代表作『マイガール』で知られる佐原ミズが描く、ちょっとファンタジックな『尾かしら付き。』。自分の体にコンプレックスのある少年少女が出会い、互いに補いながら、少しずつ成長していく青春ドラマが描かれています。 本作はスマホの漫画アプリで無料で読むこともできるので、気になった方はそちらでお試しください。
主人公の樋山那智(ひやま なち)は自分と他人の違い、感覚のズレに思い悩む、普通の少女でした。年齢は14歳で、まだ中学2年生です。
ある時、彼女は体調不良から水泳の授業を休むのですが、そこで自分と同じように、クラスから離れて1人サッカーに興じる少年を見かけます。
- 著者
- 佐原ミズ
- 出版日
- 2018-11-20
彼の名前は、宇津見快成(うつみ かいせい)。あまり目立たない、サッカー部の部員です。彼は体質を理由に授業を休んでおり、話してみると、どこか那智の気持ちに引っかかるところがありました。
しばらくして、那智は下校中にふざけて水をかけられる宇津見を目撃します。彼が塩素アレルギー(水でかぶれる)であることを思い出した彼女は心配して追いかけるのですが、そのはずみで彼の腰に尻尾が生えていることを知るのでした。
この物語は、人と違うところがある男女が互いに巡り会い、悩みを克服して結ばれるまでの10年間が描かれる、追憶のストーリーです。
佐原ミズは、12月25日生まれ、神奈川県出身。漫画家で、イラストレーターの女性です。
詳しいプロフィールは非公開となっていますが、2002年に短編「ROBOT」でアフタヌーン四季賞の佳作に選ばれ、同作は「月刊アフタヌーン」2002年4月号に掲載されました。その後、2004年に新海誠の短編アニメ映画『ほしのこえ』の同名コミカライズを担当し、商業デビュー。
別ジャンルの名義として、夢花李(ゆめか すもも)、佐原恵太という名前があります。
- 著者
- 佐原 ミズ
- 出版日
- 2007-04-09
代表作は「週刊コミックバンチ」で連載されていた青年漫画『マイガール』です。恋人を留学先で失った青年と、その留学先で密かに生まれていた彼の実の娘が、急に家族となりながらも親子の絆を築いていく感動譚です。2009年には実写ドラマ化もされました。
作品はファンタジーからヒューマンドラマまで多岐に渡りますが、共通の作風としては、切ない展開からの心温まる人間関係が特徴にあるようです。それに繊細な絵柄も相まって、多くの読者を魅了しています。
主人公の樋山那智、そしてクラスメイトの宇津見快成。2人は同じ学校の同じクラス、種目は違えどそれぞれ運動部に所属しているという共通点はありますが、劇中冒頭まではまったく接点がありませんでした。
那智は線が細く、背丈はそこそこ。夏でも日焼けせず、真っ白な肌。女子ソフトボール部に所属していて、万年補欠なものの、彼女なりに真剣に打ち込んでいます。そんな彼女にとって、肌が白いことは何よりのコンプレックスでした。
日焼けに悩む女性からすると、何がコンプレックスか不思議かもしれません。しかし万年補欠の彼女にとって、日焼けしていないということは、イコール練習に打ち込んでいないと思われる(と自分で思い込んでいる)ということで、それをとても嫌だと感じていたのです。
肌の白さでからかわれること、余計なお世話を焼かれることもあり、そのせいでよりコンプレックスになっています。また感情表現が人とズレており、友達と話が噛み合わないのも悩みのようです。
一方の宇津見。彼のコンプレックスは、本作のタイトルにもなっている「しっぽ」です。腰の後ろの辺りから、豚のそれと同じようにくるりと巻いたしっぽが生えています。これは東南アジア出身のある一族の出である母親のせいらしく、幼いころから人に見られては忌避され、気味悪がられてきました。
現実にも奇形の一種でしっぽが生えている人はいますが、劇中でのしっぽへの拒絶反応は尋常ではありません。いじめの対象になったり、周囲の圧力で引っ越しせざるを得ないほどです。彼はこのしっぽがあるせいで人と壁を作って、関わることを避けてきました。
そんな彼の人生で、唯一しっぽを恐れなかったのが那智だったのです。彼らは、同じようにコンプレックスを抱えた同士として出会います。
こうしてひょんなことから宇津見の秘密を知った那智は、彼のことを徐々に気になる異性として意識していきます。宇津見側も、しっぽを可愛いと言う他人は初めてだったので、ぶっきらぼうながらも他のクラスメイトとは違った反応を彼女に向けていくのです。
そして、最初にアプローチを始めたのは那智の方でした。それは大好きな姉に背中を押されたこと、偶然知り合った日焼けサロンの店員に「付き合いたい」という気持ちについて教えられたことがきっかけでした。
「付き合う」とは、気になる人をより深く知るということ。宇津見のことをもっと知りたい、と湧き上がる気持ちに素直に行動し、思い切って告白するのでした。宇津見は戸惑いつつも、それを少しずつ受け入れていきます。
その過程が切なくて微笑ましくて、読んでいて堪らない場面といえるでしょう。
ソフト部の友達にからかわれたり、宇津見の不思議な母親との遭遇もあったり……さまざまなことがありましたが、ついに2人の気持ちが通じ合います。気持ちを持て余した宇津見が返答に苦しみ、意固地になって距離が空いた分、彼らの仲は順調に進んだのです。
宇津見の励まし、アドバイスのおかげで、那智は念願の練習試合レギュラーを獲得。彼女の学校生活は、いつになく輝いていました。
ところが、その一方で彼らのことを面白く思わない人物がいました。それは以前、「好き」という気持ちがわからなかった頃の那智に振られた、木野という少年です。
宇津見と同じサッカー部だった彼は、ひょんなことからしっぽを見てしまいます。彼は秘密の曝露をちらつかせ、宇津見に那智と別れることを迫るのです。
宇津見は秘密が漏れることよりも、那智と離れることを嫌って断りますが……それが学校ぐるみの大問題へと発展していきました。そして、学校からも住居からも立ち退かざるを得なくなるのです。
引っ越しの日は、那智の大事な練習試合当日でした。宇津見は彼女の活躍に影響しないように、ずべて黙っていました。那智が宇津見の失踪を知ったのは、何もかも終わった後だったのです。
彼女は、いつか宇津見が連絡してくれるだろうと、待って、待って、待ち続けました。しかし高校に上がる時にも、ついに連絡はなく、彼女はすっかり人が変わってしまうのです。
宇津見と別れてから1年の月日が流れました。一方的に彼から見放されたと思い込んでいる那智は、すっかりやさぐれた高校生になっていて……?
- 著者
- 佐原ミズ
- 出版日
- 2019-06-20
2巻の見どころはなんといっても、やさぐれてしまった那智と宇津見のすれ違いです。
なんの連絡もないままに離ればなれになってしまったふたり。1年以上も音沙汰がない状況をきっかけに那智はやさぐれた性格になってしまっていました。
そんなある日、那智は、中学時代のクラスメイトである川島と偶然の再会します。彼から宇津見の話を聞いた川島はふたりを再び引き合わせるために、とんでもない計画を始めました。
一方で、引っ越した宇津見もふさぎがちな男子高校生になっていました。コンプレックスである体質から、生きている意味が分からなくなっていた彼。かつてその秘密を理解してくれた那智の存在がだんだんと大きなものになっていきます。
そして遂に、宇津見は那智に会いに行くことを決意するのですが……?果たして、ふたりは無事に再会を果たせるのでしょうか!?
最初のあらすじにも書いたように、ここまでで描かれているのは10年間の記憶の、最初の場面です。いわば青春の1ページ目といえるでしょう。
- 著者
- 佐原ミズ
- 出版日
- 2018-11-20
今後、那智がどうなっていくのか、宇津見は戻ってくるのか。2人の運命と行き先がどうなるのか、まだまだ未知数です。
「しっぽ」があることでどんな波瀾万丈な人生となっていくのか、先が気になる方は、ぜひとも連載を追って応援してください。
いかがでしたか?『尾かしら付き。』はしっぽを軸として、感情に訴えかけてくる作品です。コンプレックスを持たない人はいないので、どんな人にも響くのではないでしょうか。