誘拐をテーマにした作品で有名な「誘拐の岡嶋」こと、岡嶋二人という作家をご存知でしょうか?少し変わった筆名ですよね。実は、岡嶋二人は、日本では珍しいコンビ作家。今回は、岡嶋のおすすめ作品5選を紹介します。
岡嶋二人は、1982年にデビューした推理作家です。筆名の「二人」にふさわしく、井上泉と徳山諄一によるコンビの作家なのです。
デビュー前年の1981年に『あした天気にしておくれ』が江戸川乱歩賞候補となりますが、残念ながら落選。翌年、第28回江戸川乱歩賞を受賞し、華々しいデビューを飾りました。
初期は、競馬を題材とした作品が多かったのですが、だんだんとテーマの幅が広がり、特に誘拐を題材とした小説は、高い評価を受けています。「誘拐の岡嶋」や、「人さらいの岡嶋」という異名を持つことからも、作品の評価の高さがうかがえます。
残念ながら、1989年にコンビは解消。岡嶋二人名義での作品は、現在出版されているもののみとなっていますが、どれもが文庫化・再版されており、コンビが解消されても多くの人々に読み続けられているといえるでしょう。
岡嶋二人の記念すべきデビュー作品。『焦茶色のパステル』は、競馬を題材とした推理小説です。競馬の知識がなくとも読めるのが、うれしい小説です。
- 著者
- 岡嶋 二人
- 出版日
- 2012-08-10
大友香苗は、夫・隆一が牧場で撃たれたと連絡を受け、病院に駆けつけます。しかし、隆一はすでに息を引き取っていました。夫だけではなく、幕良牧場の場長・深町、仔馬のパステル、母馬のモンパレットもまた撃ち殺されていました。
これ以降、香苗の周りでは不審なことが起こります。彼女は、友人で、競馬雑誌記者の芙美子とともに事件の真相を追いはじめます。タイトルにもなっている仔馬の「パステル」が、事件のカギを握っていて…。
土曜ワイド劇場で映像化されるほど、エンターテインメント性の高い作品。最後の1頁を読むまで、緊張感をもって楽しめます。
『焦茶色のパステル』同様に、競馬を題材として扱う作品『チョコレートゲーム』。自殺した息子の無実を証明するべく、父親が中学生の間で行われているギャンブルの謎に挑みます。岡嶋作品随一の社会派ストーリーとしても知られています。
- 著者
- 岡嶋 二人
- 出版日
- 2013-01-16
名門秋川学園大付属中学3年A組の生徒が、何者かに殺されます。生徒は死ぬ前に大金を引き出していました。そして、また新たな死者が出ます。一人は殺され、一人は自殺。自殺した生徒は、作家・近内の一人息子の省吾でした。
2人目殺害の犯行には、省吾のテープレコーダーが使われていたということで、省吾は2人を殺害後、自殺したとされてしまいます。しかし、近内はそれに納得できず、息子の無実を信じてたった一人で事件を調べ始めます。事件の裏側には「チョコレートゲーム」と呼ばれる賭博行為が絡んでいたのでした…。
少しネタバレになりますが、タイトルの『チョコレートゲーム』は、中学生たちの間で流行った競馬賭博のこと。はじめは、チョコレートを賭けるだけだったゲームが、やがて多額の金銭を賭ける本格的な賭博へと発展していくのです。それをすべて中学生がやっているというところが恐ろしいですね。
息子の無実を証明するため奔走する作家・近内は、息子の死まで、決していい父親ではありませんでした。ですが、やっと息子と向き合い、息子のために行動する姿には胸をうたれます。中学生の賭博、そして父親の息子への愛情が交錯する作品です。
岡嶋作品の真骨頂ともいえる誘拐小説。『99%の誘拐』は、吉川英治文学新人賞受賞ということでも話題となりました。作品は、慎吾の誘拐事件と復讐劇の2段構成と、ボリューム満点!2つの展開それぞれでも面白いですが、合わさるとさらに面白さが増します。
- 著者
- 岡嶋 二人
- 出版日
- 2004-06-15
昭和43年9月9日、幼稚園に通っていた生駒慎吾は、何者かに誘拐されます。慎吾の父親は、半導体製造会社の社長でしたが、事件発生当時は、倒産の危機に陥っていました。社運すべてを賭け、何とか5千万円を捻出。しかし、犯人からの身代金要求額もちょうど5千万円でした。それを払ってしまえば会社は終わりです。父・洋一郎は慎吾の命を守るという決断を下し、身代金を支払いました。
その後、洋一郎は癌で亡くなりますが、息子に誘拐事件の詳細を伝える手記を残していました。慎吾は、ある事件がきっかけで手記を読み、自分が誘拐された理由を悟りました。彼は、父の未来を奪った犯人たちに復讐することを決意します。
慎吾は、復讐をたった一人で行動に移していきます。類似した作品に登場するような、共犯者や協力者は登場しません。孤独な姿は、かつて慎吾の父親が、たった一人で身代金の受け渡しに駆けずり回った描写と重なります。親子に共通する孤独が、どこかもの悲しさを添えていると感じます。また、作者の一人である井上泉は、パソコンなどの電子機器関係に精通しているそうです。このことが、作品内で慎吾が電子機器を駆使して犯行を成し遂げていくことに生かされています。
リアリティのある復讐劇が堪能できる作品です。
一人の女性が、異なる興信所に異なる依頼をしていく『解決まではあと6人』。各話ごとに、それぞれの興信所の探偵が主人公となり、まるで連作短編のように楽しめる作品です。
- 著者
- 岡嶋 二人
- 出版日
ある興信所に「平林貴子」と名乗る女性がやってきます。女性は、「あるカメラの持ち主を探してほしい」と言います。彼女は、他の興信所でも目的がよくわからない依頼ばかりしていました。たとえば、「都内の喫茶店で大文字のVで始まる単語2語の店名であり、緑色のマッチを置いているのは?」など。興信所の探偵たちは、首をひねります。しかし、依頼をすべて繋げていくと、「平林貴子」のある一つの目的が見えてきます。最後まで目を離せません!
岡嶋二人最後の作品『クラインの壺』。バーチャルリアリティゲームがテーマとなっており、現実世界と仮想世界の曖昧さが描かれています。タイトルの『クラインの壺』は、表も裏もない立体図形の名称であり、作品内における現実と仮想現実の曖昧さを示唆しています。また、当時珍しかったバーチャルリアリティを取り入れた作品としても注目を集め、著者・井上の知識の深さと発想力が発揮されています。
- 著者
- 岡嶋 二人
- 出版日
- 2005-03-15
主人公・上杉彰彦は、自分の書いたシナリオが使われた、バーチャルリアリティゲームのテストプレイヤーとしてゲームに参加します。ある日、ともにテストプレイヤーとして参加していた高石梨紗が失踪。ゲーム開発者の百瀬からは「戻れなくなる前に引き返せ」という警告を受けます。梨紗の行方を探す上杉は、やがてゲームの裏に隠された恐ろしい計画を突き止めます。
本作を最後に、岡嶋二人はコンビを解消します。プロットが徳山、執筆が井上という分担だったそうですが、だんだんと徳山のプロットが大雑把なものになってきたため、井上の負担が増えたことが原因と言われています。本作は、ほぼ井上泉がひとりでつくった作品で、井上の得意な電子機器関係のテーマがふんだんに盛り込まれています。
なにが現実で、なにが仮想現実なのか、読者も上杉も最後までわかりません。曖昧な現実への葛藤と、危うさをぜひ感じてみてください。
誘拐ものに定評のある岡嶋ですが、誘拐作品以外も非常に面白く、時が経っても楽しめるものばかり。ぜひ一度手に取って、計算し尽くされたミステリーを味わってみてください。