「大人女子」や「美魔女」等々、素敵な大人の女性を表す言葉がすっかり定着しましたね。 それに伴い年齢を感じさせず、むしろますます魅力的になっていく年上の女性に心惹かれる男性も増えているようです。 かつて「年の差恋愛」と言えば、男性が年上というのが一般的だったようですが、最近では年上女性×年下男性のカップルが増えて、有名人でもそんな彼女が年上という年の差恋愛のニュースをよく目にするようになりました。 今回はそんな年上彼女との、甘くて苦い恋の顛末を描いた小説5選をお送りします!
『天使の卵-エンジェルス・エッグ』村山由佳
恋愛小説の旗手としてカルト的な人気を誇るといっても過言ではない、村山由佳。そんな彼女のデビュー作が『天使の卵』です。
物語の主人公は美術大学を志望する19歳の予備校生、歩太。
父親の入院に伴い精神病院を訪れたところ、主治医だった春妃さんに一目惚れしてしまいます。
ですがそのとき歩太には交際中の彼女がおり、しかも春妃さんはその彼女の実の姉だったのです。
- 著者
- 村山 由佳
- 出版日
- 1996-06-20
映画にもなった本作では「彼女のお姉さんに恋をする」ということに注目が寄せられがちですが、むしろ人生経験で上回る年上の女性が、一本気でまっすぐな思いをぶつけてくる年下男性に心の救いを得る、というテーマが最大の魅力ではないかと感じます。
決して幸せな結末ではありませんが、二人が過ごした日々は永遠に記憶されるでしょう。
『夜の果てまで』盛田隆二
舞台は北の都・札幌。
21歳の大学生・俊介はコンビニのバイトで必ずチョコレートを万引きしていく女性に、密かに心惹かれていました。
やがて俊介が始めた家庭教師のアルバイト先で、生徒の母親として彼女が現れます。
ですが彼女は後妻であり、複雑な家庭環境の中鬱屈した日々を過ごしていることに俊介は気付きます。
そして二人は越えてはならない一線を越えてしまい、俊介はずるずると祐里子さんに溺れていき、就職など人生の重要なステップを踏み外していきます。
- 著者
- 盛田 隆二
- 出版日
「救いようがない」とも形容されるこの物語では、残酷なまでに恋することの衝動の強さと哀しさが描かれています。
「本当に辛くなる前に、もうやめよう?」
そんな祐里子さんの言葉は、すべての恋する人に投げかけられた命題なのかもしれません。
『東京タワー』江國香織
21歳の透と、41歳の詩史(しふみ)さん。
実に20歳という年齢差を超えての恋愛模様を描いています。
原作でも映画でも、実はもう一組の逆年の差カップルが登場するのですが、ここでは透と詩史さんにフォーカスしてみたいと思います。
年の差恋愛でもっとも懸念されるのは、一方が既婚者かもしれないということではないでしょうか。
詩史さんもやはり既婚者ですが、夫との関係は冷え切っており、若い透の一途な情熱に忘れかけていた女心を取り戻していきます。
- 著者
- 江國 香織
- 出版日
- 2006-02-28
しかし、不倫は不倫。
いつまでも隠し通せるはずのない関係はやがて明るみに曝され、二人はそれぞれの決断を迫られます。
恋が徐々にその密度と濃度を増してしまい、狂おしいまでに相手を思ってしまうことの残酷さがよく描写された本作では、もはや年齢そのものが二人の障害となっているわけではありません。
互いを取り巻くさまざまなしがらみに、恋人たちはどのように向き合うのでしょうか。
東京タワーが見守る街の、巧みな風景描写も見所です。
『人のセックスを笑うな』山崎ナオコーラ
19歳の美術専門学校生・みるめと、39歳の講師・ユリさんとの恋愛を描いた作品。
大きな年の差がある彼女が登場する作品のご多分に漏れず、ユリさんも夫のある身でした。
年上の彼女に惹かれるという物語では、若い男性が大人の魅力あふれる女性に憧れや安らぎを見出していくという筋書きが多いものですが、本作のヒロイン・ユリさんは奔放でマイペース、そして少し天然という子どもっぽさの残る人物です。
惹かれ合い、身体も重ねる二人ですが、ユリさんの持つ捉えどころのなさや、やや浮ついた態度にやがて主人公のみるめは振り回されていきます。
彼女への想いが募るがゆえに、苦しむみるめ。
そんな切ない心情には大いに共感できるのではないでしょうか。
- 著者
- 山崎 ナオコーラ
- 出版日
- 2006-10-05
映画にもなった本作は、あられもないセンセーショナルなタイトルに目を引かれがちではありますが、とても真面目な恋愛小説として描かれています。
タイトルにある「人のセックスを笑うな」とは、実はある意外な存在に向けて放たれている言葉なのです。
その真意が分かるとき、きっとたまらなく切ない気持ちになりますよ。
そう、笑わないでほしい。本当に。
『マホガニーの林檎』清水志穂
恋人との関係に悩む主人公の実生(みお)は、ある日アパートの屋上で不思議な少年・テオと出会います。
彼は「ヨーコ」と名付けた人形を抱え、ずっと「ようこさん」という恋人が帰ってくるのを待ち続けているのです。
テオが語るおとぎ話のような物語を聞きながら、やがて実生は彼のために「ようこさん」を探し始めますが、徐々に意外な事実が明るみになっていき……。
- 著者
- 清水 志穂
- 出版日
本作は普通の恋愛小説ではなく、ある種のファンタジーや童話のようなものに近いのかもしれません。
従って、はっきりと筋道だった結論を小説に求める人には向いていないかもしれません。
しかしながら、この作品の持つ独特の美しさと切なさは、誰かを思う心のがもたらす強さと哀しさを描いており、読む者の心を揺さぶります。
舞台女優だったということがほとんど唯一の手がかりである謎の彼女、ようこさん。
その結末は、深く長い余韻を心に残してくれることでしょう。
彼女が年上という物語では、男性が大人の女性に求める姿と、現実の恋愛とのギャップに対する苦しみが大きなテーマとなっていることが多いと思います。
とても大人に見える女性でも実は精神的には幼い部分を残していたり、あるいは既に家庭を持っているが故に、夫以外の男性への恋心が周りの人々を諸共に傷つけてしまうという可能性に怯えたり、といった様々な「制約」に縛られています。
また、「いつかもっと若い女性に心変わりするのではないか」という不安や恐怖も、年の差があるゆえの大きな悩みでもあります。
しかし、本当にその人を思う気持ちが強ければ、実は年の差は決定的な障壁にはなりません。
恋人たちがどのようにハードルを乗り越え、またはそれぞれの道を選択していくのか、優しい気持ちで見守りながら読んでみてくださいね。