1990年から95年にかけて連載されていた漫画。本編が終了した後、2000年からは続編『銃夢 LastOrder』が、2014年からは『銃夢火星戦記』が連載されるなど、その人気は今も衰えることがありません。また2019年2月には、本作を原作としたハリウッド映画も公開予定。今まさに注目の作品となっているのです。 今回は、そんな『銃夢』本編を全9巻ご紹介しましょう。
本作は、荒廃した未来の世界で、空中都市「ザレム」と、そこから出る廃棄物にまみれた真下の町「クズ鉄町」を舞台に、サイボーグの少女・ガリィがさまざまな敵と戦いをくり広げるSFアクション漫画です。
銃夢(1)
1990年から95年にかけて漫画雑誌「ビジネスジャンプ」で連載され、コミックスは全9巻が発売されています。
少し昔の作品ですが、本作を原作とした映画『アリータ:バトル・エンジェル』がハリウッドで制作され、2019年2月に公開が決定。
ロバート・ロドリゲスが監督を務め、ジェームズ・キャメロンの製作で作られる本作は、あらためて注目を集めています。
頭だけの状態でスプラッタの山に捨てられ、新しいサイボーグの体を手に入れた少女が、伝説の格闘術「機甲術(パンツァークンスト)」を武器に強大な敵に立ち向いながら成長していく姿を中心に、バトル、アクション、恋愛、友情などを壮大なスケールで描いた物語。
全9巻なので、一気読みするにもちょうどよい長さです。
本作の魅力は、なんといってもその独特な世界観と、サイボーグ達による激しいバトルアクションです。
主人公のガリィは、火星発祥の格闘技術「機甲術」と、彼女を拾ったイドによって与えられた戦闘用のボディ「バーサーカーボディ」で、見た目の可憐さからは考えられないような戦闘能力を発揮します。
そんな彼女の敵となるのが、賞金稼ぎのハンターやマッドサイエンティストなど。新しい章が始まる度に新たな敵が出てきて、その度に強く成長していくガリィに、バトル漫画の醍醐味を感じることができるでしょう。
また、荒廃した時代のなかで理不尽な状況に立ち向かう勇気であったり、戦いのなかでも恋を見つけたりする姿は、時代に関わらず人々の共感や感動を呼ぶものでもあります。
SFやバトルアクションが好きな方はもちろん、少女の成長物語に興味がある方もぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
天空に浮かぶ空中都市「ザレム」。
その真下にある「クズ鉄町」に暮らす、サイボーグ専門医のイド・ダイスケは、ある日、スクラップの山から数百年も前に捨てられたであろうサイボーグの少女を見つけるのですが……!?
銃夢(1)
天空に浮かぶ空中都市「ザレム」と、その真下にある「クズ鉄町」を舞台に描かれる本作。始まりとなる本巻では、主人公の少女・ガリィと、彼女を拾ったサイボーグ専門医・イドとの出会いから、ガリィの過去の一端が描かれていきます。
この世界では、ザレムがユートピアとされ、その下にあるクズ鉄町には、ザレムの廃棄物が落とされてスクラップの山が出来ています。その山を中心に、スクラップを再利用して暮らしているのがクズ鉄町の住人で、イドやガリィは、ここの住人です。
ガリィは、数百年も昔にスクラップの山に捨てられていましたが、奇跡的な偶然が重なり、頭部だけの状態ではあるものの脳が保存されていました。イドの手によって新しい体を与えられた彼女でしたが記憶をすべて失っているため、どんな過去を持っているのかはわかりません。
しかし、イドとの交流のなかで、火星発祥とされる伝説の格闘術「機甲術(パンツァークンスト)」を無意識に使うなど、過去に繋がる一端も描かれているのです。それでも、まだまだ本巻では、その謎は解き明かされません。
彼女が格闘術の使い手という設定からもわかるように、本シリーズではバトルシーンが多く描かれていきます。サイボーグが当たり前の世界観でのバトルは、キャラクターのビジュアルはもちろんのこと、戦い方やその迫力、スピード感も独特な雰囲気を持っていて、他の作品とは違う味わいを感じることができるでしょう。
世界観に引き込まれること間違いなしの、第1巻です。
ガリィを拾い、新しい手足を与えたイド。温和で住人からの信頼も厚い彼でしたが、実は賞金のかかった犯罪者を狩るハンターウォーリアという裏の顔を持っていました。
そんな彼を見て同じハンターウォリアとなったガリィでしたが、ある日、便利屋として働く少年・ユーゴと出会い……。
銃夢(2)
クズ鉄町を舞台に、天空に浮かぶ空中都市ザレムを見上げながら生きるサイボーグや人間を描く本作。前巻では、イドのハンターウォーリアという裏の顔を知ったガリィが、同じハンターとして働くようになるまでが描かれていきました。
ガリィは機甲術と、イドにより与えられた戦闘用のボディを駆使し、順調にハンターとしての仕事をこなしていきます。見た目は可憐な少女である彼女が、自分よりも数倍大きなサイボーグと戦うシーンは、SF作品よりもバトル作品として読むと、より面白く感じられるかもしれません。
ただ本巻での見所は、それだけではありません。ガリィの淡い恋心を描く「ユーゴ編」が、本巻より始まるのです。
ユーゴは、クズ鉄町で修理工や便利屋を営む少年。かつてザレムを目指した兄の意志を継ぎ、いつかそこへ行くことを夢見て働いています。ただ働くといっても、真っ当な仕事だけではありません。ザレムへ行くためには大金が必要だと教えられていら彼は、町のサイボーグを襲ってパーツを奪う強盗稼業もしていたのです。
そんな彼とガリィが出会って心を通合わせていく姿は、荒廃した町でのボーイ・ミーツ・ガールといった雰囲気で、とても人間味のある内容になっています。しかし、どちらも裏の仕事をして働く2人です。その末路は、決してハッピーエンドといえるものではありませんでした。
その衝撃的な展開がどんなものかは、ぜひ実際に手に取って確認してみてください。
空中都市ザレムへ行くことなんかできない――そう悟ったユーゴが取った行動とは?
さらに、淡い恋心を失ったガリィが行き着く先にあるものとは……。
銃夢(3)
「ユーゴ編」が完結し、新たな章「モーターボール編」が始まる本巻。
ユーゴのラストは、かなり衝撃的なものでした。それがどのように衝撃的なのかは本編で味わって頂きたいのですが、結果として、ガリィの恋は終わりを告げることとなります。
それによって自暴自棄になった彼女は、自分に体を与えてハンターの仕事を志すきっかけとなったイドの元を去り、モーターボールというスポーツの選手になったのです。
スポーツといっても、モーターボールは試合中に相手を殺してもよいというルールがあるようなヤバイもの。しかし、イドから与えられた戦闘用のボディと機甲術をもって、ガリィはその命がけの世界でも勝ち続けていきます。
戦いありきのスポーツのため、「ユーゴ編」の少年少女の人間ドラマとは打って変わり、疾走感あふれるバトルが次々と描かれていきます。
そんな戦いに明け暮れるなかで、ガリィは自分の失った記憶を少しずつ取り戻していくことに。彼女にとって戦うという行為がどんなものか、そしてどう過去につながっていくのかも気になるところです。
一方で、恩人であるイドのもとを去ったガリィと、そんな彼女に対して親のような恋人のような気持ちを抱いている彼の微妙な関係も注目して頂きたいところ。世界の謎とガリィの過去、そして今を生きるキャラクター達の関係が複雑になってくる第3巻です。
モーターボール第1リーグのチャンピオン・帝王ジャシュガン。
打倒ジャシュガンのためガリィは最強の仲間を集めますが、「帝王」の異名を取る彼の力は想像を超えるもので……!?
銃夢(4)
前巻より始まった「モーターボール編」が完結する本巻。ユーゴとの恋を失い、自暴自棄になったガリィは戦いにのめりこみ、モーターボールの帝王ジャシュガンに挑むことになります。
「帝王」という異名を取っていることからもわかるように、このジャシュガンの実力はまさに無敵。彼に敵う相手は1人もいません。ガリィも、これまで幾度となく対戦してはいるものの、1度も勝ったことがありませんでした。
こう書くと、なんとなくジャシュガンが、ガリィに敵対する嫌なヤツというイメージになるでしょうか?しかし彼はむしろその逆で、サイボーグでありながらも、その力に頼るのではなく、自分の力でサイボーグを越えようとしていくのです。ガリィはもちろん、多くの読者がしびれること間違いなしでしょう。
さらに彼には妹がおり、彼女の存在もまた、彼の生きざまに華を添える一因となっています。ガリィは彼との戦いを経て、多くのことを得ることになりました。
「モーターボール編」は本巻で終わりですが、ジャシュガンは今後もガリィのなかで重要な存在となっていくので、ぜひ注目してみてください。
ジャシュガンとの戦いを経て、モーターボールを引退したガリィ。戦いに没頭していた日々から一転、再びイドの元へと戻り、平和な日常を送っていました。
しかし、そんな日々を送る彼女の前に、ある男が現れて……!?
銃夢(5)
前巻で「モーターボール編」が終わり、本巻より「ザパン編」が始まります。
ザパンとは、かつてガリィのハンター仲間として登場した男です。あくどい性格で執念深く、かつて恥をかかされた相手であるガリィに強い恨みを持っています。
1度は、顔と記憶を失う形でガリィに敗れましたが、モーターボールの選手として戦う彼女の姿を見たとたんに発狂するなど、その執念深さは底知れません。
本巻ではそんな彼が、かつてはガリィのものだった戦闘用のボディを手に入れたことで、手の付けられない魔人となって暴れまわる様子が描かれています。そのなかでキーパーソンとなるのが、ディスティ・ノヴァという男です。
彼は、ザレムから追放されたマッドサイエンティスト。天才的な頭脳の持ち主ですが、その危険思想からザレムを追放された存在です。焼きプリンを食べる姿が印象的な彼は、手にしたガリィの元ボディを、ザパンにつけた張本人。
彼の存在はこれからの話のなかでも、もっとも重要になってくるので、ぜひ注目していただきたいところです。
また本巻では、イドの身に衝撃的な展開が降りかかります。物語にとっても、ガリィにとっても重要なキャラクターである彼の身に何が起こってしまうのか。ぜひ本編を手に取って確認してみてください。
ザパンを魔人にし、クズ鉄町に災厄をばらまいたノヴァの事件を終結させたガリィでしたが、その結果、ザレムに犯罪者として捕らえられてしまいました。
死ぬか、ザレムの手先になるか。究極の選択を迫られた彼女が選んだ道とは……!?
銃夢(6)
前巻でザパン編が終了しましたが、その余韻が続くなか、新しい章「バージャック編」が始まります。
ノヴァの事件を終結させたガリィでしたが、そのせいでザレムに捕らえられてしまいました。そこで、犯罪者として処分されるか、それともザレムの手先となって生きるかの選択を迫られた彼女は、不本意ではあるもののザレムのエージェントとして生きる道を選択したのです。
これまで物語の舞台はクズ鉄町でしたが、本巻からやいよいよそこを飛び出すことになります。舞台の背景が変わったことで、第6巻にしてまた新しい感覚で物語を楽しむことができるでしょう。エージェントとなり、ますます戦いに身を置くことになったガリィの活躍からも目が離せません。
しかし、そんな戦いだらけの彼女ですが、ここでユーゴ以来の恋物語も訪れます。第2の恋人となるのは、フォギア・フォアという青年。サイボーグがほとんどの世界では珍しく、生身の人間です。
2人が急接近したきっかけは、ガリィがフォギアを助けたことでした。とはいえ、ガリィにとっては彼を助けたのも気まぐれだったため、最初から彼に惹かれていたわけではありません。そんな彼らがどのように親しくなっていくのかにも要注目です。
ザレムのエージェントとして働き始め、すでに10年。
その働きから「ザレムの死の天使」などと呼ばれるようになっていたガリィ。恋人のフォギアとの別れ、新しい出会いがあり……!?
銃夢(7)
恋人となり心を通わせたフォギアと再会の約束をした後に別れたガリィ。そんな彼女を待ち受けていたのは、新しい出会い、そして戦いでした。
新しい出会いのなかでも、ルゥ・コリンズは、ガリィにとって重要な存在となってくるキャラクターです。ちょっと天然っぽくドジっ子のようなところがある女性ですが、ザレムの地上監察局のオペレーターとして働き、エージェントであるガリィとも仕事を介して関わるようになっていきます。
長い間ザレムの手先として働いているガリィにとって、ザレム人は心を許せる存在ではありません。また、常に戦いへ身を投じてきた彼女にとっては、ザレム人だけではなく、心を許した人物という存在もイドやフォギアなどの数少ない人しかいないのです。
そんな彼女にとってルゥは、イドやフォギアに続き、心許せる友人となっていきます。
また、物語上でも戦いが続くなかでシリアスな雰囲気が続いていましたが、ドジっ子キャラのルゥのおかげで少し明るい雰囲気になって、読みやすくなったと感じる読者もいるかもしれません。
また、ノヴァの息子であるケイオスも、物語の展開において重要なキャラクター。本巻には、伏線がさまざまなところに散りばめられており、どちらかというとつなぎの一冊。この先の展開においてとても重要な巻となるので、ぜひじっくりと読み込んでみてください。
マッドサイエンティストとしてザレムを追放されたノヴァ。その息子であるケイオスは、触れたものの過去を読み取れるサイコメトリー能力者でした。
追放された父を嫌い、父から逃げ続けていた彼に、ガリィと出会ったことでおとずれた変化とは……!?
銃夢(8)
エージェントとしてノヴァを追い続けているガリィ。そんななか、彼の息子であり、サイコメトラーであるケイオスと出会います。彼もまたノヴァとの関係にけじめをつけるため、ともにノヴァへ戦いを挑むことになりました。
そんななかガリィの前に現れたのが、なんと彼女のレプリカ。これは、秘密裏に作られた兵器でした。
レプリカを完成させるための最後の課題として、オリジナルのガリィはレプリカから命を狙われてしまいます。両者の戦いは意外な結末を迎えることになり……。
他に、本巻の見所といえば、やはりケイオスの活躍です。父親がマッドサイエンティストであるがゆえに、その現実から逃げ続けていたケイオス。頼りなく弱弱しかった彼が、父親との決着をつけるために行動を開始して立ち向かっていく様子に、感動する読者も多いのではないでしょうか。
また、かつて衝撃の結末を迎えたイドも、とある形で再登場します。
ガリィにとっては親ともいえる存在の彼の選択は、ガリィにとっては決してハッピーエンドといえるものではありませんでした。しかし、だからこそ感じることのできる切ない人間ドラマを楽しんでみてください。
遂に、ノヴァとの最終決戦に挑むガリィ。
そこで明かされる、ザレム人の秘密。そしてノヴァの仕掛けてきた、精神と精神の対決とは……!?
銃夢(9)
遂に最終巻です。本巻では、ガリィが追い続けてきたノヴァとの決着がつけられます。
これまで、ノヴァはマッドサイエンティストであり、ザパンを魔人に変えて町に災厄をもたらしたり、実験のためならどんな相手も、あるいは自分さえも傷つけることを厭わない狂ったキャラクターでした。
しかし、そんな彼にも抱えている過去や事情がありました。それが、彼をただ悪いだけの悪役にせず、奥深いキャラクター像に仕上げているのです。
最終巻ということでこれまでの伏線を一気に回収しつつ、結末まで一気に駆け抜けていく、勢いのある一冊です。ガリィが迎える結末も衝撃的で、取り方によっては悲劇的ともいえるかもしれません。しかし同時にハッピーエンドともとれるので、どちらに取るかは読者しだいでしょう。
戦いに身を投じ続けてきたガリィが最後に見るのは、一体どんなものなのか……それはぜひ、実際に手に取って確認してみてください。
いかがでしたか?1990年代に連載された作品のため、人によっては絵柄やストーリーが少し古く感じることもあるかもしれません。しかし、それも表面的なもの。作品から伝わってくるメッセージやテーマは、時代に関係なく人に伝わるものだと思うので、これを機にぜひ読んでみてください。