『サラリーマン金太郎』の作者として知られる、本宮ひろ志の作品。無精ひげに薄汚れた袈裟を着込んだ僧侶・風太郎を主人公に、さまざまな人間ドラマを仏教の教えとともに描く仏教漫画です。 実写映画化も決まり、これからますます注目度が高くなるはずの『喝 風太郎!!』を、全5巻一挙にご紹介しましょう。
修行を積んだ山寺を下り、下界を旅する僧侶・風太郎。
各地を旅する彼は、仏の教えを守りながらホームレスに物乞いをしたり、ム所を出たばかりのヤクザと旅をしたりします。
- 著者
- 本宮 ひろ志
- 出版日
- 2014-05-19
旅先で出会う人々の物語を静かに見つめながら、時に手助けをし、時に自分自身の煩悩に苦悶する風太郎の姿が、1話から2話程度の長さのショートストーリーで描かれるのが特徴の本作。
2019年冬には、市原隼人主演で映画化することも決定しています。風太郎に扮した市原の風貌にも注目が集まる映画も合わせ、これからますます注目したい作品です。
本作の魅力は、仏教と人間ドラマでしょう。
修行を積み、山寺を下りた僧侶・風太郎。無精ひげと薄汚れた身なりをした彼は、仏教の教えを人々に伝え、そして自らもまた悟りを得るために修行をしながら各地を巡っています。
そのなかで巡り合うのはホームレスだったり、謎の組織だったり、シングルマザーだったり、キツネだったりと実にさまざまですが、人間ドラマとともに描かれる仏教の教えは、宗教に関わらず共感できることが多いでしょう。
風太郎は現実離れした力のようなものを持っており、「喝」を入れることで雲を割ったり、人の力を引き出したりします。また、物語も現実的なものばかりではなく、超能力者がいたり他人と人格が入れ替わったりと、少しファンタジー風のところも多いです。
それが笑える要素ともなって、作品を盛り上げていきます。
仏教に限らず、宗教はあまり馴染みがないという方でも気楽に楽しめ、なおかつ仏教の教えを知りながら、時々深く考え込むことができる奥深い漫画です。
多くの僧侶が集まり、修行をする山寺。そこで修行を積んだ風太郎は遂に山を下り、世の中で自分がどう役に立つのか試す旅に出ました。
そして、世間で待ち受けていたものとは……?
- 著者
- 本宮 ひろ志
- 出版日
- 2014-05-19
型破りな僧侶・風太郎が世の中を練り歩き、さまざまな人間ドラマを見つめながら仏教の教えを語る本作。
風太郎は、ひげ面で薄汚れた身なりをしていますが、「喝!」という言葉とともに現実離れした力を見せる、型破りな僧侶です。本巻には10話のエピソードが収録されており、それぞれが仏教の教えをテーマにしています。
第1話では山寺を下りた風太郎が、ホームレスに物乞いをしているところから始まります。財産をほとんど持たない彼らに物乞いをすることに、ホームレス達も驚愕。しかし風太郎のお経を聞くうち続々と、わずかなお金を惜しむことなく寄付していくのです。
そこへ現れたのが、ホームレスに物資を持ってきた金持ち。善意の寄付ならありがたいものですが、この金持ちは粗野で乱暴な言動で、金持ちであることを鼻にかけてホームレス達を見下している最低な男です。
そんな男を、雲と一緒に「喝!」と吹き飛ばした風太郎が残した説法は、
貧者といえど心強かれば、敗者にあらず
(『喝!!風太郎』1巻より引用)
というものでした。他のエピソードでもさまざまな人間ドラマとともに、「得るは捨つにあり」や「福、受けつくすべからず」など、仏教の教えをテーマに物語が描かれていきます。
風太郎の存在感あるキャラクター性や軽妙な物語のおかげで、普段、仏教にあまり関わり合いのない方も面白く読むことができる一冊です。
小説家の山田権三は、テレビを見ては、CMばかり、芸人は学芸会レベルだ、などと文句を言い、日々荒れた言動をくり返していました。
彼の妻は、それを老人の反抗期だと言っていましたが、ある日、権三の身にとんでもないことが起きて……!?
- 著者
- 本宮 ひろ志
- 出版日
- 2014-12-19
托鉢(修行のために家の前で経文を唱え、金銭や米などの施しを受けて回ること)をしながら仏教の教えを人々に伝えて歩く風太郎は、ある日、河原で昼寝をしていたところ、人がカミナリに打たれるところに居合わせます。
カミナリに打たれたのは、男子高校生と老人。老人は山田権三という小説家でした。風太郎も大ファンである権三は、世の中をくだらないと嘆き、毎日を荒れて過ごしていましたが、このカミナリをきっかけにまさかの出来事がその身に降りかかることに。
なんと、男子高校生と中身が入れ替わってしまったのです!
多少のことでは動じない頭と若い体を手に入れた彼は、やりたい放題。体の本当の持ち主である森島健一はいじめられっ子で内気なタイプだったので、あまりの豹変ぶりに周りも驚きを隠せません。
事情を知って様子を見に来た風太郎も、「人生すれまくった高校生の誕生かァ」(『喝!!風太郎』2巻より引用)と不安そうな様子を見せます。
そんな中身入れ替わりの話をはじめ、ジュネーブ奇跡生命生存委員会という超能力を使う謎の組織が出てくるなど、本巻は前巻に増して型破りな話を多く収録。
話数としては8話ですが、権三の登場する話は前後編、ラストも次巻へ持ち越しなので実質5、6話のエピソードから成っています。話は型破りでも、人間としての生き方や存在の在り方など、仏教の教えには思わずハッとすることも多くて読みごたえも感じることができるでしょう。
強豪女子野球部の川中女子と、弱小男子野球部の野川の対決もいよいよ大詰めな第3巻。
風太郎に助っ人として入ってもらった野川は、自分達も驚くほどの力を発揮し始めますが……!
- 著者
- 本宮 ひろ志
- 出版日
- 2015-07-17
前巻からの続きで、男子と女子の野球チームの対決を描いたエピソードから始まる本巻。
圧倒的な実力を誇る川中高校の女子野球部に追い詰められていた野川高校の男子野球部でしたが、風太郎の喝のおかげで突如として実力以上の力を発揮し始めます。ヒットやホームランを連発して得点を重ね、遂には逆転というところまで女子野球部を追い込んでいくのです。
ただ、その力は風太郎の「喝」のおかげであり、自分達の力ではありません。しかし、すべて自分達の力、本当の自分達は強かったのだと思い始めた男子達に、風太郎は少しやり過ぎたと感じていました。
そこで自らの打席ではわざと三振になり、男子チームの快進撃に待ったをかけます。結果、勝負は再びわからない状態に。
このエピソードでは、風太郎は
人は全て平等である…しかし男女の別があるがごとく…
違いのある事を現実として誤魔化すべからず
(『喝!!風太郎』3巻より引用)
と、言っています。結果として、男子達は、自分達の快進撃は風太郎のおかげだったと気が付き、女子達も男子達のことを受け入れて和解することができたのです。
現実でも男女平等に関する問題は尽きることはありません。身近な問題だからこそ、共感できる読者も多いエピソードといえるのではないでしょうか。
山で罠にかかったキツネを助けた風太郎は、お腹を空かせたキツネに食べさせるものを探しに山を歩いていました。しかし、足を踏み外して崖から落ち、そのまま気を失ってしまいます。
目覚めた時、彼がいたのは町の病院で……。
- 著者
- 本宮 ひろ志
- 出版日
- 2016-01-19
本巻では、風太郎が自らの中に芽生えた煩悩に翻弄され、戸惑い、身を落としながらも再び己を見つめ直すというエピソードが収録されています。
崖から落ち、丸2日も眠っていた風太郎。しかし、もともとお金もほとんど持っていない彼は病院にとっては治療費を払えない邪魔者。結局有り金すべてを払い、ほとんど追い出される形で病院を後にすることになりました。
そんな彼の後を追ってきてくれたのが、病院で働く看護師の女性。女手1人で幼い娘を育てている女性は、彼を自宅へと招きます。宿代も持たない彼を哀れに思っての親切だと風太郎は自らに言い聞かせますが、その一方で女性の裸を思い浮かべ、その妄想に体も反応してしまうなど自らの欲望に振り回されていきます。
そして、女性の方もまた風太郎のことを憎からず思っていて、結局2人は体を重ねてしまうのです。
その後、再び旅に出た風太郎ですが、欲望に打ち勝つことができなかった自分を恥じます。そんな彼の頭には、山寺の大僧正の言葉が蘇っていました。
いつもは風太郎自身の言葉で仏教の教えが語られるラストですが、今回は少し異なり、風太郎自身もまだ修行の途中なのだということを感じさせてくれるでしょう。
他にも、人にとっての本当の財産とは何かを描いたエピソードでは、お金や才能、そして人の心についてが語られています。風太郎も含め、人間の生々しい一面が印象に残る第4巻です。
山奥の温泉で、背中に仏の入れ墨を掘った男と出会った風太郎。興味をそそられて話しかけると、男はム所から出てきたばかりの人物でした。
男は、ム所を出たらやりたいこと5つをこなしている途中らしいのですが……。
- 著者
- 本宮 ひろ志
- 出版日
- 2016-04-19
遂に完結となる本巻。最終巻ということもあってか、他の巻よりもさらに「生きる」ということに焦点を当てられているような印象を受ける一冊になっています。
ヤクザ上がりで、殺人の罪で捕まっていたという男に出会った風太郎。男が、ム所を出たらやりたいことランキング5つを達成する様子を、彼に同道して見守ります。男は、風俗に行ったりビールを一気飲みしたり、殺した相手の墓参りに行ったりと、やりたいことを淡々とこなしていきます。
それらは、ム所を出たいという目的を達成した後に抜け殻にならないように、という理由から決めたものでした。
目標は達成しないほうがいいと語る男にとって、ム所を出るという目的は、そこを出てしまえばそれで終わり。後の人生を生きる意味がなくなってしまうものだったのです。
このように禅問答のような話をしたり、生きる目的や意味について話したりする2人の男の様子は静かですが、どこかしら誰でも共感できる部分のある普遍的な物語になっています。
自分や人、そして生き方を見直すことができるような、深く心に染みる最終巻です。
いかがでしたか?仏教色の強い作品ですが、だからといって堅苦しくもなく、仏教はもちろん宗教とはあまり馴染みのない方にとっても気楽に読めるものになっています。
しかし、気楽に読めても内容は濃密。読んだ後にふと考え込むような作品に出会いたい方は、ぜひ手に取ってみてください。