「すばる文学賞」を受賞したおすすめ作品6選!既成の文学を壊す小説たち

更新:2019.1.8

純文学5大文芸誌のひとつ「すばる」誌上で募集される、公募新人賞「すばる文学賞」。他の新人賞より歴史が浅く、その分尖った才能が集まっている印象を受けます。この記事では、過去の受賞作のなかから特におすすめしたい6作をご紹介していきましょう。

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「すばる文学賞」とは

 

「すばる文学賞」は、集英社が主催する純文学の公募新人文学賞で、「小説すばる新人賞」「柴田錬三郎賞」「開高健ノンフィクション賞」とともに「集英社出版四賞」のひとつに数えられています。

第1回が開催されたのは1977年のこと。受賞作品は毎年11月に文芸誌「すばる」に掲載されるので、楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。

応募数は毎年1000を超え、多い時は2000以上にもなるとか。純文学の作家志望者に人気が高い賞だといえるでしょう。

読んでおきたい「すばる文学賞」作品

 

2003年に「すばる文学賞」を受賞するとともに、「芥川賞」も受賞した作品です。2008年には映画化もされました。

主人公は、19歳の少女ルイ。蛇のように舌先が2つに分かれるよう切れ目を入れる「スプリット・タン」をもつアマと出会い、しだいに身体改造に興味をもつようになります。

入れ墨店で働くシバに頼み、まずは舌にピアスを開けることに。ピアスホールを徐々に拡張し、最後に引き裂くことでスプリット・タンを完成させるのです。拡張の痛みに快感を覚えたルイは、今度は背中一面に龍と麒麟の入れ墨を彫ることを決めるのでした。

著者
金原 ひとみ
出版日
2006-06-28

 

ルイはそれなりに学もあり、家族の関係も悪くはない、普通の少女。そんな彼女が、身体改造にのめり込んでいく心の過程が描かれています。

退廃的な三角関係とそのなかで生々しく描かれる痛み、アブノーマルセックス、自死への渇望……本作を執筆した当時の金原ひとみも10代ということに、衝撃を受けるのではないでしょうか。

多くの読者にとっては遠い世界の話のように思える一方で、痛みを感じている時だけ生きていることを実感できるというルイはとてもピュア。死にたいと思いながらも、生への渇望があるからこそ身体改造を求めているようにも見えます。

途中で大きな事件は起きるものの、物語の終わり方は、きっと彼らの生活はこれからもこのまま続いていくのだろうと予測できるもの。舌に開いた大きな穴と、完成した背中の入れ墨を見て、ルイは何を感じるのでしょうか。

粗削りな思春期を描いた「すばる文学賞」受賞作

 

1989年に「すばる文学賞」を受賞した作品。ミュージシャンとして活躍していた辻仁成の、小説家デビュー作でもあります。

主人公は、トオルという男子中学生。家庭の事情で転校をくり返しているため学校になじむこともできず、親との関係もうまくいっていません。

どこにも居場所のない彼は、「ヒカル」という架空の友人を作りあげ、孤独を紛らわせています。やがて伝言ダイヤルで知り合ったサキとのやり取りにハマっていき……。

著者
辻 仁成
出版日
1992-05-20

 

本作が発表された当時は、携帯電話もインターネットも普及していない時代。匿名で使える伝言ダイヤルが、売春の温床になっていたそうです。

トオルは、友人がいないことや、唯一歯向かえる存在が母親しかいないことなど、自分の置かれている状況に怒り、劣等感を抱き、ある時その思いを爆発させます。多かれ少なかれ思春期には、誰もが自己否定の感情を抱くかもしれませんが、粗削りで純粋なその姿が読者の胸を打つのです。

またトオルが自身の閉塞感を打ち破り、葛藤しながらも大人にならなければいけないと気付く流れはさすが。成長していく主人公の姿に青春を感じる一冊です。

働く人へ送る「すばる文学賞」受賞作

 

2012年に「すばる文学賞」を受賞した作品です。

有名な私大を卒業した主人公が飛び込んだのは、不動産業界でした。学歴も経験も関係なく、家を売るかどうかですべてが評価される世界です。暴力は当たり前、激務なうえに家は売れず、ついには辞職を促されることになってしまいました。

ところが、さまざまな幸運が重なってとある物件が売れたことから、周囲の主人公を見る目が変わっていくのです。

著者
新庄 耕
出版日
2015-02-20

 

主人公は、有名私大を出たのに街の不動産屋に勤めることになった自分にコンプレックスを抱いています。そんな彼に、上司は「お前は特別ではないし、何者かになれるわけでもない」と現実を突きつけてくるのです。

さらに主人公は、偉そうにしている客も結局は狭小邸宅しか買うことができない様子を見て、人生において働くとはどういうことなのかを考えていくのです。

家を一軒売ったことから、今度は営業ノウハウを叩き込まれることになるのですが、今度は客への配慮を欠いてひたすら売上に固執するように。そんな自分に戸惑いながら成長していく物語は、単なるサクセスストーリーではないほろ苦さが残り、本作の魅力となっています。

疲れた人におすすめの「すばる文学賞」

 

2004年に「すばる文学賞」を受賞した作品です。

主人公のみのりは、31歳の独身女性。元カレの結婚の報せを聞いて以降、体調を崩しています。しかし、運ばれた病院で検査をしても、ほかの病院に通ってみても、結果は「異常なし」。そして最終的に、漢方にたどり着くのです。

霊感療法的な怪しさを感じたものの、漢方医の顔が好みなので通い続けることになりました。

著者
中島 たい子
出版日
2008-01-18

 

本書の魅力は、作中に登場する漢方や陰陽五行説、西洋医学と東洋医学の違いなどを丁寧に解説してくれていること。読んでいるだけで知識もつけることができます。

等身大の31歳女性であるみのりは、漢方医とコミュニケーションをとりながら、自分が本当に求めているものは何なのかを問いかけ、探していくのです。

爽やかな恋愛も物語に色を添え、すっきりと読みやすい作品でしょう。

ユーゴスラビア紛争を舞台に人間の本質を問う

 

1999年に「すばる文学賞」を受賞した作品です。

インターネットで知り合った友人に誘われ、彼の故郷であるユーゴスラビアに行った高校生のアキラ。そこで内戦に遭遇してしまい、地下室での隠匿生活を余儀なくされました……。

著者
楠見 朋彦
出版日
2000-01-05

 

日本人のアキラを中心に、兵士や市民と語り手を変えながらユーゴスラビア紛争を語っていきます。描かれているのは、「そこで何がおこなわれているか」という事実だけです。

妊婦のお腹を裂いて赤ちゃんを取り出し、その赤ちゃんで母親の顔を砕く……心情などは言葉にされていませんが、だからこそ戦争という極限の状態に置かれた人間の本質が見えてきます。

ラストシーンもショッキングなもの。読後感は重たいですが、読んでおきたい戦争文学です。

競歩を描いた「すばる文学賞」受賞作

 

1993年に「すばる文学賞」を受賞した作品です。

主人公の青年は、夜の公園をものすごいスピードで「歩く」男に出会いました。彼は義足を付けていて、1周5kmの道をまるでロボットのように正確に、オリンピック記録を上回るようなスピードで歩くのです。

義足の男の周りにはスカウトなどもやってきますが、彼はそういった話にはまったく興味を示さず、ひたすら夜の街を歩きます。そして主人公は、彼の指導のもと「競歩」に挑戦することになるのです。

著者
引間 徹
出版日
1998-06-19

 

平凡な主人公が都会の公園を舞台に、徐々に競歩の世界にのめり込んでいきます。単なるスポーツを描いた物語でも、障害をもつアスリートの感動の物語でもありません。ひとりの男が競歩というひとつのものに身を投げ打つ「生き方」を描いている作品だといえるでしょう。

タイトルの『19分25秒』とは、5kmを歩く平均タイムがこのペースであれば、世界記録に並び立つことができるという数字。地味で過酷な競歩を、絶妙なスピード感で描いた作品です。

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