹿にして、余計な言動をしてしまうことは、災いを招くということがわかるでしょう。たったひと言で物事が一変してしまう恐ろしさも感じられます。
このお話で兎を助けたのは、「大国主」という神様です。日本神話のなかで非常に重要な役割を果たしているので、名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。
「スサノオ」という神様の子孫で、「スクナビコナ」という神様とともに、神々が住まう高天原(たかあまはら)と死者の住まう黄泉の国の間にある「中つ国(なかつくに)」を作りあげました。
『古事記』や『日本書紀』にも記述があり、医学や農業を人々に教えて社会の仕組みを作ったとされています。
- 著者
- いもと ようこ
- 出版日
- 2010-07-01
『古事記』というと、ややとっつきづらイメージがありますが、「因幡の白兎」はストーリーもわかりやすいので、小さなお子さまにもおすすめ。本作は、兎がワニザメの背中を渡る場面を中心に描かれた絵本です。
ワニザメの表情にも愛嬌があり、親しみをもって読むことができるでしょう。人をだますことはいけないというメッセージもしっかりと伝わるはずです。
- 著者
- 出版日
- 2005-06-10
兎を中心に描かれることの多い「因幡の白兎」ですが、本作のメインは大国主。困っている兎を助けるという行為に焦点を当てて、魅力的に描かれています。
日本人には、宗教や信仰に関係なく「神様が見ている」という考え方が根付いています。国の成り立ちや歴史にも大きく関わっているとされ、私たちの生きている世界の始まりについて考えるきっかけになるでしょう。
- 著者
- 舟崎 克彦
- 出版日
- 1995-10-15
第1巻の「くにのはじまり」から第6巻の「うみさち やまさち」までシリーズで描かれる日本の神話で、本作は八上姫のもとに八十神たちが向かう「因幡の白兎」が記されています。
『古事記』のストーリーを忠実に再現していて、八十神と大国主の確執がそのまま次巻へとつながっていくので、神話の世界をより立体的に理解することができるでしょう。
文章はやや難しいですが、日本語の美しさも感じられます。資料としての価値もあり、大人にもおすすめの一冊です。