まさかりをかついで熊にまたがる、力の強い男の子「金太郎」。森の動物たちと元気に遊ぶイメージが強いかと思いますが、この昔話の詳しいあらすじをご存知でしょうか。この記事では、実は意外と波乱に満ちた人生を送っていたことがわかるあらすじと、モデルになったとされている人物にまつわる伝説、彼らが退治した酒呑童子などを解説していきます。あわせておすすめの絵本なども紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
日本に伝わる昔話の「金太郎」、幼い頃に1度は聞いたことがある方がほとんどではないでしょうか。赤い腹掛けをし、まさかりをかついで熊に乗った男の子の姿がイメージできるはずです。
しかし、本作の詳しいあらすじは意外と知られていないかもしれません。まずは簡単に紹介しましょう。
むかしむかし、足柄山というところにひとりの男の子が母親と2人で暮らしていました。彼の名は金太郎。森の動物たちを友とし、熊と相撲をとるなどして元気に成長しています。
ある日のこと、谷で動物たちが困っているところに出くわしました。金太郎がどうしたのかと尋ねると、橋がないから向こう側に渡れず難儀しているとのことです。金太郎は、手近にあった木を体当たりで倒すと、谷に橋をかけて向こう側に渡れるようにしてやりました。彼は、力が強いだけでなく、困った者を放っておけない優しい子でもありました。
そんな金太郎の姿を見ていたのが、たまたま通りかかった武士です。彼の名は源頼光(みなもとのよりみつ)といいました。各地を回って武士となる人を探していたらしく、強くて優しい金太郎の姿を見て自分に使えることを提案します。
金太郎は、母親や動物たちと別れるのは辛いと思ったものの、「あなたならきっとすばらしい武士になれる」いう言葉を母親からかけてもらい、頼光についていくことを決意するのです。
そしてその後、頼光とともに酒呑童子(しゅてんどうじ)という名の悪さをする大鬼を倒すことに尽力したとのことでした。
昔話の主人公として知られる金太郎ですが、実はモデルがいるとされています。平安時代の武士、坂田金時(さかたのきんとき)という人物です。
現代に通じるイメージができあがっていったのは、浄瑠璃や歌舞伎が広まった江戸時代のこと。坂田金時が生きていた時代の600年ほど後になります。
坂田自身も実在していたかどうかは定かではないのですが、人間離れをした力をもつ彼には興味深い伝説が残されているので、ご紹介していきましょう。
母親は山姥(やまんば)、父親は雷神である
坂田金時の母親は足柄山に暮らしていた山姥で、父親は雷神だったという伝説があります。思えば、女性が山でひとりで子育てをしているという状況は少し不思議ですよね。
日頃から熊と相撲をとったり簡単に木をなぎ倒したりと、信じられない力をもつ金太郎なので、普通の人間から生まれたとは考えられなかったのでしょう。
坂田金時は神様の子である
こちらは、平安時代末期に成立したとされる説話集『今昔物語集』に収録されたエピソードです。
源頼光が、足柄山で年老いた女性と息子である若者に出会います。若者は20歳くらいに見えましたが、まだ元服前の姿をしていました。
頼光が彼らに身の上を聞くと、女性はこう語ります。「わたしが山で眠っていたところ、夢の中で赤い竜と通じ、身ごもったのがこの子なのです」と。常人ならざる出生話から、若者をただものではないと考えた頼光。坂田金時を自らの従者にしたといわれています。
坂田金時は武士の子だった
こちらは静岡県駿東郡小山町にある、金時神社に伝わる伝説です。
京の都に、足柄山の彫物師の娘で、八重桐(やえぎり)という女性が暮らしていました。そこで坂田の姓をもつ武士と結ばれ、出産のために故郷へ帰ることとなります。
しかし坂田が亡くなってしまったため、出産後は京へ戻らずにそのまま故郷である足柄山で子どもを育てることにしました。
子どもである金太郎が生まれたのが956年5月、後に頼光と出会うのが974年4月などと、年号や日付けがはっきりしているのが特徴です。
源頼光に仕え、名を坂田金時と改めた金太郎。母親と別れた後、頼光や彼の部下とともに、京の都で大仕事を成し遂げます。
当時の京では、神隠しの騒ぎが起きていました。陰陽師である安倍晴明に占わせたところ、神隠しは「酒呑童子」という鬼の仕業であることがわかりました。頼光は一条天皇の勅命を受け、坂田金時を含む「頼光四天王」を連れて、酒呑童子の退治に向かいます。
その道中、一行はとある老人に出会いました。老人は「山伏に化けて行きなさい」という助言をくれ、鬼には毒になるという酒を与えてくれました。
実はこの老人たち、頼光が熱心に参詣していた石清水八幡宮や熊野神社の神様だったのです。頼光の信仰心に応えて、酒呑童子を倒すための知恵や道具を伝授してくれたのでした。
その後頼光たちは、身分を隠して酒呑童子に接触し、宴を開きます。神様から授けられた酒を与え、酔いつぶれた鬼をひとり残さず退治しました。そして、神隠しにあったとされているさらわれた者たちを連れ戻すことができたのです。
この金太郎と源頼光、酒呑童子のエピソードは、神への信仰が身を救うことを示しているといえるでしょう。
- 著者
- いもと ようこ
- 出版日
- 2000-05-01
いもとようこの優しいイラストが魅力の絵本です。
まさかりをかついで熊にまたがり駆け回る、生き生きとした金太郎の姿を楽しむことができます。複雑なストーリーは排除された、子どもにもおすすめの入門編といえるでしょう。
最後には有名な歌の歌詞も載っているので、物語と歌と両方満喫できる作品です。
- 著者
- 米内 穂豊
- 出版日
- 2002-02-18
1936年に発行された作品を復刊した「新・講談社の絵本」シリーズです。
魅力は何といっても、その美しい絵ではないでしょうか。何十年も昔に書かれたものですが、リアリティのある動物たちの姿や、髪の毛の1本1本までわかる繊細なタッチに魅了されます。表紙になっている金太郎の、意志の強さを感じる瞳も印象的でしょう。
名作は時を超えて人々に愛されることを実感できる絵本です。
- 著者
- 斉藤 洋
- 出版日
- 2018-07-13
昔話で注目されるのは、もちろん主人公の活躍です。しかしそんな彼らは、けっしてひとりで困難を乗り越えているわけではありません。脇役と呼ばれる者たちがいてこそ、主人公が輝いているのです。
本作は、そんな脇役である「サブキャラ」に取材をした、という形式で物語が描かれる短編集。桃太郎のお供をしていた犬、浦島太郎に救われた亀、そして金太郎の友人である熊……彼らの話を聞くことで、昔話に隠されたさまざまな謎を読み解くことができるでしょう。
実際の物語を読んだ後に、別角度から楽しめる作品です。