経血、人形、死……そんな偏った性的嗜好を持つ者が集まるカフェがありました。それが「statice」。 そこに集まる人々が変態的でおぞましくも、危険な魅力に思わずハマってしまう中毒的な作品『偏愛カフェ』。その内容の癖の強さから、読者を選ぶ作品といえるでしょう。しかし、登場人物達の持つ異常な性癖に同調したり納得したりせずとも、こういった嗜好もあると知れる貴重な内容です。 今回は、そんな本作の魅力を全巻分ご紹介しましょう。
さまざまな種類のハーブティーを取り揃えているカフェ「statice(スターチス)」。
この店のマスターである千日浩(せんにち ひろ)は、客に合ったハーブティーを提供するという事で評判でした。
- 著者
- 有咲めいか
- 出版日
- 2017-01-07
しかし、ここは普通のカフェではありませんでした。他の誰にも言えない嗜好を共有したいと望む「性的倒錯者(パラフィリアン)」が集まる店としての、もう1つの顔があったのです。
今日も店を訪れる性的倒錯者達のために、千日はハーブティーを淹れるのでした。
本作は、その特異過ぎる性質によって、読者によっては受け入れ難いほどに嫌悪を感じる方もいるかもしれません。しかしながら、逆にそれだけのインパクトを持った作品だからこそ、他にはない至上の魅力があるといえるのではないでしょうか。
本作は基本的に1話完結型のストーリー構成となっており、各話ごとにさまざまな性的倒錯者達が登場します。
彼らすべてが軽蔑されるべき人物というわけではもちろんありませんが、本作に登場するのは、おおよそまともであるとは言い難いレベルの異常性癖の持ち主達です。
例として挙げるのもはばかられる内容かもしれませんが……たとえば女性の経血に対し異常な興奮を見せる性癖として、生理血嗜好(メノフィリア)が登場します。単純な血液ではなく、女性としての証である経血にのみに興奮を見せるというあたりが、人によってはきわめて生理的嫌悪を掻き立てる要素です。
しかし、カフェのマスターである千日は、それに対し一切否定はしません。それどころか、その内容に対して好意を持っているかのような態度を取ります。
さらに、その性的嗜好になぞらえたハーブティーを提供する事で、すべての性的倒錯者の在り方を受け止めるのです。
このような表現をすると、さぞ理解ある店主によるホスピタリティ溢れる展開が読めるのかと思われますが、そうではありません。千日が性的倒錯者の在り方を受け止めるという事は、すなわちそれが犯罪に手を染めるものであったとしても受け止めるというものなのです。
本作は異常性癖が存在する事が当たり前であるという空気が全編にあり、読者も徐々に、それそのものを不自然とは感じなくなっていきます。
そして何ら違和感がなくなった頃には、本作の魅力にすっかりハマってしまっているのではないでしょうか。
ここからは各単行本の内容と、収録エピソードのなかから見所となるものをご紹介していきましょう。
まずは第1巻についてですが、先述の生理血嗜好を持つ客についてのエピソードでカフェstaticeと千日についてのお披露目をおこない、加虐性愛、妊婦性愛、人形性愛といったさまざまな性的倒錯者達が訪れます。
そして、それらのエピソードを語るなかで、千日自身が持つ秘密についても触れていく事になるのです。
- 著者
- 有咲めいか
- 出版日
- 2017-01-07
そんな本巻の見所は、やはり冒頭の生理血嗜好についてのエピソードでしょう。このエピソードでは先述のとおり、生理血嗜好を持つ男性がカフェを訪れ、自身の持つ性癖と彼女との付き合い方を相談するといった内容になっています。
その性癖自体の異常性が語られる描写もかなり変態的で怖気づいてしまうものではあるのですが、そんな性癖を持つ彼の彼女も、実はストーカー気質を持つ異常な性愛を抱えていた事が最後にわかるのです。
生理血嗜好というインパクトの強さを超えてくる、彼女の異常性。それを示す事で、本作が持つ危険な面白さを感じるには、まさに最適な内容となっているといえるのではないでしょうか。
第2巻でも、さまざまな性的倒錯者達が登場します。
本巻では、嘔吐嗜好、第三者性愛、死性愛、昆虫性愛の嗜好を持つ人々が登場するのですが、いずれも強烈なインパクトを持つエピソードです。
- 著者
- 有咲めいか
- 出版日
- 2017-08-09
そんななかでも見所といえるエピソードは、死性愛(タナトフィリア)の嗜好を持つ男性のエピソードです。
何に対しても熱意がない男性が、自身が死ぬ事に対しては興奮を示すという独特な症状に悩まされている旨を、千日に相談しにきます。そして、彼はDVを苦に自殺しようとしている女性とともに、自殺を考えているのでした。
しかし、彼はその女性の様子を見て、本当は生きたくて仕方がないのに、DV彼氏への愛情に縛られて死ぬほど苦しんでいるように感じたのです。
そして彼は最後に、その呪いを断ち切るために彼氏を殺して、自らも自殺を図ったのでした。このエピソードは、実は他のエピソードに比べて、それほど恐ろしさや気色の悪さを感じる内容とはなっていません。
むしろ見方によっては、女性を救おうとしてDV彼氏を道連れに自殺を図った、という点で崇高さすら感じられる稀有な内容といえるかもしれません。
本作でも珍しい毛色の話として、ぜひ一読していただきたいエピソードです。
3巻では、露出嗜好、小児性愛、正常性愛を持つ人物達のエピソードが語られます。露出嗜好、小児性愛に関するエピソードについては、本作らしい特殊な性癖のインパクトを演出した内容といえるでしょう。
しかし本巻の見所は、なんといっても正常性愛(ノーモフィリア)を持つ男性のエピソードです。
- 著者
- 有咲めいか
- 出版日
- 2018-04-09
とはいっても、実は正常を持つ男性自体がそれほど印象的なわけではなく、むしろこのエピソードで登場する千日の妹・かりんについての描写こそが、本作でもトップクラスの異常性を示しているのです。
彼女は付き合う男性を次々と殺害し、その人物の好きな身体の部位を抜き取るという、きわめて危険な性的嗜好を持っていました。
そして、彼女をそのような性的倒錯者にしてしまったのは、千日による行動が原因だったのかもしれない……という内容となっています。
千日自身の内情に初めて深く踏み込んだエピソードであり、そのうえで過去最高の狂気を感じられる内容ともいえるでしょう。
4巻では、異性装嗜好、窒息性愛、血液嗜好、死体性愛、瘢痕性愛を持つ人物達が登場し、エピソードの雰囲気もさまざまな巻であるといえるでしょう。
- 著者
- 有咲めいか
- 出版日
- 2018-10-09
そんな本巻でも見所といえるのは、血液嗜好を持つ女性のエピソードでしょう。このエピソードでは、これまで登場しなかった追加のレギュラーキャラクターとして、高山という女性が登場します。
彼女は、血液嗜好という血液自体に異常な興奮を示す性的倒錯者なのですが、カフェのマスターである千日に対して好意を持ってしまい、以降カフェで働くようになります。
新キャラクターのお披露目であり、彼女の異常性を理解出来るエピソードとなっているため、ぜひご一読ください。
いかがでしたか?内容に嫌悪感を感じながらも、つい読み進めてしまう不思議な魅力がある『偏愛カフェ』。ぜひ、この機会にご一読ください。