魔法の修行のため、人界にやってきた魔女のしおり。しおりのゴールは「人界でととびきり面白い人間と結婚すること」。修行そっちのけで人間の男性に絡み、面白い男性を探すため、出会った人の行動の理由を追及していく姿がもはや清々しい域です。 彼女のぶっ飛んだロジックに振り回されるのは、こちらもちょっと変だけど憎めない人々。ヒロインは、そのなかから面白い男性を探し出せるのでしょうか? この記事では、スマホの無料アプリで読める『あなたソレでいいんですか』を紹介していきます。
クールな美貌をもつ女子高生・しおり。実は、彼女は魔法の修行をしに人界に来た魔女でした。しかし本来の目的もそっちのけで、面白いことが大好きなしおりは、「人界で結婚する」と決めてしまうのです。
そして出会う男性すべてに、行動の理由を追求していきます。そんな彼女のなすがままに、人々は次々と何かを抱えた心を暴かれていき……。
- 著者
- 前田 悠
- 出版日
- 2018-08-23
「人間を知りたい」という好奇心と、「面白いことに触れたい」という欲求から、出会う男性に様々なロジックを使い、行動の理由を追求する、しおり。すべてをさらけ出さなければいけないまっすぐな問い詰めに、たじろぐ男性たち。
しおりが理由を問いかけるのは、相手の人格や環境に関与したもの。つまり、「その人の本質」を暴こうとするのです。
見知った相手や家族であっても、自分のすべては、なかなかさらけ出せないものではないでしょうか。それを見ず知らずの女子高生に根掘り葉掘り聞かれるたとしたら、さらに気まずいですよね。
しかし、しおりは本心から話しているのかを見きわめているため、とってつけたような話では許しません。相手の気持ちも御構い無しにどんどん話を聞いてくるのです。
男子高校生やおじさんが、見ず知らずの女子高生に赤裸々な本音を語らされるのは、公開処刑のようなもの。しかし、しおりの本気さは、ついありのままにすべてを答えてしまいそうになるもの。もしこれが自分だったら……なんて思うとゾッとしますね。
しおりは最初、普通の女子高生のように登場し、ただ頭がおかしいところがあるだけ、という風に描かれます。この作品に登場するしおりと絡む男性は、彼らもどこかおかしいところがありますが、しおりの異常性の方が目立つほどのヤバさです。
この女子高生、ぶっ飛んでる。と思わされたところで「魔女」と明かされ、「文化の違いのための行動」だったと気づかされるのです。
1話目の最後でその設定が明かされて、「魔女なら仕方ない」と思わせるタイミングが絶妙。魔女であるという前提のもと、もう一度読み返すと、しおりの行動に対し、最初に読んだ時とは異なる感情を抱きます。
「使命を持った」魔界の人々に比べ、「何の使命もなく、好き勝手生きてる」人間の方が、何だか面白いのかもしれない、と。
この作品では、魔女らしいシーンは出てきません。しかし、魔女ならではの考え方、そこから見た人界の様子が新鮮。魔女設定が物語に及ぼす影響に注目です。
しおりの容赦ない質問攻めは、誰でも彼でも対象になるわけではありません。人間たちのなかでも、普通では考えられない行動をした人にのみ、行われるのです。
登場する男性は、小学生から幅広い年齢の人々。それぞれ独自の意思や考えを持ち行動している様子が描かれます。
しおりの住んでいた魔界には「男」が存在せず、魔女たちは知識として人界の男はこういうものだという大きなくくりで認知していました。もちろん、すべての男性が同じ傾向を持っているというわけではありません。
しおりが出会う男性たちは特に、「人界の男」という言葉だけでは、説明できない個性の強い人たち。過去に苦い経験をして変わった思考回路になっていたり、ささいな好奇心に大きく支配されてしまったり…… 。同じ男の人間でも、まったく同じ人はいないというのが、コミカルに描かれます。
包丁を持つ見知らぬ男子生徒は「殺します」としおりに宣言。「誰でもいいから殺す」という彼に対し、しおりは「セックスをしてあげます」と提案。思いがけない提案に、少年はペースを乱されまくりで……。
上記のような衝撃の展開で始まる1巻。インパクトの強い1話目はもちろん、しおりの超絶ロジックで読みごたえたっぷり!また、問い詰めてるだけでなく、相手との噛み合わない会話を楽しむ、普段とちょっと変わったタクシーでの話も見所です。
- 著者
- 前田 悠
- 出版日
- 2018-08-23
夜の山道を、怪談を聴きながら走るのが好きなタクシードライバー。いつもどおり趣味を楽しんでいたら、暗い山道の真ん中で手を挙げる女子高生がいました……。
その時、時間は深夜3時。人気もないこんな山道に女子高生がいることに、念願の霊体験になるのでは……とドライバーは大興奮。「こんな夜中にこんなところで何やってたんですか?」とワクワクしながら話しかけますが、しおりは「ああ……そうですね。高校生でした」と冷静に返します。
魔界から来ていて自分がそういう設定になっていることを思い出した、しおりの言葉ですが、ドライバーは「自分が死んでいるのを忘れているのではないか」という都合のいい想像を膨らませます。
そんな風にしおりとドライバーが噛み合っているようで噛み合っていない、テンポの良い掛け合いで話が進んでいきます。
どんな話でも正面から向き合う、しおり。登場人物たちは彼女と対話することによって、自分の人生に向き合います。このドライバーも例外ではなく、しおりのおかげで生き生きと人生を送るようになります。ギャグを交えながら、ちょっと良い話が進んでいくという、本作の魅力が感じられる内容です。
飛行魔法の練習で、ビルの屋上に降り立ったしおり。誰もいないと思われたそこには、休憩中の警備員が。自分を自殺志願者と勘違いしていることに気づいたしおりは、いつもどおり相手の本心を引き出しにかかるのですが……。
2巻は、上記の話から始まり、一緒に人界に来た幼馴染の魔女リイコの話や、魔界での話なども見所も。今回は、痴漢をしてしまった男性との話を少々ご紹介いたします。
- 著者
- 前田 悠
- 出版日
- 2018-12-21
電車で人生初の痴漢をして逃げてきた男性とばったり遭遇するしおり。持ち前の好奇心から、男性を追いかけ、痴漢をした理由を問いかけます。
いつもどおりの追い詰め具合が面白いのですが、この話は「人生」を考えさせる言葉が多く、どこかしんみりした雰囲気。人生というのは、ときに自分だけのものではないかもしれない。しかし、生き方を決められるのは自分自身だと思わせられる内容です。
「生きていればきっといいことはある」とは言い切れないけど、「いいことがある人生にすることができる」と気づかせてくれるようです。しおりは自分のためだけに行動をするので、自分以外の誰かに対して思いを馳せる人に興味を持ったのかもしれません。
ちなみに本作はこれで最終回を向かえています。しおりが人界で何を学んだかについては、ぜひご自身の目でご覧ください。
面白い人を見つけるだけの物語かと思いきや、あらためて人生を考えさせらえる言葉が出てくる『あなたソレでいいんですか』。他人に聞かれたくないことって、誰しもありますよね。しかし、しおりのように真正面から向き合われたら、話さざるをえない。
そして、誰にも話せず心の中で溜めてたものが吐き出されると、心が軽くなるかもしれませんね。本作を読むと、そんな爽快感を味わうことができます。